「アイクさん、ご飯できましたよ」

「……できた」

「あ、はい。できました」

「あ、いや、そっちじゃなくてさ」

 ミノラルの武器屋と屋敷の鍛冶場を行き来して数日後。俺は自らが作った短剣を眺めながらそんなことを口にしていた。

 一瞬何のことか分からないといったように首を傾げていたリリだったが、俺の視線の先を見て何かに気づいたようだった。

「もしかして、以前に言っていた私の短剣ですか?」

「ああ。ガルドさんからもらった短剣ほどではないけど、武器ランクAの短剣だ。自画自賛する訳じゃないけど、結構良い剣だと思うぞ」

 武器屋で短剣を眺めて素材を見て、ガルドからもらった短剣とイメージを近づけて、俺は数日間短剣を打ち続けていた。

 作った短剣の数、数十本。

 その中でも出来が良かった武器ランクAの短剣の中でも、一番良い出来の短剣。

 その短剣を眺めて、少しソワソワしているリリの姿を見て、俺は茶色の柄の部分をリリの方に向けて手渡した。

「俺が使っていた短剣よりも重量感はあると思う。ガルドからもらった短剣を使って思ったけど、このくらいの重さはあった方がいいと思ってな」

 リリは俺から受け取った短剣を軽く振って、その重さを確かめていた。

 重いと言っても短剣の重さ。リリはすぐにその重さになれたようで、綺麗な剣筋で短剣を振っていた。

「なんか、すごいしっくりきます。本当にいいんですか? 私がこれを貰ってしまっても」

「むしろ、貰ってくれないと困るぞ。リリのために作ったんだからな?」

 俺が遠慮しがちなリリの態度に呆れたように笑みを浮かべると、リリは屈託のない笑みを浮かべて言葉続けた。

「アイクさん、ありがとうございます。大事に使わせてもらいますね!」

「おう。俺の鍛冶師としてのデビュー作だからな、大事にしてもらえると嬉しいよ」

「えへへっ、そんな大事な物もらえるなんて嬉しいです。……あっ、アイクさん、一つわがまま言ってもいいですか?」

「ん? どうした?」

 リリはうっとりした表情で新しい短剣を眺めると、何かに気づいたような声を漏らした。それから、口元をさらに緩めると微かに目を輝かせて言葉を続けた。

「できれば、その、アイクさんの名前を入れて欲しいです」

「名前、か」

 そう言われれば、有名な鍛冶師の作る剣にはその鍛冶師の名前が刻んであったりする。それは、ガルドからもらった短剣も同じで、ガルドの名前が刻まれていた。

 正直、ただ実用性のことしか考えてなかったから、言われるまですっかり忘れていた。

「難しいですかね?」

「いや、それくらいならすぐにできるよ」

 俺はリリに渡した短剣をまた受け取って、机の上に置いてある工具と小槌などで名前を彫っていった。

 そうして、刀身の隅の方に俺の名前が刻まれた。

 無名の冒険者の名前を背負わされた短剣。少しその短剣には申し訳ないことをした気にもなったが、名前が彫られていく過程を楽しそうに見ているリリの横顔を見て、俺は微かに笑みをこぼしていた。

「ほら、これでどうだ?」

「おぉっ、凄くいいです! ありがとうございます!」

 掘られた名前の所を見て、リリは心の底から喜ぶような笑みを浮かべていた。名前が彫られただけで、こんなに喜んでもらえるとは思わなかった。

 そう言われれば、リリは性能よりも思い入れとかを大事にするタイプだったな。

 そんなことを考えながら、俺は机の上に出した工具を片付けた。

「それじゃあ、ご飯を頂くとするか」

「はいっ。今日は新しいメニューに挑戦したので、アイクさんに気に入ってもらえるか楽しみです!」

「それは楽しみだな」

 そんなことを話しながら、鍛冶場を後にして屋敷に向かうと、屋敷のノッカーを叩こうとしている人物がいた。

 その女性は俺達の話し声に反応して振り返ると、俺たちの姿を見つけて小さく声を漏らした。

「あっ、アイクさん」

「あれ? ミリアさん?」

 俺たちの屋敷の前にいたのは、冒険者ギルドで努めているミリアだった。

 書類を片手にいつもの仕事着姿。どうやら、遊びに来たわけではなさそうだった。

「ミリアさん、本日はどうされましたか?」

「今日はですね……少しお話と、あと営業に来ました」

 そんなことを口にしたミリアは、カウンター越しでよく見る営業スマイルを浮かべていた。

「……営業?」

 俺はそんなミリアの顔を、少しだけ訝しげに覗き込んでしまっていた。