《page 01》
○タリエの森の前 日中
第2話最終ページで描写された森の前に、トリスとエル、リネットの三人がいる。
台詞よりも風景描写中心のコマで、例の奇妙な山も遠景として描写。
リネット「ここは『タリエの森』といいます」
リネット「モルゲン市から最も近い森ではありますが、人間の立ち入りが許されているのは、ごく限られた範囲だけ」
リネット「森の大部分は魔族の領域――獣人達の縄張りです」
《page 02》
○タリエの森の前(前ページから継続)
森に入る前に三人が会話を交わす。
エル「何じゃ、アテというのはこれのことか」
エル「この森で狩猟だの採集だのをしようという算段じゃろ?」
エル「数年は食うに困らんと大見得を切った割に、あんまり大したことないのう」
リネット「モルゲン市に残った人の大部分はお年寄りや子供です」
リネット「今から冬を越せるくらいの食料を集めるのは、さすがに難しいと思います」
リネット「細菌は、凶暴化した『はぐれ魔族』も増えているそうですし……」
エル「はぐれの魔族か。儂がぶち殺した下郎じゃな」
リネットは心配そうにしていて、エルはからかうような態度を取っている。
しかしトリスは普段と変わらず落ち着いたまま。
《page 03》
○タリエの森の前(前ページから継続)
トリス「もう案内は大丈夫だ。リネットはここで待って……」
リネット「いえ、私も同行させてください」
リネット「それなりに魔法の心得はありますから、ご迷惑でなければ、お手伝いさせてください」
トリス「……分かった、三人で行こう」
真剣な面持ちのリネットに折れるトリス。それを見てエルが茶々を入れる。
エル「儂に拒否権はないんじゃな」
トリス「はぐれ魔族相手に怯む魔王様じゃないだろ?」
エル「ほほう、言うではないか。後悔しても知らんぞ?」
トリス「何の後悔だよ」
《page 04》
○タリエの森内部 日中
三人が森の中の道なき道を進んでいく。ほとんど獣道。
ページの終わり手前までは、木々をかき分けて進む様子を台詞なしで描写する。
トリスは余裕綽々、エルは疲れてはいないがうんざり気味、リネットは慣れない獣道に悪戦苦闘。
《page 05》
○タリエの森内部 日中
森の中を奥へ奥へと進んでいると、エルがふとあることに気がついて足を止める。
立ち並ぶ木々の中に、普通の樹木とは明らかに異なるものが混ざっている。
エル「むっ? 何だこれは、魔界の植物ではないか」
リネット「タリエの森は、魔族が魔法で生み出したものなんです」
リネット「珍しい植物が生えているのはそのせいですね」
エル「なんと」
リネット「先代領主の息子が魔族に寝返ったその日、一夜のうちに山が現れました」
リネット「それから十年の間にどんどん森が広がっていって、今ではこの通り」
リネット「噂ですけど、山が歩いているのを見たという人もいるそうですよ」
エル「ほうほう。デミウルゴスも奇妙な真似をさせたものだな」
エル「儂もやろうと思えばできるが、やる意味が全く分からんぞ」
そんな会話を交わしながら移動を再開しようとする二人を、
トリス「待った。お客さんだ」
《page 06》
○タリエの森内部(前ページから継続)
森の奥から獣人達が姿を現す。犬や狼に似た頭をした毛むくじゃらの肉体。
第2話の獣人とは違い、簡素な服や防具を身につけ、槍などの武器を携えている。
明らかにトリス達を排除しようとしている雰囲気。
エル「どう考えても敵じゃな。殺るか?」
リネット「……今更ですけど、魔族同士なのに躊躇なさらないんですね」
エル「人間も生まれが違えば平気で殺し合うじゃろ。それと同じじゃ」
エルとリネットが身構える傍ら、トリスは獣人達の防具に付けられていたエンブレムの存在に気がつく。
トリス「エルケーニッヒ。こいつらは殺すな。できるだけ怪我もさせるなよ」
エル「今度は何を思いついたんじゃ? 世話の焼ける勇者じゃのう」
この台詞と同時に、獣人達が一斉に襲いかかってくる。
《page 07》
○タリエの森内部(前ページから継続)
鎧袖一触の戦闘シーン。トリスは剣で、エルは地面から突き出す石の槍の魔法で獣人を一蹴する。
苦戦要素ゼロの瞬殺。このページを開いたら既に決着が付いているくらいの勢い。
《page 08》
○タリエの森内部(前ページから継続)
戦闘終了。トリスとエルの足元に倒された獣人達が転がっている。
宣言通り一体も殺さず重傷も負わせていない。
トリス「生きてるな? 今すぐ拠点に戻って、お前達のリーダーに伝えろ」
トリス「勇者トリストラムが会いに来た、とな」
獣人達は悔しそうにしながら、命令されるままこの場から立ち去っていく。
リネット「えっ、ど、どういうことですか!?」
リネット「殺さないだけじゃなくて、こんなにあっさり逃がすなんて……」
エル「トリストラムよ。さすがに説明してやったらどうじゃ」
エル「魔王たる儂に教えたくないのは分かるが、そこの小娘は貴様の領民じゃろう」
トリス「教えたくないとか、そういうわけじゃないっての」
獣人達の衣服からちぎれ落ちたエンブレムを、トリスが拾い上げる。
《page 09》
○タリエの森内部(前ページから継続)
トリスが前ページで拾ったエンブレムをエルとリネットに見せる。
トリス「昨日、エルケーニッヒが倒した魔族の死体も、これと同じものを身につけていた」
トリス「こいつは俺がよく知ってる魔族の旗印だ」
トリス「アイツなら話せば分かる。きっと協力してくれるはずだ」
リネット「な、なるほど……そういうことなら、確かに獣人は殺さない方が……」
エル「そう都合良くはいかんと思うがな」
エル「貴様は魔族の矜持というものを分かっておらん」
エル「人間共から恐れ戦かれてこその魔族! 簡単に尻尾を振るわけがなかろう!」
堂々とした態度で言い切るエル。
その背後から大柄な魔獣の影が飛び出してくる。
《page 10》
○タリエの森内部(前ページから継続)
飛び出してきた魔獣の正体は巨大な狼。
目線の高さが人間と変わらないくらいの巨体。
巨狼は唖然とするエルとリネットを簡単に飛び越して、轢き潰すような勢いでトリスに覆い被さる。
同じコマでギャグっぽく叫ぶエルとリネット。
リネット「勇者様ーっ!」
エル「勇者―っ!」
《page 11》
○タリエの森内部(前ページから継続)
当然、トリスは無傷。巨狼はトリスに襲いかかったのではなく、喜び勇んでじゃれ付いているだけだった。
巨狼はトリスの顔を嬉々として舐め回しながら、激しく尻尾を振りまくる。
トリスもそれを笑顔で受け入れている。
トリス「ははは! 久しぶりだな、フェルヴァック! 元気してたか?」
フェルヴァック「兄貴こそ! まさかまた会えるなんて!」
二人並んでぽかんとしているエルとリネットのコマで次のページに。
《page 12》
○タリエの森内部(前ページから継続)
前のページの最終コマと同じ構図(ほぼコピペでも可)で、リネットがポツリと呟く。
リネット「尻尾……凄く振ってますね……」
再び同じ構図で、ピキピキと怒りを貯めていくエル。
隣のリネットがそれに気付いて、ハッとした顔で焦る。
エル「何を……やっとるんじゃー!」
怒れるエルの魔法が、トリスと巨狼フェルヴァックをギャグっぽく吹き飛ばす。
トリス「ぐわーっ!」
フェルヴァック「ぎゃーっ!」
《page 13》
○タリエの森内部(前ページから継続)
前ページまでの流れから一旦仕切り直して、トリスが巨狼フェルヴァックを紹介する。
魔法で吹き飛ばされたダメージはギャグ的な痕跡程度。
トリス「あー、こいつはフェルヴァック。さっきも言った通り、昔からの知り合いの魔族だ」
フェルヴァック「任務でヘマしちまって、獣王フェンリルに粛清されそうだったところを助けてもらったんだ」
フェルヴァック「それからずっと舎弟を名乗らせてもらってるってワケ!」
トリス「何度も言ってるけど、助けたのは偶然だからな」
トリス「普通に獣王を倒しに行ったら、たまたまお前が殺されかけてただけだ」
エル「少しはツッコミどころを絞ってもらえんか」
エル「一から十までおかしなことだらけで、頭がどうにかなりそうなんじゃが」
エルはとっくに怒りを通り越して呆れ顔。
エル「しかし、貴様が追放された理由は分かるぞ。勇者に寝返ったことがバレたんじゃろ」
エル「よくぞまぁ処刑されずに済んだものじゃ」
フェルヴァック「いやぁ、それほどでも」
エル「褒めとらん褒めとらん」
《page 14》
○タリエの森内部(前ページから継続)
しばらく状況に流され続けていたリネットがようやく口を挟む。
リネット「ええと、幾つかよろしいでしょうか」
リネット「勇者様の御盟友ということなら、モルゲン市の食糧難の解決に力を貸していただける……そう思っていいのでしょうか」
フェルヴァック「もちろん! 兄貴のためになるのなら喜んで!」
リネット「……っ!」
言葉もなく喜びの表情を浮かべるリネット。
フェルヴァック「ところで、麓の街と兄貴、一体どんな関係があるんで?」
エル「それくらい聞いてから返事をせんか」
《page 15》
○タリエの森内部 木々に覆われた山の斜面
風景だけのコマを置いて時間経過を表現し、その間に事情を説明したことにする。
移動を再開しながら会話の続き。リネットはフェルヴァックの背中に乗せられている。
周囲の木々は魔界の樹木が中心になり、普通の木々はあまり見当たらなくなる。
フェルヴァック「なるほど、そういう事情が! 流石は兄貴だ!」
フェルヴァック「だったらオレ達に任せてくれ! この『ベヒモス』は食い物に困らないからな!」
リネット「ベヒモス? 山の名前ですか?」
よく分かっていなさそうなリネットとは反対に、エルは合点がいった様子で頷きながら歩いている。
エル「ああ、なるほど。この山はベヒモスだったのか」
エル「ならば貴様が大口叩いたのも納得じゃ」
トリス「だろ?」
リネット「え? あれ? 分かっていないの、私だけですか?」
リネット「ベヒモスって何なんです!?」
《page 16》
○タリエの森 ベヒモス山頂の台地
木々に覆われた山の斜面を抜け、拓けた台地上の場所に出る。
そこにあったのは獣人の集落。畑も豊かに実っていて、恵まれた土地だと伺える。
川or池or井戸などの存在で水が豊かなことも描写する。
リネット「わあっ……!」
目を丸くして驚愕するリネット。
リネット「山の上が、こんなに豊かな土地だったなんて……」
リネット「こんなにたくさんの水……一体どこから……?」
そこに獣人達が武器を持って駆け寄ってくる。
《page 17》
◯タリエの森 ベヒモス山頂の台地 獣人の集落
フェルヴァック「下がれ! オレの客人だ!」
フェルヴァックの一喝で退く獣人達。そのままトリス達は獣人の集落の中へと招かれる。
フェルヴァック「すまねぇな、兄貴。最近色々あって、こいつらも気が立ってるんだ」
トリス「封印されてた魔王クラスが蘇ったって話か」
フェルヴァック「ああ。オレ達を手下にして、ベヒモスを手に入れようって奴らが多くってさ」
フェルヴァック「大魔王の跡目争いでもする気なのかね。馬鹿らし……」
ここでようやく、フェルヴァックがエルケーニッヒの存在に思い至り、変な顔をして叫び声を上げる。
フェルヴァック「……って、うわぁ! エルケーニッヒじゃねぇか!?」
エル「気付くのが遅いわ!」
《page 18》
◯タリエの森 ベヒモス山頂の台地 獣人の集落(前ページから継続)
集落の獣人達から遠巻きの視線を送られながら、集落の奥へと向かっていく。
フェルヴァックの背中に乗ったリネットが、ひそひそとフェルヴァックに話しかける。
台詞は少なめで獣人の集落の情景描写を多めに。
リネット「あの、やっぱりお知り合いなんですか?」
フェルヴァック「そりゃ知ってるって。ああ見えても魔王なんだから」
フェルヴァック「オレは獣王の配下だったから、別にアイツの部下ってわけじゃないけどな」
エル「だとしても敬わんか! どいつもこいつも魔王を何だと思っとるんじゃ!」
《page 19》
◯タリエの森 ベヒモス山頂の台地 獣人の集落(前ページから継続)
そんなやり取りを交わしている間に、集落で最も大きな家の前にたどり着く。
フェルヴァック「オレのねぐらだ。歓迎するぜ」
リネット「え、でもこの建物、人間サイズですよね」
どう見てもフェルヴァックの巨体には合わない建物に、不思議そうな顔をするリネット。
するとフェルヴァックが魔力の光に包まれて人型に姿を変えていく。
最初は他の獣人と同じ姿になるように見せて、それを通り越してどんどん普通の人間に近い姿へと近付く。
《page 20》
◯タリエの森 ベヒモス山頂の台地 獣人の集落(前ページから継続)
変化を完了させたフェルヴァックの姿は、狼を擬人化したかのようにワイルドな、獣耳の女の姿をしていた。
フェルヴァック「ふぅ。どうだ兄貴、前より人間らしくなっただろ」
リネット「え……えええっ!?」
フェルヴァック「オレくらいの獣人になると、魔法で狼や人間の姿にだってなれるんだぜ」
フェルヴァック「もっとも、この姿じゃロクに戦えねぇから、人里に紛れ込む潜伏モードってところだな」
平然としたままのフェルヴァックとは対照的に、リネットはかなりテンパり気味。
リネット「そうじゃなくて! 女性だったんですか!」
フェルヴァック「名前で分かんなかったか? どう聞いても雌の名前じゃねぇか」
リネット「魔族の名前のニュアンスとか分かりませんよ!」
《page 21》
◯獣人の集落 フェルヴァックの自宅
石材主体の人間の街とは違い、木材主体の建物。
トリス達はそこで獣人のワイルドでボリューム満点の料理を振る舞われる。
トリスとエルは割と食べ慣れた様子だが、リネットは食べ慣れないメニューに目を輝かせている。
このページは台詞なしで、料理とそれに対するリアクションの描写を絵だけで表現。
《page 22》
◯獣人の集落 フェルヴァックの自宅(前ページから継続)
リネット「凄い! 凄いです!」
リネット「山の上なのに、どうしてこんなに食材が豊富なんですか?」
フェルヴァック「そりゃあここがベヒモスだから……って、アンタは知らないんだったっけ」
トリス「俺から説明しようか?」
フェルヴァック「いえ! お構いなく! 兄貴達は食べててください!」
フェルヴァックはオーバーな咳払いの素振りをして、ベヒモスなるものについての説明を始める。
《page 23》
◯獣人の集落 フェルヴァックの自宅(前ページから継続)
このpage 23からpage 24にかけての2ページの間、フキダシはフェルヴァックの説明セリフと、リネットからのリアクションの相槌のみとする。
説明ばかりで読者が飽きないように、説明の裏で『話を聞きながら料理をどんどん食べているリネット』『トリスの皿からこっそり肉を取ろうとして阻止されるエル』などのユーモアな絵面の描写を適宜挟んでおく。
フェルヴァック「ベヒモスとは魔獣の名前だ」
フェルヴァック「魔獣と言っても、単なる魔界の生物って意味じゃない」
フェルヴァック「大魔王デミウルゴスが魔法で生み出した、いわば生体兵器だ」
リネット「兵器? 魔獣が?」
フェルヴァック「ああ。それもただの兵器じゃないぞ」
フェルヴァック「敵の領土に解き放たれたベヒモスは、その土地の自然や作物を餌として食い荒らす」
フェルヴァック「食い物がなくなれば戦争どころじゃなくなるからな」
フェルヴァック「最終的に、敵は土地を手放して後退せざるを得なくなる」
フェルヴァック「だが、ベヒモスの本当の仕事はここからだ」
《page 24》
◯獣人の集落 フェルヴァックの自宅(前ページから継続)
フェルヴァック「目当ての土地を荒らしきったところで、大魔王はベヒモスに与えた命を没収する」
フェルヴァック「ところが、命を没収されたベヒモスの亡骸は、普通の動物みたいな死体にはならねぇ」
フェルヴァック「死体が大地とくっついて新しい地形になっちまうんだ」
フェルヴァック「すると、今まで食い散らかして溜め込んだ自然のエネルギーが放出されて、ベヒモスの亡骸を中心とした新たな自然が作り出される」
フェルヴァック「そして大魔王軍はその土地に拠点を作り、次の侵攻に取り掛かる」
フェルヴァック「こいつが大魔王デミウルゴスの大規模侵攻の黄金パターン」
フェルヴァック「戦略級魔獣兵器ベヒモスの真骨頂だ」
リネット「あ、あの……つまり、この山は……」
《page 25》
◯集落がある山(=ベヒモスの亡骸)と周囲の森を鳥瞰図で一望
フェルヴァックが説明した通り、集落があるのはただの山の上ではなく、大地と一体化した魔獣ベヒモスの亡骸の上。
ウシやゾウやサイを混ぜ合わせたような巨大な魔獣が、自然の山と見分けがつかない質感に変化してうずくまり、亡骸の上に森を生い茂らせている。
上記の鳥瞰図を背景に、下記の二つの吹き出しを乗せる。
フェルヴァック「その通り! これはただの山じゃない! ベヒモスの亡骸だ!」
リネット「ええええええっ!?」
《page 26》
◯獣人の集落 フェルヴァックの自宅
再び建物内のトリス達のシーンに戻る。
愕然とするリネットに、トリスが横から補足説明を入れる。
トリス「元々、ベヒモスは主に大陸で使われていた魔獣なんだ」
トリス「多分そのうちの一体が、何らかの目的でこの島に持ち込まれたんだろうな」
トリス「どういうつもりだったのかは、デミウルゴスに聞いてみないと分からないけど」
リネット「山が歩いたのを見たという話も、あながち間違ってはいなかったんですね……」
リネット「でも……そうすると、この集落が食料豊富なのは、大陸の自然を犠牲にしてきたから……」
リネット「私達がそれを使わせてもらうなんて、本当に許されるんでしょうか」
《page 27》
◯獣人の集落 フェルヴァックの自宅(前ページから継続)
エル「何を言うか。今更このベヒモスを大陸まで運べるわけでもなし」
エル「罪悪感があるのなら、島の復興を済ませてから恩を返せばよかろう」
エル「まぁ、儂は罪悪感など微塵も覚えんがな! 使えるものは何でも使ってしまえ!」
申し訳無さそうな顔をしていたリネットだったが、エルの言葉を受けて安堵の笑みを浮かべる。
リネット「……ありがとうございます、エル様」
フェルヴァック「ベヒモスのことは納得してもらえたか?」
フェルヴァック「だったら、そろそろ本題に入らせてもらおうか」
《page 28》
◯獣人の集落 フェルヴァックの自宅(前ページから継続)
フェルヴァック「さっきも言った通り、この山は魔王級の連中から狙われてる」
フェルヴァック「奴らは最近復活したばかりで、ろくな拠点がないし手下もほとんどいないからな」
エル「儂もここにベヒモスが眠っていると知っておったら、街よりも先にこちらを標的にしていただろうな」
エル「ここはそれほどの価値がある拠点だ」
フェルヴァック「三ヶ月の間に二十五回。オレ達が襲撃を受けた回数だ」
フェルヴァック「今のところ何とか追い払えてはいるが、無傷の勝利ってわけじゃねぇ」
《page 29》
◯獣人の集落 屋外
背景だけ場面転換。台詞は前ページの流れを継続。
集落の一角に負傷した獣人達が集められ、手当を受けている。
フェルヴァック「戦うたびに怪我人は増える一方」
フェルヴァック「魔王級の魔力にあてられて、正気を失う奴も少なくない」
フェルヴァック「この調子じゃ、いつまで耐えられるか分かったもんじゃねぇ」
《page 30》
◯獣人の集落 フェルヴァックの自宅
場面を戻して、再びトリス達とフェルヴァックがいる建物の中に。
フェルヴァック「だから頼む、兄貴!」
フェルヴァック「食料を分ける見返りってわけじゃねぇが、この集落を守るために力を貸してくれ!」
フェルヴァック「兄貴がいれば魔王級だろうと的じゃねぇんだ!」
エル「魔王の前でハッキリ言いおる。まぁ、その通りではあるがな」
エル「大魔王すら倒した男が、今更魔王如きに遅れは取るまい」
不敵に笑うエル。トリスは既に心を決めた様子で、リネットに無言の視線を向ける。
リネットはトリスの意図を理解し、微笑みながら頷き返す。
トリス「分かった。ギブ・アンド・テイクだ。それでいこう」
《page 31》
◯獣人の集落 フェルヴァックの自宅(前ページから継続)
フェルヴァックが大喜びでトリスに飛びかかる。
エルは自分の食事の皿をひょいと持ち上げて巻き添えを回避。
リネットはワイルドな女性の姿をしたフェルヴァックが、トリスに思いっきり抱きつこうとしたことを、赤面しながら怒って咎める(表情だけで台詞はなし)
当のトリスは困り顔で笑っているだけ。
フェルヴァック「よっしゃ! 愛してるぜ、兄貴!」
◯獣人の集落の外れ ベヒモスの頭部
同ページ内で場面転換。時間経過はなく、前のシーンとほぼ同時。
獣人の集落がある大地=ベヒモスの背中から少しばかり離れた、頭部に相当する場所。
平らな場所ではなく建物もない。
そこに、一体の魔族が空から音もなく降り立つ。
このページでは顔が見えず、邪悪な雰囲気のローブとオーラを纏っていることまでしか分からない。脚も見えず、地面から少し浮かんでいる。
台詞のフォントや吹き出しの形状なども禍々しく演出。
謎の魔族「さぁ、目醒めるがいい、魔獣ベヒモスよ」
《page 32》
◯獣人の集落の外れ ベヒモスの頭部(前ページから継続)
謎の魔族の正体判明。死神のような印象の骸骨。顔だけでなく手も骨。
謎の魔族「この屍王レヴナントが仮初めの命をくれてやる」
謎の魔族「我が意に従い、全てを食い荒らすのだ」
謎の魔族のオーラがベヒモスの亡骸の頭部に浸透し、亡骸全体(山全体)が揺れ動く。
◯獣人の集落 フェルヴァックの自宅
ページ最後のコマで、フェルヴァックに抱きつかれたトリスが振動に気付いた様子を描写する(台詞はなし)
○タリエの森の前 日中
第2話最終ページで描写された森の前に、トリスとエル、リネットの三人がいる。
台詞よりも風景描写中心のコマで、例の奇妙な山も遠景として描写。
リネット「ここは『タリエの森』といいます」
リネット「モルゲン市から最も近い森ではありますが、人間の立ち入りが許されているのは、ごく限られた範囲だけ」
リネット「森の大部分は魔族の領域――獣人達の縄張りです」
《page 02》
○タリエの森の前(前ページから継続)
森に入る前に三人が会話を交わす。
エル「何じゃ、アテというのはこれのことか」
エル「この森で狩猟だの採集だのをしようという算段じゃろ?」
エル「数年は食うに困らんと大見得を切った割に、あんまり大したことないのう」
リネット「モルゲン市に残った人の大部分はお年寄りや子供です」
リネット「今から冬を越せるくらいの食料を集めるのは、さすがに難しいと思います」
リネット「細菌は、凶暴化した『はぐれ魔族』も増えているそうですし……」
エル「はぐれの魔族か。儂がぶち殺した下郎じゃな」
リネットは心配そうにしていて、エルはからかうような態度を取っている。
しかしトリスは普段と変わらず落ち着いたまま。
《page 03》
○タリエの森の前(前ページから継続)
トリス「もう案内は大丈夫だ。リネットはここで待って……」
リネット「いえ、私も同行させてください」
リネット「それなりに魔法の心得はありますから、ご迷惑でなければ、お手伝いさせてください」
トリス「……分かった、三人で行こう」
真剣な面持ちのリネットに折れるトリス。それを見てエルが茶々を入れる。
エル「儂に拒否権はないんじゃな」
トリス「はぐれ魔族相手に怯む魔王様じゃないだろ?」
エル「ほほう、言うではないか。後悔しても知らんぞ?」
トリス「何の後悔だよ」
《page 04》
○タリエの森内部 日中
三人が森の中の道なき道を進んでいく。ほとんど獣道。
ページの終わり手前までは、木々をかき分けて進む様子を台詞なしで描写する。
トリスは余裕綽々、エルは疲れてはいないがうんざり気味、リネットは慣れない獣道に悪戦苦闘。
《page 05》
○タリエの森内部 日中
森の中を奥へ奥へと進んでいると、エルがふとあることに気がついて足を止める。
立ち並ぶ木々の中に、普通の樹木とは明らかに異なるものが混ざっている。
エル「むっ? 何だこれは、魔界の植物ではないか」
リネット「タリエの森は、魔族が魔法で生み出したものなんです」
リネット「珍しい植物が生えているのはそのせいですね」
エル「なんと」
リネット「先代領主の息子が魔族に寝返ったその日、一夜のうちに山が現れました」
リネット「それから十年の間にどんどん森が広がっていって、今ではこの通り」
リネット「噂ですけど、山が歩いているのを見たという人もいるそうですよ」
エル「ほうほう。デミウルゴスも奇妙な真似をさせたものだな」
エル「儂もやろうと思えばできるが、やる意味が全く分からんぞ」
そんな会話を交わしながら移動を再開しようとする二人を、
トリス「待った。お客さんだ」
《page 06》
○タリエの森内部(前ページから継続)
森の奥から獣人達が姿を現す。犬や狼に似た頭をした毛むくじゃらの肉体。
第2話の獣人とは違い、簡素な服や防具を身につけ、槍などの武器を携えている。
明らかにトリス達を排除しようとしている雰囲気。
エル「どう考えても敵じゃな。殺るか?」
リネット「……今更ですけど、魔族同士なのに躊躇なさらないんですね」
エル「人間も生まれが違えば平気で殺し合うじゃろ。それと同じじゃ」
エルとリネットが身構える傍ら、トリスは獣人達の防具に付けられていたエンブレムの存在に気がつく。
トリス「エルケーニッヒ。こいつらは殺すな。できるだけ怪我もさせるなよ」
エル「今度は何を思いついたんじゃ? 世話の焼ける勇者じゃのう」
この台詞と同時に、獣人達が一斉に襲いかかってくる。
《page 07》
○タリエの森内部(前ページから継続)
鎧袖一触の戦闘シーン。トリスは剣で、エルは地面から突き出す石の槍の魔法で獣人を一蹴する。
苦戦要素ゼロの瞬殺。このページを開いたら既に決着が付いているくらいの勢い。
《page 08》
○タリエの森内部(前ページから継続)
戦闘終了。トリスとエルの足元に倒された獣人達が転がっている。
宣言通り一体も殺さず重傷も負わせていない。
トリス「生きてるな? 今すぐ拠点に戻って、お前達のリーダーに伝えろ」
トリス「勇者トリストラムが会いに来た、とな」
獣人達は悔しそうにしながら、命令されるままこの場から立ち去っていく。
リネット「えっ、ど、どういうことですか!?」
リネット「殺さないだけじゃなくて、こんなにあっさり逃がすなんて……」
エル「トリストラムよ。さすがに説明してやったらどうじゃ」
エル「魔王たる儂に教えたくないのは分かるが、そこの小娘は貴様の領民じゃろう」
トリス「教えたくないとか、そういうわけじゃないっての」
獣人達の衣服からちぎれ落ちたエンブレムを、トリスが拾い上げる。
《page 09》
○タリエの森内部(前ページから継続)
トリスが前ページで拾ったエンブレムをエルとリネットに見せる。
トリス「昨日、エルケーニッヒが倒した魔族の死体も、これと同じものを身につけていた」
トリス「こいつは俺がよく知ってる魔族の旗印だ」
トリス「アイツなら話せば分かる。きっと協力してくれるはずだ」
リネット「な、なるほど……そういうことなら、確かに獣人は殺さない方が……」
エル「そう都合良くはいかんと思うがな」
エル「貴様は魔族の矜持というものを分かっておらん」
エル「人間共から恐れ戦かれてこその魔族! 簡単に尻尾を振るわけがなかろう!」
堂々とした態度で言い切るエル。
その背後から大柄な魔獣の影が飛び出してくる。
《page 10》
○タリエの森内部(前ページから継続)
飛び出してきた魔獣の正体は巨大な狼。
目線の高さが人間と変わらないくらいの巨体。
巨狼は唖然とするエルとリネットを簡単に飛び越して、轢き潰すような勢いでトリスに覆い被さる。
同じコマでギャグっぽく叫ぶエルとリネット。
リネット「勇者様ーっ!」
エル「勇者―っ!」
《page 11》
○タリエの森内部(前ページから継続)
当然、トリスは無傷。巨狼はトリスに襲いかかったのではなく、喜び勇んでじゃれ付いているだけだった。
巨狼はトリスの顔を嬉々として舐め回しながら、激しく尻尾を振りまくる。
トリスもそれを笑顔で受け入れている。
トリス「ははは! 久しぶりだな、フェルヴァック! 元気してたか?」
フェルヴァック「兄貴こそ! まさかまた会えるなんて!」
二人並んでぽかんとしているエルとリネットのコマで次のページに。
《page 12》
○タリエの森内部(前ページから継続)
前のページの最終コマと同じ構図(ほぼコピペでも可)で、リネットがポツリと呟く。
リネット「尻尾……凄く振ってますね……」
再び同じ構図で、ピキピキと怒りを貯めていくエル。
隣のリネットがそれに気付いて、ハッとした顔で焦る。
エル「何を……やっとるんじゃー!」
怒れるエルの魔法が、トリスと巨狼フェルヴァックをギャグっぽく吹き飛ばす。
トリス「ぐわーっ!」
フェルヴァック「ぎゃーっ!」
《page 13》
○タリエの森内部(前ページから継続)
前ページまでの流れから一旦仕切り直して、トリスが巨狼フェルヴァックを紹介する。
魔法で吹き飛ばされたダメージはギャグ的な痕跡程度。
トリス「あー、こいつはフェルヴァック。さっきも言った通り、昔からの知り合いの魔族だ」
フェルヴァック「任務でヘマしちまって、獣王フェンリルに粛清されそうだったところを助けてもらったんだ」
フェルヴァック「それからずっと舎弟を名乗らせてもらってるってワケ!」
トリス「何度も言ってるけど、助けたのは偶然だからな」
トリス「普通に獣王を倒しに行ったら、たまたまお前が殺されかけてただけだ」
エル「少しはツッコミどころを絞ってもらえんか」
エル「一から十までおかしなことだらけで、頭がどうにかなりそうなんじゃが」
エルはとっくに怒りを通り越して呆れ顔。
エル「しかし、貴様が追放された理由は分かるぞ。勇者に寝返ったことがバレたんじゃろ」
エル「よくぞまぁ処刑されずに済んだものじゃ」
フェルヴァック「いやぁ、それほどでも」
エル「褒めとらん褒めとらん」
《page 14》
○タリエの森内部(前ページから継続)
しばらく状況に流され続けていたリネットがようやく口を挟む。
リネット「ええと、幾つかよろしいでしょうか」
リネット「勇者様の御盟友ということなら、モルゲン市の食糧難の解決に力を貸していただける……そう思っていいのでしょうか」
フェルヴァック「もちろん! 兄貴のためになるのなら喜んで!」
リネット「……っ!」
言葉もなく喜びの表情を浮かべるリネット。
フェルヴァック「ところで、麓の街と兄貴、一体どんな関係があるんで?」
エル「それくらい聞いてから返事をせんか」
《page 15》
○タリエの森内部 木々に覆われた山の斜面
風景だけのコマを置いて時間経過を表現し、その間に事情を説明したことにする。
移動を再開しながら会話の続き。リネットはフェルヴァックの背中に乗せられている。
周囲の木々は魔界の樹木が中心になり、普通の木々はあまり見当たらなくなる。
フェルヴァック「なるほど、そういう事情が! 流石は兄貴だ!」
フェルヴァック「だったらオレ達に任せてくれ! この『ベヒモス』は食い物に困らないからな!」
リネット「ベヒモス? 山の名前ですか?」
よく分かっていなさそうなリネットとは反対に、エルは合点がいった様子で頷きながら歩いている。
エル「ああ、なるほど。この山はベヒモスだったのか」
エル「ならば貴様が大口叩いたのも納得じゃ」
トリス「だろ?」
リネット「え? あれ? 分かっていないの、私だけですか?」
リネット「ベヒモスって何なんです!?」
《page 16》
○タリエの森 ベヒモス山頂の台地
木々に覆われた山の斜面を抜け、拓けた台地上の場所に出る。
そこにあったのは獣人の集落。畑も豊かに実っていて、恵まれた土地だと伺える。
川or池or井戸などの存在で水が豊かなことも描写する。
リネット「わあっ……!」
目を丸くして驚愕するリネット。
リネット「山の上が、こんなに豊かな土地だったなんて……」
リネット「こんなにたくさんの水……一体どこから……?」
そこに獣人達が武器を持って駆け寄ってくる。
《page 17》
◯タリエの森 ベヒモス山頂の台地 獣人の集落
フェルヴァック「下がれ! オレの客人だ!」
フェルヴァックの一喝で退く獣人達。そのままトリス達は獣人の集落の中へと招かれる。
フェルヴァック「すまねぇな、兄貴。最近色々あって、こいつらも気が立ってるんだ」
トリス「封印されてた魔王クラスが蘇ったって話か」
フェルヴァック「ああ。オレ達を手下にして、ベヒモスを手に入れようって奴らが多くってさ」
フェルヴァック「大魔王の跡目争いでもする気なのかね。馬鹿らし……」
ここでようやく、フェルヴァックがエルケーニッヒの存在に思い至り、変な顔をして叫び声を上げる。
フェルヴァック「……って、うわぁ! エルケーニッヒじゃねぇか!?」
エル「気付くのが遅いわ!」
《page 18》
◯タリエの森 ベヒモス山頂の台地 獣人の集落(前ページから継続)
集落の獣人達から遠巻きの視線を送られながら、集落の奥へと向かっていく。
フェルヴァックの背中に乗ったリネットが、ひそひそとフェルヴァックに話しかける。
台詞は少なめで獣人の集落の情景描写を多めに。
リネット「あの、やっぱりお知り合いなんですか?」
フェルヴァック「そりゃ知ってるって。ああ見えても魔王なんだから」
フェルヴァック「オレは獣王の配下だったから、別にアイツの部下ってわけじゃないけどな」
エル「だとしても敬わんか! どいつもこいつも魔王を何だと思っとるんじゃ!」
《page 19》
◯タリエの森 ベヒモス山頂の台地 獣人の集落(前ページから継続)
そんなやり取りを交わしている間に、集落で最も大きな家の前にたどり着く。
フェルヴァック「オレのねぐらだ。歓迎するぜ」
リネット「え、でもこの建物、人間サイズですよね」
どう見てもフェルヴァックの巨体には合わない建物に、不思議そうな顔をするリネット。
するとフェルヴァックが魔力の光に包まれて人型に姿を変えていく。
最初は他の獣人と同じ姿になるように見せて、それを通り越してどんどん普通の人間に近い姿へと近付く。
《page 20》
◯タリエの森 ベヒモス山頂の台地 獣人の集落(前ページから継続)
変化を完了させたフェルヴァックの姿は、狼を擬人化したかのようにワイルドな、獣耳の女の姿をしていた。
フェルヴァック「ふぅ。どうだ兄貴、前より人間らしくなっただろ」
リネット「え……えええっ!?」
フェルヴァック「オレくらいの獣人になると、魔法で狼や人間の姿にだってなれるんだぜ」
フェルヴァック「もっとも、この姿じゃロクに戦えねぇから、人里に紛れ込む潜伏モードってところだな」
平然としたままのフェルヴァックとは対照的に、リネットはかなりテンパり気味。
リネット「そうじゃなくて! 女性だったんですか!」
フェルヴァック「名前で分かんなかったか? どう聞いても雌の名前じゃねぇか」
リネット「魔族の名前のニュアンスとか分かりませんよ!」
《page 21》
◯獣人の集落 フェルヴァックの自宅
石材主体の人間の街とは違い、木材主体の建物。
トリス達はそこで獣人のワイルドでボリューム満点の料理を振る舞われる。
トリスとエルは割と食べ慣れた様子だが、リネットは食べ慣れないメニューに目を輝かせている。
このページは台詞なしで、料理とそれに対するリアクションの描写を絵だけで表現。
《page 22》
◯獣人の集落 フェルヴァックの自宅(前ページから継続)
リネット「凄い! 凄いです!」
リネット「山の上なのに、どうしてこんなに食材が豊富なんですか?」
フェルヴァック「そりゃあここがベヒモスだから……って、アンタは知らないんだったっけ」
トリス「俺から説明しようか?」
フェルヴァック「いえ! お構いなく! 兄貴達は食べててください!」
フェルヴァックはオーバーな咳払いの素振りをして、ベヒモスなるものについての説明を始める。
《page 23》
◯獣人の集落 フェルヴァックの自宅(前ページから継続)
このpage 23からpage 24にかけての2ページの間、フキダシはフェルヴァックの説明セリフと、リネットからのリアクションの相槌のみとする。
説明ばかりで読者が飽きないように、説明の裏で『話を聞きながら料理をどんどん食べているリネット』『トリスの皿からこっそり肉を取ろうとして阻止されるエル』などのユーモアな絵面の描写を適宜挟んでおく。
フェルヴァック「ベヒモスとは魔獣の名前だ」
フェルヴァック「魔獣と言っても、単なる魔界の生物って意味じゃない」
フェルヴァック「大魔王デミウルゴスが魔法で生み出した、いわば生体兵器だ」
リネット「兵器? 魔獣が?」
フェルヴァック「ああ。それもただの兵器じゃないぞ」
フェルヴァック「敵の領土に解き放たれたベヒモスは、その土地の自然や作物を餌として食い荒らす」
フェルヴァック「食い物がなくなれば戦争どころじゃなくなるからな」
フェルヴァック「最終的に、敵は土地を手放して後退せざるを得なくなる」
フェルヴァック「だが、ベヒモスの本当の仕事はここからだ」
《page 24》
◯獣人の集落 フェルヴァックの自宅(前ページから継続)
フェルヴァック「目当ての土地を荒らしきったところで、大魔王はベヒモスに与えた命を没収する」
フェルヴァック「ところが、命を没収されたベヒモスの亡骸は、普通の動物みたいな死体にはならねぇ」
フェルヴァック「死体が大地とくっついて新しい地形になっちまうんだ」
フェルヴァック「すると、今まで食い散らかして溜め込んだ自然のエネルギーが放出されて、ベヒモスの亡骸を中心とした新たな自然が作り出される」
フェルヴァック「そして大魔王軍はその土地に拠点を作り、次の侵攻に取り掛かる」
フェルヴァック「こいつが大魔王デミウルゴスの大規模侵攻の黄金パターン」
フェルヴァック「戦略級魔獣兵器ベヒモスの真骨頂だ」
リネット「あ、あの……つまり、この山は……」
《page 25》
◯集落がある山(=ベヒモスの亡骸)と周囲の森を鳥瞰図で一望
フェルヴァックが説明した通り、集落があるのはただの山の上ではなく、大地と一体化した魔獣ベヒモスの亡骸の上。
ウシやゾウやサイを混ぜ合わせたような巨大な魔獣が、自然の山と見分けがつかない質感に変化してうずくまり、亡骸の上に森を生い茂らせている。
上記の鳥瞰図を背景に、下記の二つの吹き出しを乗せる。
フェルヴァック「その通り! これはただの山じゃない! ベヒモスの亡骸だ!」
リネット「ええええええっ!?」
《page 26》
◯獣人の集落 フェルヴァックの自宅
再び建物内のトリス達のシーンに戻る。
愕然とするリネットに、トリスが横から補足説明を入れる。
トリス「元々、ベヒモスは主に大陸で使われていた魔獣なんだ」
トリス「多分そのうちの一体が、何らかの目的でこの島に持ち込まれたんだろうな」
トリス「どういうつもりだったのかは、デミウルゴスに聞いてみないと分からないけど」
リネット「山が歩いたのを見たという話も、あながち間違ってはいなかったんですね……」
リネット「でも……そうすると、この集落が食料豊富なのは、大陸の自然を犠牲にしてきたから……」
リネット「私達がそれを使わせてもらうなんて、本当に許されるんでしょうか」
《page 27》
◯獣人の集落 フェルヴァックの自宅(前ページから継続)
エル「何を言うか。今更このベヒモスを大陸まで運べるわけでもなし」
エル「罪悪感があるのなら、島の復興を済ませてから恩を返せばよかろう」
エル「まぁ、儂は罪悪感など微塵も覚えんがな! 使えるものは何でも使ってしまえ!」
申し訳無さそうな顔をしていたリネットだったが、エルの言葉を受けて安堵の笑みを浮かべる。
リネット「……ありがとうございます、エル様」
フェルヴァック「ベヒモスのことは納得してもらえたか?」
フェルヴァック「だったら、そろそろ本題に入らせてもらおうか」
《page 28》
◯獣人の集落 フェルヴァックの自宅(前ページから継続)
フェルヴァック「さっきも言った通り、この山は魔王級の連中から狙われてる」
フェルヴァック「奴らは最近復活したばかりで、ろくな拠点がないし手下もほとんどいないからな」
エル「儂もここにベヒモスが眠っていると知っておったら、街よりも先にこちらを標的にしていただろうな」
エル「ここはそれほどの価値がある拠点だ」
フェルヴァック「三ヶ月の間に二十五回。オレ達が襲撃を受けた回数だ」
フェルヴァック「今のところ何とか追い払えてはいるが、無傷の勝利ってわけじゃねぇ」
《page 29》
◯獣人の集落 屋外
背景だけ場面転換。台詞は前ページの流れを継続。
集落の一角に負傷した獣人達が集められ、手当を受けている。
フェルヴァック「戦うたびに怪我人は増える一方」
フェルヴァック「魔王級の魔力にあてられて、正気を失う奴も少なくない」
フェルヴァック「この調子じゃ、いつまで耐えられるか分かったもんじゃねぇ」
《page 30》
◯獣人の集落 フェルヴァックの自宅
場面を戻して、再びトリス達とフェルヴァックがいる建物の中に。
フェルヴァック「だから頼む、兄貴!」
フェルヴァック「食料を分ける見返りってわけじゃねぇが、この集落を守るために力を貸してくれ!」
フェルヴァック「兄貴がいれば魔王級だろうと的じゃねぇんだ!」
エル「魔王の前でハッキリ言いおる。まぁ、その通りではあるがな」
エル「大魔王すら倒した男が、今更魔王如きに遅れは取るまい」
不敵に笑うエル。トリスは既に心を決めた様子で、リネットに無言の視線を向ける。
リネットはトリスの意図を理解し、微笑みながら頷き返す。
トリス「分かった。ギブ・アンド・テイクだ。それでいこう」
《page 31》
◯獣人の集落 フェルヴァックの自宅(前ページから継続)
フェルヴァックが大喜びでトリスに飛びかかる。
エルは自分の食事の皿をひょいと持ち上げて巻き添えを回避。
リネットはワイルドな女性の姿をしたフェルヴァックが、トリスに思いっきり抱きつこうとしたことを、赤面しながら怒って咎める(表情だけで台詞はなし)
当のトリスは困り顔で笑っているだけ。
フェルヴァック「よっしゃ! 愛してるぜ、兄貴!」
◯獣人の集落の外れ ベヒモスの頭部
同ページ内で場面転換。時間経過はなく、前のシーンとほぼ同時。
獣人の集落がある大地=ベヒモスの背中から少しばかり離れた、頭部に相当する場所。
平らな場所ではなく建物もない。
そこに、一体の魔族が空から音もなく降り立つ。
このページでは顔が見えず、邪悪な雰囲気のローブとオーラを纏っていることまでしか分からない。脚も見えず、地面から少し浮かんでいる。
台詞のフォントや吹き出しの形状なども禍々しく演出。
謎の魔族「さぁ、目醒めるがいい、魔獣ベヒモスよ」
《page 32》
◯獣人の集落の外れ ベヒモスの頭部(前ページから継続)
謎の魔族の正体判明。死神のような印象の骸骨。顔だけでなく手も骨。
謎の魔族「この屍王レヴナントが仮初めの命をくれてやる」
謎の魔族「我が意に従い、全てを食い荒らすのだ」
謎の魔族のオーラがベヒモスの亡骸の頭部に浸透し、亡骸全体(山全体)が揺れ動く。
◯獣人の集落 フェルヴァックの自宅
ページ最後のコマで、フェルヴァックに抱きつかれたトリスが振動に気付いた様子を描写する(台詞はなし)