その出来事が起こったのは、私が高校二年生の時だった。

 七月に入ったばかりの、むし暑い日だった。謎の白いタマゴがふたつ、小さな箱に詰められ、私の部屋のど真ん中にどどんと置いてあった。

 大きさはニワトリのタマゴぐらい。でもタマゴみたいに簡単には割れなさそうで、丈夫な感じ。

「これは何だろう」

 箱の底で小さく折りたたまれていた説明書にはこう書いてあった。

『ひとつはあなたが持っていてください。そしてもうひとつは恋人、家族、友達……誰でも良いです。その方に、このタマゴをお渡しください。一年後、産まれてくるものにより、ペアのタマゴを渡した相手に対してあなたはどんなイメージを持っているのか分かるでしょう。相手とどんな関係になりたいのかも。すなわち、相手もあなたのことをどう思っているのか、どんな関係になりたいのかが分かります。育てかたは自由で……』

 何これ――?
 
 人間の心なんて複雑すぎだ。
「好き」って言いながら、そうではなかったり、笑顔で話していても内心イラッとしていたり。タマゴひとつで分かってしまうなら苦労しないけれど、相手の気持ちをはっきり分かってしまってもなんだか怖い。
 相手のことをどう思っているかなんて……。