さつじんじけんをしっています


「死体はないかい、全くやめておくれよ」

「さすがに死体があったら虫がたかって酷い臭いなんじゃないですか」

 今は夏も終わり少し涼しくなった秋はじめだ。
 最近は季節を感じる風情な心も忘れてたけど、この気温じゃ死体なら三日で相当な臭いを放つだろう。
 玄関では古い建物の臭いしかしない。
 ずーっと締め切ってた臭いだ。
 玄関の消臭はもう干上がって空っぽだ。

 でも私の部屋のように玄関から汚いわけでもない。
 綺麗に靴が揃えてあって、薔薇の模様の玄関マット。

「おじゃまします……」

「橘さん、いないのかい!? あがるよ!」

 婆さんはあっという間に靴を脱いでドカドカ入っていく。
 狭いかと思ったら、ワンルームじゃなく玄関の右横にトイレ。その先の扉がリビングか?

 婆さんはすぐにリビングに入ってく。

「いないね……ふぅん夜逃げではないか」

 後ろから入ると、確かに家具も全部そのままだ。
 リビングの隣の和室は仕事部屋なのだろうか。

「おばあさん、金品狙ったら後からとんでもない事になるよ」

「ふっふん! そんなことせんわ!」

 あ、そう? そう言いながらタンスの引き出し開けようとしてたけどな。
 私は仕事用のデスクを見る。
 
 そこには写真立てがあった。

「これは……」

 私はスマホを取り出してSNSを開く。
 やっぱり、あのアイコンの少年だ。
 アイコンでは顔だけだったけど写真はお腹まで写ってて、男の子っぽい服を着てる。
 でもやっぱり不自然なような。
 
「息子かなぁ?」

「あーん、そんな事はないと思うがね。いっつも一人で辛気臭い陰気臭い女だったよ。挨拶もろくにせん」

 一応、客だろうに。酷い言われようだ。

「薔薇が随分好きなのかな」

 薔薇の小物が色々置いてある。
 カーテンも薔薇だ。
 ゲームみたいに机の上に研究員の資料1なんてものはない。
 綺麗な整理整頓された女性の机。
 
「あ……でも、すごいぞ」

「なんだい金かい!?」

「違うって……」

 綺麗に片付いた机。
 そこにペンだけ置いてあった。
 そして床にメモが落ちてたのだ。

「……こわい……」

 一言『こわい』と書いてあった。
 ゾッとする。
 怖い?
 怖い……殺人犯が怖いと……。

 だけど彼女はこの一言を残して消えた……。
 森の奥の屋敷に……行ったのか?

 私は部屋の写真を撮って、額縁の写真も撮った。

「あの、では私は行きます」

「はぁ~? あんた家賃はどうしてくれるんだいっ!?」

「私には支払い義務はありませんから、では!!」

「こんちくしょう!!」

 殴ってくるかと思ったけど、私が指紋を残さないように飛び出すと婆さんは追いかけてこなかった。
 まじで盗みをする気なのでは……。
 まぁ私がいてもいなくても、いつかは実行していただろう。
 私だけかもしれないが、そういう部分は目をつむるというか……。
 仕方ない。

 私は軽自動車に乗り込んでSNSを開いた。

『たすけて、さつじんじけんをしっている、森田九作。ころされた、たすけて』
『たすけて、さつじんじけんをしっている、森田九作。ころされた、たすけて』
『たすけて、さつじんじけんをしっている、森田九作。ころされた、たすけて』
『たすけて、さつじんじけんをしっている、森田九作。ころされた、たすけて』
 
 はいはい。
 橘サエ子はやはり行方不明になって、家にもいなかった。
 つまり、こいつの傍にいるのか……。

 本当に、本当に橘サエ子は森田を殺した殺人犯なのか?

『橘サエ子は行方不明になっている。やはりあなたのそばにいるのかい』
 
『そうだよ、いるよ。たすけて』

 ……事件なのか。
 これはもう警察案件か?

 でも……あのオカルト研究者の森田九作。
 そして助手の女、橘サエ子。
 これは普通の事件ではない……!!
 絶対に普通じゃない!

 だから、この発信者も警察に助けを求めないんだ……。

 此処からは、何が起こっても自己責任。
 そう、オカルトの世界は自己責任なのだ。

『どこにいるの?』
 
『やしきにいる』

 屋敷に……?

『森田九作のさつがいばしょ……?』

『そう』

 ……まじかよ……