「今日はどこかに行くのかい?」

「そうですね。とりあえず、冒険者ギルドに行こうと思います。……あっ、うまいな」

 翌朝。俺は朝ご飯を食べるために宿屋の食堂に来ていた。

 宿屋のおばさんはトレイに載った朝ご飯を俺の元に運んでくると、そんなことを聞いてきた。

 朝ご飯は肉の腸の詰めと卵焼き、あとは黒パンとトマトのスープ。

 特に良い素材という訳ではないと思うのだが、調理が上手いせいかやけにおいしく感じた。

「おいしいかい? ははっ、そいつは嬉しいことを言ってくれるじゃないの」

「似たような物は食べたことあったんですけど、想像以上においしかったんで、つい口に出てしまいました」

「そうだろ? 先代から続けられてる秘訣は、何も宿代が安いからって訳じゃないんだよ」

「そう言えば、街の中心部から結構離れている割に人が多いような……」

 周りに目を向けてみると、朝の食堂にしては人が多い気がした。せかせかしている人は少なく、朝ご飯をゆったりと食べる人たちが多く見られた。

「ああ、あれは朝ご飯を食べに来てる客だね。宿屋とは別に、飯屋もやっているんだよ」

「あ、そういうことですか」

「メニューにある飯が食べてたかったら、前もって言っておいてくんな。そうすれば、宿泊客用の飯の代わりに、そのメニューを持ってきてあげるよ」

「メニューですか?」

 宿屋のおばさんに言われて、テーブルに目を落すとそこには紙で書かれたメニュー表が置かれていた。

 目を通して見ると、豊富なメニューが書かれていた。

 前菜から肉料理、それにお酒まで結構な種類が置かれている。これだけの種類のメニューの料理が食べられるというだけでもここに来る意味はあるだろう。

「もちろん、差額分は頂くけどね」

「ははっ、分かってますよ」

 本当はすぐにでもこれらのメニューを食べたいが、現状を考えると無駄遣いはできない。何かしら、臨時の収入ができたときに食べてみようかな。

「お客さんが王都で活躍するほどの冒険者だったとはねぇ。まさか、そんな人が泊まりに来てくれるとは思わなかったよ」

「いえ、俺は大して強くないんですよ。ちょっと前までは強いパーティにいたんですけどね」

「ふうん。冒険者っていうのも色々あるんだねぇ」

「まぁ、今は一人なんで、一人の時間を大切にしますよ」

「ははっ、達観しているねぇ。なに、まだ若いんだからどうとでもなるよ」

 宿屋のおばさんは他の客に呼ばれて、俺の席から離れていった。

 確かに、今年十五歳になったばかりの俺はおばさんから見ると、かなり若いだろうな。そんな人生の先輩からのアドバイスを受けて、俺は少しだけ気持ちが軽くなっていた。

 あのままパーティに残るよりも、出てしまった今の方が気持ちが軽い所もあったりする。変に顔色をパーティメンバーの顔を窺ったりしないで済むしな。

 俺は美味しい朝ご飯を食べて前向きになった心のまま、冒険者ギルドに向かうことにしたのだった。


 王都ミノラルの冒険者ギルドは他の都市にあるギルドよりも大きい。扱うクエストの種類も幅広く、多くのクエストを扱うギルドである。

 ギルドは東側にある冒険者の街の中でも権力があるため、中心部付近に構えている。

 つまり、俺の泊まっている宿から向かうにしては少し遠いのだ。

「ふぅ。やっぱり遠いな。まぁ、少し歩いて安いならそっちの方がいいよな」

 冒険者ギルドの中に入ってみると、今日もギルドは繁盛しているようだった。

 ギルドの中には屈強な体をしたごつい装備を付けた剣士や、ローブ姿でミステリアスな感じの魔法使い、知能に優れていそうな目つきをしている賢者などがぞろぞろといた。

 これだけ強そうな冒険者がいると居づらくも思ってしまうが、その隅の方ではまだ冒険者を始めて間もない装備を付けた冒険者などもいた。

 幅広いランクの冒険者とクエストがあるのも、このギルドの売りの一つである。

 俺はそんな冒険者たちを眺めながらカウンターへと向かった。

「すみません。メンバー募集しているパーティとかって、紹介してもらえたりしますかね?」

 明るい髪色をした女性に声をかけると、その女性はこちらと目が合ってにこりと笑みを浮かべた。

 胸に付けられたネームプレートにはミリアと書かれていた。

 俺もこのギルドで色々と手続きとかしていたから、すでに顔なじみだったりする。

「メンバー募集ですね。現時点でも結構多くのパーティが募集をかけていますよ。あ、ギルドカードを見せていただいてもよろしいでしょうか?」

「あ、はい。これです」

 俺が身分証代わりでもあるギルドカードを提出すると、ミリアはギルドカードを確認するように目を上から下へ移動させていた。

「初めて見るジョブですね。……ステータスも確認したいので、こちらの水晶に手を置いてください」

 どうやら、ミリアも『道化師見習い』というジョブは俺以外に会ったことがないらしい。俺だって、そんな奴にはあったことないし、珍しいジョブなのだろう。

もしかしたら、俺一人以外にいないのかもしれないな。まぁ、特殊なだけで強いわけじゃないからな。何人いようが問題はないだろう。

「はい。わかりました」

 俺はミリアに言われて水晶の上に手を置いた。

 この水晶は特別な水晶で、【鑑定】のスキルを付与している水晶だ。だから、この水晶に触れることで、その冒険者のステータスを【鑑定】することができる。

 自分のステータスの確認はギルドカードを持っていればできるが、他者がステータスを見ようとしたときは【鑑定】を使うか、今回のような魔法具を使わないとみることができないのだ。

 ギルドがパーティに俺を紹介するときに、そのステータス情報が必要になるのだと思う。

「……え?」

 俺がボケっとそんなことを考えていると、ミリアが水晶を覗き込んでえらく驚いていた。そんなはずはないとでも言うかのような声が漏れていたので、何かしてしまったのか心配になってしまう。

「え、えっと、どうかしましたか?」

 ミリアは俺の方をパッと見た後に、また視線をギルドカードの方に戻して、また俺の方を見て固まってしまった。

 な、なんだろうか。特に何か凄いことをした記憶はないのだけれども。

「レ、レベル1でこんなに高いステータスって、何者ですか? それに、ジョブが『道化師』って……私、初めて聞きましたよ」

「え、『道化師見習い』じゃなくてですか? それに、レベル1!? いや、さすがに、そんなことはないと思うんですけど!」

 ミリアと同じになって驚く反応をした俺に見せびらかすように、ミリアはその水晶を俺の顔の前に突き出してきた。

「え、なにこれ?」

 俺は思わずそんなこと呟いてしまった。