《page 01》
◯冒険者ギルド本部 正面外観
前のシーンから時間経過していることの演出も兼ねて、冒険者ギルドの外観の大コマから第2話スタート。

ナレーション「翌日――」

◯冒険者ギルド本部 受付カウンター
エディとステラが受付嬢から冒険者ギルドについての説明を受ける。
二人共、前のシーンでは旅装束かつ爆風で汚れていたが、このシーンではちゃんと身なりを整えている。

受付嬢「それでは、オリエンス冒険者ギルドのシステムについて、簡単に説明させていただきますね」

《page 02》
◯冒険者ギルド本部 受付カウンター(前ページから継続)
受付嬢によるギルドの説明。
ここからしばらく、設定解説に重点を置いたシーンが続くため、キャラの動作や情景描写は最低限に。
必要に応じて、イメージ図や地図などによる説明も添える。

受付嬢「東方未開領域を探索する冒険者の支援、それが私達冒険者ギルドの役割です」
受付嬢「支援と言っても分かりにくいですよね? 具体的には、大きく分けて三つの業務があるんですよ」
受付嬢「まず一つ目は、未開領域についての情報の共有です」
受付嬢「冒険者が探索の結果をギルドに報告して、その情報をギルドが他の冒険者に提供する」
受付嬢「このサイクルでどんどん探索を進めていくというわけです」

ステラ「はい! 質問いいですか!」
受付嬢「どうぞ!」

元気よく手を挙げるステラ。受付嬢もテンションを合わせてくる。
エディはちょっと取り残され気味。

《page 03》
◯冒険者ギルド本部 受付カウンター(前ページから継続)
引き続き設定解説パート。

ステラ「もしも報告しなかったらどうなるんですか?」

受付嬢「報告は義務ということになっていますが、基本的に罰則はありません」
受付嬢「処罰対象となるのは、危険情報を隠蔽した場合などですね」
受付嬢「ギルドへの情報提供は功績としてカウントされますので、よほどの事情でもない限りは報告をおすすめします」

エディ(知識の共有は大事だよな。学院で勉強した内容だって、誰かが研究して皆で共有したものなんだし)

受付嬢「二つ目の業務は探索成果の買い取りです」
受付嬢「情報提供とは違って、ギルドを通さない売買は薬草一束であっても罰則がありますので、くれぐれもご注意ください」

《page 04》
◯冒険者ギルド本部 受付カウンター(前ページから継続)
引き続き設定解説パート。
受付嬢がため息混じりにやれやれと首を横に振る。

受付嬢「このルールに文句をつける人、結構いるんですけどね?」
受付嬢「私達がしっかりチェックしたものだけ流通するようにしないと、偽物が市場に溢れかえって大変なことになるんですよ」
受付嬢「まぁもちろん、他所に売るときには利鞘で稼がせてもらいますけど」

エディ(変なとこ正直だな、この人)

受付嬢「そして、三つ目の業務ですが」
受付嬢「最近はむしろ、冒険者といえばこのイメージが強いかもしれませんね」
ステラ「アレですね!」
受付嬢「そう! アレです!」
エディ(さっきから何このテンション)

《page 05》
◯冒険者ギルド本部 依頼掲示板
ホールの壁を端から端まで埋め尽くす巨大な掲示板。
そこに依頼票が大量に貼り付けられ、周囲には大勢の冒険者が集まっている。

受付嬢(吹き出しのみ)
「依頼の仲介です! 都市の内外から持ち込まれた、多種多様な依頼の数々! それらを希望と能力に応じて適切に分配します!」

◯冒険者ギルド本部 受付カウンター
掲示板のカットは大コマ一つで済ませ、再び受付カウンター前での説明シーンに戻る。

受付嬢「冒険の準備にはとにかくお金が掛かります」
受付嬢「未開領域の資源を持ち帰れば相当な収入になりますが、それも毎回成功するとは限りません」
受付嬢「なので昔から、冒険者は短期間の仕事を繰り返して予算を稼ぎ、それを元手に未開領域を探索してきたんです」
受付嬢「そこから発展して、ギルドが仕事の仲介やトラブルの解決も担うようになった、というわけですね」
受付嬢「大富豪のスポンサーがいる人なんかは、こういう依頼を受ける必要はないんですけど、あくまで例外です」

《page 06》
◯冒険者ギルド本部 受付カウンター(前ページから継続)
このページで設定解説パートは終了。

受付嬢「冒険者ギルドの主な業務は以上です」
受付嬢「次に『冒険者ランク』について説明しますね」
受付嬢「まず最低ランクのEは見習いで、全員ここからのスタートになります」
受付嬢「Dは半人前。Cは一人前。Bは一流。A以上は実力や功績を称える名誉称号です」
受付嬢「厳密に言うと、正式なギルドメンバーとして扱われるのはCランクから」
受付嬢「D以下はパーティーのリーダーになったり、ギルドの運営に携わったりすることができません」
受付嬢「他の職業……例えば大工やパン屋のギルドでも、修行中の人はギルドの構成員ではありませんから、それと同じですね」

再びシュバッと手を挙げるステラ。

受付嬢「はいどうぞ!」
ステラ「Eランク冒険者はパーティーに入らないと探索ができないんですか?」

受付嬢「危険度が低い場所なら一人でも探索できます。よくある薬草採集とかですね」
受付嬢「ただし高危険度エリアに立ち入れるのは、Cランク以上の冒険者が率いるパーティーだけです」
受付嬢「短期間でたくさんお金を稼ぎたいなら、一人でコツコツやるよりもパーティーに入れてもらう方が効率的ですよ」

エディとステラが、二人揃って「しまった」「まずい」とでも言いたげな顔をする。
理由は次ページ以降。

受付嬢「説明は以上です! お二人とも、じゃんじゃん稼いでどんどんギルドに貢献してくださいね!」

《page 07》
◯冒険者ギルド本部 エントランスホール
場面転換&時間経過。
説明を聞き終えたエディとステラが、冒険者ギルドに加入できたことを喜んだり、今後の活動について二人で頭を悩ませたり。

ステラ「手に入れました! ギルドカード!」
エディ「素材は金属かな。魔法的な効果はなさそうだし、本当にただのカードなんだね」

メンバー証のギルドカードを嬉しげに掲げるステラ。
エディの方はカードの作りの方に興味を引かれている。

ステラ「それはそうと、参ったなぁ」
ステラ「エディとパーティー組んで探索すればいいかなって思ってたけど、それじゃ奥まで行けないのかぁ」
ステラ「うーん……私みたいな駆け出し、パーティーに入れてくれる人、いるのかな……」

エディ「由々しき問題だよね。僕も一年で稼げるだけ稼がなきゃいけないのに」
エディ「薬草集めばっかりじゃ絶対間に合わないよなぁ」

ちょうどそのとき、何者かの影が二人に近付いてくる。

《page 08》
◯冒険者ギルド本部 エントランスホール(前ページから継続)
人影の正体は、前話の最終ページに登場した女冒険者、アレクサンドラだった。

アレクサンドラ「はじめまして。エドワード・オグデン君とステラ・アルヴァ君だね」

エディもステラも、アレクサンドラがAAAランク冒険者兼ギルドマスター代理であることを知らないため、初対面の他人に話しかけられたときの怪訝な反応をしている。
アレクサンドラの服装も前話と違い、何の変哲もないただの私服なので、格の高い冒険者だと気付く余地がない。

アレクサンドラ「実は知人のパーティーが、一探索限定の臨時メンバーを募集していてね」
アレクサンドラ「この文字を判読できる人材を求めているのだけれど、君達はどうかな」

アレクサンドラは一枚の紙を二人の前に広げてみせる。
紙に書かれているのは、不可解な模様のようにも見える文字の羅列。
この世界で一般に用いられている文字とは全く違う。

ステラは眉を寄せて首を傾げるだけ。
しかしエディはすぐにその文字を読み解いた。

エディ「古代魔法文明の文字ですか? 魔法素材の発注書?」
ステラ「えっ? 凄い! 読めるの!?」
エディ「ま、まぁ、ちょっとね」

愛想笑いで誤魔化すエディ。

エディ(学院で教わったんだけど……落第して学費稼ぎに来ましたとか言えないよなぁ)

《page 09》
◯冒険者ギルド本部 エントランスホール(前ページから継続)

アレクサンドラ「素晴らしい! 彼らは向こうのラウンジで作戦会議の最中だ」
アレクサンドラ「仕事を探しているなら相談に乗ってやってくれないか」

◯冒険者ギルド本部 エントランスホール ラウンジ
同じエントランスホール内で違う場所に場面転換。
アレクサンドラに紹介された冒険者に話しかける場面や、自己紹介などはバッサリカットして、本当に古代魔法文字の解読ができるかどうかのテストを成功させたところからシーンを始める。

冒険者達「凄い! 本当に解読できてる!」

エディが翻訳した文章を見て、驚きの表情を浮かべる三人の冒険者達。
三人とも、エディとステラよりも年上の先輩。
ページの下部で、それぞれ一人に一コマずつ割り振って、名前と肩書をナレーション形式で提示する。

若い剣士の男「こんなの読める冒険者なんて、Aランクの連中くらいしか知らねぇぞ!」
ナレーション「Cランク冒険者 ライアン」
ベリーショートの単発で体育会系の雰囲気が強い爽やかな青年。

僧侶風の男「恐らく、冒険者になる前から習得していたのでしょう」
ナレーション「Dランク冒険者 パトリック」
長髪で線の細い美男子タイプだが明らかに堅物な雰囲気。

盗賊風の少女「ねぇねぇ! どこで勉強したの?」
ナレーション「Dランク冒険者 フェリシア」
あくまで盗賊風のファッションという意味で、全体的にギャルっぽい根明な少女。

《page 10》
冒険者ギルド本部 エントランスホール ラウンジ(前ページから継続)

エディ「ええと、その辺は秘密ってことで……」

冒険者になった経緯を言いたくなくて、笑って誤魔化すエディ。
フェリシアはターゲットをステラに切り替え、肩を組んで証言を引き出そうとする。

フェリシア「彼氏君はそう言ってるけど、実際のところどうなのさ」
フェリシア「ひょっとして凄い魔導師だったりとか?」
エディ「彼氏じゃないですよ!?」

慌てるエディ。しかしステラの方はあっけらかんとしていて全く動揺せず、いい笑顔で即答する。

ステラ「知りません! 昨日会ったばっかりなので!」
ステラ「お互いのことは詮索ナシってことにしてますし!」
フェリシア「ええー? いいじゃん、ちょっとくらい」
パトリック「フェリシア、その辺にしておきなさい」
パトリック「過去を探られたくない冒険者など珍しくもありません」
フェリシア「はーい」

パトリックのフォローに、エディはホッと胸をなでおろす。

《page 11》
冒険者ギルド本部 エントランスホール ラウンジ(前ページから継続)
ライアンが自分達の直面している問題と、エディに協力してもらいたい仕事を語る。
過去の出来事について説明している部分は、過去の光景の回想+現代の説明セリフの組み合わせで分かりやすく表現。

ライアン「それじゃ、そろそろ本題に入らせてくれ」
ライアン「俺達は魔物素材の収集をメインにしてるパーティーなんだが、遺跡に逃げ込んだ獲物を追いかけているうちに、奇妙な扉を見つけちまった」

現代風に喩えると、大型トラックが余裕ですれ違えるくらいの幅と高さの大きな扉。

ライアン「ところが、押しても引いてもまるで開く気配がない」
ライアン「扉からだいぶ離れたところに開閉装置らしきものがあったんだけど、こいつも全く機能しないときた」
ライアン「壁の奥で仕掛けが動いてる音はするんだが、扉はピクリとも動かなかった」
ライアン「んで、周りをもっとよく調べてみたら、装置の近くに古代魔法文明の文字っぽい文章があったんだ」

開閉装置のデザインは、パッと見で用途が分かりやすいものであれば何でも可。

《page 12》
◯冒険者ギルド本部 エントランスホール ラウンジ(前ページから継続)
回想演出終了。現在の描写に戻る。

ライアン「きっとこれが手掛かりに違いない! ……って考えたまでは良かったんだがな?」
ライアン「俺達は現代の魔法文字すら読めないし、食料も心許なくなってきから、渋々引き上げたってわけさ」

パトリック「ですが、せっかくの発見を忘れるのは惜しい」
パトリック「魔獣狩り以外の功績を挙げれば、ランクアップも大きく近付きますから」

フェリシア「他の連中に手柄を譲るのも癪だしね」
フェリシア「だけど古代文字とか読める奴にコネなんてないし、どうしたものかって思ってたところに、運良く君達が来てくれたってワケ」

ライアン「どうだ? 一緒に来てくれるか?」
「ひとまず今回限りの助っ人って形になるけど、もしも金になるようなモノが見つかったら、分け前は全員で等分だ」
ライアン「あと、現場で見つけた魔法文字は書き写してあるから、そいつの翻訳も頼みたい」
ライアン「翻訳の手間賃は追加で払うよ」

《page 13》
◯冒険者ギルド本部 エントランスホール ラウンジ(前ページから継続)

エディ(断る理由なんかないよな。最高に幸先いいスタートじゃないか)

エディが返事をしようとしたところで、ステラが今までにないくらいに真剣な態度で割って入る。

ステラ「あのっ! 私も連れて行ってください!」
ステラ「古代文明の遺跡、どうしても行ってみたいんです!」

普段のステラの陽気な雰囲気とのギャップに驚くエディ。
ライアン達三人は顔を見合わせ、そして優しく微笑みかける。

ライアン「最初からそのつもりだけど?」
ライアン「二人組の片方だけ引き抜くなんてしないって」

ステラ「あ、ありがとうございます!」

嬉しそうに頭を下げるステラ。
エディはステラが零した言葉が引っかかって、そちらに注意を惹かれてしまう。

エディ(……古代遺跡に行きたい……それが冒険者になった理由、なのかな)
エディ(お互い詮索なしってことにした手前、実際どうなのか聞けないけど……)

《page 14》
◯冒険者ギルド本部 エントランスホール ラウンジ(前ページから継続)

フェリシア「ところでさ。うちらが助っ人探してるって、よく分かったね。まだ募集も掛けてなかったのに」
エディ「紹介されたんですよ。ライアンさん達の知り合いだっていう女の人から」
ライアン「知り合い?」

再び顔を見合わせる三人。今度は明らかに困惑の色が浮かんでいる。

ライアン「……誰?」

◯冒険者ギルド本部 エディ達から離れたどこか
アレクサンドラが、大柄な冒険者の男(第1話終盤に登場したイグナシオ)を連れて、ギルド本部内のどこかを歩いている。

イグナシオ「珍しいことをなさいましたね」
イグナシオ「わざわざEランクのルーキーのために一芝居打つとは」
イグナシオ「あの少年がそれだけ優秀な魔導師だと?」
アレクサンドラ「十中八九、魔導師としては最底辺だ。腕を磨いても三流止まりだろう」
イグナシオ「では、何故?」

にやりと笑みを浮かべるアレクサンドラ。

《page 15》
◯冒険者ギルド本部 エディ達から離れたどこか(前ページから継続)

アレクサンドラ「魔導師ではなく、技術者として見れば可能性の塊だ」
アレクサンドラ「あの少年が使っていた魔導器……発煙筒と爆発物の残骸を見たか?」

イグナシオ「いえ、申し訳ありません」

アレクサンドラ「通常の魔導器は魔導師の補助の道具に過ぎず、魔法を使えなければ魔導器も使えないのが当然だ」
アレクサンドラ「ところが、アレらは違う」
アレクサンドラ「まだまだ完璧とは言い難いが、明らかに『魔法を使えずとも扱えること』を意識した作りになっている」
アレクサンドラ「魔導師としては敗北宣言なのだろうが……別の分野で育てば、歴史に名を残すことになるかもしれんぞ」

最後のアレクサンドラの台詞は、何も知らずに打ち合わせをしているエディの顔を描いたコマに添える。

《page 16》
◯自由都市オリエンス 商業区画
エディ達5人が商業区画で買い物をしている。探索に向けた必要物資の調達。

ライアン「必要なものがあったら、今のうちに買い込んでおいてくれ」
ライアン「未開領域にはマトモな店なんかないし、街の方とも連絡は取れなくなるからな」

フェリシア「お金のことは気にしなくていいからね」
フェリシア「ライアンの財布から出すから」

ライアン「パーティーの予算からな!」

パトリック「欲しいものがあれば遠慮なく相談してください」
パトリック「冒険のスタイルによって必要なものは変わってきますから」

ステラ「はーい!」

エディも商業区画をきょろきょろと見渡す。
ふと目に入った看板に「ガラクタ屋」の店名が。

《page 17》
◯自由都市オリエンス ジャンクショップ
何気なくその店に入るエディ。内部はガラクタだらけで商店のようには思えない。
店主も商売にやる気があるようには感じられず、エディに視線すら向けてこなかった。

店主「いらっしゃい」
エディ「あの、ここは何を売ってるんですか?」
店主「見ての通りガラクタだよ。こう見えて需要があるんでね」
店主「ぶっ壊れた鎧を修理用の部品取りにしたり、金属だけ集めて溶かして使いまわしたりな」
エディ「なるほど……あっ、これ炸裂弾の容器に使えるかも」

エディは興味を惹かれて商品を漁っていたが、不意に手を止めて目を丸くした。

エディ「こ、これは……!」

《page 18》
◯自由都市オリエンス ジャンクショップ(前ページから継続)
ライアンがエディを探してガラクタ屋に入ってくる。

ライアン「おーい、何探して……うわっ! 何だここ!?」
エディ「ライアンさん。これ買ってもらえませんか?」
エディ「代金は僕の分の取り分から天引きってことにしてください」
ライアン「別にいいけど、そんなにいいのがあったのか?」

エディが差し出したのは手の平サイズの水晶玉。二つにパックリと割れている。

ライアン「水晶玉?」
エディ「はい。魔導師が占いや遠見の魔法を使うときの媒体だと思います」

《page 19》
◯自由都市オリエンス ジャンクショップ(前ページから継続)

ライアン「直して使うのか」
エディ「無理ですね」

エディ(遠見も修復も基礎は習ってるけど、使い物になるかっていうと……)

エディ「それにこれ、かなり使い込まれてるみたいです」
エディ「ほら、断面に魔力的な劣化の痕跡が。割れたのも劣化が進んだからでしょうね」
エディ「魔法で形だけ取り繕っても元通りには機能しませんよ」

ライアン「ほらって言われても、さっぱり分からん」
ライアン「ていうかよく知ってるな、そんなこと」

エディ「多分、遠見の魔法を使っても映像を出せなくなって、声しか聞こえなくなったから手放したんだと思います」
エディ「魔法で精製した人工水晶だから、宝石としての価値も低いですし」

《page 20》
◯自由都市オリエンス ジャンクショップ(前ページから継続)

店長「詳しいな、坊主。そいつを持ち込んだ客もそう言ってたよ」
店長「で、買うのかい? 今すぐ買うなら安くしとくぜ。売れ残りだからな」

ライアン「使い道があるなら、パーティーの予算で買ってもいいけど」
ライアン「話を聞いた限りだと、使い物にならないようにしか思えないぞ」

エディ「魔法の水晶玉としては完全に再起不能ですよ」
エディ「でも、使い道はあります。前から試したかったことがあるんです」
エディ「ひょっとしたら、今回の探索の役に立てるかもしれません」

◯自由都市オリエンス 冒険者向けの安宿 夜
同一ページ内で場面転換&時間経過。
買い出しを終えたエディが見るからに安価な宿の個室に戻ってくる。
そして背負っていた荷物を床に下ろしてから、魔法で小さな光の球を空中に作り、その光を照明代わりにして鞄を漁る。

《page 21》
◯自由都市オリエンス 冒険者向けの安宿(前ページから継続)
鞄から取り出したのは、日中の買い出しで手に入れた水晶玉の残骸。
エディは魔力を帯びた指先で、水晶玉の残骸の断面を撫でるようにして、断面を平らに加工していく。

エディ(石の加工は土魔法の領分。精密な細工や宝石みたいなカッティングはできなくても、単純な形に削り出すだけなら僕にもできる)
エディ(設計は前々から考えてたとおりに。試験が近かったから一時中断してたけど、後は材料を集めて作るだけってところまでは練ってたんだ)

エディは心の声で呟きながら、水晶の加工作業を続けていく。

エディ(魔法の才能がなかったのは、入学してすぐに理解した)
エディ(ギリギリで卒業できたとしても、それじゃあ人の役になんか立てやしない)
エディ(だからずっと考えてきた。僕みたいな奴でも……それこそ一般人でも魔法の真似事ができるような魔導器を……!)
エディ(……まぁ、卒業どころか進級すら無理だったのは、さすがに想定外だったけど)

一つ目の加工が終わり、満足気に微笑むエディ。

エディ(よしっ! 一個目できた!)

仕上がったのは数センチ四方程度の水晶の薄い板。

《page 22》
◯自由都市オリエンス 橋の上 前ページから数日後
場面転換。ナレーションで数日後と明示。未開領域の側に渡る、大きな石造りの橋の上。
エディ達5人が探索の準備を整えて橋を渡っている。

エディ「未開領域の側にも街があるんですね」
パトリック「法律上の正式名称は存じませんが、冒険者の間では前衛地区と呼ばれています」
ライアン「最初は探索のスタート地点に過ぎなかったらしいんだけどな」
ライアン「人が集まりゃ商売も自然と始まって、気付いたら街がここまで広がってたらしい」

橋を渡り終えた辺りで、ステラがふとなにかに気がついて、街の一角に視線を向ける。

《page 23》
◯自由都市オリエンス 前衛地区
ステラの視線の先にあったのは、重傷を負った冒険者が魔法で治療を受けている光景だった。

ステラ「おっ、魔導師だ。治してもらえるなら、怪我しても安心かも」
フェリシア「アイツは運が良かっただけだよ。期待しちゃダメだからね」

フェリシアの忠告にピンと来ていないステラ。
エディがすかさず補足説明を加える。

エディ「魔導師は需要の割に全く数が足りてないんだ」
エディ「仕事熱心な人あちこち巡って一箇所に留まらないし、研究熱心な人は必要な分だけ稼いで後は研究室に籠りっぱなし」
エディ「多分あの治癒魔導師も、ここに常駐してるわけじゃないんだろうね」
ステラ「なるほどぉ」

パトリック「私もいわゆる神聖魔法の心得はありますが、魔導師を名乗れるほどの熟練度ではありませんし、治療については応急処置が精一杯です」
パトリック「お二人共、なるべく怪我をしないように注意してください」
ステラ「はーい」

《page 24》
◯自由都市オリエンス 前衛地区 川辺の船着き場
そんな会話を交わしているうちに、最初の目的地に到着する。
人類領域と未開領域を隔てる大河のほとり、そこに設けられた船着き場。
エディ達を待っていたのは、軽薄な雰囲気の若い魔導師。

魔導師「よぉ、来たか。時間通りだな」
魔導師「結構結構。時間にルーズな奴はロクな死に方しねぇよ」
フェリシア「自分は二日もサボってたくせに。おかげでこっちの予定が延び延びだっての」

フェリシアの文句は小声だったので、魔術師本人には届いていない。
この魔導師の役割について、ライアンが再確認という体裁でエディ(と読者)に説明する。

ライアン「昨日も説明した通り、目的地の遺跡の近くまでは船で移動する」
ライアン「目的地がハッキリしてるなら、貴重な水と食料を消費しながら歩くより、ずっと安く済むからな」

魔導師「いいか、そこの新人共。船の上では俺が絶対だ」
魔導師「指示に従わないなら、容赦なく川に叩き落とすぞ」
魔導師「分かったなら、さっさと乗れ。この後も予約が入ってんだ」

そう言って指し示されたのは、ただの木製ボート。
帆やエンジンどころかオールすらなく、係留された状態でプカプカと浮かんでいるだけ。
ステラはさすがに困惑を隠しきれていないが、エディはすんなりと納得できた様子。

《page 25》
◯自由都市オリエンス 前衛地区 川辺の船着き場(前ページから継続)
全員が乗り込んだところで、魔導師が魔法を発動させる。

魔導師「よし、全員乗ったな! 振り落とされるなよ!」

ボートの下で川の水が不自然に動き、シャチかイルカのような水の塊が形成される。
エディ達を乗せたボートは、その水の塊の背中にくっつくように一体化。
川の流れに逆らって、猛スピードで上流に向かっていく。

ステラ「わわっ! なにこれ! 凄―い!」
魔導師「お前ら運が良かったな! 俺みたいな一流魔導師が当番の日で!」
エディ達4人(自分で言うのか……)
ステラ「自分で言っちゃうんですね」

ステラだけツッコミが心の声になっていない。

《page 26》
◯オリエンス河 ボート上
ノンストップで川を遡り続けるボート。
その間、エディは魔法の仕組みの方に関心を惹かれ、押し黙ったまま分析している。

エディ(自画自賛はともかく、腕前は間違いなく一流だ)
エディ(魔法で元素に動物の形状を与えられるのは、それだけで一流の証)
エディ(僕なんか、得意属性の土魔法ですらマトモな形が作れないっていうのに……)
エディ(水属性が中心なのは間違いないとして……この速力、風属性との複合?)
エディ(いや、ひょっとしたら水の単属性で、水棲生物を模した形状がスピードを生んでいるのかも……)

魔導師「そろそろ飛ぶぞ! しっかり掴まっとけよ!」
エディ「……えっ?」

イルカの形をした水の塊が、勢いよく斜め上方に飛び上がって宙を舞う。

エディ「うわああああっ!?」
ステラ「ヒャッハー!」

森林地帯の上を、弧を描いて飛び越えていく水の塊&ボート。

《page 27》
◯未開領域 名もなき遺跡近辺 岩山の上
森林地帯から突き出した岩山の頂上付近に落下する水の塊。
着地の瞬間に勢いよく弾けて、落下の衝撃を相殺。ボートは無事に軟着陸する。

エディ「い、生きてる……?」
フェリシア「何度やっても慣れないわ、これ……」

元気なのは魔導師本人とステラだけで、他の面々はぐったり。

魔導師「んじゃ、予定通りボートは川辺に置いとくから。帰りは自力で川下りでもしてくれ」
魔導師「俺は次の予定が待ってるんでね」

魔術師が魔法で大量の水を出し、その流れを使ってボートに乗ったまま岩山を滑り降りていく。

《page 28》
◯未開領域 名もなき遺跡近辺 岩山の上
いよいよ遺跡探索開始。まずはライアンによる遺跡周辺の状況説明から。
必要に応じて、イメージ図や遺跡の断面図・見取り図などを添える。

ライアン「さて……探索対象の遺跡はこの岩山の中にある」
ライアン「というか、岩山に見えるのは表面だけで、内側はほとんど大昔の建造物だな」
ライアン「岩山をくり抜いて建物を作ったのか、建物の周りに岩盤を貼り付けて偽装したのかは知らないけど、経年劣化であちこち崩落しているみたいなんだ」
ライアン「俺達が追いかけていた魔物が、その亀裂の一つから足を滑らせて落っこちた……っていうのが遺跡を発見した経緯だ」

全員で大穴を囲んで見下ろしているコマで締めて次のページに移行。

《page 29》
◯未開領域 名もなき遺跡 内部
縄ばしごを使って遺跡の中に降りていく5人。
天井はかなり高く、建物3~4階分の吹き抜けほどの高度がある。
プロの冒険者3人は慣れたものだが、エディはおっかなびっくりで苦戦する。

エディ(降下用の魔導器も作ればよかった……!)

着地して移動しようとした矢先、何か固くて乾いたものを踏んだ音がする。
隣り合って歩いていたエディとステラが下を向くと、そこには放置された白骨死体が。
声にならない悲鳴を上げるエディとステラ。
先程の水上移動中には平然としていたステラも、今回は思いっきり驚いてエディにしがみつく(エディも取り乱しているため、密着されたことを全く意識できない)

パトリック「おっと、足元に気をつけてください。転落死した方の亡骸がありますので」
エディ「降りる前に言ってもらえませんか!?」

《page 30》
◯未開領域 名もなき遺跡 内部(前ページから継続)
気を取り直して移動再開。高い天井の亀裂から、まばらに光が注ぎ込んでいる。
このページは台詞多め。

フェリシア「ねぇ、エドっち。念のための確認なんだけど」
エディ「……エドっちって、僕ですか?」
フェリシア「うちらが最初の探索で見つけた古代魔法文字、エドっちに翻訳してもらったでしょ?」
フェリシア「あの翻訳、自信ある?」

エディ「ありますよ。簡単な文章でしたから」
エディ「第二開閉装置。書いてあったのはそれだけです」
エディ「魔法文字といっても、当時の人にとっては日常生活でも使ってた文字ですし、特別なことが書いてあるとは限りませんよ」

パトリック「しかし、値千金の情報です。第二があるならば、第一もあるのが道理」
パトリック「恐らくは、最低でも二つの装置を順番に……もしくは同時に動かすことで扉が開く仕組みだと推測できます」

ライアン「一つの扉に二つの装置。三つ目があるっていうパターンは、一旦脇に置いとくとして」
ライアン「セキュリティを高めたかったのか知らないけど、片方は扉から離れた場所に設置されていた」
ライアン「俺が建築家なら、もう片方は扉を挟んで左右対称に……」

ライアンが人間用の扉(探索の目的の大きな扉とは別物)を押し開ける。

《page 31》
◯未開領域 名もなき遺跡 内部(前ページから継続)
扉の向こうには、page 11で回想として描写した開閉装置と同じものが鎮座している。
予想が当たって満足気に微笑むライアン。

ライアン「どうだ、エドワード」
エディ「大当たりです。第一開閉装置って書いてありますね」
ライアン「よし! さっそく手分けして動かそう!」
ライアン「フェリシアはステラとここに。パトリックはエドワードと第二開閉装置の方を頼む」
ライアン「俺は中央の扉の前で待機しておく。ヤバいことが起こったら、そのときは任せてくれ」

ライアンが指示を出している間に、エディは鞄から手作りの魔導器を取り出し、フェリシアに手渡す。
現実の物品で喩えるなら、昭和末期の肩掛け式携帯電話をシンプルにしたような外見。
小さなリュックサック並のサイズだが携行可能な本体と、トランシーバーのような受話器がセットになった構造。

フェリシア「おおおっ! マジで完成したんだ!」

エディ「通信器です。ぶっつけ本番になってすみません。テストが終わったのが昨日だったもので」
エディ「使い方はステラに聞いてください。簡単なマニュアルを渡してありますから」

《page 32》
◯未開領域 名もなき遺跡 内部(前ページから継続)
エディが発明した通信器の構造を、簡単な図も添えて解説。

フェリシア「これどういう仕組み? 魔法だよね?」

エディ「基本は遠見の魔法で遠隔通信するのと同じですね」
エディ「こっちの小さい方の装置に、水晶玉から切り出した水晶板を仕込んで、そこから音を出したり取り込んだりする構造です」
エディ「ただ、術式を魔法陣とか魔法文字とか魔法素材の組み合わせで再現したり、必要な魔力を魔石なり何なりの形で内蔵させるのが大変で」
エディ「映像の送受信はスパッと諦めて、音声だけに特化させたんですが、それでもこんな大きさになっちゃいました」

ライアン「いやいや、充分に凄い発明だろ! 冒険が根本的に変わるぞ!」
パトリック「先程の御遺体も、こんな道具があれば救助を呼べたかもしれません」
フェリシア「可能性しか感じないって! マジで!」

徹底的にべた褒めされて照れるエディ。
ステラはそんなエディの横顔を見て、まるで自分のことのように嬉しがっている。

《page 33》
◯未開領域 名もなき遺跡 内部(前ページから継続)
さっき発表した分担の通り、パーティーを3つに分けて扉の開閉を試みる。

ライアン「よし、全員配置に付け!」

エディとステラはそれぞれ別の開閉装置に割り当てられ、普通なら声も届かないくらい離れている。
しかし今回は通信器のお陰で、リアルタイムで会話を交わしながら同時操作のタイミングを合わせることができた。
エディとステラが通信器越しにタイミングを合わせ、パトリックとフェリシアがそれぞれの開閉装置を操作する。

エディ&ステラ「3! 2! 1! ゼロ!」

《page 34》
◯未開領域 名もなき遺跡 探索目的の巨大な扉の前
ライアンの目の前で、巨大な扉が重厚な音を立てて開いていく。
この時点ではまだ扉の向こうの光景は描写しない。
読者に提示するのはライアンが驚愕する顔だけ。

ライアン「こ、これは……!」