「イーナさん? あれ? なんでこんな所に?」

「それはこっちのセリフよ、アイクくん」

 他の商人や冒険者たちが俺を警戒している中、イーナはふらっと一人で俺の前まで近づいてきた。

女の子が近づいても問題のない人。そこまで警戒度が下がって、緊張感が微かに緩まった気がした。

「アイクくんが冒険者なのは知ってたけど……こんなに強いなんて知らなかったわ」

 イーナは俺がなぎ倒した盗賊たちを見て驚くような声を漏らしていた。

 盗賊たちはまだ自力で立ち上がることができない状態のようで、地面に蹲って痛々しい声を漏らしていた。

「えっと、そこのお嬢さん、この人とは知り合いなのかい?」

 俺たちが親しく話しているのを見て、冒険者の剣士が少し竦みながらイーナにそんな言葉を問いかけた。

「ええ、この人はアイクくん。まぁ、私の商売仲間って感じかしらね。安心して、ミノラルの冒険者だから」

「そ、そうなのかい?」

 イーナに確認を取ってから俺に確認を取るということは、まだまだ警戒されているのだろうな。

 そんなことを思うと、微かに笑みのようなものが漏れてしまった。

「はい、冒険者ですよ。普通の冒険者です」

 俺のその言葉を聞いて、ようやく安心したのか商人たちと冒険者の警戒が完全に解かれたようだった。

 冒険者たちは刀を収めたり、そのままその場に座り込むものまでいたりした。商人たちの方からは微かな笑い声が響いて、ようやく助かったことを実感しているようだった。

「そうだったのか、すまない。助けてもらっておいて剣を向けてしまった。どうか、許して欲しい」

「いえいえ、大丈夫ですから。頭を上げてください」

 俺が冒険者仲間だと分かると、冒険者の剣士は頭を下げて俺に詫びてきた。おそらく、他の冒険者の行いも含めての謝罪なのだろう。

 よくできた人間だなと素直に感心すると主に、丁寧過ぎる対応に少し申し訳なくも思ってしまった。

「本当に申し訳なかった。アイク君だったよね? やっぱり、これだけ強いってことは上級の冒険者なんだろう?」

「いえ、まだまだD級の冒険者ですよ」

「「……え?」」

 俺が当然のことのようにそんな言葉を漏らすと、剣士とイーナはしばらく間を置いた後に揃って間の抜けたような声を漏らした。

「「D級?!」」

 そして、またすぐに声を揃えて驚きを露にしていた。

 突然大きくなった二人の声量に驚かされて、思わず俺も目を見開いてしまっていた。

「なんでアイクくんまで驚いてるのよ!」

「いや、だって二人が急に大声出すもんだから」

「D級って、本当に言っているのかい?! C級の俺たちが5人いて苦戦したのに?!」

 どうやら、二人は俺の実力と冒険者ランクが合っていないことに驚いている様子だった。

 確かに、ミリアも本来ならもっと冒険者ランクを上げるべきだったと言っていたな。これは、ミリアの名誉のためにも何かしらフォローを入れておいた方がいいだろう。

「いや、これでもよくしてもらってるんだよ。少し前までずっとFランクだったし」

「あんな一瞬で盗賊を倒しておいて、少し前までFだったの?! あ、アイクくん、本気で言ってるの?!」

「こんな実力者を冒険者ランクFにしておくなんて、冒険者ギルドはいったい何を考えてるんだ……」

「いや、だから、違くてーー」

「あっ、分かった! あえて、冒険者ランク上げないようにしてたんでしょ? 緊急クエストの招集とかが嫌だから!」

「なるほど、そういう考えか。それなら、納得できないこともないか」

 最近急にステータスが上がっただけで、進化前の俺はそんなに強くなかったんだよ。

そんなことを言っても信じてもらえる空気ではなくなり、まるで俺が実力を隠しているといったような評価で話が進んでいってしまった。

 そこまで話したところで、二人は俺の方にパッと視線を向けてきた。

 これが正解であるといった謎の自身が目に宿っていて、それを今さら否定をするのも余計にややこしくなる気がした。

「……いやー、実はそうなんだよ」

 なので、俺はその流れに乗ってしまうことにした。

 別に誰かに確認を取るわけでもないし、今は目の前の二人が納得してくれればそれでいいだろう。

 そう思ってそんな返事をすると、二人は満足げに頷いてくれた。

 どうやら、俺の選択は間違っていなかったみたいだ。

 いつおう、丸く収まったってことでいいのかな?

 こうして、俺の初めての対人戦は幕を閉じたのだった。