お酒を飲みながら、『恐怖の道化師』の噂の誤解を解いた翌日。俺はリリとポチを連れて、何気なし冒険者ギルドに来ていた。
イリスの護衛の依頼を数日前に終えて、しばらく屋敷で休んだ体を動かそうと思って、冒険者ギルドにやってきたのだった。
しかし、せっかく冒険者ギルドにやってきたというのに、俺は冒険者ギルドの掲示板をただぼうっと眺めているだけだった。
「リリ、何か良さげなのあったか?」
「そうですね。うーん、特にこれと言ってはないですかね」
「まぁ、そうだよなぁ」
冒険者ギルドの掲示板には多くの依頼書が張り出されている。別に、その依頼にケチをつけるわけではないのだが、特にやりたい依頼があるという訳ではなかった。
特に珍しい素材が欲しいわけでも、金欠だという訳でもない。
そうなると、どのクエストを受けても同じような気がして、どれでもいいがゆえに、やりたい依頼というのが見つからない。
「どうしたものかなぁ」
適当に報酬の良さそうな依頼で儲けるか。一番報酬がいいのはどれだろうか?
「え?! まだ帰ってきていないんですか?」
そう思って、報酬が高そうな依頼を中心に掲示板を眺めていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。
振り返ってみると、そこにいたのはミリアとガリア、それと他のギルド職員の姿だった。
何が起きているのかは分からないが、その表情を見るにあまり良くない事態が起きているらしい。
何かあったのだろうか?
そう思いつつも、再び視線を掲示板の方に戻そうとしたとき、不意にミリアと目が合った。
小さくお辞儀だけすると、ミリアは俺にお辞儀を返すよりも前に、隣にいたガリアに何やら耳打ちをし始めた。
そして、ガリアの視線がこちらに向けられた後、ガリアが頷くのを確認すると、ミリアがこちらに小走りで駆け寄ってきた。
……なんだか、嫌な予感がする。
「アイクさん? どうかしたんですか?」
俺の表情から何かを感じ取ったのか、隣にいたリリは小首を傾げてきょとんとしていた。
どうやら、まだリリはミリアの接近にまだ気づいていないようだ。
「リリ。……今日締め切りのクエストをありったけ受けて、それ終わったら屋敷に籠るってのはどうだろうか?」
「アイクさん、リリさん、おはようございます! ポチちゃんもおはようっ」
また何かに巻き込まれる前に逃げてしまおうかと思ったのだが、そんな俺の気配を察したのか、昨日とは違う営業スマイルを浮かべているミリアが俺たちのすぐ後ろに来ていた。
「あっ、おはようございます、ミリアさん」
ミリアが何かを企んでいることを知らないリリは、いつもと変わらぬ様子でミリアに挨拶を返していていた。
「今日はどんな依頼を受けるつもりだったんですか?」
「えっと、今日締め切りの依頼をありったけ、でしたっけ? アイクさん」
「今日締め切りのをありったけ?」
リリの返答を聞いて、こちらが何かを察していることに気づいたのか、ミリアはハッとした顔をした後に、すぐにその表情を隠した。
そして、何か秘密の商談でもするかのように声のボリュームを落すと、俺たちに聞こえるようにだけ顔を近づけて言葉を続けた。
「実はですね、『道化師の集い』にはいつもお世話になっているので、まだ張り出していない耳寄りな情報を持ってきました。良ければ、奥の応接室まで」
いや、明らかに怪し過ぎる。
あの応接室に通されるということは、何かしら面倒なことに巻き込まれるということだ。
それは分かっているのに、営業スマイルの裏に滲み出てしまっているような、本当に困っているような感情を見せられてしまうと、断ることができないのだった。
「はぁ……分かりました」
こうして、俺たちは何度目かになる、冒険者ギルドの奥にある応接室に連れていかれたのだった。
イリスの護衛の依頼を数日前に終えて、しばらく屋敷で休んだ体を動かそうと思って、冒険者ギルドにやってきたのだった。
しかし、せっかく冒険者ギルドにやってきたというのに、俺は冒険者ギルドの掲示板をただぼうっと眺めているだけだった。
「リリ、何か良さげなのあったか?」
「そうですね。うーん、特にこれと言ってはないですかね」
「まぁ、そうだよなぁ」
冒険者ギルドの掲示板には多くの依頼書が張り出されている。別に、その依頼にケチをつけるわけではないのだが、特にやりたい依頼があるという訳ではなかった。
特に珍しい素材が欲しいわけでも、金欠だという訳でもない。
そうなると、どのクエストを受けても同じような気がして、どれでもいいがゆえに、やりたい依頼というのが見つからない。
「どうしたものかなぁ」
適当に報酬の良さそうな依頼で儲けるか。一番報酬がいいのはどれだろうか?
「え?! まだ帰ってきていないんですか?」
そう思って、報酬が高そうな依頼を中心に掲示板を眺めていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。
振り返ってみると、そこにいたのはミリアとガリア、それと他のギルド職員の姿だった。
何が起きているのかは分からないが、その表情を見るにあまり良くない事態が起きているらしい。
何かあったのだろうか?
そう思いつつも、再び視線を掲示板の方に戻そうとしたとき、不意にミリアと目が合った。
小さくお辞儀だけすると、ミリアは俺にお辞儀を返すよりも前に、隣にいたガリアに何やら耳打ちをし始めた。
そして、ガリアの視線がこちらに向けられた後、ガリアが頷くのを確認すると、ミリアがこちらに小走りで駆け寄ってきた。
……なんだか、嫌な予感がする。
「アイクさん? どうかしたんですか?」
俺の表情から何かを感じ取ったのか、隣にいたリリは小首を傾げてきょとんとしていた。
どうやら、まだリリはミリアの接近にまだ気づいていないようだ。
「リリ。……今日締め切りのクエストをありったけ受けて、それ終わったら屋敷に籠るってのはどうだろうか?」
「アイクさん、リリさん、おはようございます! ポチちゃんもおはようっ」
また何かに巻き込まれる前に逃げてしまおうかと思ったのだが、そんな俺の気配を察したのか、昨日とは違う営業スマイルを浮かべているミリアが俺たちのすぐ後ろに来ていた。
「あっ、おはようございます、ミリアさん」
ミリアが何かを企んでいることを知らないリリは、いつもと変わらぬ様子でミリアに挨拶を返していていた。
「今日はどんな依頼を受けるつもりだったんですか?」
「えっと、今日締め切りの依頼をありったけ、でしたっけ? アイクさん」
「今日締め切りのをありったけ?」
リリの返答を聞いて、こちらが何かを察していることに気づいたのか、ミリアはハッとした顔をした後に、すぐにその表情を隠した。
そして、何か秘密の商談でもするかのように声のボリュームを落すと、俺たちに聞こえるようにだけ顔を近づけて言葉を続けた。
「実はですね、『道化師の集い』にはいつもお世話になっているので、まだ張り出していない耳寄りな情報を持ってきました。良ければ、奥の応接室まで」
いや、明らかに怪し過ぎる。
あの応接室に通されるということは、何かしら面倒なことに巻き込まれるということだ。
それは分かっているのに、営業スマイルの裏に滲み出てしまっているような、本当に困っているような感情を見せられてしまうと、断ることができないのだった。
「はぁ……分かりました」
こうして、俺たちは何度目かになる、冒険者ギルドの奥にある応接室に連れていかれたのだった。