海の向こうの国に向かっている船の中で青年はある夢を見る。それはとても優しくて懐かしい夢。
『私の可愛いレイン。私のアガパンサス。誰よりも幸せになってね。神様から授かった贈り物はきっと貴方を導いてくれるからね。愛しているわ。私の愛しい可愛い子』
ピスリア大陸のマグア。冬もあまり寒くならない熱帯気候の地で、美しい紫色と白色が特徴的なヒガンバナ科のアガパンサスが国花となっている国。
美しい海が面しているのと、他の大陸では見られない花や鉱石や動物等が多く見つかった土地であることから他国から移住してくるものが多い国だった。
一攫千金を狙って多くの者が海の向こうからマグアにやって来て、挫折を味わう者と富を得た者と明暗が分かれている。
金等を掘り当てたことで巨万の富を得てマグアに豪邸を構えた富豪も多ければ、貧困に喘ぐ者も多かった。
貧困の者は、物乞いをしたり、マグアから出て他国で出稼ぎに行ったり、環境の悪い鉱場に働きに出たり、富豪達の使用人として働いたりして一日一日を必死に生きていた。
17歳のレイン・バスラもその1人。
就職していた貴族の邸宅から解雇され、港近くでこれからどうしようかと彷徨っていた。
幼い頃に母親を失った彼も奴隷商人の元で自立ができるまで育てられた後、マグアに移住して来た富豪達の使用人として働いていた。
他の人よりも覚えることが早く、どんなに大変な作業も失敗なく熟していたのもありどの雇い主からは一目置かれていた。
しかし、ある理由のせいで一つのところに留まることはできず仕事先を転々としなければならない状況が長らく続いていてレインの悩みの種でもあった。
その理由とは、高貴な血を持たない筈の彼が生まれつき授かっていた異能が原因だった。
彼が持つギフト、それは神々に選ばれた5人が授かった力の一つである『記憶』。
『記憶』のギフトは、一度見たものを全て記憶してしまうというモノ。たった一瞬のものでさえも完璧に覚えてしまう。
見ただけでなく、動作や音、感覚さえも全て覚えてしまい、しかも、一度覚えたものは自然とアップデートし、どんなに難しい作業でも完璧に熟してしまうという能力でもあった。
だが、優れた能力を持つが故に周りから妬まれることが非常に多かった。主に、同僚や雇い主の妻やその子供に妬まれた。
ある富豪の元で働いた時は、ピアノを弾くのが上手かった雇い主の妻が"どうせお前には出来ないだろう"と見下した思いからくる好奇心でレインに自分と雇い主と客の前でピアノを弾くように指示してきた。
けれど、常に能力が発動しているのもあってほぼ毎日の様に妻がピアノを弾く姿と音を見たり聞いたりしていたことで楽譜を見なくても全て覚えてしまっていた。それも一曲だけでなく何曲も。
レインは言われた通りに皆の演奏を披露した。一曲も音を外すことなく完璧にピアノを弾き切った彼に雇い主と客達は喝采拍手。たった1人般若の顔をした女を除いて。
彼女の思惑通り進んでいたら自分がどれだけ優れているか周りに改めて思い知らせることができた筈なのにレインのギフトが彼女の目論みを見事に打ち砕いてしまったのだ。
自分の思い通りにならなかった妻は怒り狂いレインを無理矢理解雇した。
雇い主から本当はこのまま雇い続けたかったと申し訳なさそうに謝られたが、これ以上妻を怒らせたくないという思いが優ってレインを解雇せざるを得なかった。
レインが邸宅を転々としているのは主に自身が持っているギフトが原因だった。時折、マグア人である母親譲りの褐色の肌をよく思わない人間の差別と偏見のせいで辞めさせられたこともあった。
なかなか一つの場所に留まれないレインに更なる追い打ちをかけた。
それは無実の罪を着せられてしまったことだ。それが今回の事態へと繋がっている。
侯爵家である貴族の主人の令息の虚言によってレインは陥れられ、国を追われる事態になってしまったのだ。
その無実の罪とは、令息の紅茶に毒を盛って殺そうとしたというもの。
レインは必死に自分の潔白を証明しようとしたが、身分も富も乏しい彼に太刀打ちできなかった。捏造
本来なら即刻処刑となるが、ギフトを持つレインを殺してしまうのは神の願いに背くと主人の侯爵の一声で追放に止まった。
(命は助かったけどこれからどうするよ…職なし家無し、しかも生まれ故郷から追放って…)
トホホっとしょげながら何処の国に移住しようか考えていた。候補が幾つかあるがピンとくるところがない。なけなしの金も底を尽きてしまう。
だからと言ってこのまま猶予期間を過ぎて路頭に迷うわけにもいかない。
(はぁ〜…どう見ても冤罪なのになんで俺が…まぁ、もう後の祭りなんだけれども…)
レインは諦めがついたかの様にため息吐き、移住広報の国の情報が載っている冊子に目を通した。
また別の国に行ってもこの見た目では同じ待遇を受けるのではという不安は拭えない。だが、その不安があったとしても今のレインにはもうそれしか選択肢がなかった。
すると、背後の方で視線を感じそちらの方に振り向いた。
そこには、白髪で長髪の若い男がニコニコ微笑みながらレインに近づいてきた。
(え…こわ…何…?)
「やっと見つけたよぉ♪君ぃ?レイン・バスラだよね?」
「え?あ、はい。俺ですけど…」
「よかったぁ〜。ガリエラ邸から冤罪で追い出されてたって聞いたからもう海の向こうに行っちゃったかと思ったぁ〜。危ない危ない」
(もしかしてコイツ暗殺者なんか…?見た目的な意味で…)
レインは自分の名前を知っているその男に強い警戒心を向ける。銀髪の男はそんなことに構うことなくレインに話し続ける。
「あそこのボンボンくん我儘で困っちゃうよねぇ〜。自分より身分が低い人が偉業を成し遂げたらすぐにクビにするか殺しちゃうんだもん。こっちも商売上がったりだよぉ」
「商売って、まさかアンタ奴隷商人かなんか?」
「御名答♪あ!遅れたけど、僕の名前はガイア・ジム。よろしくね♪」
(やっぱり。俺の前に現れたってことは…)
商品として捕らえにきたのだろうとレインはすぐに察した。
逃げて抵抗するところだが、何もかも失ったレインには頼みの綱に思えた。胡散臭く見える目の前の男から少しだけだが希望の光を感じた。
「本来ならマグアの貴族達に売り飛ばすわけだけど、君の場合はそうはいかないよねぇ?」
「……そこまで知ってるならなんで俺の前に現れたんだよ?」
「だって、君、ギフト所有者でしょ?見殺しになんてできないし、もったいないじゃないか。それに君にとって良い話があるんだけどぉ…」
「良い話?」
ガイアの口から出た良い話という言葉。まるでレインの為に用意されていた様な言い方に少し引っ掛かりを感じたが今は聞かないことにした。
「マグアを追放されそうな俺に良い話?」
「あー流石にマグアでって訳ではないんだけど…すごく良い国のお話なんだけどね?ハルシル大陸のラクサっていう名前の国。聞いたことない?」
「まぁ…名前だけなら…」
「そこに住む公爵家で使用人を募集してるわけ。ココでいろんな邸宅で働いてた君ならピッタリじゃん?って思ったわけよ。ね?悪い話ではないでしょ?」
確かに今のレインにはとても良い話ではあったが、未知なる国ラクサがどういう土地なのか不安を覚えた。
「先代の公爵様が亡くなってから辞めちゃった人が多くてね。ラクサ以外からも各地からいろんな人材を集めてるみたいなんだ。だから経験豊富のレインくんならどうかな〜なんて思ったわけ」
(ハルシル大陸のラクサってここからすんごい遠い所じゃん……でも、いろいろやり直すならいいかも)
慣れている使用人の仕事にまた就ける、そして、新天地で人生をやり直すなら良い話だと思えてきたレインに迷いはなかった。
「衣食住が確保できてるなら行く」
(やっぱりあまり迷わなかったな)
「で?先代の公爵が亡くなったってことは、息子が継いだってことだよな?どんな人?」
「あ〜…そのことなんだけど…」
ガイアはレインが言った言葉に言いづらそうに訂正を加えようとする。使用人が辞めた一因となった理由でまだ世間の認識が浅く特例だったからだ。
「マリアネル公爵のお子さんはいるんだけど、息子はいないのよ」
「え…じゃあ…」
「カイリ・マリアネル女公爵。特例として公爵の名を継いだのは娘なんだよ」
「女公爵…」
「月夜の宝石って言われるほどの美人さんで、しかも仕事に関してはすごく敏腕で、由緒あるマリアネル家の名に恥じない人なんだけど、世間の認識がねぇ〜」
(うっわ。貴族の嫌なところが見え見え。そんな話を聞いて普通なら行くのやめるだろうけど……)
だがレインは違った。
そんなに凄い人なら寧ろ会ってみたいし、そんなに波乱な状態なら面白そうという好奇心が湧いてきたのだ。
彼に行かないと言う考えはもうない。一刻も早くラクサに行きたいとガイアに食いついた。
「早く行きましょうガイアさん。ラクサ行きの船はどれ?」
「(食いつき早)えっとね…あの、端っこの大きい船だよ。ここから大体3週間ぐらいかな」
「衣食住が確保できる就職先ならそれくらい平気ですから。 ほら、行きましょう」
「(行動力の化身…!!)あー。そうそう。言い忘れてた」
「へ?」
「まぁね、これは運命とかそういうものではないんだけれども一応言っとくね。その女公爵様も持ってるんだよ」
「は?持ってる?何を?」
ガイアは疑問に満ちた顔をするレインに意地悪そうな笑顔を浮かべる。
ガイアの言う運命。それはレインと主人になるであろう女公爵の共通点であった。
「彼女も持ってるんだよ。ギフトをね。だから僕は君に近付いたし見捨てなかった。このまま"記憶のギフト"の血筋が途絶えさせたくないし」
ガイアから出たギフトという言葉。
レインが職場を転々とする一因になっている彼にとっては忌まわしい異能。だが、彼の思想に反して異能は海の向こうの誰かとの絆結ぼうとする。
ガイアとの出会いもギフトが引き寄せたものだと言っても過言ではないだろう。
そして、レインは悟る。
(死ぬまで纏わりついて人生台無しにされるぐらいなら徹底的に利用してやる)
レインは僅かな荷物を持ってガイアと共に船に乗り込む。
その目に迷いはなく、不透明な未来に足掻く様にただ前だけを見つめていた。
『私の可愛いレイン。私のアガパンサス。誰よりも幸せになってね。神様から授かった贈り物はきっと貴方を導いてくれるからね。愛しているわ。私の愛しい可愛い子』
ピスリア大陸のマグア。冬もあまり寒くならない熱帯気候の地で、美しい紫色と白色が特徴的なヒガンバナ科のアガパンサスが国花となっている国。
美しい海が面しているのと、他の大陸では見られない花や鉱石や動物等が多く見つかった土地であることから他国から移住してくるものが多い国だった。
一攫千金を狙って多くの者が海の向こうからマグアにやって来て、挫折を味わう者と富を得た者と明暗が分かれている。
金等を掘り当てたことで巨万の富を得てマグアに豪邸を構えた富豪も多ければ、貧困に喘ぐ者も多かった。
貧困の者は、物乞いをしたり、マグアから出て他国で出稼ぎに行ったり、環境の悪い鉱場に働きに出たり、富豪達の使用人として働いたりして一日一日を必死に生きていた。
17歳のレイン・バスラもその1人。
就職していた貴族の邸宅から解雇され、港近くでこれからどうしようかと彷徨っていた。
幼い頃に母親を失った彼も奴隷商人の元で自立ができるまで育てられた後、マグアに移住して来た富豪達の使用人として働いていた。
他の人よりも覚えることが早く、どんなに大変な作業も失敗なく熟していたのもありどの雇い主からは一目置かれていた。
しかし、ある理由のせいで一つのところに留まることはできず仕事先を転々としなければならない状況が長らく続いていてレインの悩みの種でもあった。
その理由とは、高貴な血を持たない筈の彼が生まれつき授かっていた異能が原因だった。
彼が持つギフト、それは神々に選ばれた5人が授かった力の一つである『記憶』。
『記憶』のギフトは、一度見たものを全て記憶してしまうというモノ。たった一瞬のものでさえも完璧に覚えてしまう。
見ただけでなく、動作や音、感覚さえも全て覚えてしまい、しかも、一度覚えたものは自然とアップデートし、どんなに難しい作業でも完璧に熟してしまうという能力でもあった。
だが、優れた能力を持つが故に周りから妬まれることが非常に多かった。主に、同僚や雇い主の妻やその子供に妬まれた。
ある富豪の元で働いた時は、ピアノを弾くのが上手かった雇い主の妻が"どうせお前には出来ないだろう"と見下した思いからくる好奇心でレインに自分と雇い主と客の前でピアノを弾くように指示してきた。
けれど、常に能力が発動しているのもあってほぼ毎日の様に妻がピアノを弾く姿と音を見たり聞いたりしていたことで楽譜を見なくても全て覚えてしまっていた。それも一曲だけでなく何曲も。
レインは言われた通りに皆の演奏を披露した。一曲も音を外すことなく完璧にピアノを弾き切った彼に雇い主と客達は喝采拍手。たった1人般若の顔をした女を除いて。
彼女の思惑通り進んでいたら自分がどれだけ優れているか周りに改めて思い知らせることができた筈なのにレインのギフトが彼女の目論みを見事に打ち砕いてしまったのだ。
自分の思い通りにならなかった妻は怒り狂いレインを無理矢理解雇した。
雇い主から本当はこのまま雇い続けたかったと申し訳なさそうに謝られたが、これ以上妻を怒らせたくないという思いが優ってレインを解雇せざるを得なかった。
レインが邸宅を転々としているのは主に自身が持っているギフトが原因だった。時折、マグア人である母親譲りの褐色の肌をよく思わない人間の差別と偏見のせいで辞めさせられたこともあった。
なかなか一つの場所に留まれないレインに更なる追い打ちをかけた。
それは無実の罪を着せられてしまったことだ。それが今回の事態へと繋がっている。
侯爵家である貴族の主人の令息の虚言によってレインは陥れられ、国を追われる事態になってしまったのだ。
その無実の罪とは、令息の紅茶に毒を盛って殺そうとしたというもの。
レインは必死に自分の潔白を証明しようとしたが、身分も富も乏しい彼に太刀打ちできなかった。捏造
本来なら即刻処刑となるが、ギフトを持つレインを殺してしまうのは神の願いに背くと主人の侯爵の一声で追放に止まった。
(命は助かったけどこれからどうするよ…職なし家無し、しかも生まれ故郷から追放って…)
トホホっとしょげながら何処の国に移住しようか考えていた。候補が幾つかあるがピンとくるところがない。なけなしの金も底を尽きてしまう。
だからと言ってこのまま猶予期間を過ぎて路頭に迷うわけにもいかない。
(はぁ〜…どう見ても冤罪なのになんで俺が…まぁ、もう後の祭りなんだけれども…)
レインは諦めがついたかの様にため息吐き、移住広報の国の情報が載っている冊子に目を通した。
また別の国に行ってもこの見た目では同じ待遇を受けるのではという不安は拭えない。だが、その不安があったとしても今のレインにはもうそれしか選択肢がなかった。
すると、背後の方で視線を感じそちらの方に振り向いた。
そこには、白髪で長髪の若い男がニコニコ微笑みながらレインに近づいてきた。
(え…こわ…何…?)
「やっと見つけたよぉ♪君ぃ?レイン・バスラだよね?」
「え?あ、はい。俺ですけど…」
「よかったぁ〜。ガリエラ邸から冤罪で追い出されてたって聞いたからもう海の向こうに行っちゃったかと思ったぁ〜。危ない危ない」
(もしかしてコイツ暗殺者なんか…?見た目的な意味で…)
レインは自分の名前を知っているその男に強い警戒心を向ける。銀髪の男はそんなことに構うことなくレインに話し続ける。
「あそこのボンボンくん我儘で困っちゃうよねぇ〜。自分より身分が低い人が偉業を成し遂げたらすぐにクビにするか殺しちゃうんだもん。こっちも商売上がったりだよぉ」
「商売って、まさかアンタ奴隷商人かなんか?」
「御名答♪あ!遅れたけど、僕の名前はガイア・ジム。よろしくね♪」
(やっぱり。俺の前に現れたってことは…)
商品として捕らえにきたのだろうとレインはすぐに察した。
逃げて抵抗するところだが、何もかも失ったレインには頼みの綱に思えた。胡散臭く見える目の前の男から少しだけだが希望の光を感じた。
「本来ならマグアの貴族達に売り飛ばすわけだけど、君の場合はそうはいかないよねぇ?」
「……そこまで知ってるならなんで俺の前に現れたんだよ?」
「だって、君、ギフト所有者でしょ?見殺しになんてできないし、もったいないじゃないか。それに君にとって良い話があるんだけどぉ…」
「良い話?」
ガイアの口から出た良い話という言葉。まるでレインの為に用意されていた様な言い方に少し引っ掛かりを感じたが今は聞かないことにした。
「マグアを追放されそうな俺に良い話?」
「あー流石にマグアでって訳ではないんだけど…すごく良い国のお話なんだけどね?ハルシル大陸のラクサっていう名前の国。聞いたことない?」
「まぁ…名前だけなら…」
「そこに住む公爵家で使用人を募集してるわけ。ココでいろんな邸宅で働いてた君ならピッタリじゃん?って思ったわけよ。ね?悪い話ではないでしょ?」
確かに今のレインにはとても良い話ではあったが、未知なる国ラクサがどういう土地なのか不安を覚えた。
「先代の公爵様が亡くなってから辞めちゃった人が多くてね。ラクサ以外からも各地からいろんな人材を集めてるみたいなんだ。だから経験豊富のレインくんならどうかな〜なんて思ったわけ」
(ハルシル大陸のラクサってここからすんごい遠い所じゃん……でも、いろいろやり直すならいいかも)
慣れている使用人の仕事にまた就ける、そして、新天地で人生をやり直すなら良い話だと思えてきたレインに迷いはなかった。
「衣食住が確保できてるなら行く」
(やっぱりあまり迷わなかったな)
「で?先代の公爵が亡くなったってことは、息子が継いだってことだよな?どんな人?」
「あ〜…そのことなんだけど…」
ガイアはレインが言った言葉に言いづらそうに訂正を加えようとする。使用人が辞めた一因となった理由でまだ世間の認識が浅く特例だったからだ。
「マリアネル公爵のお子さんはいるんだけど、息子はいないのよ」
「え…じゃあ…」
「カイリ・マリアネル女公爵。特例として公爵の名を継いだのは娘なんだよ」
「女公爵…」
「月夜の宝石って言われるほどの美人さんで、しかも仕事に関してはすごく敏腕で、由緒あるマリアネル家の名に恥じない人なんだけど、世間の認識がねぇ〜」
(うっわ。貴族の嫌なところが見え見え。そんな話を聞いて普通なら行くのやめるだろうけど……)
だがレインは違った。
そんなに凄い人なら寧ろ会ってみたいし、そんなに波乱な状態なら面白そうという好奇心が湧いてきたのだ。
彼に行かないと言う考えはもうない。一刻も早くラクサに行きたいとガイアに食いついた。
「早く行きましょうガイアさん。ラクサ行きの船はどれ?」
「(食いつき早)えっとね…あの、端っこの大きい船だよ。ここから大体3週間ぐらいかな」
「衣食住が確保できる就職先ならそれくらい平気ですから。 ほら、行きましょう」
「(行動力の化身…!!)あー。そうそう。言い忘れてた」
「へ?」
「まぁね、これは運命とかそういうものではないんだけれども一応言っとくね。その女公爵様も持ってるんだよ」
「は?持ってる?何を?」
ガイアは疑問に満ちた顔をするレインに意地悪そうな笑顔を浮かべる。
ガイアの言う運命。それはレインと主人になるであろう女公爵の共通点であった。
「彼女も持ってるんだよ。ギフトをね。だから僕は君に近付いたし見捨てなかった。このまま"記憶のギフト"の血筋が途絶えさせたくないし」
ガイアから出たギフトという言葉。
レインが職場を転々とする一因になっている彼にとっては忌まわしい異能。だが、彼の思想に反して異能は海の向こうの誰かとの絆結ぼうとする。
ガイアとの出会いもギフトが引き寄せたものだと言っても過言ではないだろう。
そして、レインは悟る。
(死ぬまで纏わりついて人生台無しにされるぐらいなら徹底的に利用してやる)
レインは僅かな荷物を持ってガイアと共に船に乗り込む。
その目に迷いはなく、不透明な未来に足掻く様にただ前だけを見つめていた。