「あれがジャイアントアントか」
「おっきいですね」
俺たちは森の奥へと進んでいき、ジャイアントアントの巣のすぐ近くまでやってきた。
崖を削って作られたよう穴は俺の身長の二倍ほどの大きさをしており、ちょっとした洞窟のように見えなくもない。
巣の周辺にはジャイアントアントが巡回しており、他の魔物が寄り付かないように警備をしているようだった。
周辺にいるのは六体。巣から出てきたばかりのように見えるし、もしかしたら、これから獲物を取りに行くのかもしれない。
「ジャイアントアントって、確か売れないよな?」
「そうですね。顎が硬いとは言いますけど、何か素材に使われるとかは聞いたことありません」
ジャイアントアントは家畜とかを巣に持ち帰ってしまうし、俺たちが食事として食べている魔物達も巣へと持ち帰ってしまう。
確か、繁殖力もすごいから、巣を見つけ次第に巣を壊して壊滅させないと、他の生態系に影響を及ぼすとか結構迷惑な魔物だった気がする。
「つまり、ただの害虫ってことだよな。素材が売れないということは、結構派手にやってもいいってことか」
「大丈夫だと思いますけど……何をするつもりですか?」
リリは俺が微かに頬を緩めている所を見ると、何やら不吉な物を感じ取ったように眉を潜めていた。
以前、俺がクリスタルダイナソーを相手にした時に、無理をしたことを思い出しているのかもしれない。
……まぁ、あの時も上手くいったしな。
「ちょっと作戦があるんだ。少し試したいこともある」
「ちなみに、その作戦について事前に聞いておいてもいいですか?」
「まず、巣にいるジャイアントアントの数を考えると、初めに巣の方をどうにかするべきだと思うんだ。さすがに、数十匹出てこられたら、俺たちでもどうなるか分からない」
目の前にいるジャイアントアントを倒すだけなら、訳はない。おそらく、俺たちならすぐに倒すことができるだろう。
しかし、問題はすぐ近くにジャイアントアントの巣があるということだ。俺たちが攻撃を仕掛けた瞬間に、仲間を呼ばれたら巣から増援がすぐにやってくるだろう。
そうなると、初めにその増援がくるルートを塞いでおく必要がある。
「だから、俺は巣の方にダッシュで向かうから、ポチは俺が打ち漏らした奴らの相手を頼む。リリは俺と一緒に巣まで来てくれ」
「ワン!」
「ポチがメインですか。……分かりました。今回はポチの実力を測るためでしたもんね」
「え? あ、おうよ」
「?」
俺の煮えたぎらない返答を受けて、リリは首をこてんと傾げていた。
多分、俺の反応が思ったものと違ったのだろう。
まぁ、俺がリリに告げている情報から考えれば、当然そんな考えにもなるか。
「よっし。行くぞ」
俺は不思議そうに首を傾けるリリをそのままに、【潜伏】のスキルを発動させた。それを合図に、リリも【潜伏】のスキルを発動させて、俺の後ろに続く形で木陰から飛び出した。
俺は走りながら、アイテムボックスから二本の短剣を取り出した。
取り出した二本の短剣は、一時的に魔法を蓄えることのできる性質を持つ短剣。そして、俺はその二本を持ちながら、【道化師】もスキルを発動させた。
道化師なら、手品の要領で短剣を増やすことができるのではないか。そう思って、【道化師】のスキルを覗き込むと、そこには案の定、俺の欲しているスキルがあった。
【鑑定】でそのスキルの詳細を確認すると、どうやら目的のスキルみたいだった。
「【複製】」
俺がそのスキル名を発動させると、両手に持っていた短剣が一本ずつ増えていた。さすがに持ちづらかったので、そのうちの二本を巣との延長線上の地面に【偽装】をかけて見えないようにしてから投げつけて、一時的に手から手放した。
俺は遠くで地面に突き刺さっている短剣を確認した後に、小さな声で言葉を続けた。
「『ファイアボム』」
俺がその魔法を唱えると、両手にある短剣の刀身が熱を持ったような赤色に変わった。鉄を高温で熱したときのように、その熱をそのまま蓄えたような刀身。
その色が変わった短剣を【偽装】をして、姿を見えない状態にしてから俺たちに気づいていないジャイアントアントに向けて、【肉体強化】と【投てき】のスキルを使って投げつけた。
「ギヤァァ!!」
すると、先程まで何食わぬ顔で休んでいたジャイアントアントの体が爆発した。俺の魔法を溜めておいた短剣が突き刺さり、内側から体を爆発させたのだ。
「キィィィーー」
突然仲間がやられたことに驚きながらも、ジャイアントアントの集団の内一体が悲鳴に近いような声を絞り出した。
金切り声のような声が聞こえた瞬間、周りにいたジャイアントアントの顔つきが変わったような気がした。
「……警戒音か」
俺は戦闘モードに入ったジャイアントアント達を無視しながら、先程地面に突き刺して置いた二本の短剣を掴んで、魔法を溜め込ませた後に別のジャイアントアントに投げつけた。
「ギヤァァ!!」
警戒態勢を取っていたジャイアントアント達の内一体が再び爆発して、その周辺にいた仲間は体をビクンとさせて驚いていた。
それもそうだろう。急に仲間が爆発したのだから訳も分からなくなる。
「ワオーーン!」
「ギヤァァ!!」
そして、今度は遠吠えが聞こえた瞬間にジャイアントアントの足元から氷柱が突き出して、一体のジャイアントアントを串刺しにした。
ジャイアントアントはその一撃をみて、ポチが一連の攻撃をしてきた敵だと思ったのか、警戒をしながら睨みつけていた。
しかし、先程の立て続けの攻撃を前にして警戒しているようで、ポチのことを睨んでいるだけで動こうとはしなかった。
随分と動揺しているようだし、数が多くてもこの程度の相手なら、ポチ一人で十分だろう。
そう思って、俺はジャイアントアントの間をくぐって、一直線に巣までたどり着いた。
「よっし、リリ! すぐに結界の準備を頼むぞ。俺が魔法を唱えたら、この穴を塞いでくれ」
「え? また、いつもみたいな中級魔法ですか?」
「いや、今回は上級魔法を試してみる」
事前に【気配感知】でこの中には人間がいないことは確認済み。
上級魔法で巣の中を爆発させてしまえば、その衝撃で一気にジャイアントアントを殲滅することができるはずだ。
それに、魔物の巣なら壊しても怒られないだろうしな。試さないわけにはいかないだろう。
一撃で倒しきれなかったら……もう一回、上級魔法で爆発させよう。
「え、じょ、上級ですか?!」
「すぐに穴を塞いでくれよ。じゃないと、爆発の衝撃が俺たちの方に逃げてくるからな」
おそらく、俺はまだリリにどこか気を遣ってしまっている気がする。リリが保護対象ではなく、仲間であるのだから、もっと戦闘中に頼ってもいいはずだ。
今日のポチの活躍を見て、俺はもっと仲間に頼った戦い方をしてもいいのだと思った。
むしろ、そうすることが、リリの成長にも繋がるはずだ。
「ちょ、ちょっと待ってください! あ、アイクさーー」
「『メテオフレイムボム』」
俺がその魔法を口にすると、俺の手のひらからは顔を一回り大きくしたくらいの大きさの炎の玉が形成された。
大きさは可愛らしいものだが、その色は禍々しい漆黒とマグマのような赤さが混じり合っていた。その炎の玉から時々漏れ出ている炎が唸っている様子を見るに、軽く触れただけで木っ端みじんになるような未来が想像できた。
これは……あかん奴だ。
そう思った時にはすでに遅く、その炎の玉は俺の手を離れてジャイアントアントの巣の中へと吸い込まれていった。
「……リリ、マジで頼んだぞ」
俺が冷や汗を垂らしながらそんなことを言った次の瞬間、地割れでも起きたのかというような衝撃と爆音が森に響いたのだった。
「おっきいですね」
俺たちは森の奥へと進んでいき、ジャイアントアントの巣のすぐ近くまでやってきた。
崖を削って作られたよう穴は俺の身長の二倍ほどの大きさをしており、ちょっとした洞窟のように見えなくもない。
巣の周辺にはジャイアントアントが巡回しており、他の魔物が寄り付かないように警備をしているようだった。
周辺にいるのは六体。巣から出てきたばかりのように見えるし、もしかしたら、これから獲物を取りに行くのかもしれない。
「ジャイアントアントって、確か売れないよな?」
「そうですね。顎が硬いとは言いますけど、何か素材に使われるとかは聞いたことありません」
ジャイアントアントは家畜とかを巣に持ち帰ってしまうし、俺たちが食事として食べている魔物達も巣へと持ち帰ってしまう。
確か、繁殖力もすごいから、巣を見つけ次第に巣を壊して壊滅させないと、他の生態系に影響を及ぼすとか結構迷惑な魔物だった気がする。
「つまり、ただの害虫ってことだよな。素材が売れないということは、結構派手にやってもいいってことか」
「大丈夫だと思いますけど……何をするつもりですか?」
リリは俺が微かに頬を緩めている所を見ると、何やら不吉な物を感じ取ったように眉を潜めていた。
以前、俺がクリスタルダイナソーを相手にした時に、無理をしたことを思い出しているのかもしれない。
……まぁ、あの時も上手くいったしな。
「ちょっと作戦があるんだ。少し試したいこともある」
「ちなみに、その作戦について事前に聞いておいてもいいですか?」
「まず、巣にいるジャイアントアントの数を考えると、初めに巣の方をどうにかするべきだと思うんだ。さすがに、数十匹出てこられたら、俺たちでもどうなるか分からない」
目の前にいるジャイアントアントを倒すだけなら、訳はない。おそらく、俺たちならすぐに倒すことができるだろう。
しかし、問題はすぐ近くにジャイアントアントの巣があるということだ。俺たちが攻撃を仕掛けた瞬間に、仲間を呼ばれたら巣から増援がすぐにやってくるだろう。
そうなると、初めにその増援がくるルートを塞いでおく必要がある。
「だから、俺は巣の方にダッシュで向かうから、ポチは俺が打ち漏らした奴らの相手を頼む。リリは俺と一緒に巣まで来てくれ」
「ワン!」
「ポチがメインですか。……分かりました。今回はポチの実力を測るためでしたもんね」
「え? あ、おうよ」
「?」
俺の煮えたぎらない返答を受けて、リリは首をこてんと傾げていた。
多分、俺の反応が思ったものと違ったのだろう。
まぁ、俺がリリに告げている情報から考えれば、当然そんな考えにもなるか。
「よっし。行くぞ」
俺は不思議そうに首を傾けるリリをそのままに、【潜伏】のスキルを発動させた。それを合図に、リリも【潜伏】のスキルを発動させて、俺の後ろに続く形で木陰から飛び出した。
俺は走りながら、アイテムボックスから二本の短剣を取り出した。
取り出した二本の短剣は、一時的に魔法を蓄えることのできる性質を持つ短剣。そして、俺はその二本を持ちながら、【道化師】もスキルを発動させた。
道化師なら、手品の要領で短剣を増やすことができるのではないか。そう思って、【道化師】のスキルを覗き込むと、そこには案の定、俺の欲しているスキルがあった。
【鑑定】でそのスキルの詳細を確認すると、どうやら目的のスキルみたいだった。
「【複製】」
俺がそのスキル名を発動させると、両手に持っていた短剣が一本ずつ増えていた。さすがに持ちづらかったので、そのうちの二本を巣との延長線上の地面に【偽装】をかけて見えないようにしてから投げつけて、一時的に手から手放した。
俺は遠くで地面に突き刺さっている短剣を確認した後に、小さな声で言葉を続けた。
「『ファイアボム』」
俺がその魔法を唱えると、両手にある短剣の刀身が熱を持ったような赤色に変わった。鉄を高温で熱したときのように、その熱をそのまま蓄えたような刀身。
その色が変わった短剣を【偽装】をして、姿を見えない状態にしてから俺たちに気づいていないジャイアントアントに向けて、【肉体強化】と【投てき】のスキルを使って投げつけた。
「ギヤァァ!!」
すると、先程まで何食わぬ顔で休んでいたジャイアントアントの体が爆発した。俺の魔法を溜めておいた短剣が突き刺さり、内側から体を爆発させたのだ。
「キィィィーー」
突然仲間がやられたことに驚きながらも、ジャイアントアントの集団の内一体が悲鳴に近いような声を絞り出した。
金切り声のような声が聞こえた瞬間、周りにいたジャイアントアントの顔つきが変わったような気がした。
「……警戒音か」
俺は戦闘モードに入ったジャイアントアント達を無視しながら、先程地面に突き刺して置いた二本の短剣を掴んで、魔法を溜め込ませた後に別のジャイアントアントに投げつけた。
「ギヤァァ!!」
警戒態勢を取っていたジャイアントアント達の内一体が再び爆発して、その周辺にいた仲間は体をビクンとさせて驚いていた。
それもそうだろう。急に仲間が爆発したのだから訳も分からなくなる。
「ワオーーン!」
「ギヤァァ!!」
そして、今度は遠吠えが聞こえた瞬間にジャイアントアントの足元から氷柱が突き出して、一体のジャイアントアントを串刺しにした。
ジャイアントアントはその一撃をみて、ポチが一連の攻撃をしてきた敵だと思ったのか、警戒をしながら睨みつけていた。
しかし、先程の立て続けの攻撃を前にして警戒しているようで、ポチのことを睨んでいるだけで動こうとはしなかった。
随分と動揺しているようだし、数が多くてもこの程度の相手なら、ポチ一人で十分だろう。
そう思って、俺はジャイアントアントの間をくぐって、一直線に巣までたどり着いた。
「よっし、リリ! すぐに結界の準備を頼むぞ。俺が魔法を唱えたら、この穴を塞いでくれ」
「え? また、いつもみたいな中級魔法ですか?」
「いや、今回は上級魔法を試してみる」
事前に【気配感知】でこの中には人間がいないことは確認済み。
上級魔法で巣の中を爆発させてしまえば、その衝撃で一気にジャイアントアントを殲滅することができるはずだ。
それに、魔物の巣なら壊しても怒られないだろうしな。試さないわけにはいかないだろう。
一撃で倒しきれなかったら……もう一回、上級魔法で爆発させよう。
「え、じょ、上級ですか?!」
「すぐに穴を塞いでくれよ。じゃないと、爆発の衝撃が俺たちの方に逃げてくるからな」
おそらく、俺はまだリリにどこか気を遣ってしまっている気がする。リリが保護対象ではなく、仲間であるのだから、もっと戦闘中に頼ってもいいはずだ。
今日のポチの活躍を見て、俺はもっと仲間に頼った戦い方をしてもいいのだと思った。
むしろ、そうすることが、リリの成長にも繋がるはずだ。
「ちょ、ちょっと待ってください! あ、アイクさーー」
「『メテオフレイムボム』」
俺がその魔法を口にすると、俺の手のひらからは顔を一回り大きくしたくらいの大きさの炎の玉が形成された。
大きさは可愛らしいものだが、その色は禍々しい漆黒とマグマのような赤さが混じり合っていた。その炎の玉から時々漏れ出ている炎が唸っている様子を見るに、軽く触れただけで木っ端みじんになるような未来が想像できた。
これは……あかん奴だ。
そう思った時にはすでに遅く、その炎の玉は俺の手を離れてジャイアントアントの巣の中へと吸い込まれていった。
「……リリ、マジで頼んだぞ」
俺が冷や汗を垂らしながらそんなことを言った次の瞬間、地割れでも起きたのかというような衝撃と爆音が森に響いたのだった。