「おう、アイクお疲れさん」

「お待たせしました、バングさん」

 俺はギルドでの用事を済ませた後、再びギルド裏の倉庫まで来ていた。

 ギルドではクエスト達成の報酬として二万ダウを貰った。ファングとワイドディアの肉の採取は元々丸々一体はいらないらしく、残った肉はギルドの方で買い取ってくれるみたいだった。

 なので、解体後に別でギルドが買い取った分を追加の報酬としてもらえるらしい。多分、それを合わせれば三万ダウはいくだろう。

 それと残りの今日の討伐した魔物肉と素材分がプラスされる。そうなるといくらぐらい貰えるのか、今から楽しみである。

「ギルドの方の用はもう終わったのか?」

「はい、あとは明日の朝来てくれって言われました。なんか、冒険者ランクが上がるみたいです」

「そりゃあ、そうだろ。あれだけ魔物を狩っておいて冒険者ランクがFなんてどうかしてる」

 バングは笑いながらそんなことを言っていた。確かに、そう言われればF級の冒険者が一日で狩ってくる魔物の量ではないかしれないな。

 そこまで話したところで、俺は倉庫に引き返してきた理由を思い出した。

「それで、バングさん。明日バングさんの知り合いに会うって言ってたじゃないですか。そこに俺も同席ってさせてもらえたりしますか?」

「なんだ、そんなことか。全然かまわないけど、どうしたんだ?」

「時間停止のアイテムボックスを持ってることと、その効果がどのくらいなのか見せた方がいいかなと思いまして。とりあえず、今日討伐した魔物数体とキングディアを見せれば、翌日になっても鮮度が落ちていないことを理解してもらえるかなと思ったんですけど」

 俺が全ての魔物を解体してもらわなかった理由はそこにあった。

 言葉で言うよりも実物を見てもらった方が信用してもらえるし、その反応も見ることができる。何よりも、食材なんて現物を見ないと始まらないだろう。

「なるほどな。そこまで考えて魔物を全て解体させないでいたのか。……よしっ、せっかくなら、アイクの考えに乗ろう。ただ旧友と会って話してくるだけだったんだが、一気に畳みかけてみるか。ちょっと、待っててくれ。それなら、俺にも策がある」

 バングは俺が前向きなのが嬉しかったのか、そんなことを言うと俺が持ってきたばかりの魔物を数体解体し始めた。

「せっかくなら、現物として解体後のも見せた方がいいだろ。その方が、インパクトもあるしな」

「新鮮な魔物とそれの肉を同時に見せるってことですね。確かに、魔物だけを見せるよりも、そっちの方が買い手としては見たいでしょうね。……バングさん、それでお願いします」

「任せとけ」

 要するに、『こちらの新鮮な魔物から取れたお肉がこちらです』として見せつけるということだろう。

 解体を専門にしているバングのような人でない限り、解体前の魔物を見せても無反応なんてこともあり得る。

 確かに、料理をする側からしたらそっちの方が見たいだろうな。

 ……バングに相談しておいてよかった。急に討伐した魔物見せられてぽかんとされて終わる所だった。

「明日は昼前にそいつと合うつもりだから、冒険者ギルドに寄って少し街でもぶらついたらここに来てくれ。他の魔物の買い取り分の金もその時に渡すのでいいか?」

「はい、それでお願いします」

 そうなると、明日はクエストに行くのは無理そうだな。本当ならもっとクエストに行ったりしてお金を稼ぎたいところだが、仕方がないだろう。

 ある意味、未来への投資みたいなものだしな。

「そういうことだから、リリ。明日はお休みでいいぞ。街を見たいならお金を渡すから楽しんできてもいいし」

「え? 私も一緒に行きますよ? バングさん、私もいいですよね?」

「おう、いいぞ。別に何人来ても変わらんねーからな」

 バングが作業をしながらそんなことを言うと、リリは嬉しそうに口元を緩めてこちらに視線を向けた。

「え、いや、別に来なくて平気だぞ?」

 俺がバングと一緒に行くのは、話を交渉まで持っていくために行くだけだ。そのための材料としてアイテムボックスを持っている俺が行くというだけなので、リリまで来る必要はないのだが。

「アイクさんが行くならどこでもお供します。私、助手ですから」

 リリは胸を張って得意げにそんなことを言った後に、小さく笑った。