そして、食材を買い込んだ翌日。ついに、魔物肉の品評会が行われることになった。

 広場のような場所を貸切って行われる品評会。即席に作ったステージにしては凝っており、多くの人を集めている。

『噂の幻の肉 入手しました!』そんなのぼりを立てていれば、この街の住人はどんな予定があっても足を止める。

 そうイーナが断言していただけあって、広場には食べられる確証があるわけでもないのに、多くの人が集まっていた。おそらく、100人は余裕で超えているだろう。

 そして、そのギャラリーの一番前の方には簡易的な椅子とテーブルが並べられており、身なりのしっかりとしたゲストが腰を掛けていた。

 年配の人の割合が多いということは、それだけ重役クラスを集めたということなのだろう。

 そんな人たちが広場でやるような品評会に来てくれるということは、それだけ期待値が高まっているということだろう。

 変にハードルが高くなっていないといいけど。

「き、緊張しますね」

「まぁ、これだけ人が集まればリリでも緊張するか」

リリの横顔を眺めると、普段のリリからは想像できないくらいに顔が強張っているのが分かった。

リリにとって、こんな多くの人前に立つのは初めての経験になる。忘れそうになるが、リリは肉体を手に入れたのが最近なのだ。

 当然、こんな多くの人から注目をされることに不安を抱かないわけがない。

 今日俺ができることは何もない。料理のできない俺ができることと言えば、ただリリを応援することしかできない。

それなら、せめて応援くらいはしてあげたい。そう思っているのだが、これから大舞台に立とうとしている人になんて声をかけたらいいのか分からなかった。

 だから、俺はただ思ったことだけを言うことにした。

「リリの料理が美味いのは俺が知ってる。数日食べただけで胃袋掴まれた俺が言うんだ。間違いない」

「……え?」

 リリは隣に立つ俺にきょとんとした顔を向けてきた。思いがけない言葉を言われて、言葉を呑み込めていないような反応。

 何か悪いことでも言ったのだろうか? そんなことを思って自分の発言を考え直してみて、すぐに気がついた。

「ん? ……あっ」

 胃袋を掴まれたかと問われて、今まで誤魔化していたつもりだった。ずっと掴まれ続けていたのに、言葉を濁して。

「掴まれてたんですね、胃袋」

「……掴まれるだろ。あんな美味い物食べ続けたら」

 ポロっと出てしまった本音は一つ出たら止まることがなくなっていた。言った後に、体の奥の方が熱くなったような気がして、俺はリリから視線を逸らしてしまった。

「勇気、頂きました」

 リリの口調に硬さが取れたような気がして、俺はちらりとリリの方に視線を向けた。

 リリは張り切ったように両手の拳を胸の前で握って、何かを決心したような表情をしていた。先程までの硬さも取れていて、その顔つきはいつも俺の隣にいるリリだった。

 俺の視線を感じ取ってこちらに視線を向けたリリと目が合って、リリは頬を朱色に染めながら柔和な笑みを浮かべていた。

「いってきます」

「おう、気をつけてな」

 簡易的なキッチンスペースに向かうリリにそんな言葉をかけて、俺は鼓動を落ち着かせるために深呼吸をすることにした。

 どうやら、体の奥の方にある熱は、しばらく冷めることはなさそうだった。

「それでは、『幻の肉』の品評会を行います!」

 そんなイーナのアナウンスを始まりの言葉として、品評会がスタートした。