「アイク! またモンスターの群れを討伐したんだって! スゲーな!」
「アイクさん! たまには私達ともクエスト行きましょうよ!」
「アイクさん! アイクさんの名前指名で、クエストの依頼が来てるんですけど!」
中型のワイバーンを倒してから、俺に対する周囲の態度は劇的に変化した。
ギルドで無能扱いされていたのが嘘みたいで、俺に向けられる眼差しは好意的なものや羨望するものになっていった。
「アイク! 今日はこのクエスト受けてみよう!」
「これは、ヒッポアリゲーターの討伐か」
ルーナに言われてクエストの内容を確認すると、村の近くに出没するヒッポアリゲーターを討伐して欲しいという物だった。
ヒッポアリゲーターというのは、川に住む小型のドラゴンのようなモンスターだ。空と陸を生きるドラコンと違い、翼がない代わりに川に生息している。
川辺に住むモンスターの中では、そこまで強いモンスターに部類分けされない。俺が一人で受けても特に問題はないだろう。
「ああ、それって、前にギース達が失敗したクエストだろ?」
「え? そうなのか?」
俺達の近くに寄ってきた戦士職のリースは、笑いながらそんなことを口にした。そして、その視線の先にはギース達のパーティが気まずそうに座っていた。
「あいつらが失敗したとなると、勝手に難易度が高いクエストだと思われて、他の奴が受けないんだよな」
「ああ、なるほど。だから、最近はギース達が失敗したクエストを職員達も勧めてくるのか。「そういえば、最近ゾフィーが一緒にいないみたいだけど?」
ゾフィーというのは、ギース達のパーティで回復魔法が使えた男だった。最近、ギース達のパーティと一緒にいるところを見なかったので、何とく気になっていたのだ。
「ああ、ゾフィーはならギース達のパーティ抜けたらしいぞ」
「え? そうだったのか?」
「最近負け続けてるからな、あのパーティは。見切りでもつけたんだろ」
「ていうか、ソフィーが抜けたらギース達ヤバくないか?」
ゾフィーはギース達のパーティの陰の立役者だった。序盤から俺が『スティール』で敵のスキルを奪いつくすまで、ゾフィーの回復魔法があったから、繋げたのだ。そのゾフィーが抜けてしまったら、まともに戦うことはできないはず。
そんな状態でもまだクエストを受けているのか? 勝てる見込みがないことくらい分かるだろうに。
「アイク! ちんたらしてるな! 早く行くぞ!」
「わ、分かったから、そんな引っ張るなって」
ルーナはギース達のことを考えようとする思考を邪魔するように、俺の腕を強く引いてギルドから引っ張り出した。
俺はこうして、今日もギース達が失敗したクエストを受けるために、村の外へと向かったのだった。
草むらから覗き込むと、ヒッポアリゲーターが水浴びをしているところだった。大きさは7メートル程の大きさをしており、でっぷりとしているのが特徴的だ。
「『雷矢』」
俺は雷の矢を形成する『雷矢』を使用して、手の平の先に槍のように大きな矢を形成した。少し大きすぎる気もするが、相手の大きさを考えるとこのくらいは必要だろう。
バチバチとうるさいほどの雷の音に、相手も気づいたようだがもう遅い。
俺はその矢をヒッポアリゲーターに向けて投げつけた。その矢は地面を抉りながら一直線に走っていき、ヒッポアリゲーターの体を貫いたように見えた。
「ブオォォォォ!」
そんな悲鳴を上げたが、どうやらヒッポアリゲーターはその一撃で沈むことはなかった。体はボロボロのはずだが、興奮した状態でこちらに突っ込んでくる。
「さすがに、一発って訳にはいかないか。『肉体強化』『風爪』」
俺は短剣を抜きながら二つのスキルを同時に使用した。筋力を増強するスキルと、斬撃に似た攻撃を飛ばすスキル。
その二つを使用して、突進してくるヒッポアリゲーターめがけて短剣を振り抜いた。飛んでいった斬撃は荒々しく、地面に大型モンスターの爪痕のようなものを残しながら、ヒッポアリゲーターを真っ二つにした。
「……オーバーキル過ぎんか?」
「いや、いまいち力加減ができんのよ」
ルーナから若干引かれ気味の視線を向けられるのも、何度目になることやら。
最近は強いモンスターを相手にすることが増えてきた。その分だけ、より強いスキルを使おうとする中で、やり過ぎてしまうことが多々ある。
今日だって、何もこんな荒々しい傷跡を地面に残す必要なんかなかったのだ。それでも、つい力んでやり過ぎてしまう。
真っ二つになっているヒッポアリゲーターを眺めながら、ルーナは静かに言葉を漏らした。
「アイクよ、まだあのギルドを抜けたいという気持ちは変わらんのだろう?」
「まぁ、長くはいたくないかな」
突然何の話題かと思ったが、俺は正直に思ったことを口にした。
正直、最近のギルドの空気は悪くはない。それでも、少し前までの俺に対する態度の違いが激しすぎて、少し気持ちが悪いと思ったこともある。
本来なら、すぐにでもこの村を出ていきたいと思っていた。
それでおm、ルーナがもう少し待てば面白いものが見れると言っていたので、俺達はしばらくこのギルドに残ってクエストをこなしていたのだった。
「ふむ。それなら、今日でこの村から離れよう」
「え? いや、それはいいけど。やけに急だな」
「なに、時が満ちただけだ」
「時が満ちた?」
俺はルーナの言っている言葉の意味が分からないでいた。そして、ルーナがこちらに向けた笑みは、いつか見せた悪巧みをする時のような物だった。
「え、ギルドを抜けたい?」
「ええ、お世話になりました」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
俺が一応挨拶だけと思って、ギルドに討伐完了の報告とギルドを抜けることの報告をしに行ったのだが、やけにギルド職員が食いついてきた。
「そんな、困りますよ! なんで急にそんなことになってるんですか?」
俺達の会話が聞こえたのか。周囲にいる冒険者達がざわついた。俺がギルドと揉めているとでも思ったのだろうか。聞き耳を立てながら、こちらの様子を窺っているようだった。
「分からないのか? このギルドは前にアイクを処分しようとしたのだろう? だから、このギルドを抜けて別の村に行くことにする」
当たり前の事を言うかのようなルーナの口調。その言葉を聞いて、ギルドがしんと静まり返った。信じられないことを聞かされたように、誰もがルーナの言葉を待っていた。
「ギルドって言うのは、人がいるだけでも金を食うからな。使えない奴は切り捨てる。わざわざ報酬まで出したのだろ、ギース達にアイクをダンジョンの最下層に置いてくるように命じて」
そのルーナの言葉に対して、ギルド職員は何も言い返すことができないでいた。
そして、俺も何となくそうだろうと想像していた。どうやら、その想像は外れて居なかったらしい。否定どころか、言い返しさえしないのだから、肯定と同じだ。
「そんな下衆どもしかいない場所にはおれん。どうせアイクにしかできないような大型のクエストでも取ってきているのだろう。そのまま負債案件として抱えて、こんなギルドは潰れてしまえ」
ルーナそう言い残すと、最後に冷たい笑いをギルド職員に残してその場から去った。俺もルーナに続くように、ギルドを後にした。
俺達が出た後で、ギルドの中は少しの騒ぎになっていた。外に漏れ出るほどの騒音は何を話しているのか。ギルドを抜けた俺にはもう関係のないことだった。
「気づいてたのか?」
俺は先を歩くルーナにそう問いかけた。俺の声を受けたルーナは振り返りながら、呆れたように笑った。
「気づかんとでも思ったか」
呆れているようで微かに悲しそうで。ルーナにしてはいつになく複雑な表情をしている。今この時だけは、ルーナが本当に年上のように見えた。
「少し長居し過ぎたな。アイクよ、これで過去とは決別だ!」
わざとらしいほどの明るい声。まるで、こちらの気が落ちてしまわないように気を遣ってるみたいだった。
「次はどこに行きたい? 今度こそしっかりとアイクについて行こう!」
ルーナはそう言うと、屈託のない笑みをこちらに向けてきた。何か吹っ切れたような表情に見えたのは、俺の心もそうであったからなのかもしれない。
「どこに行こうか」
新しい力をつけて、過去のしがらみを断ち切って。
一歩踏み出したその足は、いつにもなく軽くなっていた。
『アイクがギルド抜けった本当かよ』
『ていうか、さっきの話本当か? このギルドもヤバくないか?』
『アイクが抜けた?! なんでだよ!』
『ていうか、ギース達が悪いんだろ。あとここのギルド』
アイク達が去ったギルドは騒然としていた。ギルド全員でアイクを無能扱いしていたのに関わらず、そんな昔のことは忘れたとでも言いげに、自分達にはまるで非がないような口調をしていた。
『ギース達、アイクの手柄を横取りして、自分達の手柄にしてたみたいだぜ』
『アイクがいなくなった瞬間に弱くなったんだろ。マジじゃん、その噂』
『無能って、あいつらのことだったんじゃねーの』
くすくすと嘲笑うような笑いの中に、ギース、リン、エルドはいた。
ギース達は何も言い返すことができないでいた。ここ最近のクエストの失敗の数々、アイクが抜けたことが原因だということは、否定することができなくなっていた。
そして、このギルドで一番の稼ぎ頭になりそうだったアイクを失った怒りの矛先は、ギース達に向けられていた。
今まで従っていた者達も、ギースが本当は強くなかったと分かるや否や手のひらを返した。
やがて、ギース達の前に一人の代表者が立った。その男は、ギース達に嘲笑うような笑みを向けて言葉を続けた。
「なぁ、ギース。おまえ達が抜けてくれないか、このギルドから」
それは今までアイクが向け続けられてきた視線。それを自分達が受けることになるとは思いもしなかったのだろう。
ギース達は憐みや嘲笑の視線から逃れるように、ギルドから出ていった。
そんなギース達の姿を見て、ギルドの中では一層大きな笑い声が響いていた。
「アイクさん! たまには私達ともクエスト行きましょうよ!」
「アイクさん! アイクさんの名前指名で、クエストの依頼が来てるんですけど!」
中型のワイバーンを倒してから、俺に対する周囲の態度は劇的に変化した。
ギルドで無能扱いされていたのが嘘みたいで、俺に向けられる眼差しは好意的なものや羨望するものになっていった。
「アイク! 今日はこのクエスト受けてみよう!」
「これは、ヒッポアリゲーターの討伐か」
ルーナに言われてクエストの内容を確認すると、村の近くに出没するヒッポアリゲーターを討伐して欲しいという物だった。
ヒッポアリゲーターというのは、川に住む小型のドラゴンのようなモンスターだ。空と陸を生きるドラコンと違い、翼がない代わりに川に生息している。
川辺に住むモンスターの中では、そこまで強いモンスターに部類分けされない。俺が一人で受けても特に問題はないだろう。
「ああ、それって、前にギース達が失敗したクエストだろ?」
「え? そうなのか?」
俺達の近くに寄ってきた戦士職のリースは、笑いながらそんなことを口にした。そして、その視線の先にはギース達のパーティが気まずそうに座っていた。
「あいつらが失敗したとなると、勝手に難易度が高いクエストだと思われて、他の奴が受けないんだよな」
「ああ、なるほど。だから、最近はギース達が失敗したクエストを職員達も勧めてくるのか。「そういえば、最近ゾフィーが一緒にいないみたいだけど?」
ゾフィーというのは、ギース達のパーティで回復魔法が使えた男だった。最近、ギース達のパーティと一緒にいるところを見なかったので、何とく気になっていたのだ。
「ああ、ゾフィーはならギース達のパーティ抜けたらしいぞ」
「え? そうだったのか?」
「最近負け続けてるからな、あのパーティは。見切りでもつけたんだろ」
「ていうか、ソフィーが抜けたらギース達ヤバくないか?」
ゾフィーはギース達のパーティの陰の立役者だった。序盤から俺が『スティール』で敵のスキルを奪いつくすまで、ゾフィーの回復魔法があったから、繋げたのだ。そのゾフィーが抜けてしまったら、まともに戦うことはできないはず。
そんな状態でもまだクエストを受けているのか? 勝てる見込みがないことくらい分かるだろうに。
「アイク! ちんたらしてるな! 早く行くぞ!」
「わ、分かったから、そんな引っ張るなって」
ルーナはギース達のことを考えようとする思考を邪魔するように、俺の腕を強く引いてギルドから引っ張り出した。
俺はこうして、今日もギース達が失敗したクエストを受けるために、村の外へと向かったのだった。
草むらから覗き込むと、ヒッポアリゲーターが水浴びをしているところだった。大きさは7メートル程の大きさをしており、でっぷりとしているのが特徴的だ。
「『雷矢』」
俺は雷の矢を形成する『雷矢』を使用して、手の平の先に槍のように大きな矢を形成した。少し大きすぎる気もするが、相手の大きさを考えるとこのくらいは必要だろう。
バチバチとうるさいほどの雷の音に、相手も気づいたようだがもう遅い。
俺はその矢をヒッポアリゲーターに向けて投げつけた。その矢は地面を抉りながら一直線に走っていき、ヒッポアリゲーターの体を貫いたように見えた。
「ブオォォォォ!」
そんな悲鳴を上げたが、どうやらヒッポアリゲーターはその一撃で沈むことはなかった。体はボロボロのはずだが、興奮した状態でこちらに突っ込んでくる。
「さすがに、一発って訳にはいかないか。『肉体強化』『風爪』」
俺は短剣を抜きながら二つのスキルを同時に使用した。筋力を増強するスキルと、斬撃に似た攻撃を飛ばすスキル。
その二つを使用して、突進してくるヒッポアリゲーターめがけて短剣を振り抜いた。飛んでいった斬撃は荒々しく、地面に大型モンスターの爪痕のようなものを残しながら、ヒッポアリゲーターを真っ二つにした。
「……オーバーキル過ぎんか?」
「いや、いまいち力加減ができんのよ」
ルーナから若干引かれ気味の視線を向けられるのも、何度目になることやら。
最近は強いモンスターを相手にすることが増えてきた。その分だけ、より強いスキルを使おうとする中で、やり過ぎてしまうことが多々ある。
今日だって、何もこんな荒々しい傷跡を地面に残す必要なんかなかったのだ。それでも、つい力んでやり過ぎてしまう。
真っ二つになっているヒッポアリゲーターを眺めながら、ルーナは静かに言葉を漏らした。
「アイクよ、まだあのギルドを抜けたいという気持ちは変わらんのだろう?」
「まぁ、長くはいたくないかな」
突然何の話題かと思ったが、俺は正直に思ったことを口にした。
正直、最近のギルドの空気は悪くはない。それでも、少し前までの俺に対する態度の違いが激しすぎて、少し気持ちが悪いと思ったこともある。
本来なら、すぐにでもこの村を出ていきたいと思っていた。
それでおm、ルーナがもう少し待てば面白いものが見れると言っていたので、俺達はしばらくこのギルドに残ってクエストをこなしていたのだった。
「ふむ。それなら、今日でこの村から離れよう」
「え? いや、それはいいけど。やけに急だな」
「なに、時が満ちただけだ」
「時が満ちた?」
俺はルーナの言っている言葉の意味が分からないでいた。そして、ルーナがこちらに向けた笑みは、いつか見せた悪巧みをする時のような物だった。
「え、ギルドを抜けたい?」
「ええ、お世話になりました」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
俺が一応挨拶だけと思って、ギルドに討伐完了の報告とギルドを抜けることの報告をしに行ったのだが、やけにギルド職員が食いついてきた。
「そんな、困りますよ! なんで急にそんなことになってるんですか?」
俺達の会話が聞こえたのか。周囲にいる冒険者達がざわついた。俺がギルドと揉めているとでも思ったのだろうか。聞き耳を立てながら、こちらの様子を窺っているようだった。
「分からないのか? このギルドは前にアイクを処分しようとしたのだろう? だから、このギルドを抜けて別の村に行くことにする」
当たり前の事を言うかのようなルーナの口調。その言葉を聞いて、ギルドがしんと静まり返った。信じられないことを聞かされたように、誰もがルーナの言葉を待っていた。
「ギルドって言うのは、人がいるだけでも金を食うからな。使えない奴は切り捨てる。わざわざ報酬まで出したのだろ、ギース達にアイクをダンジョンの最下層に置いてくるように命じて」
そのルーナの言葉に対して、ギルド職員は何も言い返すことができないでいた。
そして、俺も何となくそうだろうと想像していた。どうやら、その想像は外れて居なかったらしい。否定どころか、言い返しさえしないのだから、肯定と同じだ。
「そんな下衆どもしかいない場所にはおれん。どうせアイクにしかできないような大型のクエストでも取ってきているのだろう。そのまま負債案件として抱えて、こんなギルドは潰れてしまえ」
ルーナそう言い残すと、最後に冷たい笑いをギルド職員に残してその場から去った。俺もルーナに続くように、ギルドを後にした。
俺達が出た後で、ギルドの中は少しの騒ぎになっていた。外に漏れ出るほどの騒音は何を話しているのか。ギルドを抜けた俺にはもう関係のないことだった。
「気づいてたのか?」
俺は先を歩くルーナにそう問いかけた。俺の声を受けたルーナは振り返りながら、呆れたように笑った。
「気づかんとでも思ったか」
呆れているようで微かに悲しそうで。ルーナにしてはいつになく複雑な表情をしている。今この時だけは、ルーナが本当に年上のように見えた。
「少し長居し過ぎたな。アイクよ、これで過去とは決別だ!」
わざとらしいほどの明るい声。まるで、こちらの気が落ちてしまわないように気を遣ってるみたいだった。
「次はどこに行きたい? 今度こそしっかりとアイクについて行こう!」
ルーナはそう言うと、屈託のない笑みをこちらに向けてきた。何か吹っ切れたような表情に見えたのは、俺の心もそうであったからなのかもしれない。
「どこに行こうか」
新しい力をつけて、過去のしがらみを断ち切って。
一歩踏み出したその足は、いつにもなく軽くなっていた。
『アイクがギルド抜けった本当かよ』
『ていうか、さっきの話本当か? このギルドもヤバくないか?』
『アイクが抜けた?! なんでだよ!』
『ていうか、ギース達が悪いんだろ。あとここのギルド』
アイク達が去ったギルドは騒然としていた。ギルド全員でアイクを無能扱いしていたのに関わらず、そんな昔のことは忘れたとでも言いげに、自分達にはまるで非がないような口調をしていた。
『ギース達、アイクの手柄を横取りして、自分達の手柄にしてたみたいだぜ』
『アイクがいなくなった瞬間に弱くなったんだろ。マジじゃん、その噂』
『無能って、あいつらのことだったんじゃねーの』
くすくすと嘲笑うような笑いの中に、ギース、リン、エルドはいた。
ギース達は何も言い返すことができないでいた。ここ最近のクエストの失敗の数々、アイクが抜けたことが原因だということは、否定することができなくなっていた。
そして、このギルドで一番の稼ぎ頭になりそうだったアイクを失った怒りの矛先は、ギース達に向けられていた。
今まで従っていた者達も、ギースが本当は強くなかったと分かるや否や手のひらを返した。
やがて、ギース達の前に一人の代表者が立った。その男は、ギース達に嘲笑うような笑みを向けて言葉を続けた。
「なぁ、ギース。おまえ達が抜けてくれないか、このギルドから」
それは今までアイクが向け続けられてきた視線。それを自分達が受けることになるとは思いもしなかったのだろう。
ギース達は憐みや嘲笑の視線から逃れるように、ギルドから出ていった。
そんなギース達の姿を見て、ギルドの中では一層大きな笑い声が響いていた。