ここまで来ての、廃墟だと!?!?!
 私は怒りで食べていたコッペパンを捻り潰してしまう。
 中から赤いジャムがドロっと流れた。

「……くっ……」

 このクソ野郎。
 ここまで来て……。
 いや、騙された私が馬鹿か。

 DMでぼっこぼこに罵倒したくなる。
 が、真実はいつだってなんとなく一つだ。

 これがSNSで隠蔽されている事件だとしたら?
 廃墟と思い込ませているのかもしれない……。

 やはり信じるべきは自分の目だ。耳だ。

 森田の屋敷には絶対に何かがある。
 そこに真実は必ずある。
 SNSを鵜呑みにしてはいけない。

「でも廃墟か……」

 あの発信者が、可哀想な子どもでもなく……ただの殺人鬼だとしたら。
 私はただの飛んで火に入る夏の虫。
 死んで、埋められて、終わり。
 そんなのはゴメンだ。
 自殺願望は一切ない。

 だけど、こんなまどろっこしい事をするかなぁ?

 ネタか命か……。
 
「いや、行くぞ!!」

 覚悟はもう決めていた!
 でもこのまま死んで埋められたらたまったもんじゃない!

 私はSNSで自分が認めた相手しか見ることのできない、特殊な呟きをすることにした。
 オカルトマニア、廃墟マニア、ホラゲ実況者……など興味があるような奴ら。

『殺人事件を知っています』

 私はそう書き込んだ。
 そして、呟いていくことにしたのだ。
 これから起きる事を……。

 片方のアカウントには発信者からのDMが続々と来ていた。
 
『あなたのそのやしきは、はいきょなの?』

『うえのほうは、はいきょです』

 上の方……そう来たか。

『つまり、あなたはちかにいる?』

『そうです。いつくるの?』

『今、むかっている』

 ここまで来たなら行ってやる!
 廃墟の地下に何かがある!!

 私は高速をぶっ飛ばす。
 真夜中の廃墟に女一人で入るにはさすがに危険か……と思ったのは杞憂だった。
 結局、村に着いたのは薄暗い朝方。

 鍵アカの方には
 『殺人事件があったという場所に着いた。これから発信者とそこで会う』
 と書き残す。

 反応して返信をくれている人もいるけど、返信は後日でいいか……。
 これから一体何が起きるんだろう。

 車の中で考えた結論はこうだ。

 少年は『ホムンクルス』だ。
 彼は森田の悲願の人造人間なのだ。
 実験は成功した。
 しかし同じように悲願だった人間がいる。
 橘サエ子。
 彼女は写真の少年が理想の子ども。
 ホムンクルスを巡って争いが起き、彼女は森田を殺した。

 そして今、地下で少年を飼っている……?

 しかしこうなると、私は殺人犯と鉢合わせしてしまう。
 
『わたしが橘サエ子にあうときけんだ。まずはようすをうかがう』

『だいじょうぶ。きけんはない』

 私は屋敷へ向かう山道を慎重に進む。
 細い細い山道だ。
 ん!
 まずい……スマホの電波がなくなってしまった。

 屋敷に行けば電波が入るようになるんだろうか。
 そう思っているうちに倒木が車道を塞いでしまっていた。

「危険はない……かぁ」

 私は車から降りて、上下ウインドブレーカーを着て懐中電灯を持ちカメラを首から下げる。
 一応武器としてナタを持っていこうか……。

 まだ薄暗く、靄の出ている山中を歩くだけでも怖い。
 しかし進まなければいけない。
 もう後戻りはできない気がしていた。

 私もあの不気味な発信者の少年をどうにか助けてやりたい、そんな気持ちになっているんだろうか?

 屋敷の近くに行けば電波が戻る事を期待して、私は向かう。

 橘サエ子は危険はない……聖母みたいになっているのかな?
 だから少年は母のように慕う彼女をかばうつもりで警察はやめろと?

「考えてもわからん!」

 私は道中、スマホで1枚写真を撮った。

 歩くこと20分。
 やっと目の前に屋敷が見えた。

 不気味な洋館をイメージしていたが、見た目は病院のように白くて四角いコンクリートの建物だ。
 建物の周りは草が生い茂っている。
 しかし窓ガラスがボロボロでコンクリートが朽ち果てて半壊しているわけではなかった。

「ほんとSNSっていい加減だなぁ」

 私は写真を1枚撮る。
 電波がやはり戻っていた。
 鍵アカの方に記録として残す。

 そして玄関の前に車が停まっているのを見つけた……。