霧は広がりながら、俺たちの元に向かっていた。
相手が何をしてくるのかは分からないが、この霧に包まれるような事態だけは避けなくてはならない。
ハンスの話を聞くに、やっかいそうだし、イリスはこの霧に呑まれるだけでも不安になるだろうしな。
そうなると、現状をどう打破するかだがーー。
「アイクさん。とりあえず、野営してる周辺まで結界張っておきますか?」
そんなことを考えていると、隣にいたリリが俺の服の裾をちょいちょいっと引っ張って、そんな言葉を口にした。
その顔は食事をしているときと変わらず、普通のことをするかのような表情。とても、盗賊団が迫ってきているとは思えない表情。
「え、ああ。それじゃあ、頼めるか?」
思いもしなかった申し出に少し戸惑いながら、俺がそんな返答をするとリリは微かに口元を緩めた後、馬車から一人で降りていき、片手を霧の方に向けた。
「『結界魔法』」
リリがそう唱えると、こちらに向かっていた霧が突然何かに当たって、それを迂回するように左右上下に広がっていった。
そのまま広く張った結界を迂回しながら霧は進んでいき、やがてリリが結界を張った内側以外が霧に包まれた。
さすがに距離が遠すぎるせいか、イリスも不安げな顔はしていなかった。というか、そんなことよりも目の前で起きている不思議現象に見入っているようだった。
「え、なんだこれ」「どうなったんだ?」「なんか霧が俺たちのこと避けてないか?」
リリが結界を張った事を分かっていない騎士団は、目の前で起きている事態に対して、怪奇現象でも見るかのような目を向けていた。
まぁ、結界なんて張れるやつなんて滅多にいないだろうし、そんな反応にもなるか。
それからしばらくして、何かが結界に衝突したような音だけが聞こえてきた。
魔法なのか何かの投てき系の武器なのか分からないが、ただ爆発音や衝突した音が聞こえるだけ。
ただ何をしているのかまるで分らなかった。
リリが張った結界はびくともしないので、実質何もされていないのと同じだったからだ。霧のせいで全く見えないしな。
「……あの霧をどけますね」
リリは当たり前みたいにそんな言葉を口にすると、続けて小さな結界を手のひらに作ると、そこに右手を向けて静かに言葉を続けた。
「『転移結界魔法』『サイクロン』」
リリがその小さな結界に向けて魔法を唱えると、その結界の中に小さな竜巻のような物が生じた。
威力が小さいというよりも縮尺を無理やり縮め込んだような感じだ。小さな竜巻なんて可愛らしいものではないことは確かだった。
「『転移結界魔法―転移』……『解除』」
そして、リリが言葉を続けると、リリの手のひら先にあった結界が竜巻ごと消えた。
消えた竜巻はどこに向かったのか。それは考えるよりも早く目視で確認することができた。
消えたと思った次の瞬間には、凄まじい暴風の音が聞こえてきて顔を上げると、そこにその竜巻は移動していた。
俺たちの結界の外にいつの間にか移動していたそれは、それが本来の縮尺であったかのように、民家を軽く呑み込むほどの大きさになっていた。
「な、なんか来たぞ!」「か、風つよーーは? 竜巻?!」「何が起きてんだよ、何も見えないぞ!!」
結界の外から悲鳴のような物が聞こえてきて、その竜巻がその悲鳴の方に突っ込んでいった。
当然、その竜巻に巻き込まれるようにして霧は晴れて、その悲鳴を上げていた奴らの馬車ごと粉々にしていた。
「『結界魔法』。ふふんっ、アイクさん、無事盗賊団を確保しました!」
最後に盗賊団と粉々になった馬車を結界で囲むと、リリは胸を張ってこちらに満面の笑みを向けてきた。
「お、お疲れ。す、凄いな、リリは」
「えへへっ、まぁ、アイクさんの助手なのでっ」
粉々になった馬車の下敷きになった盗賊団が。何とか這い上がろうとしている様子から、盗賊団が死んではいないようだ。
結構派手だったが、あれでもリリは結構加減をしたのかもしれないな。
霧をどけると言ってはいたが、まさか一緒に盗賊団を瞬殺するとは思わなかったな。
ていうか、やっぱり、リリもポチも戦い方が結構脳筋染みてきていないか?
あの島での修行の成果を見ることができて嬉しいが、なんかリリの戦闘スタイルも大きく変わった気がする。
「今のって、あの女の子がやったのか? え、もしかして、S級?」「いや、最近A急になったって聞いたぞ」「あれでA級って……今の冒険者ってそんなにレベル高いのか?」
盗賊団を瞬殺したリリに対して、騎士団の面々はそんな言葉を口にしていた。
いや、俺たちが特殊なだけでA級の冒険者みんながみんなリリくらい強いわけではないのだけど。
……まぁ、冒険者の評価が上がるなら、このまま誤解してもらっていてもいいのかな?
あれ? そういえば、まだ俺って活躍してないのでは?
助手と使い魔が強くなりすぎたせいか、どうやら俺の活躍の機会がめっきり減ってしまったようだった。
こうして、俺たちは以前にイリスを襲った盗賊団の捕縛に成功したのだった。
相手が何をしてくるのかは分からないが、この霧に包まれるような事態だけは避けなくてはならない。
ハンスの話を聞くに、やっかいそうだし、イリスはこの霧に呑まれるだけでも不安になるだろうしな。
そうなると、現状をどう打破するかだがーー。
「アイクさん。とりあえず、野営してる周辺まで結界張っておきますか?」
そんなことを考えていると、隣にいたリリが俺の服の裾をちょいちょいっと引っ張って、そんな言葉を口にした。
その顔は食事をしているときと変わらず、普通のことをするかのような表情。とても、盗賊団が迫ってきているとは思えない表情。
「え、ああ。それじゃあ、頼めるか?」
思いもしなかった申し出に少し戸惑いながら、俺がそんな返答をするとリリは微かに口元を緩めた後、馬車から一人で降りていき、片手を霧の方に向けた。
「『結界魔法』」
リリがそう唱えると、こちらに向かっていた霧が突然何かに当たって、それを迂回するように左右上下に広がっていった。
そのまま広く張った結界を迂回しながら霧は進んでいき、やがてリリが結界を張った内側以外が霧に包まれた。
さすがに距離が遠すぎるせいか、イリスも不安げな顔はしていなかった。というか、そんなことよりも目の前で起きている不思議現象に見入っているようだった。
「え、なんだこれ」「どうなったんだ?」「なんか霧が俺たちのこと避けてないか?」
リリが結界を張った事を分かっていない騎士団は、目の前で起きている事態に対して、怪奇現象でも見るかのような目を向けていた。
まぁ、結界なんて張れるやつなんて滅多にいないだろうし、そんな反応にもなるか。
それからしばらくして、何かが結界に衝突したような音だけが聞こえてきた。
魔法なのか何かの投てき系の武器なのか分からないが、ただ爆発音や衝突した音が聞こえるだけ。
ただ何をしているのかまるで分らなかった。
リリが張った結界はびくともしないので、実質何もされていないのと同じだったからだ。霧のせいで全く見えないしな。
「……あの霧をどけますね」
リリは当たり前みたいにそんな言葉を口にすると、続けて小さな結界を手のひらに作ると、そこに右手を向けて静かに言葉を続けた。
「『転移結界魔法』『サイクロン』」
リリがその小さな結界に向けて魔法を唱えると、その結界の中に小さな竜巻のような物が生じた。
威力が小さいというよりも縮尺を無理やり縮め込んだような感じだ。小さな竜巻なんて可愛らしいものではないことは確かだった。
「『転移結界魔法―転移』……『解除』」
そして、リリが言葉を続けると、リリの手のひら先にあった結界が竜巻ごと消えた。
消えた竜巻はどこに向かったのか。それは考えるよりも早く目視で確認することができた。
消えたと思った次の瞬間には、凄まじい暴風の音が聞こえてきて顔を上げると、そこにその竜巻は移動していた。
俺たちの結界の外にいつの間にか移動していたそれは、それが本来の縮尺であったかのように、民家を軽く呑み込むほどの大きさになっていた。
「な、なんか来たぞ!」「か、風つよーーは? 竜巻?!」「何が起きてんだよ、何も見えないぞ!!」
結界の外から悲鳴のような物が聞こえてきて、その竜巻がその悲鳴の方に突っ込んでいった。
当然、その竜巻に巻き込まれるようにして霧は晴れて、その悲鳴を上げていた奴らの馬車ごと粉々にしていた。
「『結界魔法』。ふふんっ、アイクさん、無事盗賊団を確保しました!」
最後に盗賊団と粉々になった馬車を結界で囲むと、リリは胸を張ってこちらに満面の笑みを向けてきた。
「お、お疲れ。す、凄いな、リリは」
「えへへっ、まぁ、アイクさんの助手なのでっ」
粉々になった馬車の下敷きになった盗賊団が。何とか這い上がろうとしている様子から、盗賊団が死んではいないようだ。
結構派手だったが、あれでもリリは結構加減をしたのかもしれないな。
霧をどけると言ってはいたが、まさか一緒に盗賊団を瞬殺するとは思わなかったな。
ていうか、やっぱり、リリもポチも戦い方が結構脳筋染みてきていないか?
あの島での修行の成果を見ることができて嬉しいが、なんかリリの戦闘スタイルも大きく変わった気がする。
「今のって、あの女の子がやったのか? え、もしかして、S級?」「いや、最近A急になったって聞いたぞ」「あれでA級って……今の冒険者ってそんなにレベル高いのか?」
盗賊団を瞬殺したリリに対して、騎士団の面々はそんな言葉を口にしていた。
いや、俺たちが特殊なだけでA級の冒険者みんながみんなリリくらい強いわけではないのだけど。
……まぁ、冒険者の評価が上がるなら、このまま誤解してもらっていてもいいのかな?
あれ? そういえば、まだ俺って活躍してないのでは?
助手と使い魔が強くなりすぎたせいか、どうやら俺の活躍の機会がめっきり減ってしまったようだった。
こうして、俺たちは以前にイリスを襲った盗賊団の捕縛に成功したのだった。