《page 01》
◯冒険者ギルド職員寮
エディは冒険者ギルドの職員寮に引っ越すことになった。
荷物が入った箱を抱えて寮に到着したところからシーンスタート。
建物の外見は近世くらいのヨーロッパの集合住宅のイメージ。

エディ(モノローグ)
「アレクサンドラさんの誘いを受けて、僕はギルド職員として働くことになった」
「魔導学院の落第生から低ランク冒険者、そしてギルド職員」
「我ながらコロコロと立場が変わり過ぎていて、自分でもなかなか頭がついてこない」

三~四階建ての建物の階段を上りながらモノローグを続ける。

エディ(モノローグ)
「だけど、前に進めていることだけは確かだ」
「安定した給料が貰えれば、休学中に学費を稼ぐという目的も達成しやすくなるし、それに――」

第3話page 29、アレクサンドラがエディの才能を認めたコマを回想として挿入。

《page 02》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室
部屋に入ったエディが驚きの声を上げる。
寮の個室は、第2話でエディが寝泊まりしていた部屋とは段違いに立派な部屋だった。
一人暮らしにはやや広く、一家族が暮らせそうな程度の広さがある。

エディ(いいのかな、こんなに広い部屋なんて)

荷物を床に置いて、軽く部屋を見て回ることにするエディ。

《page 03》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
前2ページから引き続き、台詞よりも建物内の描写に重点を置く。

エディ(てっきりワンルームかと思ってたけど、一人で使い切れるのかな、これ)
エディ(とりあえず、普段使わない部屋は物置と作業場にするとして)
エディ(魔導器弄りもしていいって言ってたし……)
エディ(うわっ! シャワーまである!)
エディ(学院の寮も風呂場は共用だったのに……とんでもないなぁ、冒険者ギルド)

台詞の内容に合わせて部屋を見て回った後で、エディはふと別のことに思い至る。

エディ(おっと、そうだ。隣の人には挨拶くらいしとかないと)
エディ(魔導器弄りの音で迷惑かけるかもしれないし)

《page 04》
◯冒険者ギルド職員寮 廊下 隣室の前
このページも引き続き風景描写に重点を。次ページからはキャラの描写重視。
エディが隣室の扉をノックする。

隣室の住人「はいはい、今出ますよっと」

扉が開けられようとしたタイミングで、エディが気持ち早めの自己紹介をしようとする。

エディ「すみません。隣に越してきた者なんです……けど……」

《page 05》
◯冒険者ギルド職員寮 廊下 隣室の前(前ページから継続)
扉を開けて出てきたのは、ノースリーブ姿の薄着の女性だった。
サバサバとした強気な性格だと簡単に見て取れる顔立ちだが、薄着な上に髪が長く、出るところが出ているため、男性だと見間違えることはない体型。

エディ「うわっ! すみません! 出直します!」

隣室の女性「逃げんな逃げんな。後回しにしたら面倒臭ぇだろ」
隣室の女性「噂はボスから聞いてるぞ。面白ぇ道具作ってるらしいじゃねぇか」

女性の方はエディに興味津々だが、エディは年上の女性が薄着でぐいぐい近付いてくるせいで、視線を彷徨わせるだけで精一杯になっている。

《page 06》
◯冒険者ギルド職員寮 廊下 隣室の前(前ページから継続)

エディ「あああ、あの! ここって男子寮じゃなかったんですか!?」
隣室の女性「そんな区別ねぇっての。平職員は男も女も全員ここだよ」
隣室の女性「ま、自分で家探すなら別だけどな」
エディ(学院は男女で分かれてたけど……冒険者ってそういうもの?)
エディ(ああ……男女混合パーティーで野宿とかするんだから、気にしないのが普通ってこと……なのかも?)

さすがにエディも落ち着いてきて、改めて隣室の女性に顔を向ける。
ただし無用心な薄着にはまだ慣れていない。

エディ「ええと、ギルド職員の方、なんですよね。どこの部署なんですか?」
隣室の女性「どこだと思う?」

質問を質問で返されて困惑するエディ。

エディ「……用心ぼ、警備員か何かで?」
隣室の女性「それ言い直した意味あったか?」

《page 07》
◯冒険者ギルド職員寮 廊下 隣室の前(前ページから継続)

隣室の女性「受付嬢だよ。ギルド本部のカウンターであれこれしてんだ」
エディ「えっ」
隣室の女性「さてはお前、似合わないだろって思ったな?」

図星を突かれて、エディはそっと視線を逸らす。

エディ「いや、その、僕が加入申請したときにはいなかったな、と」
隣室の女性「そりゃあ、あたしだって毎日働いてるわけじゃないからな」
隣室の女性「あんたに対応したのは、多分ミラベルあたりだろ」

第2話の受付嬢の顔を思い出すエディ。

エディ(同じ受付嬢でも全然違うな……)

《page 08》
◯冒険者ギルド職員寮 廊下 隣室の前(前ページから継続)

隣室の女性「そういや、まだ名前教えてなかったっけ」
隣室の女性「あたしはベアトリクス。お硬い名前で似合わねぇだろ?」
隣室の女性「だから普段はビィって呼ばせてる。あんたもそうしてくれよ」

◯冒険者ギルド本部 職員専用区域
場面転換。カウンター裏の職員専用エリアで、エディと受付嬢のミラベルが雑談している。
ミラベルも休憩時間なので、普段よりも気を緩めている。

ミラベル「へぇ、ビィとはもう会ってきたんだ。押しが強くって大変でしょ」
エディ「ホントですよ。薄着のまま平気で外に出てきましたし」
ミラベル「あはは! 薄着ならセーフでしょ。この前なんか、いっそ裸で暮らしたいとか言ってたしね」
エディ「勘弁してください」

《page 09》
◯冒険者ギルド本部 職員専用区域(前ページから継続)
場面はそのままで話題転換。エディの仕事内容が話題になる。

ミラベル「ところで、話は変わるんだけど」
ミラベル「エディ君の仕事って、新しいギルドカードの研究開発だけなんだっけ?」
エディ「え、ちょ、その話は……!」

慌てて周囲を見渡すエディだが、ソフィは平然と笑っている。

ミラベル「大丈夫だって。ここには職員しか入れないんだから」
ミラベル「新しいギルドカードを作るかも、って話は前々からあったしね」

エディは心配して損したと言わんばかりに溜息を吐く。

《page 10》
◯冒険者ギルド本部 職員専用区域(前ページから継続)
エディがギルド職員として請け負う仕事について、二人の会話を通じて簡潔に説明。
新ギルドカードの研究開発以外にも色々と仕事がある。

エディ「さすがにそれだけじゃないですよ」
エディ「ギルドカードの研究は、一年かけてじっくり進める大目標ですから」
エディ「他の部署から要請があったモノを作ったりとか、既にあるモノを修理したりとか、細々とした仕事も同時進行でやる予定です」

ミラベル「えっ、リクエストしていいの?」
ミラベル「それならさ、勝手にお湯沸かしてくれる機械とか作ってくれたら嬉しいな」
ミラベル「冬場とか温かい飲み物が欲しくなるけど、いちいち火に掛けてたらキリがないんだよね」

エディ「……直接言わずに、後でちゃんと申請書作ってくださいね」
ミラベル「むぅ、お硬い。受付とか事務とかも向いてるんじゃない?」

《page 11》
◯冒険者ギルド本部 職員専用区域(前ページから継続)

エディ「ビィさんからも同じこと言われましたよ」
エディ「ちなみにビィさんは、逆に飲み物を冷やす魔導器をリクエストしてました」
エディ「お酒は冷やして飲むのが一番だって言ってましたけど……仕事中は飲んでないですよね?」
ミラベル「ないない。多分」
エディ「多分!?」

エディは明らかにミラベルにからかわれている。
そんなとき、扉を挟んだメインホールの方で、何やら騒がしい気配が。

ミラベル「おっと、ソフィア調査隊のお帰りか」
ミラベル「色々持って帰ってそうだし、私も手伝いに行くとしますか」

《page 12》
◯冒険者ギルド本部 メインホール
ギルド本部の受付カウンターがあるメインホールに、普段よりも大勢の冒険者が扱っている。
その中でも最大の一団は、服も体も土埃や砂埃に汚れていて、さっき一仕事終えたばかりなのがよく分かった。
彼らのリーダーは白髪でダウナー系の若い女性。
エディが受付カウンターの裏に来た時点では、その女性は気怠げな態度で、受付嬢のビィと話し込んでいた。

白髪の女性「ま、初日としては上出来じゃな」
白髪の女性「金になりそうな発掘品はまだ見つかっとらんが、今はまだ下準備じゃ」
白髪の女性「急いては事を仕損ずる。千里の道も一歩から。大船に乗ったつもりで待っておれ」

エディ(モノローグ)
「AAランク冒険者、ソフィア・フォックス」
「僕達が見つけた遺跡の調査を担当する冒険者だ」
「今はステラも、この人の調査チームの一員として遺跡を調べている」
「……だから気になった、というわけではないけれど」
「この人の経歴や人柄について、他のギルド職員に聞いてみたことがある」

《page 13》
◯冒険者ギルド本部 メインホール(前ページから継続)
引き続き、エディ視点からソフィアについて描写。
以後の話で、エディに探索用アイテムの開発を要請する依頼主になるので、ある程度強めに存在を印象付けておく。

エディ(モノローグ)
「そしたら、まぁ、何というか。思っていたのとは全然違う方向性で、耳を疑うような噂を教えられてしまった」
「曰く、ソフィア・フォックスはああ見えて百歳近い高齢なのだという」
「若く見える原因は色々と説がある、らしい」
「例えば、とある遺跡の調査中に、古代文明の秘宝を起動させてしまって若返ったとか」
「例えば、百年を生きた狐の魔獣が魔法で姿を変えているとか」
「……実際のところは、全く分からない。というか、そもそも年齢についての噂が本当だという証拠もない」
「常識的に考えたら、あの若さで多くの功績を挙げたことが原因で、根も葉もない噂話が広まってしまったんだろう」
「妙に古めかしい言葉遣いも、そんな風評の原因の一つかもしれない」

エディが受付嬢達の後ろでそんなことを考えていると、調査チームに加わっていたステラが、笑顔で駆け寄ってきた。

《page 14》
◯冒険者ギルド本部 メインホール(前ページから継続)
カウンターの裏から外に出て、ステラを迎えるエディ。
ステラは服や髪の汚れを気にもとめず、遺跡探索の感想を嬉々として語る。

ステラ「ただいまー!」
エディ「おかえり。遺跡はどうだった?」
ステラ「ほんと凄かったよ! 壁画もあれだけじゃなかったし、ドラゴンの下に――」
ソフィア「待て待て。さすがに気が早いぞ」
ステラ「あ、隊長!」

さっきまで離れた場所にいたはずのソフィアが、いつの間にかすぐ近くに。
ステラは当たり前のように応対しているが、エディは思わず驚いてしまう。

《page 15》
◯冒険者ギルド本部 メインホール(前ページから継続)

ソフィア「他所に報告できるのは当分先だと言ったじゃろ」
ステラ「あはは、すみません」
ソフィア「やれやれ……さて、エドワードと言ったな」

急に話を振られて目を丸くするエディ。

ソフィア「お主のことは、ステラからもアレクサンドラからも聞いておるよ」
ソフィア「ただでさえ、冒険者ギルドに加わろうとする魔法使い(マジックユーザー)自体が希少なものじゃが、一般人向けの魔導器を研究しているとなると、妾も初めて見るレア物じゃな」

エディ(この人、口調が独特だな)
ステラ「あれ? 魔法が使える人、調査隊にも結構いましたよね? そんなに珍しいんですか?」

ソフィア「そういうのは、必要に迫られて必要な魔法だけを身に着けたに過ぎん」
ソフィア「魔法を体系的に学んだ後で、わざわざ冒険者になろうという物好きは滅多におらんよ」
ソフィア「普通に魔導師として稼いだ方がずっと儲かるからな」

エディもうんうんと頷く。

《page 16》
◯冒険者ギルド本部 メインホール(前ページから継続)
エディはソフィアを間近で観察しながら、マニアックな心の声を早口で並べ立てる。

エディ(やっぱり、Aランク越えの冒険者ともなると、魔法についても詳しいんだな)
エディ(魔導師教育を受けていなくても、魔法をいくつか使える人はいる)
エディ(だけど、使える魔法の幅広さは魔導師の方がずっと上だ)
エディ(得意分野なら魔導師並かそれ以上の人なら、そりゃ多少はいるかもしれないけど……)

ソフィア「おっと、いかんいかん。そろそろ本題に入るとしよう」
エディ「は、はい!」

慌てて心の声を打ち切るエディ。
ソフィアが後方の冒険者に手招きをして、何かを持ってこさせる。

ソフィア「お主には、遺跡調査隊の装備品を開発してもらいたい」
ソフィア「申請書類の準備もできておるぞ」

ソフィアは冒険者から受け取ったものをエディに手渡した。
それを何気ない態度で受け取るエディだったが……。

《page 17》
◯冒険者ギルド本部 メインホール(前ページから継続)
渡されたのはとてつもなく分厚い書類の束だった。
想定外の重さに、それを受け取ったエディの手がずしりと沈む。
愛想笑いを浮かべたまま硬直するエディ。満面の笑みのソフィア。
エディの顔に冷や汗が垂れても、ソフィアは笑顔のまま表情一つ変えない。

エディ「……多くないですか!?」

ギルド本部の外を描いたコマを背景に、エディの叫びが響き渡る。

《page 18》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室
場面転換。帰宅したエディが備え付けのデスクに腰を下ろし、ソフィアから渡された書類の束をどさりと置く。
ここからしばらくは、エディが心の声であれこれと考え込むシーン。

エディ(参ったなぁ。ちょっと期待が重すぎる)
エディ(優先順位は付けてくれてるみたいだから、とりあえず優先度の高い奴から手を付けていくかな)

書類の束の上の方を片手でペラペラとめくる。
エディはそれらの中で目についた二枚を抜き取り、デスクの上に並べて置いた。

エディ(携行魔力灯と通信器の性能改善要請……か)
エディ(新しいのをイチから作るより、既存の魔導器を改良する案件の方が楽、かな)

《page 19》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
エディは二枚の申請書とにらめっこをしながら、具体的な改良プランについて思案する。

エディ(確か、ライアンさん達に使ってもらったのを、そのまま試してもらったんだっけ)
エディ(改善要請の対象は、魔力灯の持続時間と通信器の通話可能距離……うん、想定内だね)
エディ(魔力灯はずっと点けてたら二時間くらいで魔力切れ)
エディ(通信器はせいぜい数百メートルで、遮蔽物がなければ一キロ届くかどうか)
エディ(仕様通りではあるけれど、調査隊の人達にとっては物足りない、と)
エディ(まぁ、その辺を除けば好評みたいでよかった)

エディは携行魔力灯と通信器をデスクに起き、カチャカチャと弄り始める。

《page 20》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)

エディ(原因は分かりきってる。魔力が足りないんだ)

エディが魔導器から赤みがかった石を何個も取り出す。
これが魔導器のエネルギー源である魔石。

エディ(魔法のエネルギー源は大地を流れる魔力)
エディ(色んな部品で魔法を再現した魔導器も例外じゃない)

以降、エディの設定語りに簡単なイメージ図を添えて描写する。

エディ(魔導師や魔法使いは、天然の魔力を自分の体に溜め込んで、小規模な魔法ならその貯蔵魔力を消費して発動する)
エディ(自前の魔力じゃ足りないような大魔法を使うときは、貯蔵魔力だけで『魔力を集める魔法』を発動させて、かき集めた魔力で大魔法を行使する)
エディ(普通の魔導師が魔導器を使うのはこういう場合だ)
エディ(魔力を集める補助、集めた魔力の属性を変化させる補助、長期的な儀式に備えて魔力をためておく補助)
エディ(で、魔力を貯めておくときに使う素材の一つが、この魔石なわけだけど……)

《page 21》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
エディは魔石の粒をつまんで覗き込みながら苦笑を浮かべる。
以下の心の声のコマの背景として、冒険者達が魔導器のエネルギー切れに困らされているイメージ図も描写しておく。

エディ(形も大きさもバラバラだから、魔導器の中にぴっちり収まらないんだよなぁ)
エディ(どれだけぎゅうぎゅうに詰めても、魔石と魔石の間が隙間だらけで無駄だらけっていうか)
エディ(魔導器を小さく作るなら魔石が少なくなるし、魔石をたくさん詰め込めばその分だけ魔導器が大きくなる……)
エディ(魔力灯は当然として、通信器も距離を伸ばせば伸ばすほど、魔力の消費が増える一方)
エディ(まさに『あちらを立てればこちらが立たず』だよな)
エディ(他の素材も試してみるとか? 魔力を溜め込む液体ってのもあるし)
エディ(経口摂取で貯蔵魔力を素早く回復! ……みたいに宣伝してたのもあったけど、アレ本っ当に不味かったよなぁ……)

そのとき、誰かが部屋をノックする音が響いた。

《page 22》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
エディが扉を開けると、そこにいたのはさっきと変わらず砂と土に汚れた姿のステラで、何やら申し訳無さそうに笑っている。
前ページまでは台詞中心のシーンが続いたので、このページからはしばらくキャラの描写中心で緩急を付ける。

ステラ「あはは……ええっと、シャワー、貸してもらえないかなーって」
エディ「……えっ?」

突然のことに硬直するエディ。
すぐにはリアクションをすることができず、少々の間を置いてから驚きの声を上げる。

エディ「えええっ!?」

《page 23》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
シャワールームで服を脱ぐステラ。リビングのエディはシャワールームに背を向けて平常心を保とうとしている。

ステラ「ごめんね、急に。いつも使ってる公衆浴場(ルビ:おふろやさん)、お湯を沸かしてくれてる魔導師が来れなかったみたいなんだ」
ステラ「魔導師が足りないのは分かるけど、さすがにドタキャンは迷惑だよね」
エディ「事情は分かったよ。でも、それならフェリシアさんあたりに頼んだ方が……」
ステラ「フェリシアさんは依頼で出張中」
ステラ「ほら、ライアンさんがBランクになったから、受けられる依頼が増えたでしょ?」

《page 24》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
シャワーを浴び始めるステラ。
エディはどうしてもそちらが気になって仕方がないが、理性で踏みとどまっている。

ステラ「そうそう。お詫びとお礼を兼ねて、いいもの持ってきたから」
エディ「いいもの?」

テーブルに目をやるエディ。そこにはステラが持ってきた小荷物が置いてあった。

ステラ「新製品の石鹸だって。ソフィア隊長がくれたんだ」
ステラ「冒険者といえども、街では身綺麗にしておくべきじゃ! ってね」

《page 25》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
エディは気を紛らわせるため、その石鹸に意識を向けようとした。

エディ「高いんじゃないか、これ。変な臭いもしないし」
ステラ「高ランク冒険者って凄いよね。そんなの気軽にくれちゃうんだから」

ステラが気持ちよさそうに体を洗っている一方で、エディは手にした真新しい石鹸をじっと見つめ、何やら真剣な面持ちで考え込んでいた。

エディ「……そうか。こうやって固めてやればいいんだ」

《page 26》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
何かを思いつくなり、すぐさま作業机に向かうエディ。
シャワーを浴びているステラのことはもう頭にない。

エディ(魔石を自然な形のままエネルギー源にするから、あんなにかさばって仕方ないんだ)
エディ(だったら、コンパクトに収納できるように加工してやればいい)
エディ(でも、単純に削って形を整えるだけじゃ物足りない)
エディ(どうせ加工するなら、徹底的にやってやろうじゃないか!)

エディはいくつかの小粒の魔石を片手で鷲掴みにし、魔法を発動させる。

《page 27》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
発動させたのは土属性の魔法。エディの手の中で魔石が粉砕され、粉状になっていく。

エディ(魔石の粉末は、魔法陣を描く絵の具にも使われる魔法素材。性能はお墨付きだ)
エディ(低品質の魔石には不純物が多いから、砂に混ざった砂鉄を磁石で集める要領で……)

エディは裏返した袋を片手に嵌め、手のひら一杯分の魔石の粉末に手をかざし、先程とは別の魔法を使った。
すると、粉末の山の中から赤い粉状の魔石が浮かび上がり、袋越しのエディの手に集まっていく。
テーブルに残された粉末から赤みがなくなった辺りで、手に嵌めた袋をもう一度裏返し、高純度の魔石の粉末だけを確保する。

エディ(よしっ! 成功!)

《page 28》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)

エディ(高純度の魔石粉末。このまま容器に詰めても、普通に機能するかもしれないけど……)
エディ(物は試しだ。いけるとこまで行ってみよう)

エディはデスクの引き出しから液体入りのガラス容器を取り出す。

エディ(魔力水。名前の通り、魔力を蓄積させた水溶液)
エディ(小麦粉を水で練るみたいに、魔石の粉末を魔力水で練り上げてやれば、魔法陣を描くために適した絵の具になる)
エディ(何かの本にそう書いてあったはずだ)

このタイミングで、ステラがシャワールームから出てきたが、エディは作業に集中しすぎていて全く気が付かない。

《page 29》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)

エディ(普通の水じゃこうはならない。魔力水に溶け込んだ、魔力を蓄積する何かしらの物質が、魔石の粉末にも作用する……だったかな)
エディ(水気が適切なら絵の具状に。多すぎれば泥状に。少なければ粘土状に)
エディ(こういう場合なら、きっと粘土状が適切なはずだ)

やがて赤い粘土状の素材が練り上がる。
エディはそこで満足することなく、粘土状の素材を小さな薄手の容器に詰めていく。

エディ(これならどんな形にも加工できる。筒状、箱状、板状……魔導器に合わせて自由自在だ)

《page 30》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
そうして出来上がったのは、現実でいうところの携帯電話のバッテリーと同程度の大きさの板が数枚。
ここでようやく、エディが会心の笑みを浮かべる。

エディ(魔石一個分がこの一枚!)
エディ(この調子なら、どんな魔導器も簡単に小型化できる!)
エディ(……っと、喜ぶ前に、まずはテストしなきゃ)
エディ(エネルギー源として機能しなかったら何の意味もないんだから)

いそいそと準備に取り掛かるエディ。
その小さな板に魔力灯の発光部品だけを接続し、スイッチを入れる。

《page 31》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
魔力灯が眩い光を放ち、部屋全体をくまなく照らし上げる。

エディ「やった!」

すぐにスイッチをオフに。

エディ(出力は万全! 後はどれくらい持つかを確かめれば――!)
ステラ「なにそれ! 新しい発明品?」

肩越しにステラの顔がにゅっと現れる。

エディ「うわぁ!?」

《page 32》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
驚きすぎて椅子から転げ落ちるエディ。
ステラはエディが落とした小さな板を拾い、純粋な敬意のこもった笑顔をエディに向けた。

ステラ「凄いなぁ。こんなのまで作っちゃうなんて」
ステラ「いつかは魔導師の仕事がなくなっちゃうかもね」
エディ「……本末転倒すぎるって、それ」

まだ褒められ慣れていないので、エディは照れ隠しに顔を逸らすことしかできなかった。

《page 33》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
エディの手に収まった魔力バッテリー(マナ・カートリッジ)の絵を背景に、以下のモノローグ。

エディ(モノローグ)
「――こうして作った新部品を、僕はマナ・カートリッジと呼ぶことにした」
「ソフィア調査隊の要望に応えて生み出した、高密度の魔力蓄積装置」
「これでソフィアさんから頼まれた通り、サイズは据え置きで魔力灯を長持ちさせ、通信器の有効範囲を広げることができる……このときの僕は、まだそれだけしか考えが及んでいなかった」
「今になって思えば、なんて能天気だったんだろう」
「マナ・カートリッジという発明がもたらす影響が、たったそれだけで収まるはずなどなかったのに」

《page 34》
◯自由都市オリエンス 市議会
前ページの締めでアップにされた建物。
明らかに政治的な会議の真っ只中といった大部屋に、アレクサンドラも出席者の一人として加わっている。
そして、同じく参加者の一人だと思しき壮年の魔導師が、円卓の向こう側からアレクサンドラをにらみつける。

ナレーション「――十日後、オリエンス市議会」

壮年の魔導師「魔導師ギルドの代表として問う。冒険者ギルド代表代行、アレクサンドラよ」
壮年の魔導師「お前達が進めている、常人でも使用可能な魔導器とやらの開発、我々としては看過するわけにはいかん」
壮年の魔導師「よって、市議会による査察の実行を要求する」

不敵な笑みを浮かべるアレクサンドラ。

アレクサンドラ「――まいったな。痛くもない腹を探られるのは、好きじゃないんだが」