事の顛末。
行方が分からなくなっていたA級パーティは、アングラマウスの集団に襲われた後、この簡易的な研究室に運ばれてきたらしい。
そのパーティのメンバーたちは、貴重な人間のサンプルとして、研究室の奥の牢に閉じ込められていた。
目立った外傷もなく無事にA級パーティを救出して、この実験室にいた男を憲兵団に差し出して、今回の依頼は無事に終了。
勝手にダンジョンに壁を開けたり、魔物に非道徳的な実験を繰り返していたりした男には、重い罰が与えられることだろう。
「珍しいな。アイクたちの方から、俺に用があるなんて」
そして、依頼を達成した俺たちは、再びギルドの応接室にいた。
以前と違うのは、ガリアの隣にミリアがいないこと。というか、ミリアにはあえて席を外してもらっていた。
初めは砕けた笑みを浮かべていたガリアだったが、ミリアに席を外して欲しいといったあたりから、その表情を硬くしていた。
席を外して欲しいと言われたミリアは、すぐに何かに気づいたように応接室から逃げるように去っていった。
……以前、イリスの件で知らないうちに巻き込まれていたことがあったからだろう。本当に逃げるみたいに早く出ていってしまった。
少しだけ張りつめた空気の中、ガリアは僅かにボリュームを下げた声で、確信を突くような一言を口にした。
「ダンジョンの時にいた、研究者の話か?」
「はい」
「……どこまで聞いた?」
一瞬、隠すべきなのかとも思ったが、ガリアの反応はまるでその話を知っているかのような反応だった。
これはすべて話して答え合わせをした方がいいかもしれない。
そう思った俺は、少し重くなった口を開くことにした。
「人間にスキルを付与、魔力を増強させる研究をしている国があることを聞きました。それも、非道徳的な方法で」
あの実験施設にいた男に【催眠】をかけて、俺は強化された魔物たちのことや、男が口にしていた戯言について話を聞くことにした。
そこで聞いた話では、ある国ではスキルの付加や魔力の増強を人工的に行う研究がされているらしい。
しかし、まだ研究段階で副作用も出る場合もあるらしく、それにかかる費用も安くはない。
成果を残せなければ、研究者はすぐにクビになり、その研究の一人があの男だった。
研究一筋だった男は、安物の偽物の開発に乗り出したが、国家機密である研究を他で続けることはご法度。
それで、人に見つからない場所を選んで、魔物や自分を実験台にして研究をしていたらしい。
国によって自身に埋め込まれた、『テイム』のスキルを参考にしながら。
初めは戯言だと思っていたその話は、聞けば聞くほど真実味を帯びているような話だった。
それらのことをガリアに伝えると、ガリアは視線を落として小さくため息を吐いた。
驚きも呆れもしないガリアの反応から、その男の話の信憑性が一気に上がったように感じた。
「……聞いたことあったんですか?」
「噂話程度だ。いや、噂話では片付けられないか」
ガリアは話すかどうか少し迷った後、諦めたように言葉を続けた。
「モンドル王国って知ってるか?」
「まぁ、有名な国ですから名前くらいは」
学術の国と言われている、モンドル王国。魔法学や錬金術や歴史など、幅広い学問が盛んな都市として有名な場所だ。
全国から優秀な学生を引き抜いてきて、優秀な学者に育て上げるという制度がある国でもある。
「十数年前から、あの国の勢力が一気に上がったと言われている」
「そういえば、隣国を属国にしたとかでしたっけ?」
「その頃からだ。モンドル王国の噂が流れだしたのは」
ガリアは意味ありげに一呼吸置くと、こちらから視線を外して言葉を続けた。
「非道徳的な方法で、力をつけた兵士達がいるってな」
「……それって」
あの男の話と一致する噂。偶然にしては、あまりにも似ているそれは、あの男の言葉が妄言ではなかったことを裏付けるには十分だった。
「あの国は研究に関する情報を一切遮断している。その研究者がうちで捕まったということは、多分アイク達にも聞き込みに来るだろうな」
「聞き込みですか?」
「救助されたA級パーティと、アイクたちにはきっと来るだろう。こっちで無理やり断ることもできるが、それだと怪しまれるしな」
機密情報を知ってしまったかもしれない他国の冒険者。その国からすると、それは情報が漏れるかもしれない一大事なのだろう。
それを拒否するということは、変に疑いを持たれてしまって、最悪のケースを引き起こす可能性だってあり得る。
「あの男から聞いた話は絶対にするなよ」
真剣な面持ちで少し前のめりになりながら、ガリアはそんな言葉を口にした。おそらく、心の底から心配してくれているのだろう。
「……分かりました」
ガリアの言葉忠告を素直に受け入れて、俺たちは冒険者ギルドを後にした。
どうやら、俺はあの男から聞いてはならない話を引き出してしまったらしい。
そのせいでどんな事態を引き起こすことになるのか、今の時点では想像をすることもできなかった。
行方が分からなくなっていたA級パーティは、アングラマウスの集団に襲われた後、この簡易的な研究室に運ばれてきたらしい。
そのパーティのメンバーたちは、貴重な人間のサンプルとして、研究室の奥の牢に閉じ込められていた。
目立った外傷もなく無事にA級パーティを救出して、この実験室にいた男を憲兵団に差し出して、今回の依頼は無事に終了。
勝手にダンジョンに壁を開けたり、魔物に非道徳的な実験を繰り返していたりした男には、重い罰が与えられることだろう。
「珍しいな。アイクたちの方から、俺に用があるなんて」
そして、依頼を達成した俺たちは、再びギルドの応接室にいた。
以前と違うのは、ガリアの隣にミリアがいないこと。というか、ミリアにはあえて席を外してもらっていた。
初めは砕けた笑みを浮かべていたガリアだったが、ミリアに席を外して欲しいといったあたりから、その表情を硬くしていた。
席を外して欲しいと言われたミリアは、すぐに何かに気づいたように応接室から逃げるように去っていった。
……以前、イリスの件で知らないうちに巻き込まれていたことがあったからだろう。本当に逃げるみたいに早く出ていってしまった。
少しだけ張りつめた空気の中、ガリアは僅かにボリュームを下げた声で、確信を突くような一言を口にした。
「ダンジョンの時にいた、研究者の話か?」
「はい」
「……どこまで聞いた?」
一瞬、隠すべきなのかとも思ったが、ガリアの反応はまるでその話を知っているかのような反応だった。
これはすべて話して答え合わせをした方がいいかもしれない。
そう思った俺は、少し重くなった口を開くことにした。
「人間にスキルを付与、魔力を増強させる研究をしている国があることを聞きました。それも、非道徳的な方法で」
あの実験施設にいた男に【催眠】をかけて、俺は強化された魔物たちのことや、男が口にしていた戯言について話を聞くことにした。
そこで聞いた話では、ある国ではスキルの付加や魔力の増強を人工的に行う研究がされているらしい。
しかし、まだ研究段階で副作用も出る場合もあるらしく、それにかかる費用も安くはない。
成果を残せなければ、研究者はすぐにクビになり、その研究の一人があの男だった。
研究一筋だった男は、安物の偽物の開発に乗り出したが、国家機密である研究を他で続けることはご法度。
それで、人に見つからない場所を選んで、魔物や自分を実験台にして研究をしていたらしい。
国によって自身に埋め込まれた、『テイム』のスキルを参考にしながら。
初めは戯言だと思っていたその話は、聞けば聞くほど真実味を帯びているような話だった。
それらのことをガリアに伝えると、ガリアは視線を落として小さくため息を吐いた。
驚きも呆れもしないガリアの反応から、その男の話の信憑性が一気に上がったように感じた。
「……聞いたことあったんですか?」
「噂話程度だ。いや、噂話では片付けられないか」
ガリアは話すかどうか少し迷った後、諦めたように言葉を続けた。
「モンドル王国って知ってるか?」
「まぁ、有名な国ですから名前くらいは」
学術の国と言われている、モンドル王国。魔法学や錬金術や歴史など、幅広い学問が盛んな都市として有名な場所だ。
全国から優秀な学生を引き抜いてきて、優秀な学者に育て上げるという制度がある国でもある。
「十数年前から、あの国の勢力が一気に上がったと言われている」
「そういえば、隣国を属国にしたとかでしたっけ?」
「その頃からだ。モンドル王国の噂が流れだしたのは」
ガリアは意味ありげに一呼吸置くと、こちらから視線を外して言葉を続けた。
「非道徳的な方法で、力をつけた兵士達がいるってな」
「……それって」
あの男の話と一致する噂。偶然にしては、あまりにも似ているそれは、あの男の言葉が妄言ではなかったことを裏付けるには十分だった。
「あの国は研究に関する情報を一切遮断している。その研究者がうちで捕まったということは、多分アイク達にも聞き込みに来るだろうな」
「聞き込みですか?」
「救助されたA級パーティと、アイクたちにはきっと来るだろう。こっちで無理やり断ることもできるが、それだと怪しまれるしな」
機密情報を知ってしまったかもしれない他国の冒険者。その国からすると、それは情報が漏れるかもしれない一大事なのだろう。
それを拒否するということは、変に疑いを持たれてしまって、最悪のケースを引き起こす可能性だってあり得る。
「あの男から聞いた話は絶対にするなよ」
真剣な面持ちで少し前のめりになりながら、ガリアはそんな言葉を口にした。おそらく、心の底から心配してくれているのだろう。
「……分かりました」
ガリアの言葉忠告を素直に受け入れて、俺たちは冒険者ギルドを後にした。
どうやら、俺はあの男から聞いてはならない話を引き出してしまったらしい。
そのせいでどんな事態を引き起こすことになるのか、今の時点では想像をすることもできなかった。