「はぁ、はぁ……」
俺は息を少し荒くしたまま、地下室へと続く通路を歩いていた。
傷は回復魔法で直してはいるのだが、それでも本気で命の削り合いをした疲労感はすぐに回復するものではなかった。
【道化師】になってから、ここまで疲労感が溜まるのも初めてのことだ。
【潜伏】のスキルを使いながら壁を伝って行くと、【気配感知】のスキルが二つの気配を感知した。
俺は疲れが癒えない中、腰に下げた短剣に手を伸ばして身構えていた。しかし、その気配が近くに来ているのに、その正体が見えない。
よく目を凝らして見ると、そこにはぼやっとした何かが見えてきた。
「ん? もしかして、リリか?」
「あ、アイクさんいるんですね!」
しかし、そんな少しに緊張感はすぐに緩むことになった。
俺の声を聞いて安心したのか、リリは【潜伏】のスキルを解除して俺の前に現れた。それを確認して、俺も【潜伏】のスキルを解除した。
そして、俺の姿を確認して安堵のため息を吐いたのも束の間、リリは俺の右腕を見て、目を見開いて少し狼狽えているようだった。
「アイクさん! う、腕が血まみれじゃないですか?!」
「いや、これはもう治したから問題ない。これはただの血が飛んでるだけだ」
リリに言われて腕を確認してみると、確かにグロいくらい血が飛び散っていた。傷は塞いであるのだが、固まった血がそのままになっており、あまり目に優しいものではなかった。
「それよりも……あなたがイリスさん、ですか?」
リリの隣には金色の長い髪をした女の子がいた。精巧な造り物のように整った顔立ちをしていて、佇まいが庶民のそれではなかった。
ただ立っているだけで絵になるような姿勢の良さは、育ちの良さが現れていた。
その女の子は整った眉をハの字にして、微かに首を傾けながら口を開いた。
「……そうです。あなたも、私を助けに来てくれた方ですか?」
「ええ、ハンスさんに頼まれてやって来ました」
「そう、ハンスが……。ありがとうございます」
イリスは少し思うようなところがあるような表情を浮かべた後、そっと俺にお辞儀をした。
しれっとハンスのことを呼び捨てにしているし、イリスの方が位が上ということか。
……まぁ、ある程度予想はしてたけどな。
「いえいえ。それにしても、まさかこんなに早く合流できるとはな。リリがちゃんと動いてくれたんだな」
「私、アイクさんの助手ですから! イリスさんを助けるまでに見張りがみたいのが十人くらいいましたけど、全て無力化済みです」
「そ、そんなにいたのか」
さすがに見張りが一人もいないことはないと思っていたが、そんなに多くの見張りがいたとは思わなかった。
そして、リリがそんな人数を簡単に無力ができるとは。
どうやら、俺が思っている以上に、リリは強くなっているみたいだ。
「アイクさんの方は、あの強そうな人はどうしたんですか?」
「今は寝てもらってるよ。本当にギリギリ勝てったって感じだったな」
「アイクさんでギリギリって……その人、何者なんですか?」
「まるで分らん。ステータスでは圧倒的に負けてたし、強すぎる奴だったことは確かだな」
多分、相手が初めから全力で俺を潰しに来ていたら簡単に負けていただろう。
不意を突けたからよかったけど、一歩間違えれば俺は死んでいたと思う。
魔物相手に苦労したことがあまりなかったから気づかなかったが、もっとレベルとステータスを上げておく必要があるかもしれない。
今後あいつ並みの奴とやり合った時に、正攻法で勝てるくらいには力を付けておく必要があるだろな。
多分、今回で結構な事件に首を突っ込んでしまった気がするし、今後もこのレベルの奴と勝負をする機会もあると思う。
その時に、リリとポチを守れるくらいには強くならないとな。
「とりあえず、また地下の道を通って戻ろう。教会まで戻れれば、後はポチの背中に乗って帰るだけだしな」
こうして、無事に合流した俺たちは、そのまま来た道を引き返して教会へと引き返していったのだった。
俺は息を少し荒くしたまま、地下室へと続く通路を歩いていた。
傷は回復魔法で直してはいるのだが、それでも本気で命の削り合いをした疲労感はすぐに回復するものではなかった。
【道化師】になってから、ここまで疲労感が溜まるのも初めてのことだ。
【潜伏】のスキルを使いながら壁を伝って行くと、【気配感知】のスキルが二つの気配を感知した。
俺は疲れが癒えない中、腰に下げた短剣に手を伸ばして身構えていた。しかし、その気配が近くに来ているのに、その正体が見えない。
よく目を凝らして見ると、そこにはぼやっとした何かが見えてきた。
「ん? もしかして、リリか?」
「あ、アイクさんいるんですね!」
しかし、そんな少しに緊張感はすぐに緩むことになった。
俺の声を聞いて安心したのか、リリは【潜伏】のスキルを解除して俺の前に現れた。それを確認して、俺も【潜伏】のスキルを解除した。
そして、俺の姿を確認して安堵のため息を吐いたのも束の間、リリは俺の右腕を見て、目を見開いて少し狼狽えているようだった。
「アイクさん! う、腕が血まみれじゃないですか?!」
「いや、これはもう治したから問題ない。これはただの血が飛んでるだけだ」
リリに言われて腕を確認してみると、確かにグロいくらい血が飛び散っていた。傷は塞いであるのだが、固まった血がそのままになっており、あまり目に優しいものではなかった。
「それよりも……あなたがイリスさん、ですか?」
リリの隣には金色の長い髪をした女の子がいた。精巧な造り物のように整った顔立ちをしていて、佇まいが庶民のそれではなかった。
ただ立っているだけで絵になるような姿勢の良さは、育ちの良さが現れていた。
その女の子は整った眉をハの字にして、微かに首を傾けながら口を開いた。
「……そうです。あなたも、私を助けに来てくれた方ですか?」
「ええ、ハンスさんに頼まれてやって来ました」
「そう、ハンスが……。ありがとうございます」
イリスは少し思うようなところがあるような表情を浮かべた後、そっと俺にお辞儀をした。
しれっとハンスのことを呼び捨てにしているし、イリスの方が位が上ということか。
……まぁ、ある程度予想はしてたけどな。
「いえいえ。それにしても、まさかこんなに早く合流できるとはな。リリがちゃんと動いてくれたんだな」
「私、アイクさんの助手ですから! イリスさんを助けるまでに見張りがみたいのが十人くらいいましたけど、全て無力化済みです」
「そ、そんなにいたのか」
さすがに見張りが一人もいないことはないと思っていたが、そんなに多くの見張りがいたとは思わなかった。
そして、リリがそんな人数を簡単に無力ができるとは。
どうやら、俺が思っている以上に、リリは強くなっているみたいだ。
「アイクさんの方は、あの強そうな人はどうしたんですか?」
「今は寝てもらってるよ。本当にギリギリ勝てったって感じだったな」
「アイクさんでギリギリって……その人、何者なんですか?」
「まるで分らん。ステータスでは圧倒的に負けてたし、強すぎる奴だったことは確かだな」
多分、相手が初めから全力で俺を潰しに来ていたら簡単に負けていただろう。
不意を突けたからよかったけど、一歩間違えれば俺は死んでいたと思う。
魔物相手に苦労したことがあまりなかったから気づかなかったが、もっとレベルとステータスを上げておく必要があるかもしれない。
今後あいつ並みの奴とやり合った時に、正攻法で勝てるくらいには力を付けておく必要があるだろな。
多分、今回で結構な事件に首を突っ込んでしまった気がするし、今後もこのレベルの奴と勝負をする機会もあると思う。
その時に、リリとポチを守れるくらいには強くならないとな。
「とりあえず、また地下の道を通って戻ろう。教会まで戻れれば、後はポチの背中に乗って帰るだけだしな」
こうして、無事に合流した俺たちは、そのまま来た道を引き返して教会へと引き返していったのだった。