今日は雲一つない快晴で、日が沈んだ空には星が輝き始めている。幼なじみが交通事故で亡くなったと聞いたのは約一週間前のこと。
彼、音無勇太は陰湿な俺とはちがい 太陽のような奴だった。誰にでも優しい勇太 はクラスの人気者。高校入学してからは学年を問わず友達ができていて、上の学年の先輩が教室に遊びに来ることもしばしばだった。それに対して俺はクラスの端のほうで 本を読んでいて、いわゆる話しかけにくいタイプだったと思う。
友達も少なくて片手で数えるくらいしかいなかった。勇太はそんな俺にも話しかけてくれた。もっと話の合う友達がたくさんいただろうに、きっとそれは彼が優しくてクラス で浮いている自分を気にかけてくれているのだろうと思っていた。
ある日俺は、
「どうして俺と話してくれるんだ」
と勇太に聞いたことがある。
今考えると失礼 きわまりない話だけれど、それが 気にならないくらいに本当に疑問に思っていたことだった。
勇太は少し考えた後、
「楽しいからかな。うん、 俺伊吹といるのが楽しいんだよ」
変なふうに言い直して、机の上においてあった俺のノートに変な羊みたいな絵を描いてきた。
何だこの変な生き物、と言うと。
ひどい!俺は好きなものにはそれ書くって決めてるんです!かわいいでしょ、
と意味のわからない返答をされた。
そして現在、俺は勇太と一緒に過ごしたこの高校の教師として働いている。大変なことも多いけれど、たくさんの生徒たちにかこまれて充実した日々を送っている。
今日はちょうど当番の日で学校の設備の点検をするために校内の見まわりをしている最中だ。
美術室に足を踏み入れると見知った絵が視界に入ってきた。
「これは……」
勇太の絵だ。キャンバスには高校時代の俺が描かれている。
美術の時間に隣の人の似顔絵を描きましょうという課題用のもの。
そのまま置きっぱなしにしていたのか。
ごめん ごめん持って帰るのわすれちゃったーと、 話す声が聞こえてくるような気がしてくる。
キャンバスの後ろを見ると確かに音無勇太と書かれている。その横にへんなぐちゃっとしたマークのようなものが書いてあることに気がついた。
黒いペンのインクが滲んでしまっていてうまく判別できない。
なんだろう、ひつじみたいな……。
「好きなものにはそれを書くって決めてるんです!」
どこからか勇太の声が聞えたきがした。ひゅっと息ができなくなる心地がする。
「馬鹿だろ……」
こんなものわざわざおいていくなよ。もうお前はいないのに。
涙が流れていくことにもかまわず、俺はその絵を抱きしめた。