遂に迎えた披露会の日。空はあの夜市の時の様に夕暮れと化し空をオレンジ色に染めていた。
けれど、その空にゆっくりと分厚い雨雲が立ち込め始める。遠くの方で鈍く雷の音が響く。
とても不吉な空色と雷音。幸せに満ちるはずのその場所に不穏が忍び寄る。
「あの女の悲痛な顔が早く見たいわね」
ミネアはマリアネル邸に向かう馬車の中で不敵に笑いながらカイリの転落を妄想していた。
馬車にはミネアとターン、そして、マージルが乗っていた。誰も祝福の念がない腹黒さが渦巻く。
「マージル様。本当にあの奴隷からカイリお嬢様を取り戻してくれるんですよね?」
「そう言ってるではないか。それにミネア様のお力があればすぐに取り戻せる。今は焦るのではない」
「そうですが…あの男が平気でお嬢様に触っていると思うと…!!!」
(この男、相当あの女に入れ込んでいるようね。まぁその方がいろいろ操りやすいけど。全く想われていないのに一方的に好意を寄せて自爆する人を見るの好きだから)
変に必死になっているターンに扇子で口元を隠しながら思わず失笑してしまう。
決して実ることのない一方的な恋。盲目で周りが見えないまま突っ走るターンにミネアは少しちょっかいを出してやろうと考えた。
「ターン令息のその想いは必ず成就しますわ。だってこんなにもカイリお嬢様の事を想っているのに実らないなんてあんまりです」
「ミネア様…」
ミネアはそっとターンの両手に触れる。
「大丈夫。神様は我々をちゃんと見ています。悪しき者を裁いた者には必ず褒美を下さる。カイリお嬢様も今はあのマグア人に惑わされているだけ。マグア人からギフトを取り戻せばカイリお嬢様の洗脳も解けて令息の元に…」
「そ、そうですよね!!ありがとうございます!!ミネア様」
「その為には貴方の助けが必要です。期待していますよ?」
「はい!!ミネア様の為にも、マージル様の為にも、そして、僕とカイリお嬢様の明るい未来の為にも頑張ります!!」
「フフ…その意気よ。ターン令息。私とマージル様の期待にそぐわない働きをしたらどうなるか分かっていますね」
さっきまでの優しげな口調からとても冷たく低い声で脅しに近い言葉をターンに投げかける。
期待にそぐわない働き。それは、レインの始末の失敗のことだろう。
もし、それが現実となったら幾ら御曹司の彼もタダでは済まないだろう。ターンは恐怖でごくりと唾を飲んだ。
「わ、分かってます。絶対に…絶対に失敗なんかしません…必ずあの奴隷の血を捕らえてギフトを神々に捧げます…」
「お願いしますよ?」
「ミネア様。あの小娘のギフトはどうしますか?」
「カイリお嬢様の《治癒》のギフトですよね?あれはもう少し様子を見てから……そう、命を奪うことなくギフトを彼女から取り戻せる方法を見つけるまで泳がせておくつもりです。ターン令息を側に置けば下手な真似もできないでしょう。全ては今日の計画成功次第ですが」
ミネアはチラリとターンを方を睨みつける。ターンはビクッと驚き少しだけ肩を上下させた。
(ミネア様とマージル様は僕に期待してる。僕が失敗したら全てが台無しになる。失敗は許されない…!!!)
不安がるターンにミネアはそっと彼の心に入り込む。ゆっくりと彼を自分の操り人形に仕立て上げようとする。
「貴方ならできるわ。こんなに大切な人を想う人は貴方が初めて。その気持ち応えようとしないなんてカイリお嬢様も酷い人だわ」
(ミネア様にこんなに思われているなんて、絶対にこの計画を成功させて、あの奴隷を亡き者にして、僕はカイリお嬢様と結婚するんだ…!!!)
ミネアとターンの会話を見ていたマージルは彼女の思想を見抜いていて、変に意気込むターンがとても哀れに見えてしまった。
(哀れな男だ。この計画を成功させてもカイリはお前に振り向きはせんのに。だが、あの小娘をただの肩書きだけの人形にすることはできる。ギフトも我々オルロフに返還される…)
3人の思惑が渦巻く馬車はゆっくりとマリアネル邸に近づきつつある。
何も知らないカイリとレインを引き裂こうとする魔の手はほんの束の間の幸せさえも奪おうとしている。
彼等が思い描く未来は、少しでも反抗する者がいたら儚く崩れ去る脆い栄光。歪んだ思想を信じ、弱き心を蝕み信仰に走らせ破滅させる。
オルロフの信者ではないターンは少しだけ違和感を抱いていたが、もう後戻りできないところまで来ていた。
逃げたら自分自身の命はない。ミネアとマージルに全てを握られている。逃げることは愛するカイリを諦めることにも繋がっている。
(大丈夫。父さんの力とオルロフの力を使えば全部揉み消せる。今までだってそうしてきたじゃないか。何をそんなに怯えているんだ。しっかりしないと…!!!)
「あら、そろそろ着きますわね。それでは楽しみましょう。馬鹿みたいに幸せに浸る愚か者が裁かれる姿を」
異端者達の血に染まった計画が始まろうとしている。夫婦になると宣言するはずの幸せの場に不釣り合いの黒い思惑はジワリと侵食してゆくのだった。
『今日があんたとあの綺麗な女の人の婚約披露会なのね!そんで私はあんたの胸元でキラキラ光って存在を放てばいいってこと!!!』
昨夜、カイリから送られたタンザナイトでできたアガパンサスのブローチの声の主であるリーナは、所有者となったレインに質問攻めしていた。
「いやーあんまり目立ち過ぎなくても…」
『何言ってるの?!貴方あの女の人の旦那様になるんでしょ!!確か公爵だったわよね!!それだったらもっと目立たないと!!』
「そうかもしれないけど…」
貴族出身ではないレインは、ギフト所有者があるが故にあまり目立つ事は好きではなかった。変に目立ってしまえば、侮蔑を向けられ自分が損するということが多かったのもあった。
それがマグアを追放された理由だったのもあり、あまり目立つ無事に披露会を終えられればいいと考えていた。
けれど、カイラからアガパンサスをモチーフにしたブローチが思った以上に存在感を発揮していて、女公爵の婚約者であるという主張が強いなと感じていた。
(まだあの人の旦那になる心構えが中途半端過ぎるのにみんなに発表していいのかな?なんかもう不安しかない…)
2階の階段近くからロビーの方を見下ろすと、ぞくぞくと招待された客人が集まってきている。イメージトレーニングした数よりも多くさらに緊張感が増してしまった。
いつもは給仕する側だった自分が、カイリの一目惚れと月夜の宝石に運命の番に選ばれたことでされる側になるとはラクサにやって来るまで想像もしていなかった。
(まだここに来て一年も経ってないのに、まさか使用人から貴族の夫になるかもなんて…)
『運命なんだから受け入れなさいよ』
「え。まさか、お前心が読めるの?」
『宝石は未来を見えるだけじゃなくて、人の心も読めるのよ。私の場合は後者の方が強いわね。あんまり未来を見るのが得意じゃないの』
(カイリお嬢様のあの宝石はその逆ってことか。宝石もいろいろなんだな)
「あ!!レイン様!!ここにいた!!早く支度をなさってください!!そろそろ始まってしまいますよ!!」
(うっ)
ケヴィンに任されたのだろう、メイドの一人がようやくレインを見つけたとあった様子で彼の元に駆け寄ってきた。レインは少しばつが悪そうな顔をする。
『ほらほら!観念して披露会の準備を進めなさい!そして、アタシに似合う洋服にするのよ!!』
(分かってるよ。リーナ)
レインは迎えに来たメイドに引っ張られる様に自室に戻っていった。
その時、リーナはある気配を背後から感じ取った。
(ん…?何?)
この邸宅では感じたことがない悪意に満ちた感情にリーナは警戒する。披露会に招待された客人でも使用人でもない者の思想が嫌でもリーナの中に入ってくる。
(なんて気持ちが悪い野望なの。しかも狙いはレイン…?!)
リーナは慌ててレインに声をかけようとするが、ある約束を思い出しすぐに口をつぐんだ。
その約束とは、2人の時以外は話しかけない。
ギフトを持つ者にしか聞こえない宝石の声。
普通の人には変に思われてしまうからと周りに人目がある時は何があっても話しかけないという約束。
(この悪意は普通じゃない。何か企んでる…!!何なの?!何が目的なの?!!)
どんどん流れ込んでくる部外者の企みを暴こうと集中しようとするが、突然プツリと思想が途切れてしまった。感じていた気配も同時に消えていた。
(そんな!!もう少しで何か掴めそうだったのに。でも、これだけは分かる。レインとあのお嬢様に危険が迫っている事!!早くレインに伝えたいのに…伝えなきゃなのに…!!!)
リーナの焦りとは裏腹に披露会開幕まで刻一刻と近づいてゆく。マリアネル家の長女で主、そして、女公爵であるカイリと平民のレインの婚約が披露され祝福される筈のパーティー。
2人の婚約を喜ばない人間もいるのは仕方がないだろう。だが、そこに歪な思想と信仰があるとしたら話は別だ。
窓硝子からピカっと雷の激しい光が溢れる。そのすぐ後に近くに落ちたであろう怒号が邸宅に響き渡った。
レインの顔を知ったミネアは扇子越しにため息を吐く。あんな奴隷の肌を持つ男をマリアネルの一員に入れようとするカイリに怒りを覚えていた。
「あんなのを由緒正しいマリアネルの血に入れてはいけませんわ」
「重々承知しておりますとも。その為に数人私達ターン令息の部下を送ったのですから」
「失敗は許されませんからね。必ずあの卑しい者から《記憶》のギフトを神に返すのです。ああ、そうそう、カイリ・マリアネルは最終的には私が殺しますから邪魔だけはしないでくださいね?マージル殿?え?ターン令息はどうするって?利用できなきゃ毒を持って殺せばいいですわ。そんな奴どうでもいいわ!それよりも、あの女とマグア人は徹底的に痛め付けて、惨めな思いを抱いたまま殺してあげなきゃ気が済みませんから。アハハハハ…!!!!」
ミネアの血に染まる計画を込めた暗黒に染まる笑みて目論みがレイン達に近付くまでそう時間がかからなかった。
けれど、その空にゆっくりと分厚い雨雲が立ち込め始める。遠くの方で鈍く雷の音が響く。
とても不吉な空色と雷音。幸せに満ちるはずのその場所に不穏が忍び寄る。
「あの女の悲痛な顔が早く見たいわね」
ミネアはマリアネル邸に向かう馬車の中で不敵に笑いながらカイリの転落を妄想していた。
馬車にはミネアとターン、そして、マージルが乗っていた。誰も祝福の念がない腹黒さが渦巻く。
「マージル様。本当にあの奴隷からカイリお嬢様を取り戻してくれるんですよね?」
「そう言ってるではないか。それにミネア様のお力があればすぐに取り戻せる。今は焦るのではない」
「そうですが…あの男が平気でお嬢様に触っていると思うと…!!!」
(この男、相当あの女に入れ込んでいるようね。まぁその方がいろいろ操りやすいけど。全く想われていないのに一方的に好意を寄せて自爆する人を見るの好きだから)
変に必死になっているターンに扇子で口元を隠しながら思わず失笑してしまう。
決して実ることのない一方的な恋。盲目で周りが見えないまま突っ走るターンにミネアは少しちょっかいを出してやろうと考えた。
「ターン令息のその想いは必ず成就しますわ。だってこんなにもカイリお嬢様の事を想っているのに実らないなんてあんまりです」
「ミネア様…」
ミネアはそっとターンの両手に触れる。
「大丈夫。神様は我々をちゃんと見ています。悪しき者を裁いた者には必ず褒美を下さる。カイリお嬢様も今はあのマグア人に惑わされているだけ。マグア人からギフトを取り戻せばカイリお嬢様の洗脳も解けて令息の元に…」
「そ、そうですよね!!ありがとうございます!!ミネア様」
「その為には貴方の助けが必要です。期待していますよ?」
「はい!!ミネア様の為にも、マージル様の為にも、そして、僕とカイリお嬢様の明るい未来の為にも頑張ります!!」
「フフ…その意気よ。ターン令息。私とマージル様の期待にそぐわない働きをしたらどうなるか分かっていますね」
さっきまでの優しげな口調からとても冷たく低い声で脅しに近い言葉をターンに投げかける。
期待にそぐわない働き。それは、レインの始末の失敗のことだろう。
もし、それが現実となったら幾ら御曹司の彼もタダでは済まないだろう。ターンは恐怖でごくりと唾を飲んだ。
「わ、分かってます。絶対に…絶対に失敗なんかしません…必ずあの奴隷の血を捕らえてギフトを神々に捧げます…」
「お願いしますよ?」
「ミネア様。あの小娘のギフトはどうしますか?」
「カイリお嬢様の《治癒》のギフトですよね?あれはもう少し様子を見てから……そう、命を奪うことなくギフトを彼女から取り戻せる方法を見つけるまで泳がせておくつもりです。ターン令息を側に置けば下手な真似もできないでしょう。全ては今日の計画成功次第ですが」
ミネアはチラリとターンを方を睨みつける。ターンはビクッと驚き少しだけ肩を上下させた。
(ミネア様とマージル様は僕に期待してる。僕が失敗したら全てが台無しになる。失敗は許されない…!!!)
不安がるターンにミネアはそっと彼の心に入り込む。ゆっくりと彼を自分の操り人形に仕立て上げようとする。
「貴方ならできるわ。こんなに大切な人を想う人は貴方が初めて。その気持ち応えようとしないなんてカイリお嬢様も酷い人だわ」
(ミネア様にこんなに思われているなんて、絶対にこの計画を成功させて、あの奴隷を亡き者にして、僕はカイリお嬢様と結婚するんだ…!!!)
ミネアとターンの会話を見ていたマージルは彼女の思想を見抜いていて、変に意気込むターンがとても哀れに見えてしまった。
(哀れな男だ。この計画を成功させてもカイリはお前に振り向きはせんのに。だが、あの小娘をただの肩書きだけの人形にすることはできる。ギフトも我々オルロフに返還される…)
3人の思惑が渦巻く馬車はゆっくりとマリアネル邸に近づきつつある。
何も知らないカイリとレインを引き裂こうとする魔の手はほんの束の間の幸せさえも奪おうとしている。
彼等が思い描く未来は、少しでも反抗する者がいたら儚く崩れ去る脆い栄光。歪んだ思想を信じ、弱き心を蝕み信仰に走らせ破滅させる。
オルロフの信者ではないターンは少しだけ違和感を抱いていたが、もう後戻りできないところまで来ていた。
逃げたら自分自身の命はない。ミネアとマージルに全てを握られている。逃げることは愛するカイリを諦めることにも繋がっている。
(大丈夫。父さんの力とオルロフの力を使えば全部揉み消せる。今までだってそうしてきたじゃないか。何をそんなに怯えているんだ。しっかりしないと…!!!)
「あら、そろそろ着きますわね。それでは楽しみましょう。馬鹿みたいに幸せに浸る愚か者が裁かれる姿を」
異端者達の血に染まった計画が始まろうとしている。夫婦になると宣言するはずの幸せの場に不釣り合いの黒い思惑はジワリと侵食してゆくのだった。
『今日があんたとあの綺麗な女の人の婚約披露会なのね!そんで私はあんたの胸元でキラキラ光って存在を放てばいいってこと!!!』
昨夜、カイリから送られたタンザナイトでできたアガパンサスのブローチの声の主であるリーナは、所有者となったレインに質問攻めしていた。
「いやーあんまり目立ち過ぎなくても…」
『何言ってるの?!貴方あの女の人の旦那様になるんでしょ!!確か公爵だったわよね!!それだったらもっと目立たないと!!』
「そうかもしれないけど…」
貴族出身ではないレインは、ギフト所有者があるが故にあまり目立つ事は好きではなかった。変に目立ってしまえば、侮蔑を向けられ自分が損するということが多かったのもあった。
それがマグアを追放された理由だったのもあり、あまり目立つ無事に披露会を終えられればいいと考えていた。
けれど、カイラからアガパンサスをモチーフにしたブローチが思った以上に存在感を発揮していて、女公爵の婚約者であるという主張が強いなと感じていた。
(まだあの人の旦那になる心構えが中途半端過ぎるのにみんなに発表していいのかな?なんかもう不安しかない…)
2階の階段近くからロビーの方を見下ろすと、ぞくぞくと招待された客人が集まってきている。イメージトレーニングした数よりも多くさらに緊張感が増してしまった。
いつもは給仕する側だった自分が、カイリの一目惚れと月夜の宝石に運命の番に選ばれたことでされる側になるとはラクサにやって来るまで想像もしていなかった。
(まだここに来て一年も経ってないのに、まさか使用人から貴族の夫になるかもなんて…)
『運命なんだから受け入れなさいよ』
「え。まさか、お前心が読めるの?」
『宝石は未来を見えるだけじゃなくて、人の心も読めるのよ。私の場合は後者の方が強いわね。あんまり未来を見るのが得意じゃないの』
(カイリお嬢様のあの宝石はその逆ってことか。宝石もいろいろなんだな)
「あ!!レイン様!!ここにいた!!早く支度をなさってください!!そろそろ始まってしまいますよ!!」
(うっ)
ケヴィンに任されたのだろう、メイドの一人がようやくレインを見つけたとあった様子で彼の元に駆け寄ってきた。レインは少しばつが悪そうな顔をする。
『ほらほら!観念して披露会の準備を進めなさい!そして、アタシに似合う洋服にするのよ!!』
(分かってるよ。リーナ)
レインは迎えに来たメイドに引っ張られる様に自室に戻っていった。
その時、リーナはある気配を背後から感じ取った。
(ん…?何?)
この邸宅では感じたことがない悪意に満ちた感情にリーナは警戒する。披露会に招待された客人でも使用人でもない者の思想が嫌でもリーナの中に入ってくる。
(なんて気持ちが悪い野望なの。しかも狙いはレイン…?!)
リーナは慌ててレインに声をかけようとするが、ある約束を思い出しすぐに口をつぐんだ。
その約束とは、2人の時以外は話しかけない。
ギフトを持つ者にしか聞こえない宝石の声。
普通の人には変に思われてしまうからと周りに人目がある時は何があっても話しかけないという約束。
(この悪意は普通じゃない。何か企んでる…!!何なの?!何が目的なの?!!)
どんどん流れ込んでくる部外者の企みを暴こうと集中しようとするが、突然プツリと思想が途切れてしまった。感じていた気配も同時に消えていた。
(そんな!!もう少しで何か掴めそうだったのに。でも、これだけは分かる。レインとあのお嬢様に危険が迫っている事!!早くレインに伝えたいのに…伝えなきゃなのに…!!!)
リーナの焦りとは裏腹に披露会開幕まで刻一刻と近づいてゆく。マリアネル家の長女で主、そして、女公爵であるカイリと平民のレインの婚約が披露され祝福される筈のパーティー。
2人の婚約を喜ばない人間もいるのは仕方がないだろう。だが、そこに歪な思想と信仰があるとしたら話は別だ。
窓硝子からピカっと雷の激しい光が溢れる。そのすぐ後に近くに落ちたであろう怒号が邸宅に響き渡った。
レインの顔を知ったミネアは扇子越しにため息を吐く。あんな奴隷の肌を持つ男をマリアネルの一員に入れようとするカイリに怒りを覚えていた。
「あんなのを由緒正しいマリアネルの血に入れてはいけませんわ」
「重々承知しておりますとも。その為に数人私達ターン令息の部下を送ったのですから」
「失敗は許されませんからね。必ずあの卑しい者から《記憶》のギフトを神に返すのです。ああ、そうそう、カイリ・マリアネルは最終的には私が殺しますから邪魔だけはしないでくださいね?マージル殿?え?ターン令息はどうするって?利用できなきゃ毒を持って殺せばいいですわ。そんな奴どうでもいいわ!それよりも、あの女とマグア人は徹底的に痛め付けて、惨めな思いを抱いたまま殺してあげなきゃ気が済みませんから。アハハハハ…!!!!」
ミネアの血に染まる計画を込めた暗黒に染まる笑みて目論みがレイン達に近付くまでそう時間がかからなかった。