「アイク! アイクじゃないか!」
「あ、アイク、久しぶりね!」
「え、お、おう」
エルドとリンは助けに来たのが俺だと分かると、やけに親しげに声を掛けてきた。今までだってそんな距離感で話しかけられたことがなかったので、突然距離を詰められて俺は少し面を食らってしまった。
以前までは俺を見るときに敵意のような感情が向けられていたのに、なぜこんなフランクなのだろうか。
そんなことを考えていると、エルドが似合わないような明るい笑みを向けて言葉を続けた。
「そうだ! アイク、俺達のパーティに戻ってこないか?」
「そうだよ! またみんなで一緒に、さ」
それに乗る形でリンも言葉も笑みを浮かべていた。なんも言えない恐怖のようなものを感じたので、俺はその圧に押されるように一歩下がっていた。
なんだか奇妙な世界に引き込まれたような感覚だった。
何が彼らにこんな行動を取らせているのか分からない。それでも、今の二人の反応が普通ではないことは分かった。
「いや、ごめん」
俺は二人の間を抜けて、ダンジョンの先に進もうとした。三人がどういう経緯でここにいるのか気にはなるが、それ以上にこの空間にいたくないと思ったのだ。
「ちょ、ちょっと、待ってよアイク!」
リンがそんな俺の肩に触れようとしたとき、パンと乾いたような音がした。振り返ってみると、ルーナがリンの手を叩き落としていた。
「汚らわしい手でアイクに触るな、人間」
「何ですかこの女の人アイクさんの知り合いですか慣れ慣れし過ぎませんか」
「ま、待ってくれ! ただの元パーティメンバーだから、そんな殺気立てないでやってくれ!」
急にぴりっとした空気を察して、俺は二人を止めるように間に入った。
ルーナはまだしも、アリスまでもリンを敵視するとは思わなかった。ハイライトのなくなったような目が少し怖い。
「とにかく、今はこの三人でパーティを組んでるんだ。だから、ギース達のパーティに戻る気はないんだ」
俺はそう言うと、未だにリン達を睨むルーナとアリスの背中を押して、ダンジョンの下層へと進んでいったのだった。
「もう無理、なんで私達がこんな目に合わないとだめなの」
「俺ももう無理だ。なんとかアイクを連れ戻せたら、何とかなるかもしれないのに」
アイク達が見えなくなってから、リンとエルドはその場に座り込んでしまった。心から漏れ出たような声は、絶望の色が強く見えた。
「おい、なんで何も言わなかったんだ、ギース」
「は? 俺か?」
ギースは突然話を振られて、驚いていた。自分には関係ない話が進んでいると思っていたのか、間の抜けたような声を漏らしていた。
「あんたのせいでアイク出ていったんでしょ? 謝罪もろくにできないの?」
「おい、なんで俺のせいなんだ! お前らも同罪だろ!」
ギースは言いがかりだとでも言いたげに、強くその言葉を否定した。しかし、そんなギースの言葉が二人に届くわけがなかった。
ギース対リンとエルド。いつの間にか、このパーティにもギースの居場所はなくなってしまったのである。
「はぁ? あんたがギースをいじめたのが悪いんでしょ。おかげさまで、ギルドまで追い出される羽目になったし、冗談じゃないわよ」
「まったくだ、ギルドから金を積まれたからって、あんな依頼を受けるなんて正気じゃない。どうせ、俺達への分け前とは別でピンハネしたんだろ?」
「お、お前達も了承しただろ!!」
あんな依頼とはアイクをダンジョンの最下層に置き去りにして、殺せという依頼である。ギース達はアイクをダンジョンの最下層に置いていくことで、ギルドから報酬を貰っていた。
働くことのできないお荷物を処分するという依頼。それは、ギース達がパーティとして受けた依頼で、ギースが単独で受けたわけではない。それでも、リンとエルドは自分達は巻き込まれたという態度でいた。
「そもそも、ギースがアイクを無能扱いしてたから悪いんでしょ。そのせいで変な先入観持っちゃったし」
「まったくだ。パーティのリーダーなら、メンバーの能力くらい分かってるのが当然だと思ってしまう」
「お、お前ら、いい加減にしろよ!!」
言いたい放題の二人。さすがにそれに苛立ちを隠せなくなったギースは大声で怒鳴りつけた。
今までなら、それですべて解決していた。しかし、カリスマ性を失ったギースの怒鳴り声など、今は子供が喚き散らしているのと何ら変わらなかった。
リンとエルドは大きなため息を漏らして、エルドの意見を邪魔だとでも言いたげに煙たそうにした。
「で、どうする? あのギルドに戻るためにはアイクを連れ戻さないと無理よ?」
「そうだな。なんとかしてパーティに戻ってもらえないだろうか。というか、アイクはああ言っていたが、アイクが戻らない理由はほかにあるんじゃないか?」
「な、なんだよ?」
リンとエルドの冷たい視線がギースに向けられた。それから、エルドは温度のないような声色で言葉を続けた。
「ギース、お前パーティを抜ける気はないか?」
「……は?」
それは何度もアイクに浴びせた言葉だった。時には、酒をぶっかけながらそんな事を言ったこともあった。
だから、まさか自分が言われる日が来るとは思わなかったのだろう。
ギースの心には大きな亀裂が入ったような音がしたのだった。
「あ、アイク、久しぶりね!」
「え、お、おう」
エルドとリンは助けに来たのが俺だと分かると、やけに親しげに声を掛けてきた。今までだってそんな距離感で話しかけられたことがなかったので、突然距離を詰められて俺は少し面を食らってしまった。
以前までは俺を見るときに敵意のような感情が向けられていたのに、なぜこんなフランクなのだろうか。
そんなことを考えていると、エルドが似合わないような明るい笑みを向けて言葉を続けた。
「そうだ! アイク、俺達のパーティに戻ってこないか?」
「そうだよ! またみんなで一緒に、さ」
それに乗る形でリンも言葉も笑みを浮かべていた。なんも言えない恐怖のようなものを感じたので、俺はその圧に押されるように一歩下がっていた。
なんだか奇妙な世界に引き込まれたような感覚だった。
何が彼らにこんな行動を取らせているのか分からない。それでも、今の二人の反応が普通ではないことは分かった。
「いや、ごめん」
俺は二人の間を抜けて、ダンジョンの先に進もうとした。三人がどういう経緯でここにいるのか気にはなるが、それ以上にこの空間にいたくないと思ったのだ。
「ちょ、ちょっと、待ってよアイク!」
リンがそんな俺の肩に触れようとしたとき、パンと乾いたような音がした。振り返ってみると、ルーナがリンの手を叩き落としていた。
「汚らわしい手でアイクに触るな、人間」
「何ですかこの女の人アイクさんの知り合いですか慣れ慣れし過ぎませんか」
「ま、待ってくれ! ただの元パーティメンバーだから、そんな殺気立てないでやってくれ!」
急にぴりっとした空気を察して、俺は二人を止めるように間に入った。
ルーナはまだしも、アリスまでもリンを敵視するとは思わなかった。ハイライトのなくなったような目が少し怖い。
「とにかく、今はこの三人でパーティを組んでるんだ。だから、ギース達のパーティに戻る気はないんだ」
俺はそう言うと、未だにリン達を睨むルーナとアリスの背中を押して、ダンジョンの下層へと進んでいったのだった。
「もう無理、なんで私達がこんな目に合わないとだめなの」
「俺ももう無理だ。なんとかアイクを連れ戻せたら、何とかなるかもしれないのに」
アイク達が見えなくなってから、リンとエルドはその場に座り込んでしまった。心から漏れ出たような声は、絶望の色が強く見えた。
「おい、なんで何も言わなかったんだ、ギース」
「は? 俺か?」
ギースは突然話を振られて、驚いていた。自分には関係ない話が進んでいると思っていたのか、間の抜けたような声を漏らしていた。
「あんたのせいでアイク出ていったんでしょ? 謝罪もろくにできないの?」
「おい、なんで俺のせいなんだ! お前らも同罪だろ!」
ギースは言いがかりだとでも言いたげに、強くその言葉を否定した。しかし、そんなギースの言葉が二人に届くわけがなかった。
ギース対リンとエルド。いつの間にか、このパーティにもギースの居場所はなくなってしまったのである。
「はぁ? あんたがギースをいじめたのが悪いんでしょ。おかげさまで、ギルドまで追い出される羽目になったし、冗談じゃないわよ」
「まったくだ、ギルドから金を積まれたからって、あんな依頼を受けるなんて正気じゃない。どうせ、俺達への分け前とは別でピンハネしたんだろ?」
「お、お前達も了承しただろ!!」
あんな依頼とはアイクをダンジョンの最下層に置き去りにして、殺せという依頼である。ギース達はアイクをダンジョンの最下層に置いていくことで、ギルドから報酬を貰っていた。
働くことのできないお荷物を処分するという依頼。それは、ギース達がパーティとして受けた依頼で、ギースが単独で受けたわけではない。それでも、リンとエルドは自分達は巻き込まれたという態度でいた。
「そもそも、ギースがアイクを無能扱いしてたから悪いんでしょ。そのせいで変な先入観持っちゃったし」
「まったくだ。パーティのリーダーなら、メンバーの能力くらい分かってるのが当然だと思ってしまう」
「お、お前ら、いい加減にしろよ!!」
言いたい放題の二人。さすがにそれに苛立ちを隠せなくなったギースは大声で怒鳴りつけた。
今までなら、それですべて解決していた。しかし、カリスマ性を失ったギースの怒鳴り声など、今は子供が喚き散らしているのと何ら変わらなかった。
リンとエルドは大きなため息を漏らして、エルドの意見を邪魔だとでも言いたげに煙たそうにした。
「で、どうする? あのギルドに戻るためにはアイクを連れ戻さないと無理よ?」
「そうだな。なんとかしてパーティに戻ってもらえないだろうか。というか、アイクはああ言っていたが、アイクが戻らない理由はほかにあるんじゃないか?」
「な、なんだよ?」
リンとエルドの冷たい視線がギースに向けられた。それから、エルドは温度のないような声色で言葉を続けた。
「ギース、お前パーティを抜ける気はないか?」
「……は?」
それは何度もアイクに浴びせた言葉だった。時には、酒をぶっかけながらそんな事を言ったこともあった。
だから、まさか自分が言われる日が来るとは思わなかったのだろう。
ギースの心には大きな亀裂が入ったような音がしたのだった。