狭いワンルーム。
散らかったテーブルの上に置いたノートパソコンから、大きな音が鳴り響いている。
「人面犬だぁ!? ふざけんなよっ! もっとまともなネタ探して来い!」
あぁうるせ。
一対一のリモート会議で編集長に怒鳴られているのだ。
「はぁ~……」
「おい! 今ため息つかなかったか!?」
「いえ~ついてませんよ~。すみません~~なんか電波悪いんですかねぇ? あれ? あれーーー? 聞こえますーーー? すみません。調子悪いようなので、それではネタ探し行ってきます~~」
何か言っているようだったけど、退出ボタンをクリック。
はいさいなら。
「人面犬がふざけてて、殺人鯉が沼に人を引きずり込む殺人沼の記事が通るってどういうこった! やってらんねー」
なんの因果か三流オカルト誌の記者になって、もう6年。
正直、ネタ切れ。
給料もいいわけでもないのに、編集長に怒鳴られて、私ももうすぐ三十路だ。
彼氏いた事ない三十歳の自分なんか想像してなかったんだけど。
十歳の私が知ったらオカルト過ぎて泣くな。
それよりも転職先が実際ないのがオカルト。
女の先輩はドンドン辞めてったから6年勤めてると、なんかもうお局感もあって……。
上から言ってくるのは編集長くらい?
だから気が楽なのもあるっちゃある。
そんなこんなでズルズルと辞められない日々が続いてる。
「あぁ~もう、いいや。やってられないわぁ」
でも、怒鳴られたらそりゃ気分は凹むし面白くもない。
人面犬ブーム再び! よくない??
今の子ども達が生まれる前なんだからさぁ!
私はもう冷蔵庫からビールを持ってきた。
あぁー風呂入るのも面倒だ。
部屋もめっちゃ汚い。
ゴミの日は明日か。
パソコンの脇にあったスルメをかじりビールを煽る。
私は頭を掻きながら、感度バリバリのパソコンでSNSを開く。
最近の面白ニュースも画像も動画も結局SNS発信のものばっかりさ。
歩いて事件探せ~~なんてのは昭和か大正の話。
今はネットサーフィンで記事探し。
……なんてのは常識。
でも人面犬は足で探してきたネタなんだけどー!
ちくしょー!!
更にビールを煽ってSNSを検索する。
みんなの好き勝手な呟きの海。
はいはい、馬鹿はいないか? アホはいないか?
自分達しか見てないと思うやつが多すぎる。
世界中に配信してるって自覚がない。
「炎上すっぞ~~おめーらぁ」
高校生の乱痴気騒ぎなんか興味はない。
……オカルトネタはないか……?
……そう、私はオカルトネタを探しているのだ……。
狂った人間はSNSにはいっぱいいるのだ。
びっくりするほど狂った人間はいっぱいいる。
そういうのを駆除しながら私は探す。
ビルの隙間を、排水溝の隙間を覗くように……。
こっちだってプライドもってんだ。
万バズした素人ネタに群がってどうする。
暗い暗い、闇の住人を探せ……。
スクロールしまくる私。
そういうやつは大抵、タグなんか付けない。
目で探すしかない。
そう記事は足ではなく目で探す時代なんだ……。
「あ~~~ないな……」
しかしそう簡単に見つかるわけもなく、私は四本目のビールを開けた。
「……見つけた……」
『さつじんじけんをしっています』
見つけた……そう思った。