ハルシル大陸ラクサのマリアネル邸のある女性の室。
そこの主人、カイリ・マリアネル女公爵はある悩みを抱えていた。
亡くなった父親で前公爵から受け継ぎ自らが経営する領地や会社等の仕事の関係でも、それに伴う人間関係でもない。もっとプライベートで今後の人生に関わるものだった。
ソファーに腰掛け紅茶を飲みながら、面倒くさそうにテーブルに置かれた大量の資料に目を向ける。
向かい側に座っている父方の叔父であるマージルは彼女の態度に苛立ちを覚えていた。
「カイリ!!お前の為に見合い相手を探してきてあげたんだぞ?!その態度はなんだ!!!」
「それは貴方が勝手にやったことでしょう?私は一言も頼んでおりませんが?」
「お前とマリアネル家の血筋を守る為に言ってるんだ!!」
カイリは呆れ気味にハァっとため息を吐く。
「幾ら血筋を守る為だからって急いで結婚を進めるのはどうかと。それに私はまだ結婚する気はありませんし、相手は私自身が決めます。叔父様は私の事なんかより自分の事業のことに専念したらどうです?」
「兄貴から爵位を継いだからって馬鹿にしてるのか?!全部お前の為に言っているのだぞ!!女のお前なんかが公爵の名を持ったて何も意味がないのに…!!」
(やっぱりそういうこと。お父様の考えは正しかったわね)
カイリはマージルが自分に対して苛立っている最大の理由を既に察していた。
彼女の父親であるクロウは亡くなる前に争わない様にと、遺産や相続についてしっかりと遺書にして皆に伝えていた。
遺書に爵位は長女であるカイリに継がせると記されていたのがマージルは納得がいかなかったのだ。
まだ世間では女性の地位は男性よりも低い。幾ら貴族の娘でもそれは同じ。
いつかその考えは変わるだろうとクロウは見据えていた事と、カイリ自身も領地の経営や事業に関わり手腕を振るわせていた事、マリアネル家に支える使用人達や平民に横暴な態度を取るしっかりと敬意を払っている事等が彼女に公爵の名を継がせた理由だった。そして、神から与えられた神聖なるギフト『治癒』を持ち、分け隔てなくその力を適切に使っているのも一つの要因だった。
「どうして全部お前なんだ…!!」
(お父様達を騙し続けて、性別と身分で全部決めつけて虐げる様な男を選ぶわけないでしょ?そんな人にこのマリアネルの名と富なんか渡せないわ。特にギフトはね)
テーブルに置かれていた資料とはマージルが勝手に決めてきたお見合い相手の写真とプロフィールだ。
カイリは一瞬だけこの資料に紅茶をぶっかけてやろうかと考えたが、大切な侍女であるリンが淹れてくれた美味しい紅茶が勿体無いと思い寸前でやめた。
(自分に有利な人間と結婚させて私を形だけの公爵にしようとしたって無駄よ。それこそマリアネル家が崩壊するわ)
クロウの弟で両親から甘やかされて育ったマージルの悪行は彼の長年の悩みの種だった。
我儘放題で、自分の思い通りにならないと癇癪を起こし、それが仇となって手がけた事業は全て失敗していた。
名家であるマリアネルの名を自分だけのモノにしようと何度もクロウやカイリ達に危害を加えようともしていた。
何度更生させようとしても、全て無駄に終わっていた。
自分がマリアネルの主人と公爵の名を継ぐのだろうと勝手に考えていたがその読みはクロウが遺した遺書により見事に外れた。当然の結果だろう。
マージルは苛立ちを隠せず使用人達に当たり散らしていた。
何を考えたのか、自分に同調してくれる貴族とマリアネルの全てを継いだカイリを早く結婚させてしまえばいいと思い付いた。
彼女の存在を形だけのものとし、全ての実権を自分が握ってしまえばいいと思い付いたのだ。
その愚かな考えはカイリに既に見透かされていた。なかなか自分が持ってきたお見合いに応じてくれないのがその証拠といえるだろう。
「こんなに沢山お見合い相手を探してきてくれて申し訳ないですが全部お断りしますわ」
「なにぃ?!!何も見ないでよくも!!」
「さっきも言いましたが、貴方と違って忙しいですし、それにまだ結婚は考えてませんし、私の伴侶になる人は自分で探します。私を陥れようとする愚かな思想を持った方との結婚なんて嫌ですから」
「な、生意気言うな!!!いいからこの中から…!!」
「……これ以上は何を話しても無駄ですわね。貴方が私の叔父だからって容赦はしませんから。フランシス。叔父様を帰してあげて」
「はい。お嬢様」
執事であるフランシスと数人の男の使用人に引き摺られながらマージルは強制退去させられていった。その間もカイリへの罵倒はやめずに喚き散らしていた。
(本当にお父様の弟なのかしら)
「お嬢様!!大丈夫でしたか?!」
「リン。ええ、大丈夫よ。あの人は相変わらずだったけれど」
「はぁ〜。よかったぁ…。あの男には前科がありますからね。お嬢様が無事で安心しました。……あのテーブルのやつ…」
部屋の外で控えていた侍女のリンはいろいろ察した表情でテーブルの上の資料を見つめる。後で燃やさなきゃとお互いに考えていた。
「アレ?叔父様が持ってきたお見合いの資料よ。それより少し外に出ましょう。気分転換に甘い物が食べたいわ」
「分かりました。今支度しますね」
クローゼットの中から紺色のドレスを選び、ドレッサーでメイクを施し髪を整える。
ドレッサーの側に設置してある机の上のジュエリーボックスからネックレスと取り出した。
黒曜石の様な少し大きめの宝石のチャームが付いたネックレスを首に通した。
(コレを叔父様の前に出さなくて正解だった)
リンにネックレスを付けてもらいながら鏡越しに宝石を見る。
カイリの胸元に輝く宝石は普通の宝石ではなかった。黒曜石に似たその宝石は母親の形見でもあり、先祖から代々長子に受け継がれてきた。
カイリの肩書きである"月夜の宝石"とはこの宝石から取られたものだった。
「本当に光るのかしら。今の私の前には現れる気がしないのだけれど」
「もう〜お嬢様!!そんなこと言わないでください。絶対に現れますよぉ〜!!」
「そうかしら…」
少しメイクを直されながらカイリは胸元で光る宝石にそっと触れた。
(本当に私の前に"運命の番"なんて現れるの?全然光気配もないのに)
マリアネル家の一部の者しか知らない力を持つ特別な宝石でもあった。
外部には漏らしてはならない宝石の秘密。
それは、宝石を受け継いだ者と運命の番が邂逅した時、漆黒の夜の様に黒い宝石が白い満月の様な美しい光を放つというもの。
事業相手や叔父が勝手に連れてきた見合い相手に会った時等に試したことが数回あったが宝石が反応したことは一度もなかった。
(この国にはいないってことなのかも。じゃあ…海の向こうに私の運命の番がいるとでも言いたいのかしら?)
トルソーに着せられたさっき程決めた紺色のドレスを横目で見てる。すると、黒く光る宝石を見て考えが変わった。
「リン。申し訳ないけど、ドレス選び直していいかしら?」
「え?いいですけど…珍しいですね。選び直すなんて」
「なんとなくそうした方がいい気がしたのよ。この薄紫色のにするわ」
カイリのメイクと髪の整えを終えたリンは急いでトルソーから紺色のドレスを脱がしてからクローゼットに戻し、指定した薄紫色のドレスを取り出し彼女の元に運んだ。
「コレですね」
「そう。ありがとうリン」
リンが持ってきてくれたドレスに袖を通す。
落ち着いた色のドレスが胸元の黒い宝石を強調させるのには十分だった。
「手伝ってくれてありがとう。あとは1人でできるわ」
「分かりました。それじゃ、私も準備してきますね。すぐ来ますから」
パタパタとリンが部屋を出たのを見送った後、ふうっと息を吐きながらソファーに座り宝石に目を合わせる。
「口が悪過ぎよナイト。ボックス越しにすごい聞こえてきてたわよ?叔父様がギフトを持たなかったことに感謝しないと」
『フン。あの愚か者なんかにギフトなんか与えられるわけなかろう。シェイラの娘のお前をあんな風に言う馬鹿なんかに』
月夜の宝石のもう一つの秘密。それは、ギフトを持つ者にしか聞こえない宝石の声だ。
ナイトと名付けられたその声はマージルに対する怒りと軽蔑をずっと呟いていたのだ。
もし、マージルもギフトを持っていたらと考えしまったカイリは頭を抱えたが、自分が言えなかった言葉を代わりに言ってくれた事には少し感謝していた。
「でも、ほんの少しだけ溜飲が下ったけどね」
『次来た時はもっと言ってやる』
「やめて。いつか聞こえてしまうかもしれないわよ?」
『ギフトにも我々の様に意思を持っている。あんな愚か者の元に異能が備わることはない。だから平気だ』
「だといいけどね。それより…私の運命の番はこの国にいるの?それだけ教えてくれる?」
カイリの素朴な疑問にナイトは意地悪そうに『今は言えぬ』と言って答えをはぐらかした。
「ちょっと気になるじゃない。もう知っているのでしょ?少しだけでいいから教えてよ」
『もう少し待て。お前の前に現れるのはそう遠くない。まぁ、その者と邂逅したらお前の全てが一変するとだけ予言しとこう』
「え、ちょっとそれどういう意味…!!」
ナイトの予言に困惑したカイリが慌てて彼に問いただそうとした瞬間、扉からコンコンとノック音と共に「お嬢様〜」と準備を終えたであろうリンの声が聞こえてきた。
『ほら。お前の侍女が待っているぞ。早く言ってやれ』
「もう!そうやってはぐらかして!また2人きりになったらちゃんと答えてもらうから!」
納得がいかないカイリはソファーから立ち上がり、扇子を片手に急いでリンの元へ向かう。
「お、お嬢様?どうしました?」
「なんでもないわ。ちょっと嫌な事を思い出しちゃっただけよ。早く行きましょう」
苛立った様子のカイリにリンは心配な色を見せた。リンは何も悪くない。悪いのは大事な答えをはぐらかしたナイトだとカイリは心の中で呟いた。
(後で覚えてなさいよナイト…)
月夜の宝石が見たカイリの未来。
そして、運命の番。
彼女の元に現れるのはもう時間の問題だった。
海の向こうから人生をやり直そうとする青年がラクサの地に足を踏み入れるまであと少し。
そこの主人、カイリ・マリアネル女公爵はある悩みを抱えていた。
亡くなった父親で前公爵から受け継ぎ自らが経営する領地や会社等の仕事の関係でも、それに伴う人間関係でもない。もっとプライベートで今後の人生に関わるものだった。
ソファーに腰掛け紅茶を飲みながら、面倒くさそうにテーブルに置かれた大量の資料に目を向ける。
向かい側に座っている父方の叔父であるマージルは彼女の態度に苛立ちを覚えていた。
「カイリ!!お前の為に見合い相手を探してきてあげたんだぞ?!その態度はなんだ!!!」
「それは貴方が勝手にやったことでしょう?私は一言も頼んでおりませんが?」
「お前とマリアネル家の血筋を守る為に言ってるんだ!!」
カイリは呆れ気味にハァっとため息を吐く。
「幾ら血筋を守る為だからって急いで結婚を進めるのはどうかと。それに私はまだ結婚する気はありませんし、相手は私自身が決めます。叔父様は私の事なんかより自分の事業のことに専念したらどうです?」
「兄貴から爵位を継いだからって馬鹿にしてるのか?!全部お前の為に言っているのだぞ!!女のお前なんかが公爵の名を持ったて何も意味がないのに…!!」
(やっぱりそういうこと。お父様の考えは正しかったわね)
カイリはマージルが自分に対して苛立っている最大の理由を既に察していた。
彼女の父親であるクロウは亡くなる前に争わない様にと、遺産や相続についてしっかりと遺書にして皆に伝えていた。
遺書に爵位は長女であるカイリに継がせると記されていたのがマージルは納得がいかなかったのだ。
まだ世間では女性の地位は男性よりも低い。幾ら貴族の娘でもそれは同じ。
いつかその考えは変わるだろうとクロウは見据えていた事と、カイリ自身も領地の経営や事業に関わり手腕を振るわせていた事、マリアネル家に支える使用人達や平民に横暴な態度を取るしっかりと敬意を払っている事等が彼女に公爵の名を継がせた理由だった。そして、神から与えられた神聖なるギフト『治癒』を持ち、分け隔てなくその力を適切に使っているのも一つの要因だった。
「どうして全部お前なんだ…!!」
(お父様達を騙し続けて、性別と身分で全部決めつけて虐げる様な男を選ぶわけないでしょ?そんな人にこのマリアネルの名と富なんか渡せないわ。特にギフトはね)
テーブルに置かれていた資料とはマージルが勝手に決めてきたお見合い相手の写真とプロフィールだ。
カイリは一瞬だけこの資料に紅茶をぶっかけてやろうかと考えたが、大切な侍女であるリンが淹れてくれた美味しい紅茶が勿体無いと思い寸前でやめた。
(自分に有利な人間と結婚させて私を形だけの公爵にしようとしたって無駄よ。それこそマリアネル家が崩壊するわ)
クロウの弟で両親から甘やかされて育ったマージルの悪行は彼の長年の悩みの種だった。
我儘放題で、自分の思い通りにならないと癇癪を起こし、それが仇となって手がけた事業は全て失敗していた。
名家であるマリアネルの名を自分だけのモノにしようと何度もクロウやカイリ達に危害を加えようともしていた。
何度更生させようとしても、全て無駄に終わっていた。
自分がマリアネルの主人と公爵の名を継ぐのだろうと勝手に考えていたがその読みはクロウが遺した遺書により見事に外れた。当然の結果だろう。
マージルは苛立ちを隠せず使用人達に当たり散らしていた。
何を考えたのか、自分に同調してくれる貴族とマリアネルの全てを継いだカイリを早く結婚させてしまえばいいと思い付いた。
彼女の存在を形だけのものとし、全ての実権を自分が握ってしまえばいいと思い付いたのだ。
その愚かな考えはカイリに既に見透かされていた。なかなか自分が持ってきたお見合いに応じてくれないのがその証拠といえるだろう。
「こんなに沢山お見合い相手を探してきてくれて申し訳ないですが全部お断りしますわ」
「なにぃ?!!何も見ないでよくも!!」
「さっきも言いましたが、貴方と違って忙しいですし、それにまだ結婚は考えてませんし、私の伴侶になる人は自分で探します。私を陥れようとする愚かな思想を持った方との結婚なんて嫌ですから」
「な、生意気言うな!!!いいからこの中から…!!」
「……これ以上は何を話しても無駄ですわね。貴方が私の叔父だからって容赦はしませんから。フランシス。叔父様を帰してあげて」
「はい。お嬢様」
執事であるフランシスと数人の男の使用人に引き摺られながらマージルは強制退去させられていった。その間もカイリへの罵倒はやめずに喚き散らしていた。
(本当にお父様の弟なのかしら)
「お嬢様!!大丈夫でしたか?!」
「リン。ええ、大丈夫よ。あの人は相変わらずだったけれど」
「はぁ〜。よかったぁ…。あの男には前科がありますからね。お嬢様が無事で安心しました。……あのテーブルのやつ…」
部屋の外で控えていた侍女のリンはいろいろ察した表情でテーブルの上の資料を見つめる。後で燃やさなきゃとお互いに考えていた。
「アレ?叔父様が持ってきたお見合いの資料よ。それより少し外に出ましょう。気分転換に甘い物が食べたいわ」
「分かりました。今支度しますね」
クローゼットの中から紺色のドレスを選び、ドレッサーでメイクを施し髪を整える。
ドレッサーの側に設置してある机の上のジュエリーボックスからネックレスと取り出した。
黒曜石の様な少し大きめの宝石のチャームが付いたネックレスを首に通した。
(コレを叔父様の前に出さなくて正解だった)
リンにネックレスを付けてもらいながら鏡越しに宝石を見る。
カイリの胸元に輝く宝石は普通の宝石ではなかった。黒曜石に似たその宝石は母親の形見でもあり、先祖から代々長子に受け継がれてきた。
カイリの肩書きである"月夜の宝石"とはこの宝石から取られたものだった。
「本当に光るのかしら。今の私の前には現れる気がしないのだけれど」
「もう〜お嬢様!!そんなこと言わないでください。絶対に現れますよぉ〜!!」
「そうかしら…」
少しメイクを直されながらカイリは胸元で光る宝石にそっと触れた。
(本当に私の前に"運命の番"なんて現れるの?全然光気配もないのに)
マリアネル家の一部の者しか知らない力を持つ特別な宝石でもあった。
外部には漏らしてはならない宝石の秘密。
それは、宝石を受け継いだ者と運命の番が邂逅した時、漆黒の夜の様に黒い宝石が白い満月の様な美しい光を放つというもの。
事業相手や叔父が勝手に連れてきた見合い相手に会った時等に試したことが数回あったが宝石が反応したことは一度もなかった。
(この国にはいないってことなのかも。じゃあ…海の向こうに私の運命の番がいるとでも言いたいのかしら?)
トルソーに着せられたさっき程決めた紺色のドレスを横目で見てる。すると、黒く光る宝石を見て考えが変わった。
「リン。申し訳ないけど、ドレス選び直していいかしら?」
「え?いいですけど…珍しいですね。選び直すなんて」
「なんとなくそうした方がいい気がしたのよ。この薄紫色のにするわ」
カイリのメイクと髪の整えを終えたリンは急いでトルソーから紺色のドレスを脱がしてからクローゼットに戻し、指定した薄紫色のドレスを取り出し彼女の元に運んだ。
「コレですね」
「そう。ありがとうリン」
リンが持ってきてくれたドレスに袖を通す。
落ち着いた色のドレスが胸元の黒い宝石を強調させるのには十分だった。
「手伝ってくれてありがとう。あとは1人でできるわ」
「分かりました。それじゃ、私も準備してきますね。すぐ来ますから」
パタパタとリンが部屋を出たのを見送った後、ふうっと息を吐きながらソファーに座り宝石に目を合わせる。
「口が悪過ぎよナイト。ボックス越しにすごい聞こえてきてたわよ?叔父様がギフトを持たなかったことに感謝しないと」
『フン。あの愚か者なんかにギフトなんか与えられるわけなかろう。シェイラの娘のお前をあんな風に言う馬鹿なんかに』
月夜の宝石のもう一つの秘密。それは、ギフトを持つ者にしか聞こえない宝石の声だ。
ナイトと名付けられたその声はマージルに対する怒りと軽蔑をずっと呟いていたのだ。
もし、マージルもギフトを持っていたらと考えしまったカイリは頭を抱えたが、自分が言えなかった言葉を代わりに言ってくれた事には少し感謝していた。
「でも、ほんの少しだけ溜飲が下ったけどね」
『次来た時はもっと言ってやる』
「やめて。いつか聞こえてしまうかもしれないわよ?」
『ギフトにも我々の様に意思を持っている。あんな愚か者の元に異能が備わることはない。だから平気だ』
「だといいけどね。それより…私の運命の番はこの国にいるの?それだけ教えてくれる?」
カイリの素朴な疑問にナイトは意地悪そうに『今は言えぬ』と言って答えをはぐらかした。
「ちょっと気になるじゃない。もう知っているのでしょ?少しだけでいいから教えてよ」
『もう少し待て。お前の前に現れるのはそう遠くない。まぁ、その者と邂逅したらお前の全てが一変するとだけ予言しとこう』
「え、ちょっとそれどういう意味…!!」
ナイトの予言に困惑したカイリが慌てて彼に問いただそうとした瞬間、扉からコンコンとノック音と共に「お嬢様〜」と準備を終えたであろうリンの声が聞こえてきた。
『ほら。お前の侍女が待っているぞ。早く言ってやれ』
「もう!そうやってはぐらかして!また2人きりになったらちゃんと答えてもらうから!」
納得がいかないカイリはソファーから立ち上がり、扇子を片手に急いでリンの元へ向かう。
「お、お嬢様?どうしました?」
「なんでもないわ。ちょっと嫌な事を思い出しちゃっただけよ。早く行きましょう」
苛立った様子のカイリにリンは心配な色を見せた。リンは何も悪くない。悪いのは大事な答えをはぐらかしたナイトだとカイリは心の中で呟いた。
(後で覚えてなさいよナイト…)
月夜の宝石が見たカイリの未来。
そして、運命の番。
彼女の元に現れるのはもう時間の問題だった。
海の向こうから人生をやり直そうとする青年がラクサの地に足を踏み入れるまであと少し。