「それでは、こちらにルーロさんはいらっしゃらないんですか?」
「ええ、この屋敷はアイク様の所有物となりましたので」
温泉から帰ってくると、屋敷の前で俺たちを待つ人物がいた。
四十代くらいのおじさんといった感じで、聖職者のような服装をしているその人物は俺たちを見つけると、慌ててこちらに近づいてきた。
何やら切羽詰まっている様子だったので、屋敷の中で話を聞くことにしたのだが、どうやら、ルーロの家と間違えてこの屋敷を尋ねてきたらしい。
「え? サラさんルーロさんを知ってるんですか?」
「はい。以前、お話しさせていただいたこの屋敷の前の所有者です」
「え、そうだったんですか」
前にこの屋敷を使っていた人がいたという話は聞いたが、まさかその人物がルーロだったとは思わなかった。
なるほど、なんでルーロがここにいると勘違いしていたのか疑問だったのだが、そういうことだったのか。
ていうか、この屋敷を貰うほどの身分だったのか、ルーロさん。
いや、確かにあれだけの実力があれば何かしらの功績を残していない方がおかしいかもしれないな。
しかし、納得したと同時に、使用感の少ない屋敷に目を向けてみると、自然と言葉が漏れていた。
「なんで引っ越しだろ?」
「前任から聞いた話ですと、『部屋が多くて使い切れないし、なんか堅苦しいから引っ越すわ!』といって、他に家を建てて出ていったとか。この屋敷を使うこと自体も少なかったみたいですし」
なんとももったいない理由ではあるが、確かにバケツと釣り竿を片手に持って住むにしてはこの屋敷は立派過ぎるかもしれない。
そういう意味で言うと、ルーロが住んでいた家の方がルーロの生活スタイルには合ってそうだな。
ルーロの性格を考えると、確かにそんな理由で引っ越すのも納得できる。結構少年みたいところあったしな。
「あれ? なんでアイクさんがルーロさんのお名前を知ってるんですか?」
「なんでって、そりゃあ……あっ」
一週間一緒に修行をしていたから知らないはずがないだろ。と言いそうになって、俺は慌てて口をつぐんだ。
そうだった。リリからしたら俺とルーロの関係は、この街に来て初めて会った住人くらいの認識なのだろう。
下手に隠し続ける理由もないのだが、今ここで修行のことを話すよりも、修行の成果を後で見せた方が面白いだろと思って、俺はその事実を隠すようにして言葉を続けた。
「あれだ、リリが帰ってくる前に港で何回か会ってる。ていうか、リリこそ何で知ってるんだ?」
「私ですか? 私は……ここを離れる前に、偶然道で会ってお話を少々」
そういえば、ルーロは島に修行に向かうリリとも少し話しをしたと言っていたな。
そんなことを思い出して、リリを軽く突いてみると、リリも俺と同じことを考えているのか、話をはぐらかそうとしていた。
視線を逸らして泳がしているリリの姿に笑いを堪えて見ていたのだが、目の前にいる男を置き去りにしていたことを思い出して、俺は小さく咳ばらいを一つして話を戻すことにした。
「それで、ルーロさんの家なら知ってますけど、どんな要件なんですか?」
「魔物の討伐の依頼をしたいのです。この街の端に大きな集団墓地があるのはご存じですか?」
街の端の集団墓地。つい一週間前にこの地に来た俺にとっては聞きなじみがなかったので、俺はサラの方にちらりと視線を送った。
視線を受けたサラが静かに頷いた様子から、この街に住む者なら知っていて当然の場所なのかもしれない。
そんな俺とサラの反応を確認した後、男は話を続けた。
「私はそこの管理をしているものです。昨夜急になんですが、その墓地にアンデッドが大量に発生していまして、その中心に大きな羽と尻尾をもった魔物がおりました。ギルドに報告に向かうと、アンデッドドラゴンじゃないかという話になりまして」
「アンデッドドラゴンですか」
アンデッドドラゴン。実際に見たことはないけれど、話に聞いたことはある。
ドラゴンよりもスピードはないが、アンデッド化しているだけあって通常の攻撃のみでは倒せない厄介な魔物だ。
確か、アンデッドドラゴンは墓に眠る死者や死んだ魔物を生き返らせて、自分の僕として引き連れると聞いたことがある。
どれだけ墓地の管理をしていても、アンデッドドラゴンが現れたのなら、対処のしようもないよな。
「それで、ここからが問題なのですが、ちょうど高ランクの冒険者達が別のクエストに向かっていて、アンデッドドラゴンを倒せるほどの冒険者が今いない状態でして、その依頼をルーロさんに頼もうと思って来たのですが」
話に聞いたところ、もともとこの街には高ランクの冒険者自体多くはないらしい。
現状、冒険者ギルドにアンデッドドラゴンを倒せるような人材がいないから、ルーロの所に助けを求めに来たということみたいだ。
ルーロのもとに寄せられた依頼。このままルーロの住所を教えてしまってもいいが、ルーロには色々とお世話になった。
それなら、ここでお礼の意味も込めて、ルーロの代わりにその依頼を受けるのもいいかもしれない。
そしてなにより、ルーロに任される依頼という物がどういうものなのか気にもなるし、俺たちの修業の成果も試してみたい。
リリとポチの修業の成果を見るためにも、この依頼は受けてみたいな。
そう思ってリリとポチの方に視線をちらりと向けると、二人ともまだ引き受けていない依頼に対して、やけに前のめりで話を聞いていた。
どうやら、確認する必要はないようだ。
「そういうことでしたら、俺たちでよければ代わりに引き受けますよ」
「え、ほ、本当ですか?! アンデッドドラゴン相手ですよ?!」
「多分大丈夫ですよ。任せてください。こう見えても、俺達A級のパーティなんで」
驚いている男にそう告げると、その男はさらに目を見開いて俺の言葉に驚いていた。
こうして、俺たちはアンデッドドラゴンとアンデットの群れの討伐に向かうことになったのだった。
「ええ、この屋敷はアイク様の所有物となりましたので」
温泉から帰ってくると、屋敷の前で俺たちを待つ人物がいた。
四十代くらいのおじさんといった感じで、聖職者のような服装をしているその人物は俺たちを見つけると、慌ててこちらに近づいてきた。
何やら切羽詰まっている様子だったので、屋敷の中で話を聞くことにしたのだが、どうやら、ルーロの家と間違えてこの屋敷を尋ねてきたらしい。
「え? サラさんルーロさんを知ってるんですか?」
「はい。以前、お話しさせていただいたこの屋敷の前の所有者です」
「え、そうだったんですか」
前にこの屋敷を使っていた人がいたという話は聞いたが、まさかその人物がルーロだったとは思わなかった。
なるほど、なんでルーロがここにいると勘違いしていたのか疑問だったのだが、そういうことだったのか。
ていうか、この屋敷を貰うほどの身分だったのか、ルーロさん。
いや、確かにあれだけの実力があれば何かしらの功績を残していない方がおかしいかもしれないな。
しかし、納得したと同時に、使用感の少ない屋敷に目を向けてみると、自然と言葉が漏れていた。
「なんで引っ越しだろ?」
「前任から聞いた話ですと、『部屋が多くて使い切れないし、なんか堅苦しいから引っ越すわ!』といって、他に家を建てて出ていったとか。この屋敷を使うこと自体も少なかったみたいですし」
なんとももったいない理由ではあるが、確かにバケツと釣り竿を片手に持って住むにしてはこの屋敷は立派過ぎるかもしれない。
そういう意味で言うと、ルーロが住んでいた家の方がルーロの生活スタイルには合ってそうだな。
ルーロの性格を考えると、確かにそんな理由で引っ越すのも納得できる。結構少年みたいところあったしな。
「あれ? なんでアイクさんがルーロさんのお名前を知ってるんですか?」
「なんでって、そりゃあ……あっ」
一週間一緒に修行をしていたから知らないはずがないだろ。と言いそうになって、俺は慌てて口をつぐんだ。
そうだった。リリからしたら俺とルーロの関係は、この街に来て初めて会った住人くらいの認識なのだろう。
下手に隠し続ける理由もないのだが、今ここで修行のことを話すよりも、修行の成果を後で見せた方が面白いだろと思って、俺はその事実を隠すようにして言葉を続けた。
「あれだ、リリが帰ってくる前に港で何回か会ってる。ていうか、リリこそ何で知ってるんだ?」
「私ですか? 私は……ここを離れる前に、偶然道で会ってお話を少々」
そういえば、ルーロは島に修行に向かうリリとも少し話しをしたと言っていたな。
そんなことを思い出して、リリを軽く突いてみると、リリも俺と同じことを考えているのか、話をはぐらかそうとしていた。
視線を逸らして泳がしているリリの姿に笑いを堪えて見ていたのだが、目の前にいる男を置き去りにしていたことを思い出して、俺は小さく咳ばらいを一つして話を戻すことにした。
「それで、ルーロさんの家なら知ってますけど、どんな要件なんですか?」
「魔物の討伐の依頼をしたいのです。この街の端に大きな集団墓地があるのはご存じですか?」
街の端の集団墓地。つい一週間前にこの地に来た俺にとっては聞きなじみがなかったので、俺はサラの方にちらりと視線を送った。
視線を受けたサラが静かに頷いた様子から、この街に住む者なら知っていて当然の場所なのかもしれない。
そんな俺とサラの反応を確認した後、男は話を続けた。
「私はそこの管理をしているものです。昨夜急になんですが、その墓地にアンデッドが大量に発生していまして、その中心に大きな羽と尻尾をもった魔物がおりました。ギルドに報告に向かうと、アンデッドドラゴンじゃないかという話になりまして」
「アンデッドドラゴンですか」
アンデッドドラゴン。実際に見たことはないけれど、話に聞いたことはある。
ドラゴンよりもスピードはないが、アンデッド化しているだけあって通常の攻撃のみでは倒せない厄介な魔物だ。
確か、アンデッドドラゴンは墓に眠る死者や死んだ魔物を生き返らせて、自分の僕として引き連れると聞いたことがある。
どれだけ墓地の管理をしていても、アンデッドドラゴンが現れたのなら、対処のしようもないよな。
「それで、ここからが問題なのですが、ちょうど高ランクの冒険者達が別のクエストに向かっていて、アンデッドドラゴンを倒せるほどの冒険者が今いない状態でして、その依頼をルーロさんに頼もうと思って来たのですが」
話に聞いたところ、もともとこの街には高ランクの冒険者自体多くはないらしい。
現状、冒険者ギルドにアンデッドドラゴンを倒せるような人材がいないから、ルーロの所に助けを求めに来たということみたいだ。
ルーロのもとに寄せられた依頼。このままルーロの住所を教えてしまってもいいが、ルーロには色々とお世話になった。
それなら、ここでお礼の意味も込めて、ルーロの代わりにその依頼を受けるのもいいかもしれない。
そしてなにより、ルーロに任される依頼という物がどういうものなのか気にもなるし、俺たちの修業の成果も試してみたい。
リリとポチの修業の成果を見るためにも、この依頼は受けてみたいな。
そう思ってリリとポチの方に視線をちらりと向けると、二人ともまだ引き受けていない依頼に対して、やけに前のめりで話を聞いていた。
どうやら、確認する必要はないようだ。
「そういうことでしたら、俺たちでよければ代わりに引き受けますよ」
「え、ほ、本当ですか?! アンデッドドラゴン相手ですよ?!」
「多分大丈夫ですよ。任せてください。こう見えても、俺達A級のパーティなんで」
驚いている男にそう告げると、その男はさらに目を見開いて俺の言葉に驚いていた。
こうして、俺たちはアンデッドドラゴンとアンデットの群れの討伐に向かうことになったのだった。