「よっし。教会までは戻れたな」
俺たちは無事攫われた女の子を救出して、教会まで戻って来ていた。
道中で俺たちを追ってくるような気配もなかったし、リリが無力化した兵士達もまだ動ける状態ではないようだ。
まさか、ここまで完璧にやってくれるとは思わなかったな。
情報を聞き出した神父もまだ寝ているようだし、今のうちにここから出ることにしよう。
「行きは出入口の所で警戒音が鳴ったからな。帰りは……ここから行くか」
さすがに、一日に二度警戒音を鳴らすわけにはいかないだろう。そう思って、近くにあった窓に手をかけると、問題なく窓を開けることができたので、俺たちはそのまま窓から教会堂の外に出た。
【潜伏】のスキルをかけた状態で教会の庭から外に向かって走っていくと、そのまま問題なく門の外にでることができた。
そして、俺が【潜伏】のスキルを解いた瞬間、何かがこちらに全力で走ってきた。
俺が振り向くよりも早く俺に襲い掛かってきたのはーー白いモフモフだった。
「きゃん!」
「おー、ポチ。お留守番ご苦労さん」
ポチは俺と再開できたのを喜ぶように尻尾を振って、俺にじゃれついていた。俺がお腹をわしゃわしゃとして撫でてあげると、お腹を見せてただ気持ちよさそうに撫でられていたが、俺の腕についた血を見て驚いたように体をビクンとさせた。
そして、姿勢を戻して心配そうに俺の腕を舐めてくれた。
「ポチは優しいな。でも、そこはこう完治してるんだぞ~」
「ワンちゃんですか?」
俺がポチと戯れていると、後ろからひょこっとイリスが顔を覗かせた。その顔は興味深い物を見る目というよりも、可愛い物を見て一緒に戯れたいと思っているような目だった。
「いや、それがこの子、フェンリルなんですよ」
「ふぇ、フェンリル?! こ、この子がですか?」
「まぁ、そんな反応にもなりますよね」
思ってもいない返答が来たのだろう。イリスは俺の返答が信じられないみたいで、微かに目を見開いていた。
そりゃあ、お腹を見せて撫でられてり、傷口をぺろぺろと舐めてくれるフェンリルなんていないよな。
何よりも大きさが普通の小型犬だし。
「よっし、ポチ。さっそくで悪いけど、俺たちを背中に乗せてくれるか? 目的は果たしたから、この国から出ようと思うんだ」
「きゃん!」
俺がポチにお願いをすると、ポチは全身に力を入れるように体を震わせて、徐々に体を大きくさせていった。
そして、ポチの体は以前に俺たちを乗せていたくらいの大きさにーー。
「あれ? 前よりも少し大きくなってる?」
「成長期でしょうね」
「……マジでそうかもしれんな」
以前は大人が三人分くらい乗れる大きさだった。しかし、今のポチはさらにもう一回り大きくなっており、もふもふ加減が倍増されているようだった。
そして、そのポチの姿を見て、イリスは感嘆の声を漏らしていた。
「ほ、本当にフェンリルなんですね。な、なんでフェンリルと一緒にいるんですか?」
「なんでって、使い魔であり仲間ですかね」
「ふぇ、フェンリルが使い魔?! なんで、プライドの高いフェンリルが……」
「プライドが高い?」
イリスはポチを見上げながら、驚くようにそんな言葉を漏らしていた。
プライドが高い?
俺はその言葉を受けて、ポチとの日々を思い返してみたが、どうもそんな言葉が該当するエピソードが思い当たらない。
撫でて欲しくて駆け寄ってきたり、椅子に座っていれば俺の太ももの上に乗ってきたり、ベッドで寝ていれば俺の布団に潜り込んでくる。
そんなポチのどこに、プライドの高さがあるのだろうか。
「くぅん?」
そうだよな、身に覚えなんてないよな。
言われたポチ自身も首を傾げてしまっている始末。どうやら、ポチの性格は一般的なフェンリルとはかけ離れているみたいだった。
「とりあえず、乗ってください。近くにハンスさんが手配してくれた馬車があるので、それまではポチに送ってもらいます」
「わ、分かりました」
俺はポチに屈んでもらってポチの背中に乗った。その後ろにイリスとリリが続く形で乗ったのを確認して、ポチはすくっと立ち上がった。
「それじゃあ、ポチ。よろしく頼むな」
「ワンッ」
低くなった声で返事をしたポチはそのまま門に向かって走り出した。【潜伏】で姿を隠しているから誰にも見られてはいないが、中々の速度だった。
人を轢いてしまわないように【気配感知】のスキルを発動しながら進んでいくと、すぐに門の前まで来ることができた。
やはり、ポチの移動速度はフェンリルなんだなぁと改めて実感した。
「あとは、この門をどうするか、か。さすがに、この門は跳び越えられないだろうしな……」
目の前にある門は後ろに見える家々を軽く超える高さをしていた。ジャンプして超えられる大きさではない。
門の前には門番がいるが、門番の数も三人なので多くない。どうにかできない数ではないだろう。
「ポチ、近くに行ったら俺を下ろしてーーポチ?」
俺がポチに指示を出すよりも早く、ポチは門の前で急加速した。スピードに乗ったフェンリルの速度は常識の範疇に収まらない速さになり、門にぶつかるんじゃないかという勢いなった。
「ぽ、ポチっ?!」
「え、これぶつかるんじゃーー」
イリスが後ろで心配そうな声を漏らして、俺の背中に抱きついてきた。女の子に抱きしめられた嬉しさなんかよりも、断然俺が盾にされるんじゃないかという恐怖の方が上回った。
もしかして、このまま門を突き破る気か?
ぶつかる覚悟をして目を強く閉じた瞬間、突然体がふわりと浮いた感覚に襲われた。
「ワンッ」
「嘘だろ……」
異常なほどに速度をつけたポチは、そのまま力強く地面を蹴って跳躍していた。突然訪れた浮遊感を前に、俺は振り落とされないように強くポチの背中に掴まった。
しかし、その跳躍は門を超えるほどのものではなかったらしく、門の途中で失速してしまった。
「やばい、落ちる」
俺がそう嘆いた時、ポチは垂直に立っている門に足をかけて急加速した。跳躍を見せた前に見せた加速と【突進】のスキルを合わせた急加速。その加速によって一気に門の上まで登ったポチは、そのまま力強く門を蹴って空を舞った。
「……いやいや、落ちるぞ! しっかり掴まってろよ、みんな!」
気持ち良さそうに全力で走ったポチは、そのまま門から飛び降りて地面に着地しようとしていた。
俺が急いで【道化師】のスキルを使ってポチとみんなの重量を軽くしたおかげか、ポチが地面に足を着いた時の足音と衝撃は大きくならずに済んだようだった。
「はっ、はっ、一瞬死ぬかと思ったな」
「さすが、アイクさんとポチです」
「ワンッ!」
リリに褒められて得意げに鳴きながら、ポチは速度を少し落としてそのまま野原を走っていた。
まさか、ポチがあんな高さを跳べるとは思わなかったな。
どうやら、リリだけではなくポチも結構成長しているらしかった。
「そういえば、悲鳴とか出しませんでしたね。イリスさんは高い所とかも結構平気ーーイリスさん?」
俺たちはまだ冒険者だから大丈夫だったが、箱入り娘が急に遭遇するにしては衝撃的な展開だっただろう。
そう思って、後方にいるイリスに確認を取ろうとしたのだが、イリスは何やら俺の背中にもたれかかっていた。
なんかやけに脱力しているような気がする……。
「イリスさん? ……あ、アイクさん、イリスさんが気を失ってます!」
「まずい! なんとか馬車が待っている所に着く前に起こすぞ!」
無傷で助けたはずなのに、その後に気を失わせたから打ち首。
そんな未来が微かに見えた気がして、俺たちは必死にイリスを起こそうとしたのだった。
俺たちは無事攫われた女の子を救出して、教会まで戻って来ていた。
道中で俺たちを追ってくるような気配もなかったし、リリが無力化した兵士達もまだ動ける状態ではないようだ。
まさか、ここまで完璧にやってくれるとは思わなかったな。
情報を聞き出した神父もまだ寝ているようだし、今のうちにここから出ることにしよう。
「行きは出入口の所で警戒音が鳴ったからな。帰りは……ここから行くか」
さすがに、一日に二度警戒音を鳴らすわけにはいかないだろう。そう思って、近くにあった窓に手をかけると、問題なく窓を開けることができたので、俺たちはそのまま窓から教会堂の外に出た。
【潜伏】のスキルをかけた状態で教会の庭から外に向かって走っていくと、そのまま問題なく門の外にでることができた。
そして、俺が【潜伏】のスキルを解いた瞬間、何かがこちらに全力で走ってきた。
俺が振り向くよりも早く俺に襲い掛かってきたのはーー白いモフモフだった。
「きゃん!」
「おー、ポチ。お留守番ご苦労さん」
ポチは俺と再開できたのを喜ぶように尻尾を振って、俺にじゃれついていた。俺がお腹をわしゃわしゃとして撫でてあげると、お腹を見せてただ気持ちよさそうに撫でられていたが、俺の腕についた血を見て驚いたように体をビクンとさせた。
そして、姿勢を戻して心配そうに俺の腕を舐めてくれた。
「ポチは優しいな。でも、そこはこう完治してるんだぞ~」
「ワンちゃんですか?」
俺がポチと戯れていると、後ろからひょこっとイリスが顔を覗かせた。その顔は興味深い物を見る目というよりも、可愛い物を見て一緒に戯れたいと思っているような目だった。
「いや、それがこの子、フェンリルなんですよ」
「ふぇ、フェンリル?! こ、この子がですか?」
「まぁ、そんな反応にもなりますよね」
思ってもいない返答が来たのだろう。イリスは俺の返答が信じられないみたいで、微かに目を見開いていた。
そりゃあ、お腹を見せて撫でられてり、傷口をぺろぺろと舐めてくれるフェンリルなんていないよな。
何よりも大きさが普通の小型犬だし。
「よっし、ポチ。さっそくで悪いけど、俺たちを背中に乗せてくれるか? 目的は果たしたから、この国から出ようと思うんだ」
「きゃん!」
俺がポチにお願いをすると、ポチは全身に力を入れるように体を震わせて、徐々に体を大きくさせていった。
そして、ポチの体は以前に俺たちを乗せていたくらいの大きさにーー。
「あれ? 前よりも少し大きくなってる?」
「成長期でしょうね」
「……マジでそうかもしれんな」
以前は大人が三人分くらい乗れる大きさだった。しかし、今のポチはさらにもう一回り大きくなっており、もふもふ加減が倍増されているようだった。
そして、そのポチの姿を見て、イリスは感嘆の声を漏らしていた。
「ほ、本当にフェンリルなんですね。な、なんでフェンリルと一緒にいるんですか?」
「なんでって、使い魔であり仲間ですかね」
「ふぇ、フェンリルが使い魔?! なんで、プライドの高いフェンリルが……」
「プライドが高い?」
イリスはポチを見上げながら、驚くようにそんな言葉を漏らしていた。
プライドが高い?
俺はその言葉を受けて、ポチとの日々を思い返してみたが、どうもそんな言葉が該当するエピソードが思い当たらない。
撫でて欲しくて駆け寄ってきたり、椅子に座っていれば俺の太ももの上に乗ってきたり、ベッドで寝ていれば俺の布団に潜り込んでくる。
そんなポチのどこに、プライドの高さがあるのだろうか。
「くぅん?」
そうだよな、身に覚えなんてないよな。
言われたポチ自身も首を傾げてしまっている始末。どうやら、ポチの性格は一般的なフェンリルとはかけ離れているみたいだった。
「とりあえず、乗ってください。近くにハンスさんが手配してくれた馬車があるので、それまではポチに送ってもらいます」
「わ、分かりました」
俺はポチに屈んでもらってポチの背中に乗った。その後ろにイリスとリリが続く形で乗ったのを確認して、ポチはすくっと立ち上がった。
「それじゃあ、ポチ。よろしく頼むな」
「ワンッ」
低くなった声で返事をしたポチはそのまま門に向かって走り出した。【潜伏】で姿を隠しているから誰にも見られてはいないが、中々の速度だった。
人を轢いてしまわないように【気配感知】のスキルを発動しながら進んでいくと、すぐに門の前まで来ることができた。
やはり、ポチの移動速度はフェンリルなんだなぁと改めて実感した。
「あとは、この門をどうするか、か。さすがに、この門は跳び越えられないだろうしな……」
目の前にある門は後ろに見える家々を軽く超える高さをしていた。ジャンプして超えられる大きさではない。
門の前には門番がいるが、門番の数も三人なので多くない。どうにかできない数ではないだろう。
「ポチ、近くに行ったら俺を下ろしてーーポチ?」
俺がポチに指示を出すよりも早く、ポチは門の前で急加速した。スピードに乗ったフェンリルの速度は常識の範疇に収まらない速さになり、門にぶつかるんじゃないかという勢いなった。
「ぽ、ポチっ?!」
「え、これぶつかるんじゃーー」
イリスが後ろで心配そうな声を漏らして、俺の背中に抱きついてきた。女の子に抱きしめられた嬉しさなんかよりも、断然俺が盾にされるんじゃないかという恐怖の方が上回った。
もしかして、このまま門を突き破る気か?
ぶつかる覚悟をして目を強く閉じた瞬間、突然体がふわりと浮いた感覚に襲われた。
「ワンッ」
「嘘だろ……」
異常なほどに速度をつけたポチは、そのまま力強く地面を蹴って跳躍していた。突然訪れた浮遊感を前に、俺は振り落とされないように強くポチの背中に掴まった。
しかし、その跳躍は門を超えるほどのものではなかったらしく、門の途中で失速してしまった。
「やばい、落ちる」
俺がそう嘆いた時、ポチは垂直に立っている門に足をかけて急加速した。跳躍を見せた前に見せた加速と【突進】のスキルを合わせた急加速。その加速によって一気に門の上まで登ったポチは、そのまま力強く門を蹴って空を舞った。
「……いやいや、落ちるぞ! しっかり掴まってろよ、みんな!」
気持ち良さそうに全力で走ったポチは、そのまま門から飛び降りて地面に着地しようとしていた。
俺が急いで【道化師】のスキルを使ってポチとみんなの重量を軽くしたおかげか、ポチが地面に足を着いた時の足音と衝撃は大きくならずに済んだようだった。
「はっ、はっ、一瞬死ぬかと思ったな」
「さすが、アイクさんとポチです」
「ワンッ!」
リリに褒められて得意げに鳴きながら、ポチは速度を少し落としてそのまま野原を走っていた。
まさか、ポチがあんな高さを跳べるとは思わなかったな。
どうやら、リリだけではなくポチも結構成長しているらしかった。
「そういえば、悲鳴とか出しませんでしたね。イリスさんは高い所とかも結構平気ーーイリスさん?」
俺たちはまだ冒険者だから大丈夫だったが、箱入り娘が急に遭遇するにしては衝撃的な展開だっただろう。
そう思って、後方にいるイリスに確認を取ろうとしたのだが、イリスは何やら俺の背中にもたれかかっていた。
なんかやけに脱力しているような気がする……。
「イリスさん? ……あ、アイクさん、イリスさんが気を失ってます!」
「まずい! なんとか馬車が待っている所に着く前に起こすぞ!」
無傷で助けたはずなのに、その後に気を失わせたから打ち首。
そんな未来が微かに見えた気がして、俺たちは必死にイリスを起こそうとしたのだった。