一方その頃、ギース達のパーティ。

 アイク達の冒険者ランクがA級になったという噂は、すぐに冒険者たちの間で噂になった。

 D級パーティからの三段階のランクアップ。不正を疑うような声もあったが、以前にアイク達と一緒にクエストを行ったというA級パーティ三組が、アイク達の実力が本物であることを認めていた。

 信頼のあるA級パーティの意見が三組も揃えば、アイク達の実力を認めない者はいなかった。

 そして、その実力を近くで見ていた冒険者たちがここにもいた。

「……久しぶりだな。キース、モモ」

 冒険者ギルドのカウンターから一番離れたテーブル。そこには、ギース達のパーティに属していたキースとモモがいた。

 キースとモモは、そんなアイク達の噂で盛り上がるギルドの冒険者たちをぼうっと眺めていた。

 覇気のないような目でただ眺めるだけ。その目は、S級パーティ『黒龍の牙』として活躍していた時のものとは大きくかけ離れたものだった。

「お久しぶりです」

「エルドじゃない……ひどい顔ね」

「その言葉、そのまま返してやるよ」

 疲れ切ったような顔をしているのは、キースとモモだけではなかった。エルドも同じく、精神を疲弊させたように力の目をしていた。

エルドはその席にどかっと投げやりに腰を下ろすと、重そうな口を開いた。

「新しいパーティに入ったって聞いたけど、調子はどうだ?」

「いいわけないでしょ。次は来ないでいいって言われちゃったわよ」

「私もです。……もう、私を受け入れてくれるパーティなんてないですよ」

 二人は自嘲気味に笑いながら、そんな言葉を漏らしていた。以前までにあったような謎の自信は打ち砕かれたようで、その瞳には少しの不安な感情が垣間見えていた。

『黒龍の牙』。少し前までは一番勢いがあるS級パーティとして一目置かれていたが、今ではその名前を聞くだけで、距離を置かれる存在になってしまった。

 冒険者ギルドへの度重なる迷惑行為。そして、一時凍結を受けたパーティ。

 そんなパーティにいたというだけで、冒険者としての信頼はガクッと下がり、臨時のメンバーとしてクエストに参加をさせてもらえることも稀だった。

 そして、そんな僅かなチャンスをことごとく潰してしまい、彼女らを受け入れてくれるパーティというものがいなくなっていた。

「エルド、あんたはどうなの?」

「俺も同じだ。知ってるか? 普通のパーティはフォーメーションを組むらしいぞ」

 そして、二人の前に座るエルドも同じ状況に置かれているようだった。

 エルドは自嘲気味でそんな言葉を漏らした後、アイク達の噂が流れている方に視線を向けて、小さくため息を吐いた。

「俺たちが自由に動けていたのは、アイクのおかげだったらしいな」

「聞いた? アイクの冒険者ランクA級に上がったってさ」

「聞いたよ。俺たちがS級まで登りつめたのも、全部あいつのおかげだったんだろうな。……それなのに、俺たちは、あんな態度を取り続けてたんだ」

 エルドは心の底から後悔するようにそんな言葉を漏らしていた。

 その言葉は他の二人の胸の奥まで深く突き刺さっていた。かえしが付いているようで抜けず、エルド達は自分達がしてしまったことについて、後悔の念に苛まれていた。

 自分達の無力さを体感して、自分達がしでかしたことについて反省していたのだ。

 しかし、そのメンバー達の中には、リーダーであるはずのギースの姿がなかった。

 エルドは冒険者ギルドを見渡したが、どこを見てもギースらしい影は見えなかった。

「なぁ、最近ギースのことを見たか?」

「見てないわよ。ていうか、もう見たくもないわ」

 ギースの冒険者ギルドへの対応。それが、今の自分達の首を絞めている一つの原因でもあった。

 そんなギースのことを思い出して、キースは顔を強張らせていた。

 確かに、今のエルド達の間でギースの話は禁句かもしれない。そう思って、エルドは言葉をそっとの呑み込むことにした。

「……変な気を起こさなければいいんだがな」

 ギースがエルド達の前から姿を消したのは、冒険達ランクとパーティランクをB級に降格された日だった。

 あの時、冒険達ギルドを飛び出してからギースの姿を見ていない。

 エルドはあのときのギースの目が忘れられないでいた。

 激しい憎悪に憑りつかれたような目。そして、その時に漏らしていた言葉。

『クソがっ!!! ……あ、あいつのせいだっ、あいつが、急にクエストに参加してきたからだっ……くそっ、くそっ!!』

 そのあいつが誰を意味しているのか、分からないはずがなかった。

「ねぇ、エルド。私達と一緒にパーティ組まない?」

「もう私達を受け入れてくれるパーティもないので、ギースさん抜きで私達でパーティを組みましょうよ」

 エルドも他の二人と同じく行き場を失くしていた。なので、提案は魅力的であり、エルドは二つ返事でその提案に乗ることにした。

「そうだな……そうしてくれると助かる」

 しかし、エルドはすぐにふとあることに気づいた。

このまま三人でパーティを組んだ場合、パーティランクはB級になるはずだ。

「……なぁ、俺たちって本当にB級の力があると思うか?」

「いや、ないでしょ。アイクなしだと、よくてC級くらいじゃないの?」

 自分達の実力以上の評価を受けて、何度もクエストを失敗する未来。そんな経験をしてきたせいか、そんな未来は簡単に想像することができた。
 
「なぁ、冒険達ランクって下げられると思うか?」

 今まででは考えられないようなエルドの言葉。そんな言葉に耳を疑いながらも、二人はエルドの言葉に耳を傾けるのだった。