『粛清に来た』。
俺がそう言うと、王は状況的に言い逃れをすることは無理だと判断したのか、開き直るような口調ですぐに返答をしてきた。
「え、エリス嬢のことか? な、なんだお前は! エリス嬢と何の関りがある!」
声はずっと震えていて、何か酷い畏怖の念を抱いているはずなのに、王という立場からか威勢の良いことを言っている。
ここでエリスの関係者だと言っておいてもいいかもしれないが、そのせいで変な因縁を持たれたら面倒だな。
……これだと、まだ交渉には不利かもしれない。
俺はそう思って、近くにいた騎士のうち一人を見つけて、指をくいくいっと動かして、その騎士の脚を動かした。
「ミノラルの子供に悪さをする人間は、粛清しなければなりません。このように」
その騎士は俺のすぐ隣で倒れるレオルドに視線を向けると、自分が何をされるのか勝手に察したのか、恐怖で顔を歪ませていた。
「やめっ、やめてくれぇぇっ!!」
その表情は迫ってくる死から逃れようとしているようで、涙を流しながら必死に抵抗していた。
いや、確かに【精神支配】はあまり道徳的なスキルではないが、別に殺そうって訳ではないんだけど。
しかし、そんな俺の考えとは対照的に、【感情吸収】はその騎士の男の恐怖の感情と、それを見ている周囲の感情を糧にして、力をみなぎらせてくる。
俺は目の前まで来たガクガクと震える騎士の男の額に手を置くと、先程以上に力を抑えて【精神支配】のスキルを発動させた。
「お、王様ぁ! お、お助け、お助けをぉぉ!! う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
しかし、その男はこちらが力の加減をしていることなどまるで知らないかのように、大きな叫び声を上げて、その場にこてんと倒れてしまった。
気を失っているだけ、だよな?
【感情吸収】のスキルと、【精神支配】のスキルを同時に使うと、相乗効果が生まれるとかそんなんじゃないよな?
王の恐怖心を煽るために、もう一人だけ気を失ってもらおうと思っただけなのだが、やりすぎただろうか?
「ひぃっ!!」
しかし、その効果はてき面だったみたいだ。
先程のやり取りを見て、王は年甲斐もなく目に涙を浮かべていた。もしも、【肉体支配】のスキルを使っていなかったら、椅子から転げ落ちてしまっていたことだろう。
俺は脅える王のもとに、わざとゆっくりとした足音を立てながら近づいていった。
近くまで行って気づいたが、この王様かなり呼吸が荒くなっている。過呼吸というやつだろうか?
なぜだろう? 今はただ体が動かないだけだから、そんなに怖がるほどでもないだろうに。
王座に座っている王のすぐそばまで近づいて、俺はそんな疑問を頭に浮かべながら、静かに言葉を続けた。
「今後、ミノラルに手を出さないのなら、ここは手を引きましょう」
「だ、ださない! きさっ……あなた様に誓って、絶対に手を出さないことを誓おう!!」
「本当ですかね?」
もっとごねると思ったが、えらく聞き訳がいい。
そんなに簡単に受け入れられてしまうと、この場を逃れるためだけに嘘を言っているようにも聞こえてしまう。
俺が少し疑うように顔を近づけて王の顔を覗き込むと、王は歯をカチカチとさせながらこちらに脅えた小動物のような目を向けていた。
「ほほ、ほ、本当だ! いや、ほ、本当ですから!!」
これは演技ではない、よな?
なんか必要以上に脅えているような気がするのはなぜだろうか?
そういえば、【感情吸収】のスキルに幻覚などを見せるってあったけど、それを見ているのだろうか。
……一体、今の俺はどんな風に見えているんだろうな。
今にも気を失ってしまいそうな目を向けられると、少しばかりそんなことが気にもなったりはする。
でも、今はそんなことを気にしている場合ではないか。
少しだけお灸を据えてから、俺も帰るとするかな。
「あなた方は調子に乗り過ぎた。少しだけ悪夢を見てもらいます」
「や、やめてくれっ……」
俺はそんな言葉を残して、そっとその王の額に手を伸ばした。そして、静かに言葉を続けた。
「悪夢から覚めたとき、それが正夢にならないことを願っていますよ」
そして、俺は先程以上に力を抑えて【精神支配】のスキルを使用した。
「や、やめてっ……あ、あああ、あああああああああああ!!!」
俺のスキルを受けた王は、全身の神経を無理やり引き抜かれたような悲鳴を上げて、目を見開いた後、力なくガクッと気を失った。
し、死んでないよな?
なんでさっきから、みんな過剰な反応をするんだろうか?
そんなことに頭を悩ませながら、俺はここから脱出すための出口を見渡していた。さすがに、扉から帰るわけにもいかないだろう。
なんか格好付かないし。
いや、こんな時にこそあのスキルを使うか。
「……『スモーク』」
俺は小さな声で煙幕を生じさせる魔法を唱えると、その煙に紛れながら【潜伏】のスキルを使用した。
せっかく道化師と名乗ったのなら、それっぽく退出した方がいいだろう。
そんな軽い気持ちで使った魔法だったのだがーー
「な、なんだこの煙は?!」「ど、毒じゃないのか?! 吸ったら死ぬぞ!!」「くそっ、こ、こんなところでっ!!」
【感情吸収】で力を溜め込みすぎたせいか、異常なくらいの量の煙幕が出てしまっていた。
いや、毒とかそんなんじゃないのだけど、体が動かない状態で煙に包まれれば、確かに怖いかもしれない。
……それに、体にはよくないよな。
そう思った俺は、【潜伏】のスキルを使用した状態で、謁見の間の身の丈以上に大きな窓を開けてから、隠れるように王城を後にしたのだった。
少しだけ締まらない終わり方になったのだが、この去り方も含めて結構な伝説になることを、このときの俺はまだ知らなかった。
俺がそう言うと、王は状況的に言い逃れをすることは無理だと判断したのか、開き直るような口調ですぐに返答をしてきた。
「え、エリス嬢のことか? な、なんだお前は! エリス嬢と何の関りがある!」
声はずっと震えていて、何か酷い畏怖の念を抱いているはずなのに、王という立場からか威勢の良いことを言っている。
ここでエリスの関係者だと言っておいてもいいかもしれないが、そのせいで変な因縁を持たれたら面倒だな。
……これだと、まだ交渉には不利かもしれない。
俺はそう思って、近くにいた騎士のうち一人を見つけて、指をくいくいっと動かして、その騎士の脚を動かした。
「ミノラルの子供に悪さをする人間は、粛清しなければなりません。このように」
その騎士は俺のすぐ隣で倒れるレオルドに視線を向けると、自分が何をされるのか勝手に察したのか、恐怖で顔を歪ませていた。
「やめっ、やめてくれぇぇっ!!」
その表情は迫ってくる死から逃れようとしているようで、涙を流しながら必死に抵抗していた。
いや、確かに【精神支配】はあまり道徳的なスキルではないが、別に殺そうって訳ではないんだけど。
しかし、そんな俺の考えとは対照的に、【感情吸収】はその騎士の男の恐怖の感情と、それを見ている周囲の感情を糧にして、力をみなぎらせてくる。
俺は目の前まで来たガクガクと震える騎士の男の額に手を置くと、先程以上に力を抑えて【精神支配】のスキルを発動させた。
「お、王様ぁ! お、お助け、お助けをぉぉ!! う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
しかし、その男はこちらが力の加減をしていることなどまるで知らないかのように、大きな叫び声を上げて、その場にこてんと倒れてしまった。
気を失っているだけ、だよな?
【感情吸収】のスキルと、【精神支配】のスキルを同時に使うと、相乗効果が生まれるとかそんなんじゃないよな?
王の恐怖心を煽るために、もう一人だけ気を失ってもらおうと思っただけなのだが、やりすぎただろうか?
「ひぃっ!!」
しかし、その効果はてき面だったみたいだ。
先程のやり取りを見て、王は年甲斐もなく目に涙を浮かべていた。もしも、【肉体支配】のスキルを使っていなかったら、椅子から転げ落ちてしまっていたことだろう。
俺は脅える王のもとに、わざとゆっくりとした足音を立てながら近づいていった。
近くまで行って気づいたが、この王様かなり呼吸が荒くなっている。過呼吸というやつだろうか?
なぜだろう? 今はただ体が動かないだけだから、そんなに怖がるほどでもないだろうに。
王座に座っている王のすぐそばまで近づいて、俺はそんな疑問を頭に浮かべながら、静かに言葉を続けた。
「今後、ミノラルに手を出さないのなら、ここは手を引きましょう」
「だ、ださない! きさっ……あなた様に誓って、絶対に手を出さないことを誓おう!!」
「本当ですかね?」
もっとごねると思ったが、えらく聞き訳がいい。
そんなに簡単に受け入れられてしまうと、この場を逃れるためだけに嘘を言っているようにも聞こえてしまう。
俺が少し疑うように顔を近づけて王の顔を覗き込むと、王は歯をカチカチとさせながらこちらに脅えた小動物のような目を向けていた。
「ほほ、ほ、本当だ! いや、ほ、本当ですから!!」
これは演技ではない、よな?
なんか必要以上に脅えているような気がするのはなぜだろうか?
そういえば、【感情吸収】のスキルに幻覚などを見せるってあったけど、それを見ているのだろうか。
……一体、今の俺はどんな風に見えているんだろうな。
今にも気を失ってしまいそうな目を向けられると、少しばかりそんなことが気にもなったりはする。
でも、今はそんなことを気にしている場合ではないか。
少しだけお灸を据えてから、俺も帰るとするかな。
「あなた方は調子に乗り過ぎた。少しだけ悪夢を見てもらいます」
「や、やめてくれっ……」
俺はそんな言葉を残して、そっとその王の額に手を伸ばした。そして、静かに言葉を続けた。
「悪夢から覚めたとき、それが正夢にならないことを願っていますよ」
そして、俺は先程以上に力を抑えて【精神支配】のスキルを使用した。
「や、やめてっ……あ、あああ、あああああああああああ!!!」
俺のスキルを受けた王は、全身の神経を無理やり引き抜かれたような悲鳴を上げて、目を見開いた後、力なくガクッと気を失った。
し、死んでないよな?
なんでさっきから、みんな過剰な反応をするんだろうか?
そんなことに頭を悩ませながら、俺はここから脱出すための出口を見渡していた。さすがに、扉から帰るわけにもいかないだろう。
なんか格好付かないし。
いや、こんな時にこそあのスキルを使うか。
「……『スモーク』」
俺は小さな声で煙幕を生じさせる魔法を唱えると、その煙に紛れながら【潜伏】のスキルを使用した。
せっかく道化師と名乗ったのなら、それっぽく退出した方がいいだろう。
そんな軽い気持ちで使った魔法だったのだがーー
「な、なんだこの煙は?!」「ど、毒じゃないのか?! 吸ったら死ぬぞ!!」「くそっ、こ、こんなところでっ!!」
【感情吸収】で力を溜め込みすぎたせいか、異常なくらいの量の煙幕が出てしまっていた。
いや、毒とかそんなんじゃないのだけど、体が動かない状態で煙に包まれれば、確かに怖いかもしれない。
……それに、体にはよくないよな。
そう思った俺は、【潜伏】のスキルを使用した状態で、謁見の間の身の丈以上に大きな窓を開けてから、隠れるように王城を後にしたのだった。
少しだけ締まらない終わり方になったのだが、この去り方も含めて結構な伝説になることを、このときの俺はまだ知らなかった。