メールの相手は、助けを求めている。
 そして殺人犯の橘サエ子は『ここに』つまり近くにいる。

 監禁されている!?

 それなら三ヶ月もグダグダしてないで警察行くよな。
 どういうことなんだ……。

『さつじんはんといっしょにいて、あなたは危険ではないのですか?』

『だいじょうぶ。あんぜんなのです』

『それはよかった。またへんじがおそくなります』

『わかりました。たすけて』
 
 SNSもタイムラインはいつもと同じように、くだらないネタが流れているのに
 私はこの発信者と不気味なやりとりを影でし続けている。
 
 とりあえず私は、速攻で家に帰って適当な旅支度をしてオンボロ軽自動車に乗り込んだ。
 そして会社で調べてあった橘サエ子が勤めていたらしい職場や研究所に電話をかけまくった。

「え? 無断欠勤が続いた後に、メールがきて……退職した? あの住所は? 個人情報? いやあの私、彼女の内縁の夫の~~~妹で! 肉親みたいなもんなんですよ! いや、怪しくはない……あ!」

 くっそガチャ切りされた。
 橘サエ子が無断欠勤したのは5ヶ月前……。
 メールが来て退職したのは3ヶ月前……。
 事務の人、後処理が面倒だったのか、愚痴を吐くように教えてくれたな。

 でもさすがに住所は教えてくれないか~~。
 スマホが鳴った。
 編集長だ。

「はい、編集長。え! 橘サエ子の自宅住所調べてくれたんすか!?」

 やばい期待されてんのか。
 編集長が自ら橘サエ子の住所を調べていてくれたなんて!
 しかも隣県だ。
 今からなら夕方には着くだろう。

 私は発信者からの連続メールをとりあえず無視して橘サエ子の自宅へ向かった。

 取材費が出るからと高速使いまくって、夕方に橘サエ子の自宅に着いた。
 うーん。
 まぁ儲かっていたとは思ってなかったけど、ボロいアパートだ。
 二階建てで、錆びた外階段。
 一階五部屋、二階も五部屋。
 うっすい玄関扉。
 中が覗ける新聞受け。
 女が住むにはセキュリティが不安になる。

 ここの205号室。
 様子を伺うようにウロウロして、気配がないような気がしたがチャイムを押す。

 ……出ない。

「あんた、橘さんの知り合い?」

「ひっ」

 気配を消すのがうますぎる婆さんが気付いたら横にいた。

「家賃滞納されて困ってんだよ。それに中で死んでたらもっと困る」

「は、はぁ……わ、私はえっと……彼女の同僚です」

「同僚? あーお勤めのね。なるほど。ちょっとあんた立会してくれないか?」

「え!?」

「死んでたら嫌だからさぁ」

「それは……」

「ん」

「かまいませんよ。一緒に見ます」
 
 キタキタキタキタ!
 ゾワッとした。
 なんたる幸運! 凄まじい幸運!!
 ネタの神様が私の味方をしている!!

「よし」

 婆さんは鍵がジャラジャラついた輪っかをエプロンから取り出す。

「あんたも同じだよ」

「えっ」

 この婆さん、金目のものでも盗む気なんじゃ……。
 見張ってればいいか。

「いくよ」

 ちょっと怖いわ!
 橘サエ子と発信者がいたらどうしよ!!

 婆さんは躊躇もなく薄いドアを開ける。
 古臭い古臭い部屋の臭いがブワーッと鼻に流れてきた。