《page 01》
◯自由都市オリエンス 市議会
ページの上3分の2程度に、円卓を囲む議員達(各ギルドの代表者)の全体像を。
ページの下3分の1程度に、アレクサンドラと魔術師ギルドの代表がにらみ合う顔を描写。
(アレクサンドラの方は余裕がある不敵な笑みで、相手側は顔にシワを寄せている)
以上の描写を背景に、ナレーションでこの街の社会情勢の説明を加える。
ナレーション
「自由都市オリエンスは、どの貴族の領地にも属さない、国王直属の特別な自治領である」
「誰からも支配を受けない代わりに、政治経済の全てを市民達の手で行わなければならない」
「街を統治するのは市議会。そして市議会を構成するのは、各ギルドの代表者達」
「この街において、ギルドは単なる職業組合の枠組みを越え、市政の中心すら担っているのである」
《page 02》
◯自由都市オリエンス 市議会(前ページから継続)
ナレーション「市議会に議席を持つギルド、二十五団体」
ナレーション「それらの頂点には、都市内外に多大な影響力を持つ『三大ギルド』が存在する」
議長「二人とも落ち着きなさい。まずはメルクリウス、査察を要求する根拠の説明を」
ナレーション
「序列第一位、司法官ギルド」
「法律家や裁判官が属するギルドであり、市議会の議長もこのギルドから選出される」
「ただし、この序列の高さは『オリエンス市は法律を重んじる』という意思表示のための特別枠に過ぎず、実際の影響力では三番手に甘んじている」
アレクサンドラ「その通り! そもそも君達は、魔法の技術を売り物にしているのであって、魔導器をギルド外に販売しているわけではないはずだ」
アレクサンドラ「しかも一般人向けの魔導器など、欠片も関心がなかったんじゃないか?」
アレクサンドラ「魔導師ギルドの縄張りには手を突っ込んでいない。文句を言われる筋合いはないな」
ナレーション
「序列第二位、冒険者ギルド」
「オリエンスは未開領域探索の前線基地として発展した」
「当然、この都市における冒険者の立場は極めて高い」
《page 03》
◯自由都市オリエンス 市議会(前ページから継続)
壮年の魔導師、メルクリウス「確かに、現時点においては違法だと言い難い」
メルクリウス「我々が懸念しているのは将来的な問題だ」
ナレーション
「序列第三位、魔導師ギルド」
「オリエンスで活動する正規の魔導師は、例外もなくこのギルドに属している」
「他の都市と同様、魔導師は市民生活の礎であり、魔導師に頼らない生活を送ることは極めて難しい」
「冒険者ギルドは都市の収入を、魔導師ギルドは都市の生活を支える組織である」
「他ギルドからは荷車の両輪と喩えられることもあるが、両団体の関係性は――御世辞にも良好とは言えなかった」
メルクリウス「貴様らのギルドマスターの暴言、忘れたとは言わさんぞ」
メルクリウス「『いずれ、魔導師に頼らずに済む時代を作るべきだ』」
メルクリウス「奴の言葉だけなら、下らぬ妄想と切って捨てることもできたがな」
アレクサンドラ「我々が魔導器を研究していると聞いて、いよいよ行動に打って出たと思い込んだ、と
アレクサンドラ「あれはギルドマスターの個人的な見解に過ぎないと説明しただろう?」
メルクリウス「どうだかな。貴様はギルドマスターの右腕と呼ばれた女だ」
メルクリウス「代表代行として、奴の思想の実現を目指しても不思議はあるまい」
二人の間に張り詰めた強烈なプレッシャーに、他のギルドの代表者達は口を挟むこともできない。
《page 04》
◯自由都市オリエンス 市議会(前ページから継続)
そんなとき、議長が鷹揚とした態度で折衷案を提示する。
議長「ふむ、ではこうしたらどうですかな」
議長「正式な査察ではなく、魔導師が個人的に『見学』をするのです」
アレクサンドラ&メルクリウス「「見学」」
議長「市議会の査察は簡単に行っていいものではありません」
議長「査察に踏み切った事実そのものが、ギルドの活動に違法性の疑い有り、という意味合いを持ってしまいますからね」
議長「しかし、単なる見学すら拒むほどの極秘研究だというなら、メルクリウスの懸念にも説得力があると言わざるを得ないでしょう」
《page 05》
◯自由都市オリエンス 市議会(前ページから継続)
アレクサンドラ「ふむ、こちらとしては見学を拒む理由はない」
メルクリウス「悪くない提案だ。現場を見れば、脅威足りうるかも分かるというもの」
議長「決まりですね」
議長「これはあくまで両ギルド間の交流という形で処理します」
議長「事を大袈裟にするのはよくありませんからね」
議長「では、次の議題を――」
◯冒険者ギルド本部 建物内部の一角
場面転換&時間経過。見学の件を聞かされたエディが、苦悶混じりに驚きの声を絞り出す。
エディ「ま、魔導師の見学ぅ!?」
《page 06》
◯冒険者ギルド本部 どこかの部屋
エディの会話の相手は、アレクサンドラの側近の大柄な冒険者、イグナシオ。
慌てふためくエディとは対照的に、イグナシオは無表情で落ち着いている。
エディ「勘弁してくださいよ! 無理に決まってるじゃないですか!」
イグナシオ「何故だ? 前にも見学者を受け入れただろう」
イグナシオ「ステラ・アルヴァによる発明品の紹介も、かなりの好評を博したと聞いているが?」
エディ「あの人達は冒険者だったじゃないですか!」
エディ「僕の経歴分かってますよね!?」
エディ「魔導学院の進級試験で一発不合格ですよ!」
エディ「プロ呼んで見てもらうとか絶対無理ですからね!」
イグナシオ「ふむ……」
《page 07》
◯冒険者ギルド本部 どこかの部屋(前ページから継続)
イグナシオは手帳を開いて予定を確認し、エディを納得させるための妥協案を提案する。
イグナシオ「確か、来月は大人数の見学が五件ほど予定されていたな」
エディ「は、はい。見学希望が凄く多かったから、できるだけ同じ日に纏めてもらったと……」
イグナシオ「ならば、魔導師には身分を偽って見学に参加してもらうとしよう」
エディ「……はい?」
イグナシオ「冒険者の振りをさせる、ということだ」
イグナシオ「魔導師が来ていると分からなければ、緊張することもなくなるだろう」
《page 08》
◯冒険者ギルド本部 どこかの部屋(前ページから継続)
エディ「そうかもしれませんけど……そんなことできるんだったら、知らないうちに済ませてもらった方が……」
イグナシオ「騙し討ちのような真似をするのは不誠実だからな」
エディ(その誠実さは要らなかった……!)
◯自由都オリエンス 市庁舎
アレクサンドラが廊下を歩きながら、手に持った水晶玉越しにイグナシオからの報告を受ける。
描写するのはアレクサンドラ側だけで、イグナシオは声だけ。
ナレーション「同日。自由都市オリエンス、市庁舎――」
イグナシオ『エドワード・オグデンからの同意を取り付けました』
イグナシオ『魔導師ギルドの連中には冒険者を名乗らせます』
アレクサンドラ「ご苦労。後は私が引き受けよう」
イグナシオ『了解です。しかし、本当によろしかったのですか?』
《page 09》
◯自由都オリエンス 市庁舎(前ページから継続)
イグナシオ『エドワードには普段通り仕事をするように指示をしました』
イグナシオ『魔導師ギルドの連中がそれを見れば、十中八九エドワードの技術を脅威と感じるでしょう』
イグナシオ『ならば、あえて手を抜かせた方が良かったのでは?』
アレクサンドラ「構わん。むしろ脅威だと思わせることが目的だからな」
イグナシオ『……?』
アレクサンドラ「私はね、イグナシオ。エドワードの経歴と技能を知った瞬間、天啓を受けたような気分になったんだ」
イグナシオ「この硬直した世界を変えうる可能性。彼の発明品からは、それを確かに感じさせられたよ」
《page 10》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場
場面転換。大勢の冒険者達を前に、エディとステラが新型魔導器の説明をしている。
司会進行はステラの担当で、エディは実際に魔導器を動かしてみせる担当。
前ページまでは台詞多めだったので、このページはキャラを大きめに。
ナレーション「一ヶ月後――」
ステラ「えーっと、それでは見学の方、こちらにどうぞ!」
ステラ「新型魔導器とマナ・カートリッジについて説明させていただきます!」
冒険者達の最後方に、意味深な二人組の後ろ姿。
二人組の片割れ1(始まったみたいだね、姉さん)
二人組の片割れ2(ええ、じっくり見せてもらうとしましょう)
《page 11》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
二人組の正体は魔導師かつ双子の美少年と美少女。
冒険者に紛れ込んでいるが、顔立ちや髪の色など明らかにモブとは違う雰囲気。
モノローグで強キャラのように描写しておく(この回では実力を発揮する機会がないので、驚き役としてのインパクトを高めるための演出)
二人組の片割れ 弟(一番奥にいる奴がエドワード・オグデンのようだね)
二人組の片割れ 弟(アルスマグナ魔導学院の生徒で、現在は休学中)
ナレーション「魔導師ギルド所属 二級魔導師 ソル」
ナレーション「得意属性 火・風 魔法の他、双子の姉と思考を共有する能力を持つ」
二人組の片割れ 姉(一年目の進級試験で落第したそうよ)
二人組の片割れ 姉(アルスマグナは進級しやすい学院なのに、どれだけ無能なのかしらね)
ナレーション「魔導師ギルド所属 二級魔導師 ルナ」
ナレーション「得意属性 水・土 それぞれ単独の能力は二級相当だが、思考の共有による四属性連携は特一級魔導師に迫る」
冒険者達の後ろに隠れて冷笑する双子。明らかにエディを見下している。
ソル(僕達が通った学院なら入学すら出来なかっただろうね)
ルナ(初戦は落ちこぼれの小銭稼ぎ。マスター・メルクリウスの取り越し苦労に決まってるわ)
そんな目で見られているとはつゆ知らず、司会進行のステラが発明品の説明を開始する。
ステラ「ええっと、まず紹介するのはこちら!」
《page 12》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
ステラが見学者達にマナ・カートリッジを高く掲げてみせる。
前話のそれよりも更に洗練され、スマートフォンのバッテリー程度の厚みと大きさになっている。
ステラ「冒険者ギルド製魔導器の根幹を成す新発明!」
ステラ「マナ・カートリッジです!」
続けて、ゴルフボール程度の大きさの赤い魔石を数個、もう一歩の手で提示する。
ステラ「この小さな板の中には、これらの魔石全てを合わせたのと同等の魔力が蓄積されています」
ステラ「重さも大きさも大幅削減! どうぞ、実際に触ってみてください!」
近くにいた冒険者にマナ・カートリッジを渡すステラ。
モブ冒険者A「ほ、本当だ! 滅茶苦茶軽い!」
モブ冒険者B「これなら金貨の方が重いんじゃないか?」
《page 13》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
自信満々に解説を続けるステラ。
エディは後ろの方で次に見せる発明品の準備をしている。
ステラ「実は、魔導師が使っている魔導器にも、魔力を通すだけで機能するものあるんです」
ステラ「それが一般人に普及しない理由は、とにもかくにも魔力の確保!」
ステラ「魔導師は自分で魔力を注げば事足りますけど、一般人はそんなことできませんからね」
ステラ「だけど、魔力を蓄積する素材はとっても嵩張るんです。魔石ですらマシな方なんですよ?」
エディがまるでアシスタントのように、携行魔力灯をステラに渡す。
ステラ「例えば、これは魔力を光に変える魔導器なんですけどね」
ステラ「この大きさに魔石をギチギチに詰めても、たった二時間でエネルギー切れです」
ステラ「一晩中灯そうと思ったら、両手に収まりきらないくらいの魔石が必要になっちゃいます」
《page 14》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
ステラ「ところが! この形に合わせた円筒形のマナ・カートリッジなら、丸一日つけっぱなしでも全然余裕!」
ステラ「あっ、一日しか持たないって意味じゃありませんからね?」
驚きと感心の声を漏らす冒険者達。
その後方で、ルナとソルの双子が愕然としている。
ルナ(あの小さな板に魔石数個分の魔力ですって? ありえないわ!)
ソル(入手して調べてみる必要があるね。だけど、奴ら簡単に手放すかな)
ルナ(どうせ手放さないでしょうね。相当な貴重品に違いないわ)
ルナ(魔法で誤魔化して持ち去りましょう。リスクを犯すだけの意義はあるわ)
念話で深刻に話し合うルナとソル。
そのすぐ近くで、モブ冒険者があっけらかんと購入を希望する。
モブ冒険者C「これって買えるんスか?」
ステラ「売ってますよー。買って帰ります?」
ルナ&ソル((軽っ!?))
《page 15》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
ステラ「でも、マナ・カートリッジだけあっても意味ないですよ」
ステラ「ちゃんと魔導器も買ってくださいね」
エディがテーブルの上で箱を方向け、色々な大きさのマナ・カートリッジをばらばらと出していく。
唖然としているルナとソル。最後に自動車のバッテリー並のサイズがズシンと置かれ、完全に目を丸くする。
ステラ「この大きさなら魔石換算で……どれくらいだっけ。荷馬車一杯分?」
エディ「さすがに大袈裟。八割か九割くらいじゃないかな」
ステラ「えー? だったら大体あってるって!」
エディ「それはさすがに大雑把」
軽い雰囲気のエディとステラとは対照的に、ルナとソルはどんどん表情が険しくなる。
ソル(姉さん! あいつら常軌を逸してるよ!)
ルナ(落ち着きなさい、ソル)
ルナ(いくら魔力貯蔵技術に秀でていても、使い道が低レベルなら脅威に値しないわ)
ソル(そ、そうだね、姉さん。照明器具程度なら恐るるに足らずだ)
《page 16》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
ステラ「さて、続いては皆さんお待ちかね! 冒険に役立つ魔導器の紹介です!」
ステラ「たくさんあるので、もったいぶらずにどんどん行きますよ!」
前話からの一ヶ月の間に開発・改良した発明品の紹介。
作中の展開的にも、漫画上の描写的にも、テンポよく紹介していく。
ステラ「まずは野外調理機! 火種も燃料も一切不要! 全てマナ・カートリッジの魔力でやっちゃいます!」
薄型のカセットコンロに似ているが、カセットボンベを入れる円筒形の部分がない形状。
ステラ「続いて携帯保冷箱! 腐りやすい魔物素材も安全に持ち帰り! 折りたたみ式なので持ち運びも楽ですよ!」
ハードタイプのクーラーボックスのような見た目。冷蔵庫ではない。
ステラ「ちなみに、この二つには建物に備え付けるための大型タイプもありますよ」
ステラ「大型の保冷箱は、もう『冷蔵庫』って名付けた方がいいくらいに冷えるので、長期遠征の探索をするときに便利かもしれませんね」
《page 17》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
引き続き、テンポよく発明品の紹介。
ステラ「それからそれから、運用試験で大好評連発! 通信器の一般販売も始まります!」
ステラ「範囲は狭めだけど持ち運び簡単な小型タイプと、持ち運びが大変だけど広範囲の大型タイプ!」
ステラ「パーティーに一つ大型を置いといて、メンバーが小型を一つずつ持つのがベストかもですね」
小型通信器はトランシーバー程度、大型通信器は昔のラジカセ程度の大きさでマイクを外して使うタイプ。
ステラ「お役立ちアイテムじゃなくて、もっと派手なのが欲しいって人もいますよね?」
ステラ「それならこちら! 魔導式炸裂弾! 本当に凄い威力してるんで、購入にはギルドの審査が必要です! それくらいマジの奴!」
エディが序盤で使っていたものから、ハンドメイド感を無くしたような外見。
ステラ「使い捨ての投擲タイプは色んな効果のものを開発中です! お楽しみに!」
《page 18》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
ステラがまだまだ紹介を続けている間に、ルナとソルが念話で深刻に話し合う。
ソル(魔導器としての性能は、決して高いわけじゃない……と思う)
ソル(だけど問題は、魔力を流し込むだけで機能するということ)
ソル(マナ・カートリッジさえあれば、ただの一般人が恩恵を受けられるということだ)
ルナ(その通りよ、ソル)
ルナ(しかもギルドの調査によれば、エドワード・オグデンが冒険者ギルドに加わってから、まだ一カ月余りしか経っていない)
ルナ(たったそれだけの間に、これほどの成果を叩き出したのよ)
ルナ(今はまだ、冒険者が求める便利な道具に留まっているけれど、いずれは……)
ソル(魔導師の役目を奪う導具を生み出すかもしれない。そういうことだね、姉さん)
ルナ(『いずれ、魔導師に頼らずに済む時代を作るべきだ』)
ルナ(……冒険者ギルドのマスターが願ったように、ね)
《page 19》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
ステラ「現時点で公開可能な情報は以上です!」
ステラ「紹介した魔導器とマナ・カートリッジはギルド本部内で販売していますので、購入ご希望の方はそちらへどうぞ!」
一斉に移動を開始する冒険者達。
人の波がなくなった後には、エディとステラ、そして双子の魔導師だけが残される。
二人が残ったのを見て不思議そうなステラ。
一方、エディは何かを察した様子で苦笑しながら、一歩前に出て二人に話しかける。
エディ「説明会はいかがでしたか?」
ソル「大変素晴らしい発明の数々でした。冒険者としてはありがたい限りです」
エディ「ああ、いえ。そうじゃなくって」
《page 20》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
エディ「聞かせてください。魔導師として、どう感じたのかを」
ルナとソルの表情が凍りつく。この描写を大コマで強調。
エディの後ろでは、ステラが大袈裟なリアクションで驚いている。
ルナ「……よく気付いたね」
エディ「当たり前ですよ」
エディ「他の人達は皆、目を輝かせながら驚いていたのに」
エディ「一番後ろの二人だけは、苦虫を噛み潰したみたいな顔で睨んでたんですから」
《page 21》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
ルナは溜息を吐き、敗北を認めて開き直ったかのように、威圧感を捨てて砕けた態度を取った。
ルナ「最後尾に陣取ったのが失敗ね」
ルナ「冒険者達の反応を伺えなかったから、演技の修整ができなかったみたい」
エディ「まったくもう……おかげでこっちは気が気じゃなかったんですから」
エディ「プロの前で下手なことしたら、それこそ一生物の大恥じゃないですか」
エディの反応は、嫌味でもなければ皮肉でもなく、心の底からそう思っての発言。
ルナ「こちらとしても、どうせ醜態を晒して終わると思っていたのだけれど」
ルナ「……魔導師としての評価、聞かせてあげましょうか」
ルナとソルが無言で視線を交わす。
念話で意見交換をしているが、内容は描写しない。
《page 22》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
堂々とした、かつ事務的な態度で、ルナが視察の結果を告げる決めゴマ。
エディは「やっぱり」と思ったような顔をしつつ、それに加えて、今後の気苦労を持って青くなっている。
ルナ「二級魔導師ルナ、並びにソル」
ルナ「我々はエドワード・オグデンの技術を、魔導師社会の脅威足りうると認定します」
ステラ「そ、それって! まさかエディを……!」
ソル「強硬策を取るつもりはない。少なくとも今のところは」
ソル「冒険者ギルドとの戦争になれば、魔導師ギルドといえど無事に済むとは言い切れないからね」
《page 23》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
ルナ「本日のところは失礼させていただきます」
ソル「また会うことがないように祈っておきますよ」
最後に定型的な言葉を残し、立ち去っていく二人。
それを見送った後で、安堵しながらその場に座り込むエディ。
ステラはそんなエディをねぎらうように頭を撫でた。
◯冒険者ギルド本部 ギルドマスター執務室
裏庭のエディ達を、高階の窓からアレクサンドラが見下ろしている。
その顔に浮かんでいるのは満足そうな笑み。
少し離れたところに、イグナシオがいつも通りの無表情で控えている。
アレクサンドラ「どうやら上手くいったようだな」
アレクサンドラ「これでまた一歩、魔導器の普及が進みそうだ」
イグナシオ「しかしながら、魔導師ギルドの警戒心が強まるのは避けられませんな」
《page 24》
◯冒険者ギルド本部 ギルドマスター執務室(前ページから継続)
アレクサンドラ「前にも言った通り、むしろ警戒心を抱いてもらわなければ困るんだ」
アレクサンドラは窓際から離れ、執務デスクに腰を下ろす。
アレクサンドラ「この現代社会は魔導師に酷く依存している」
アレクサンドラ「荒れ狂う海を鎮めて漁師達を守り、畑を襲う害虫の群れを焼き払い、時には雨を呼び時には雲を晴らす」
アレクサンドラ「風を操る魔法の恩恵がなければ、船を使った物流が致命的なまでに滞って、全ての経済活動が麻痺しかねない」
アレクサンドラ「各都市の食料庫で、魔法による長期保存措置が取られていない場所は存在しないだろう」
イグナシオ「国家レベルの経済計画すら、魔法に頼ることが大前提ですからな」
《page 25》
◯冒険者ギルド本部 ギルドマスター執務室(前ページから継続)
アレクサンドラ「魔導師に一切頼らず生きようと思えば、百年前の生活水準に逆戻りだ」
アレクサンドラ「しかしその重要性の割に、魔導師はあまりにも数が少なすぎる」
アレクサンドラ「我々のように、職務上必要な魔法を修めた非魔導師もいるにはいるが、どうあがいても例外的な少数派でしかない」
アレクサンドラ「生まれつきの才能がなければ、自然の魔力を体内に取り込むことすらできないのだからね」
イグナシオ「各地の魔導学院が人材育成に努めているのでは?」
アレクサンドラ「魔導学院の方針は『少数精鋭の一流を育てる』ことだよ。どこの学院もそれは変わらない」
アレクサンドラ「頭数を増やすことには興味がないし、それどころか『質の低下を避けるため』なんていう名目で過剰な選別を続けている」
アレクサンドラ「しかも一流になりきれなかった落伍者すら、魔導師の助手や下働きとして抱え込んで離さないときた」
《page 26》
◯冒険者ギルド本部 ギルドマスター執務室(前ページから継続)
アレクサンドラ「結果として、魔導師は軒並み傲慢になった」
アレクサンドラ「当然の帰結だ。どれだけ横柄かつ不誠実に振る舞っても、仕事の依頼が絶えることはないのだからな」
アレクサンドラ「他の魔導師に乗り換えられるならまだしも、肝心の『他の魔導師』を見つけるだけでも一苦労だ」
アレクサンドラ「先日、市内の公衆浴場が急遽営業を取りやめた事件があっただろう?」
アレクサンドラ「あれも勤務予定だった魔導師が、連絡もせずに仕事を放り出したことが原因だ」
イグナシオ「……それは承知しています。我々が契約している魔導師も、大部分は酷いものだ」
イグナシオ「前衛地区で雇った治癒魔導師達の怠慢で、果たして何人の冒険者が助かる命を失ったことか」
イグナシオ「もちろん、職務に対して誠実な魔導師もいるにはいますが」
イグナシオ「そのほとんどは、他の魔導師のしわ寄せに耐えかねて、そう長くないうちに辞めてしまうものです」
アレクサンドラ「我らがギルドマスターが、魔導師に頼らない社会を望んでいるのも理解できてしまうな」
《page 27》
◯冒険者ギルド本部 ギルドマスター執務室(前ページから継続)
アレクサンドラ「だが私は、魔導師がいなくなればいい、とまでは思わない」
アレクサンドラ「『一般人でも使える魔導器』の出現を脅威に感じて、自分達の問題の解決を真摯に進めてもらいたい――それが偽らざる本音だよ」
イグナシオ「ですが、もしも連中が強硬策に……エドワードの妨害に打って出た場合は?」
アレクサンドラ「ギルドマスター代理の肝煎りのプロジェクトをか?」
アレクサンドラ「メリクリウスは老獪な男だ。そこまで短絡的な愚行には走らないだろうさ」
アレクサンドラ「それに現場レベルの暴走なら、問題なく対処できる備えを固めてある」
イグナシオ「……それでもなお、自分達の問題から目を背けたなら?」
アレクサンドラ「そのときは、ギルドマスターの願いを叶えるしかなくなるな」
アレクサンドラ「エドワードの魔導器なら、きっと世界の一つや二つは変えられるはずだ」
アレクサンドラ「私はそう信じているよ」
《page 28》
◯自由都市オリエンス 商業区画 ジャンクショップ前
第2話のジャンクショップで買い物を終えたエディが、荷物を抱えて店の外に出てくる。
そこに偶然フェリシアが通りかかり、軽い態度でエディに声をかける。
前ページまで台詞中心のシーンが続いたので、このシーンは台詞少なめに。
フェリシア「やっほー、久しぶり」
エディ「フェリシアさん?」
《page 29》
◯自由都市オリエンス 商業区画 カフェテリア
場面転換。腰を据えて話をするために移動した後からシーン開始。
場所は洒落たカフェテリアのオープンテラスで、二人が座ったテーブルの上には二人分の甘味。
フェリシアは久々に会ったエディを手放しで褒めているが、エディは慣れない場所に戸惑っていてそれどころではない。
フェリシア「聞いたよ、エドっち。先週の説明会も大好評だったそうじゃない」
説明会のシーンの翌週になっていることをさり気なく説明。
フェリシア「最近はどのパーティーも一つは魔導器を持ってるし、マジで大活躍じゃん!」
エディ「や、やめてくださいよ。一番肝心な仕事は全く手つかずなんですし」
フェリシア「一番肝心な仕事っていうと……ああ、アレかぁ」
エディ「はい、アレです」
二人共同じものを思い浮かべて難しい顔。
《page 30》
◯自由都市オリエンス 商業区画 カフェテリア(前ページから継続)
エディ
(偽造困難な次世代型ギルドカードの開発。ほんと無茶振りしてくれるよなぁ)
(休学期間の一年かけてやればいいから慌てなくても大丈夫……なんて思ってたけど)
(あれよあれよと一ヶ月、もうすぐ二ヶ月目まで見えてきた)
(さすがにそろそろ着手くらいはしておかないと……)
フェリシア「でもさ、例の仕事を押し付けられたのって、別にエドっちだけじゃないんでしょ?」
エディ「ええ、まぁ。古いやり方の改良も進めておくとか何とか」
フェリシア「だったら、エドっちがプレッシャー感じる必要なんかないじゃん」
フェリシア「普通の魔導器だけでもギルドにめっちゃ貢献してるんだし、無茶ぶりは他の人に任せちゃいなよ」
フェリシアのあっけらかんとした助言を受け、エディは少し肩の荷が下りたように表情を綻ばせる。
エディ「……そうかも、しれませんね」
《page 31》
◯自由都市オリエンス 商業区画 カフェテリア(前ページから継続)
エディ「だけど、やれるとこまでやってみようと思うんです」
エディ「無謀な夢を叶えようとしてるんですから、これくらいの無理難題で逃げてなんかいられません」
フェリシア「エドっちは真面目だなぁ」
慈しむような笑みを浮かべるフェリシア。
エディが責任感ではなく、向上心で仕事に取り組もうとしていると分かって安心した様子。
《page 32》
◯自由都市オリエンス 商業区画 カフェテリア(前ページから継続)
フェリシア「でもさ、実際問題どうにかできそうなの?」
フェリシア「さすがにノープランじゃ無理ゲーもいいとこでしょ」
フェリシアの素朴な質問を受け、エディは腕組みをして苦々しく顔を歪める。
シリアスな表情ではなく、むしろギャグっぽさのある苦悶。
エディ「それなんですけどね……一応、構想みたいなのは浮かんではいるんですよ」
フェリシア「え、マジ!?」
エディ「ただ、現状の僕だと知識が足りないというか、専門書に頼らないと無理っていうか」
エディ「これまで作った魔導器より格段にハイレベルなんですよ」
《page 33》
◯自由都市オリエンス 商業区画 カフェテリア(前ページから継続)
フェリシア「じゃあ魔導師ギルドに本を借りたら――」
エディ「無理ですね。絶対貸してくれないです」
食い気味に即答するエディ。
フェリシア「じゃあどうするのさ。魔法の専門書なんて、この街じゃ魔導師ギルドしか持ってないよ?」
エディ「……いえ、本を借りるアテもあるんです」
エディ「あるんですけど、頼りたくないというか、気まずいというか……」
フェリシア「焦らすなぁ。法律的にヤバいとかじゃないなら、お姉さんに言ってみ?」
エディ「……学校ですよ」
《page 34》
◯アルスマグナ魔導学院 校舎のイメージ映像
大コマのイメージ映像を背景にエディとフェリシアの台詞を乗せて締め。
エディ「アルスマグナ魔導学院」
エディ「つい最近まで、僕が通っていた学校です」
フェリシア「……はいっ!?」
◯自由都市オリエンス 市議会
ページの上3分の2程度に、円卓を囲む議員達(各ギルドの代表者)の全体像を。
ページの下3分の1程度に、アレクサンドラと魔術師ギルドの代表がにらみ合う顔を描写。
(アレクサンドラの方は余裕がある不敵な笑みで、相手側は顔にシワを寄せている)
以上の描写を背景に、ナレーションでこの街の社会情勢の説明を加える。
ナレーション
「自由都市オリエンスは、どの貴族の領地にも属さない、国王直属の特別な自治領である」
「誰からも支配を受けない代わりに、政治経済の全てを市民達の手で行わなければならない」
「街を統治するのは市議会。そして市議会を構成するのは、各ギルドの代表者達」
「この街において、ギルドは単なる職業組合の枠組みを越え、市政の中心すら担っているのである」
《page 02》
◯自由都市オリエンス 市議会(前ページから継続)
ナレーション「市議会に議席を持つギルド、二十五団体」
ナレーション「それらの頂点には、都市内外に多大な影響力を持つ『三大ギルド』が存在する」
議長「二人とも落ち着きなさい。まずはメルクリウス、査察を要求する根拠の説明を」
ナレーション
「序列第一位、司法官ギルド」
「法律家や裁判官が属するギルドであり、市議会の議長もこのギルドから選出される」
「ただし、この序列の高さは『オリエンス市は法律を重んじる』という意思表示のための特別枠に過ぎず、実際の影響力では三番手に甘んじている」
アレクサンドラ「その通り! そもそも君達は、魔法の技術を売り物にしているのであって、魔導器をギルド外に販売しているわけではないはずだ」
アレクサンドラ「しかも一般人向けの魔導器など、欠片も関心がなかったんじゃないか?」
アレクサンドラ「魔導師ギルドの縄張りには手を突っ込んでいない。文句を言われる筋合いはないな」
ナレーション
「序列第二位、冒険者ギルド」
「オリエンスは未開領域探索の前線基地として発展した」
「当然、この都市における冒険者の立場は極めて高い」
《page 03》
◯自由都市オリエンス 市議会(前ページから継続)
壮年の魔導師、メルクリウス「確かに、現時点においては違法だと言い難い」
メルクリウス「我々が懸念しているのは将来的な問題だ」
ナレーション
「序列第三位、魔導師ギルド」
「オリエンスで活動する正規の魔導師は、例外もなくこのギルドに属している」
「他の都市と同様、魔導師は市民生活の礎であり、魔導師に頼らない生活を送ることは極めて難しい」
「冒険者ギルドは都市の収入を、魔導師ギルドは都市の生活を支える組織である」
「他ギルドからは荷車の両輪と喩えられることもあるが、両団体の関係性は――御世辞にも良好とは言えなかった」
メルクリウス「貴様らのギルドマスターの暴言、忘れたとは言わさんぞ」
メルクリウス「『いずれ、魔導師に頼らずに済む時代を作るべきだ』」
メルクリウス「奴の言葉だけなら、下らぬ妄想と切って捨てることもできたがな」
アレクサンドラ「我々が魔導器を研究していると聞いて、いよいよ行動に打って出たと思い込んだ、と
アレクサンドラ「あれはギルドマスターの個人的な見解に過ぎないと説明しただろう?」
メルクリウス「どうだかな。貴様はギルドマスターの右腕と呼ばれた女だ」
メルクリウス「代表代行として、奴の思想の実現を目指しても不思議はあるまい」
二人の間に張り詰めた強烈なプレッシャーに、他のギルドの代表者達は口を挟むこともできない。
《page 04》
◯自由都市オリエンス 市議会(前ページから継続)
そんなとき、議長が鷹揚とした態度で折衷案を提示する。
議長「ふむ、ではこうしたらどうですかな」
議長「正式な査察ではなく、魔導師が個人的に『見学』をするのです」
アレクサンドラ&メルクリウス「「見学」」
議長「市議会の査察は簡単に行っていいものではありません」
議長「査察に踏み切った事実そのものが、ギルドの活動に違法性の疑い有り、という意味合いを持ってしまいますからね」
議長「しかし、単なる見学すら拒むほどの極秘研究だというなら、メルクリウスの懸念にも説得力があると言わざるを得ないでしょう」
《page 05》
◯自由都市オリエンス 市議会(前ページから継続)
アレクサンドラ「ふむ、こちらとしては見学を拒む理由はない」
メルクリウス「悪くない提案だ。現場を見れば、脅威足りうるかも分かるというもの」
議長「決まりですね」
議長「これはあくまで両ギルド間の交流という形で処理します」
議長「事を大袈裟にするのはよくありませんからね」
議長「では、次の議題を――」
◯冒険者ギルド本部 建物内部の一角
場面転換&時間経過。見学の件を聞かされたエディが、苦悶混じりに驚きの声を絞り出す。
エディ「ま、魔導師の見学ぅ!?」
《page 06》
◯冒険者ギルド本部 どこかの部屋
エディの会話の相手は、アレクサンドラの側近の大柄な冒険者、イグナシオ。
慌てふためくエディとは対照的に、イグナシオは無表情で落ち着いている。
エディ「勘弁してくださいよ! 無理に決まってるじゃないですか!」
イグナシオ「何故だ? 前にも見学者を受け入れただろう」
イグナシオ「ステラ・アルヴァによる発明品の紹介も、かなりの好評を博したと聞いているが?」
エディ「あの人達は冒険者だったじゃないですか!」
エディ「僕の経歴分かってますよね!?」
エディ「魔導学院の進級試験で一発不合格ですよ!」
エディ「プロ呼んで見てもらうとか絶対無理ですからね!」
イグナシオ「ふむ……」
《page 07》
◯冒険者ギルド本部 どこかの部屋(前ページから継続)
イグナシオは手帳を開いて予定を確認し、エディを納得させるための妥協案を提案する。
イグナシオ「確か、来月は大人数の見学が五件ほど予定されていたな」
エディ「は、はい。見学希望が凄く多かったから、できるだけ同じ日に纏めてもらったと……」
イグナシオ「ならば、魔導師には身分を偽って見学に参加してもらうとしよう」
エディ「……はい?」
イグナシオ「冒険者の振りをさせる、ということだ」
イグナシオ「魔導師が来ていると分からなければ、緊張することもなくなるだろう」
《page 08》
◯冒険者ギルド本部 どこかの部屋(前ページから継続)
エディ「そうかもしれませんけど……そんなことできるんだったら、知らないうちに済ませてもらった方が……」
イグナシオ「騙し討ちのような真似をするのは不誠実だからな」
エディ(その誠実さは要らなかった……!)
◯自由都オリエンス 市庁舎
アレクサンドラが廊下を歩きながら、手に持った水晶玉越しにイグナシオからの報告を受ける。
描写するのはアレクサンドラ側だけで、イグナシオは声だけ。
ナレーション「同日。自由都市オリエンス、市庁舎――」
イグナシオ『エドワード・オグデンからの同意を取り付けました』
イグナシオ『魔導師ギルドの連中には冒険者を名乗らせます』
アレクサンドラ「ご苦労。後は私が引き受けよう」
イグナシオ『了解です。しかし、本当によろしかったのですか?』
《page 09》
◯自由都オリエンス 市庁舎(前ページから継続)
イグナシオ『エドワードには普段通り仕事をするように指示をしました』
イグナシオ『魔導師ギルドの連中がそれを見れば、十中八九エドワードの技術を脅威と感じるでしょう』
イグナシオ『ならば、あえて手を抜かせた方が良かったのでは?』
アレクサンドラ「構わん。むしろ脅威だと思わせることが目的だからな」
イグナシオ『……?』
アレクサンドラ「私はね、イグナシオ。エドワードの経歴と技能を知った瞬間、天啓を受けたような気分になったんだ」
イグナシオ「この硬直した世界を変えうる可能性。彼の発明品からは、それを確かに感じさせられたよ」
《page 10》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場
場面転換。大勢の冒険者達を前に、エディとステラが新型魔導器の説明をしている。
司会進行はステラの担当で、エディは実際に魔導器を動かしてみせる担当。
前ページまでは台詞多めだったので、このページはキャラを大きめに。
ナレーション「一ヶ月後――」
ステラ「えーっと、それでは見学の方、こちらにどうぞ!」
ステラ「新型魔導器とマナ・カートリッジについて説明させていただきます!」
冒険者達の最後方に、意味深な二人組の後ろ姿。
二人組の片割れ1(始まったみたいだね、姉さん)
二人組の片割れ2(ええ、じっくり見せてもらうとしましょう)
《page 11》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
二人組の正体は魔導師かつ双子の美少年と美少女。
冒険者に紛れ込んでいるが、顔立ちや髪の色など明らかにモブとは違う雰囲気。
モノローグで強キャラのように描写しておく(この回では実力を発揮する機会がないので、驚き役としてのインパクトを高めるための演出)
二人組の片割れ 弟(一番奥にいる奴がエドワード・オグデンのようだね)
二人組の片割れ 弟(アルスマグナ魔導学院の生徒で、現在は休学中)
ナレーション「魔導師ギルド所属 二級魔導師 ソル」
ナレーション「得意属性 火・風 魔法の他、双子の姉と思考を共有する能力を持つ」
二人組の片割れ 姉(一年目の進級試験で落第したそうよ)
二人組の片割れ 姉(アルスマグナは進級しやすい学院なのに、どれだけ無能なのかしらね)
ナレーション「魔導師ギルド所属 二級魔導師 ルナ」
ナレーション「得意属性 水・土 それぞれ単独の能力は二級相当だが、思考の共有による四属性連携は特一級魔導師に迫る」
冒険者達の後ろに隠れて冷笑する双子。明らかにエディを見下している。
ソル(僕達が通った学院なら入学すら出来なかっただろうね)
ルナ(初戦は落ちこぼれの小銭稼ぎ。マスター・メルクリウスの取り越し苦労に決まってるわ)
そんな目で見られているとはつゆ知らず、司会進行のステラが発明品の説明を開始する。
ステラ「ええっと、まず紹介するのはこちら!」
《page 12》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
ステラが見学者達にマナ・カートリッジを高く掲げてみせる。
前話のそれよりも更に洗練され、スマートフォンのバッテリー程度の厚みと大きさになっている。
ステラ「冒険者ギルド製魔導器の根幹を成す新発明!」
ステラ「マナ・カートリッジです!」
続けて、ゴルフボール程度の大きさの赤い魔石を数個、もう一歩の手で提示する。
ステラ「この小さな板の中には、これらの魔石全てを合わせたのと同等の魔力が蓄積されています」
ステラ「重さも大きさも大幅削減! どうぞ、実際に触ってみてください!」
近くにいた冒険者にマナ・カートリッジを渡すステラ。
モブ冒険者A「ほ、本当だ! 滅茶苦茶軽い!」
モブ冒険者B「これなら金貨の方が重いんじゃないか?」
《page 13》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
自信満々に解説を続けるステラ。
エディは後ろの方で次に見せる発明品の準備をしている。
ステラ「実は、魔導師が使っている魔導器にも、魔力を通すだけで機能するものあるんです」
ステラ「それが一般人に普及しない理由は、とにもかくにも魔力の確保!」
ステラ「魔導師は自分で魔力を注げば事足りますけど、一般人はそんなことできませんからね」
ステラ「だけど、魔力を蓄積する素材はとっても嵩張るんです。魔石ですらマシな方なんですよ?」
エディがまるでアシスタントのように、携行魔力灯をステラに渡す。
ステラ「例えば、これは魔力を光に変える魔導器なんですけどね」
ステラ「この大きさに魔石をギチギチに詰めても、たった二時間でエネルギー切れです」
ステラ「一晩中灯そうと思ったら、両手に収まりきらないくらいの魔石が必要になっちゃいます」
《page 14》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
ステラ「ところが! この形に合わせた円筒形のマナ・カートリッジなら、丸一日つけっぱなしでも全然余裕!」
ステラ「あっ、一日しか持たないって意味じゃありませんからね?」
驚きと感心の声を漏らす冒険者達。
その後方で、ルナとソルの双子が愕然としている。
ルナ(あの小さな板に魔石数個分の魔力ですって? ありえないわ!)
ソル(入手して調べてみる必要があるね。だけど、奴ら簡単に手放すかな)
ルナ(どうせ手放さないでしょうね。相当な貴重品に違いないわ)
ルナ(魔法で誤魔化して持ち去りましょう。リスクを犯すだけの意義はあるわ)
念話で深刻に話し合うルナとソル。
そのすぐ近くで、モブ冒険者があっけらかんと購入を希望する。
モブ冒険者C「これって買えるんスか?」
ステラ「売ってますよー。買って帰ります?」
ルナ&ソル((軽っ!?))
《page 15》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
ステラ「でも、マナ・カートリッジだけあっても意味ないですよ」
ステラ「ちゃんと魔導器も買ってくださいね」
エディがテーブルの上で箱を方向け、色々な大きさのマナ・カートリッジをばらばらと出していく。
唖然としているルナとソル。最後に自動車のバッテリー並のサイズがズシンと置かれ、完全に目を丸くする。
ステラ「この大きさなら魔石換算で……どれくらいだっけ。荷馬車一杯分?」
エディ「さすがに大袈裟。八割か九割くらいじゃないかな」
ステラ「えー? だったら大体あってるって!」
エディ「それはさすがに大雑把」
軽い雰囲気のエディとステラとは対照的に、ルナとソルはどんどん表情が険しくなる。
ソル(姉さん! あいつら常軌を逸してるよ!)
ルナ(落ち着きなさい、ソル)
ルナ(いくら魔力貯蔵技術に秀でていても、使い道が低レベルなら脅威に値しないわ)
ソル(そ、そうだね、姉さん。照明器具程度なら恐るるに足らずだ)
《page 16》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
ステラ「さて、続いては皆さんお待ちかね! 冒険に役立つ魔導器の紹介です!」
ステラ「たくさんあるので、もったいぶらずにどんどん行きますよ!」
前話からの一ヶ月の間に開発・改良した発明品の紹介。
作中の展開的にも、漫画上の描写的にも、テンポよく紹介していく。
ステラ「まずは野外調理機! 火種も燃料も一切不要! 全てマナ・カートリッジの魔力でやっちゃいます!」
薄型のカセットコンロに似ているが、カセットボンベを入れる円筒形の部分がない形状。
ステラ「続いて携帯保冷箱! 腐りやすい魔物素材も安全に持ち帰り! 折りたたみ式なので持ち運びも楽ですよ!」
ハードタイプのクーラーボックスのような見た目。冷蔵庫ではない。
ステラ「ちなみに、この二つには建物に備え付けるための大型タイプもありますよ」
ステラ「大型の保冷箱は、もう『冷蔵庫』って名付けた方がいいくらいに冷えるので、長期遠征の探索をするときに便利かもしれませんね」
《page 17》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
引き続き、テンポよく発明品の紹介。
ステラ「それからそれから、運用試験で大好評連発! 通信器の一般販売も始まります!」
ステラ「範囲は狭めだけど持ち運び簡単な小型タイプと、持ち運びが大変だけど広範囲の大型タイプ!」
ステラ「パーティーに一つ大型を置いといて、メンバーが小型を一つずつ持つのがベストかもですね」
小型通信器はトランシーバー程度、大型通信器は昔のラジカセ程度の大きさでマイクを外して使うタイプ。
ステラ「お役立ちアイテムじゃなくて、もっと派手なのが欲しいって人もいますよね?」
ステラ「それならこちら! 魔導式炸裂弾! 本当に凄い威力してるんで、購入にはギルドの審査が必要です! それくらいマジの奴!」
エディが序盤で使っていたものから、ハンドメイド感を無くしたような外見。
ステラ「使い捨ての投擲タイプは色んな効果のものを開発中です! お楽しみに!」
《page 18》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
ステラがまだまだ紹介を続けている間に、ルナとソルが念話で深刻に話し合う。
ソル(魔導器としての性能は、決して高いわけじゃない……と思う)
ソル(だけど問題は、魔力を流し込むだけで機能するということ)
ソル(マナ・カートリッジさえあれば、ただの一般人が恩恵を受けられるということだ)
ルナ(その通りよ、ソル)
ルナ(しかもギルドの調査によれば、エドワード・オグデンが冒険者ギルドに加わってから、まだ一カ月余りしか経っていない)
ルナ(たったそれだけの間に、これほどの成果を叩き出したのよ)
ルナ(今はまだ、冒険者が求める便利な道具に留まっているけれど、いずれは……)
ソル(魔導師の役目を奪う導具を生み出すかもしれない。そういうことだね、姉さん)
ルナ(『いずれ、魔導師に頼らずに済む時代を作るべきだ』)
ルナ(……冒険者ギルドのマスターが願ったように、ね)
《page 19》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
ステラ「現時点で公開可能な情報は以上です!」
ステラ「紹介した魔導器とマナ・カートリッジはギルド本部内で販売していますので、購入ご希望の方はそちらへどうぞ!」
一斉に移動を開始する冒険者達。
人の波がなくなった後には、エディとステラ、そして双子の魔導師だけが残される。
二人が残ったのを見て不思議そうなステラ。
一方、エディは何かを察した様子で苦笑しながら、一歩前に出て二人に話しかける。
エディ「説明会はいかがでしたか?」
ソル「大変素晴らしい発明の数々でした。冒険者としてはありがたい限りです」
エディ「ああ、いえ。そうじゃなくって」
《page 20》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
エディ「聞かせてください。魔導師として、どう感じたのかを」
ルナとソルの表情が凍りつく。この描写を大コマで強調。
エディの後ろでは、ステラが大袈裟なリアクションで驚いている。
ルナ「……よく気付いたね」
エディ「当たり前ですよ」
エディ「他の人達は皆、目を輝かせながら驚いていたのに」
エディ「一番後ろの二人だけは、苦虫を噛み潰したみたいな顔で睨んでたんですから」
《page 21》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
ルナは溜息を吐き、敗北を認めて開き直ったかのように、威圧感を捨てて砕けた態度を取った。
ルナ「最後尾に陣取ったのが失敗ね」
ルナ「冒険者達の反応を伺えなかったから、演技の修整ができなかったみたい」
エディ「まったくもう……おかげでこっちは気が気じゃなかったんですから」
エディ「プロの前で下手なことしたら、それこそ一生物の大恥じゃないですか」
エディの反応は、嫌味でもなければ皮肉でもなく、心の底からそう思っての発言。
ルナ「こちらとしても、どうせ醜態を晒して終わると思っていたのだけれど」
ルナ「……魔導師としての評価、聞かせてあげましょうか」
ルナとソルが無言で視線を交わす。
念話で意見交換をしているが、内容は描写しない。
《page 22》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
堂々とした、かつ事務的な態度で、ルナが視察の結果を告げる決めゴマ。
エディは「やっぱり」と思ったような顔をしつつ、それに加えて、今後の気苦労を持って青くなっている。
ルナ「二級魔導師ルナ、並びにソル」
ルナ「我々はエドワード・オグデンの技術を、魔導師社会の脅威足りうると認定します」
ステラ「そ、それって! まさかエディを……!」
ソル「強硬策を取るつもりはない。少なくとも今のところは」
ソル「冒険者ギルドとの戦争になれば、魔導師ギルドといえど無事に済むとは言い切れないからね」
《page 23》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
ルナ「本日のところは失礼させていただきます」
ソル「また会うことがないように祈っておきますよ」
最後に定型的な言葉を残し、立ち去っていく二人。
それを見送った後で、安堵しながらその場に座り込むエディ。
ステラはそんなエディをねぎらうように頭を撫でた。
◯冒険者ギルド本部 ギルドマスター執務室
裏庭のエディ達を、高階の窓からアレクサンドラが見下ろしている。
その顔に浮かんでいるのは満足そうな笑み。
少し離れたところに、イグナシオがいつも通りの無表情で控えている。
アレクサンドラ「どうやら上手くいったようだな」
アレクサンドラ「これでまた一歩、魔導器の普及が進みそうだ」
イグナシオ「しかしながら、魔導師ギルドの警戒心が強まるのは避けられませんな」
《page 24》
◯冒険者ギルド本部 ギルドマスター執務室(前ページから継続)
アレクサンドラ「前にも言った通り、むしろ警戒心を抱いてもらわなければ困るんだ」
アレクサンドラは窓際から離れ、執務デスクに腰を下ろす。
アレクサンドラ「この現代社会は魔導師に酷く依存している」
アレクサンドラ「荒れ狂う海を鎮めて漁師達を守り、畑を襲う害虫の群れを焼き払い、時には雨を呼び時には雲を晴らす」
アレクサンドラ「風を操る魔法の恩恵がなければ、船を使った物流が致命的なまでに滞って、全ての経済活動が麻痺しかねない」
アレクサンドラ「各都市の食料庫で、魔法による長期保存措置が取られていない場所は存在しないだろう」
イグナシオ「国家レベルの経済計画すら、魔法に頼ることが大前提ですからな」
《page 25》
◯冒険者ギルド本部 ギルドマスター執務室(前ページから継続)
アレクサンドラ「魔導師に一切頼らず生きようと思えば、百年前の生活水準に逆戻りだ」
アレクサンドラ「しかしその重要性の割に、魔導師はあまりにも数が少なすぎる」
アレクサンドラ「我々のように、職務上必要な魔法を修めた非魔導師もいるにはいるが、どうあがいても例外的な少数派でしかない」
アレクサンドラ「生まれつきの才能がなければ、自然の魔力を体内に取り込むことすらできないのだからね」
イグナシオ「各地の魔導学院が人材育成に努めているのでは?」
アレクサンドラ「魔導学院の方針は『少数精鋭の一流を育てる』ことだよ。どこの学院もそれは変わらない」
アレクサンドラ「頭数を増やすことには興味がないし、それどころか『質の低下を避けるため』なんていう名目で過剰な選別を続けている」
アレクサンドラ「しかも一流になりきれなかった落伍者すら、魔導師の助手や下働きとして抱え込んで離さないときた」
《page 26》
◯冒険者ギルド本部 ギルドマスター執務室(前ページから継続)
アレクサンドラ「結果として、魔導師は軒並み傲慢になった」
アレクサンドラ「当然の帰結だ。どれだけ横柄かつ不誠実に振る舞っても、仕事の依頼が絶えることはないのだからな」
アレクサンドラ「他の魔導師に乗り換えられるならまだしも、肝心の『他の魔導師』を見つけるだけでも一苦労だ」
アレクサンドラ「先日、市内の公衆浴場が急遽営業を取りやめた事件があっただろう?」
アレクサンドラ「あれも勤務予定だった魔導師が、連絡もせずに仕事を放り出したことが原因だ」
イグナシオ「……それは承知しています。我々が契約している魔導師も、大部分は酷いものだ」
イグナシオ「前衛地区で雇った治癒魔導師達の怠慢で、果たして何人の冒険者が助かる命を失ったことか」
イグナシオ「もちろん、職務に対して誠実な魔導師もいるにはいますが」
イグナシオ「そのほとんどは、他の魔導師のしわ寄せに耐えかねて、そう長くないうちに辞めてしまうものです」
アレクサンドラ「我らがギルドマスターが、魔導師に頼らない社会を望んでいるのも理解できてしまうな」
《page 27》
◯冒険者ギルド本部 ギルドマスター執務室(前ページから継続)
アレクサンドラ「だが私は、魔導師がいなくなればいい、とまでは思わない」
アレクサンドラ「『一般人でも使える魔導器』の出現を脅威に感じて、自分達の問題の解決を真摯に進めてもらいたい――それが偽らざる本音だよ」
イグナシオ「ですが、もしも連中が強硬策に……エドワードの妨害に打って出た場合は?」
アレクサンドラ「ギルドマスター代理の肝煎りのプロジェクトをか?」
アレクサンドラ「メリクリウスは老獪な男だ。そこまで短絡的な愚行には走らないだろうさ」
アレクサンドラ「それに現場レベルの暴走なら、問題なく対処できる備えを固めてある」
イグナシオ「……それでもなお、自分達の問題から目を背けたなら?」
アレクサンドラ「そのときは、ギルドマスターの願いを叶えるしかなくなるな」
アレクサンドラ「エドワードの魔導器なら、きっと世界の一つや二つは変えられるはずだ」
アレクサンドラ「私はそう信じているよ」
《page 28》
◯自由都市オリエンス 商業区画 ジャンクショップ前
第2話のジャンクショップで買い物を終えたエディが、荷物を抱えて店の外に出てくる。
そこに偶然フェリシアが通りかかり、軽い態度でエディに声をかける。
前ページまで台詞中心のシーンが続いたので、このシーンは台詞少なめに。
フェリシア「やっほー、久しぶり」
エディ「フェリシアさん?」
《page 29》
◯自由都市オリエンス 商業区画 カフェテリア
場面転換。腰を据えて話をするために移動した後からシーン開始。
場所は洒落たカフェテリアのオープンテラスで、二人が座ったテーブルの上には二人分の甘味。
フェリシアは久々に会ったエディを手放しで褒めているが、エディは慣れない場所に戸惑っていてそれどころではない。
フェリシア「聞いたよ、エドっち。先週の説明会も大好評だったそうじゃない」
説明会のシーンの翌週になっていることをさり気なく説明。
フェリシア「最近はどのパーティーも一つは魔導器を持ってるし、マジで大活躍じゃん!」
エディ「や、やめてくださいよ。一番肝心な仕事は全く手つかずなんですし」
フェリシア「一番肝心な仕事っていうと……ああ、アレかぁ」
エディ「はい、アレです」
二人共同じものを思い浮かべて難しい顔。
《page 30》
◯自由都市オリエンス 商業区画 カフェテリア(前ページから継続)
エディ
(偽造困難な次世代型ギルドカードの開発。ほんと無茶振りしてくれるよなぁ)
(休学期間の一年かけてやればいいから慌てなくても大丈夫……なんて思ってたけど)
(あれよあれよと一ヶ月、もうすぐ二ヶ月目まで見えてきた)
(さすがにそろそろ着手くらいはしておかないと……)
フェリシア「でもさ、例の仕事を押し付けられたのって、別にエドっちだけじゃないんでしょ?」
エディ「ええ、まぁ。古いやり方の改良も進めておくとか何とか」
フェリシア「だったら、エドっちがプレッシャー感じる必要なんかないじゃん」
フェリシア「普通の魔導器だけでもギルドにめっちゃ貢献してるんだし、無茶ぶりは他の人に任せちゃいなよ」
フェリシアのあっけらかんとした助言を受け、エディは少し肩の荷が下りたように表情を綻ばせる。
エディ「……そうかも、しれませんね」
《page 31》
◯自由都市オリエンス 商業区画 カフェテリア(前ページから継続)
エディ「だけど、やれるとこまでやってみようと思うんです」
エディ「無謀な夢を叶えようとしてるんですから、これくらいの無理難題で逃げてなんかいられません」
フェリシア「エドっちは真面目だなぁ」
慈しむような笑みを浮かべるフェリシア。
エディが責任感ではなく、向上心で仕事に取り組もうとしていると分かって安心した様子。
《page 32》
◯自由都市オリエンス 商業区画 カフェテリア(前ページから継続)
フェリシア「でもさ、実際問題どうにかできそうなの?」
フェリシア「さすがにノープランじゃ無理ゲーもいいとこでしょ」
フェリシアの素朴な質問を受け、エディは腕組みをして苦々しく顔を歪める。
シリアスな表情ではなく、むしろギャグっぽさのある苦悶。
エディ「それなんですけどね……一応、構想みたいなのは浮かんではいるんですよ」
フェリシア「え、マジ!?」
エディ「ただ、現状の僕だと知識が足りないというか、専門書に頼らないと無理っていうか」
エディ「これまで作った魔導器より格段にハイレベルなんですよ」
《page 33》
◯自由都市オリエンス 商業区画 カフェテリア(前ページから継続)
フェリシア「じゃあ魔導師ギルドに本を借りたら――」
エディ「無理ですね。絶対貸してくれないです」
食い気味に即答するエディ。
フェリシア「じゃあどうするのさ。魔法の専門書なんて、この街じゃ魔導師ギルドしか持ってないよ?」
エディ「……いえ、本を借りるアテもあるんです」
エディ「あるんですけど、頼りたくないというか、気まずいというか……」
フェリシア「焦らすなぁ。法律的にヤバいとかじゃないなら、お姉さんに言ってみ?」
エディ「……学校ですよ」
《page 34》
◯アルスマグナ魔導学院 校舎のイメージ映像
大コマのイメージ映像を背景にエディとフェリシアの台詞を乗せて締め。
エディ「アルスマグナ魔導学院」
エディ「つい最近まで、僕が通っていた学校です」
フェリシア「……はいっ!?」