《page 01》
○モルゲン市 半壊した城壁の外 前話の最終ページの直後
魔王エルケーニッヒの額のアップからスタート。
サークレット状の魔法の紋様が額に浮き上がっている。
孫悟空の頭の輪っか(緊箍児)のイメージ。
エルケーニッヒ「うう……屈辱じゃ……!」
拘束魔法から解放されたエルケーニッヒが、その場にへたり込んで悔しがっている。
そのすぐ傍で、トリスがリネットや他の領民達に契約魔法の説明をする。
トリス「至上契約(フェイタル・ギアス)。当事者の合意の上で、行動に強烈な制限を掛ける契約魔法だ」
トリス「数ある契約魔法の中でも特に強力な奴だから、これでもう人間に手出しはできないよ」
エルケーニッヒの額から魔法の紋様がすうっと消える(契約が正常に完了した合図)
《page 02》
○モルゲン市 半壊した城壁の外(前ページから継続)
説明を終えたトリスに、リネットが遠慮気味に話しかけてくる。
リネット「あの、領主様。こんなことをお尋ねするのは失礼かもしれませんが……」
リネット「人間離れした腕力に、魔王すら従える魔法……貴方は一体……」
トリス本人が返事をするより先に、エルケーニッヒが口を開く。
エルケーニッヒ「勇者トリストラム。儂ら大魔王軍の最大にして最強の敵。魔族の天敵じゃ」
エルケーニッヒ「察するに、大魔王デミウルゴスは貴様に殺されたのだろう?」
トリス「ああ。大魔王が倒れたこと、もう知ってたのか」
エルケーニッヒ「知らん。封印が解けたばかりだと言っただろう。だが察しはつくぞ」
エルケーニッヒがやれやれと肩をすくめる。
《page 03》
○モルゲン市 半壊した城壁の外(前ページから継続)
この場にいない大魔王を嘲笑するエルケーニッヒ。
トリスも嘲笑こそしないものの、その考え自体には賛同する。
エルケーニッヒ「デミウルゴスは自分に従わぬ魔族を片っ端から排除し続けた」
エルケーニッヒ「そんなことをしておったら、あっという間に戦力が枯渇して、勝てる戦も勝てなくなるに決まっておろう」
エルケーニッヒ「愚かにもこの儂を封印した時点で、どうせ貴様に討たれると思っておったわ」
トリス「確かに。最後の方は露骨に幹部級が少なくなってたからなぁ」
二人がそんな会話を交わす傍ら、リネットは困惑しながら二人の間で視線を左右させる。
リネット「あの、ええと、それはつまり、領主様が勇者様で、大魔王を討伐した……ということですか?」
トリス「そうだけど? ……ああ、本土からの連絡が途絶えてたんだっけ。そりゃ知らないか」
硬直するリネット。一コマの間を置いて、驚きの大声を上げる。
リネット「えええええっ!?」
《page 04》
○モルゲン市 廃墟と化した街路 前ページの少し後の日中
前ページから場面転換。トリスがリネットの案内で街を見て回る。エルケーニッヒは別行動。
リネットは興奮冷めやらぬ様子で、トリスが勇者だったことへの驚きを語っている。
トリスも満更でもなさそうな態度。
ここからしばらく会話中心のページが続く(主人公のトリスの掘り下げと、今後の大まかな方針の提示のため)
リネット「本当に驚きました! まさか大魔王が倒されていたなんて!」
リネット「しかも新しい領主様が勇者様! 信じられません!」
リネット「でもどうして、世界を救った勇者様ほどの御方が、こんな辺境の島に……?」
不安そうなリネットとは対照的に、トリスは穏やかに微笑んでいる。
トリス「王様からの報奨だよ」
トリス「アヴァロン辺境伯の席が空いてるから、大魔王討伐の見返りとしてはちょうどいいだろうってことで」
リネット「そうだったんですか。驚きましたよね、島がこんな有様で」
トリス「そりゃ驚いたさ。本土の方だと、アヴァロン島は未だ健在だって情報操作されてたからな」
《page 05》
○モルゲン市 廃墟と化した街路(前ページから継続)
トリス「まぁ、国王が情報操作したかったのも分かるよ」
トリス「かつての貿易拠点が大魔王に征服されていたうえ、魔王クラスが何体も封印されていて、しかもそいつらが次々に復活してるときた」
リネット「改めて言葉にしてみると、本当にこの世の地獄ですね……」
落ち込みすぎてもはや笑うしかないリネット。
トリスはそんなリネットを勇気づけるように、明るく力強い言葉を続ける。
トリス「だけど、やり甲斐のある仕事は大歓迎だ」
トリス「大魔王を倒した後のことなんて、ろくに考えたこともなかったからさ」
リネット「そうなんですか?」
《page 06》
○モルゲン市 廃墟と化した街路(前ページから継続)
トリス「畑を耕してるのが性に合わなかったから、村を飛び出して」
トリス「とりあえず食っていくために、魔王討伐軍に志願して」
トリス「あれこれ任務をこなしているうちに、英雄だの勇者だのと呼ばれるようになって」
トリス「途中で投げ出したらよかったのかもしれないけど、そういうことできないタチだからさ」
トリス「最終的に、大魔王とタイマン張るハメになったってわけ」
上記の一連の台詞は大きめの一コマに収め、リネットが大量の吹き出しに圧迫されるような演出で描写。
トリス「そんな生き方をしてたせいか、大魔王を倒した後は目標らしい目標がなくってさ」
トリス「だから、多少の無理難題は大歓迎!」
トリス「大魔王の相手と比べれば、大抵のことは楽なもんだ!」
トリスの頼もしい笑顔に、リネットの不安もほぐれていく。
トリス「ひょっとしたら、国王はそれを知ってて、やり甲斐のある仕事を用意してくれたのかもな」(台詞の吹き出しに四角いナレーション吹き出しで「ハズレ」と被せる)
トリス「もしくは『島を救えるのは勇者だけだ』みたいに考えてたとか」(同上で「ハズレ」と被せる)
リネット「……普通に厄介払いなのでは?」(同上で「アタリ」と被せる)
《page 07》
○モルゲン市 廃墟と化した街路(前ページから継続)
主人公の掘り下げの会話を一旦切り上げ、領地の復興のための指針を考える。
これまでのシーンから引き続き、ボロボロの街路を歩きながらのやり取り。
トリス「さて、俺の話はここまで。まずは街を復興させる方法を考えないとな」
トリス「簡単で構わないから、こんなことになった経緯を教えてくれないか」
以降、リネットの解説台詞に合わせて、該当部分の回想をイメージ図として簡潔に描く。
リネット「……三ヶ月前、封印されていた魔王級の魔族が次々に蘇った……ここまではお話したと思います」
リネット「その一体が私達に従属を要求し、見せしめにモルゲン市の市街地を破壊しました」
リネット「あくまで脅しのつもりだったのか、死傷者はほとんど出なかったのですが、効果は抜群でした」
リネット「住民達はどんどん街を離れてしまい、取り残されたのは立場の弱い人々ばかり」
リネット「街に残っているのは、お年寄りや子供を含めても百人に届くかどうか……」
回想(イメージ図)終了。
トリス「そうか……街を離れた人達の行き先は?」
リネット「分かりません。魔王に降伏したのか、それとも他の集落に避難したのか……」
《page 08》
○モルゲン市 廃墟と化した街路(前ページから継続)
リネットが辛い現状を感情的に語り、唯一の希望であるトリスに縋る。
リネット「とにかく、この街はもう滅茶苦茶なんです!」
リネット「街のリーダーだった人は、早々に姿を消してしまいました!」
リネット「街から逃げ出した人達は、好き勝手に物資を持ち去っていきました!」
リネット「もう何が残されているのかも分からなくて、どうしようもなくって……!」
ぎゅっと拳を握りしめるリネット。
リネット「希望なんかどこにもない。このまま野垂れ死ぬか、復活した魔王の下僕になるしかない」
リネット「皆がそう思ったときに、勇者様が来てくださったんです」
リネット「お願いします、勇者様! どうかこの島を救ってください!」
《page 09》
○モルゲン市 廃墟と化した街路(前ページから継続)
必死に訴えかけるリネットに、トリスは頼もしい笑顔で答える。
トリス「任せてくれ。世界を救うのに比べれば、それくらいなんてことないさ」
リネット「勇者様……!」
ぱあっと笑顔になるリネット。
トリスは腕組みをして、今後の方針について考える。
トリス「とりあえず、衣食住の『衣』はしばらく我慢してもらうとして」
トリス「『住』は……エルケーニッヒに任せれば問題ないか」
トリス「あいつがちゃんと働けば、城壁くらいは今日中に何とかなるだろ」
リネット「何とかなるんですか……?」
トリス「魔王だからな」
トリス「一番緊急性が高い問題は、衣食住の『食』だ」
トリス「こればかりは代用も利かないし、先延ばしもできない」
トリス「ひとまず君は、食料備蓄がどれくらい残ってるか調べておいてくれ」
トリス「その間に、俺は街の外の状況を確かめてくる」
リネット「はい! お任せください!」
《page 10》
○モルゲン市 壊れた城壁の付近 前シーンと同時刻の日中
一方その頃、エルケーニッヒは城壁跡の近くで、住民達による修復作業を眺めていた。
残った住人は高齢だったり若すぎたりして、作業は遅々として進んでいない。
エルケーニッヒは腕組み&仁王立ちで不機嫌そうにしている。
エルケーニッヒ(まったく……魔王たる儂が人間の味方をせねばならんとは……)
エルケーニッヒ(そもそも、トリストラムの奴は楽観的過ぎるのだ。儂は人類の敵だったのだぞ?)
エルケーニッヒ(いくら儂の魔法が優れているといっても、人間共からすれば恐怖の対象に決まっておる)
エルケーニッヒ(到底、受け入れられるはずなどあるまい)
領民(子供)「はい、どいてどいてー!」
子供が瓦礫を乗せた猫車を押して、エルケーニッヒの傍を通り過ぎていく。
領民(老人)「ふぅ……老骨には堪えるのぅ……」
老人がエルケーニッヒの近くの瓦礫にのんびりと腰を下ろす。
エルケーニッヒ(あれ? もしかして儂、舐められてる?)
ギャグっぽい顔で現実に気付くエルケーニッヒ。
エルケーニッヒ(おのれ! 何たる屈辱! 儂の力を見せつけてやらねば気が済まん!)
《page 11》
○モルゲン市 壊れた城壁の付近(前ページから継続)
自分が恐るべき存在であることを知らしめるため、エルケーニッヒが魔法を駆使した城壁修復に取り掛かる。
エルケーニッヒ「下がれ、人間共! 何だその体たらくは! もう見ておれん!」
エルケーニッヒが片手を前に突き出すと、崩壊した城壁周辺(エルケーニッヒと同じコマで描かれる範囲)の瓦礫に魔法が掛かり、次々に浮き上がり始める。
驚き慌てて城壁から離れる領民達。
大量の瓦礫が、凄まじい速度で城壁があった場所に殺到し、瞬く間に城壁を組み上げていく。
《page 12》
○モルゲン市 壊れた城壁の付近(前ページから継続)
目の前の城壁が復元完了。街を囲む城壁全体からすると一部だが、該当部分の修復は完璧。
ドヤ顔で満足そうなエルケーニッヒ。
エルケーニッヒ(ふふ……これだけ力の差を見せつけてやれば、人間共も恐れ慄くじゃろう)
だが領民達は怖がる様子もなく、普通に感心した様子で城壁を見上げている。
領民達「おー、こいつは凄い!」
領民達「便利な魔法だねぇ」
ガクッとコケるようなリアクションをするエルケーニッヒ。
《page 13》
○モルゲン市 壊れた城壁の付近(前ページから継続)
エルケーニッヒ(な、何なのだこやつらは!)
エルケーニッヒ(人間は魔族を恐れ、排斥するものだろう……かつての儂のように)
少し暗い顔をするエルケーニッヒ。回想コマを挿入。
幼いエルケーニッヒが距離を置かれ、拒絶されている様子を台詞なしで。
回想が終わると同時に、次の領民の台詞が聞こえ、エルケーニッヒがハッと顔を上げる。
領民「さすが、魔王を名乗るだけはあるなぁ」
領民「本気でやったらこんなに凄いのか」
エルケーニッヒ「……何っ!?」
《page 14》
○モルゲン市 壊れた城壁の付近(前ページから継続)
先程の魔法を本気と思われたことに、エルケーニッヒがムキになって反論する。
エルケーニッヒ「舐めるな人間共! この程度で本気なわけがあるまい!」
エルケーニッヒ「封印のせいでちょーっとばかり消耗してはおるが!」
エルケーニッヒ「こんな街の城壁程度、日が落ちるまでに直し切ってくれるわ!」
怒涛の勢いで魔法を発動させ、城壁の復元を再開するエルケーニッヒ。
ページ下部のコマで、時間が経過して日没を迎えたことを演出して、次のページに繋ぐ。
《page 15》
○モルゲン市 修復が終わった城壁の前 夕刻
城壁の復元が完璧に完了。領民達は歓声を上げて城壁を見上げている。
一方、エルケーニッヒは両手と両膝を地面に突いて息も絶え絶え。
エルケーニッヒ「ぜー……はー……」
エルケーニッヒ「こ、こやつら、本当に儂を恐れんのか……まるで意味が分からん……」
エルケーニッヒ(しかし、何だこれは。魔力も体力も万全には程遠い)
エルケーニッヒ(封印のせいというには消耗が大き過ぎる)
エルケーニッヒ(何百年と封じられたわけではないのだぞ?)
汗を拭って立ち上がろうとするエルケーニッヒ。
その視界の隅に挙動不審な少女の姿が映る。
少女は少し離れた場所からエルケーニッヒを見つめていたかと思うと、きょろきょろと周囲の様子を伺って、街から遠ざかるように駆け出していった。
エルケーニッヒ「……何じゃ?」
《page 16》
○モルゲン市近郊の森の中 夕刻
場面はトリス視点でもエルケーニッヒ視点でもなく、先程の少女の単独行動を映すシーンになる。
少女は鬱蒼とした森の中を一人で歩き回り、果実を見つけてはせっせと籠に入れていく。
そして、ひときわ大きく実った果実を発見。
顔を輝かせて手を伸ばしたところで、バキバキ等の破壊的な擬態語がして次のページに。
《page 17》
○モルゲン市近郊の森の中(前ページから継続)
少女の目の前に、見るからに凶暴そうな容貌の巨体の獣人が、木々をなぎ倒しながら現れる。
破壊音の原因はこの獣人。二足歩行の猛獣といった風貌で、頭は犬や狼に似ている。
衣服は一応着ているが、ボロボロでほとんど原型を留めていない。
(ボロボロの服に小さなエンブレムらしきものが縫い付けられている。同じものが第3話にも出てくる前振りなので、読者から見えやすいように)
凶暴性むき出しで会話が通じるようには見えず、明らかに少女を獲物として狙っている。
少女「きゃああああっ!」
悲鳴を上げる少女めがけ、獣人が鋭い爪を生やした腕を振り下ろす。
鮮血が飛び散るコマでページを締め、次のページに。
《page 18》
○モルゲン市近郊の森の中(前ページから継続)
大ゴマ。切断されて宙を舞う獣人の腕。少女と獣人の間に割って入ったエルケーニッヒの後ろ姿。その右手には獣人以上に鋭い爪を生やしたガントレットが装備されている(地属性の魔法で岩石や金属を操って生成したもの)
獣人「ゴガアアアアッ!」
エルケーニッヒ「囀るな、下郎」
叫ぶ獣人。クールに聞き流すエルケーニッヒ。
《page 19》
○モルゲン市近郊の森の中(前ページから継続)
更に大ゴマ。エルケーニッヒが繰り出した爪の一撃で獣人が細切れになる。
第一話のトリスVSエルケーニッヒと同様、圧倒的実力差を示すための圧倒的瞬殺。
獣人が斃れるのと同時に、エルケーニッヒが右手のガントレットを解除して消滅させる。
冷徹な視線を少女に向ける、エルケーニッヒ。
エルケーニッヒ「小娘。こんなところで何をしている」
それに対して、少女は果物を集めた籠をエルケーニッヒの前に差し出した。
《page 20》
○モルゲン市近郊の森の中(前ページから継続)
少女は、獣人に襲われた恐怖による半泣きと、エルケーニッヒに本音を伝える気恥ずかしさが入り混じった顔をしている。
少女「魔王様に、お礼がしたくって……」
少女「美味しい果物……食べてもらえたら……なんて……」
少女「……ご、ごめんなさい。迷惑、かけちゃいました……」
段々と声が小さくなる少女。
エルケーニッヒは気難しそうな顔でそれを見下ろしている。
エルケーニッヒ「お主……」
《page 21》
○モルゲン市近郊の森の中(前ページから継続)
エルケーニッヒが少女をがばりと抱きしめ、まるで大型犬でも愛でるかのような表情と仕草で、少女の頭をわしわしと撫で回す。
少女「わぷっ」
エルケーニッヒ「なんと愛い奴じゃ! このこのっ!」
エルケーニッヒ「どいつもこいつも儂のことを舐め腐っておるかと思いきや、殊勝な輩もおるではないか!」
エルケーニッヒ「もっと儂を畏敬するがいいぞ!」
少女「えっと、怖くはない、ですけど」
エルケーニッヒ「そこは御世辞でも怖がらんか!」
《page 22》
○モルゲン市近郊の森の中(前ページから継続)
エルケーニッヒが少女を連れて森から街に戻っていく。
その後姿に合わせて、エルケーニッヒと少女の会話のフキダシを配置。
エルケーニッヒ「娘、名は何という」
少女「マーガレットです、魔王様!」
エルケーニッヒ「そうか。マーガレットよ、儂を魔王様と呼ぶのは止めておけ」
エルケーニッヒ「今の儂は貴様らの主でも何でもないのだからな」
少女「えっと……それじゃあ、えるるけーにひ様?」
エルケーニッヒ「エルで構わん。貴様らを恐怖させるのはもう諦めた」
エルケーニッヒ「だが舐めた態度は許さんぞ?」
少女「はい! エル様!」
街に向かって歩いていく二人を、森の木陰から勇者トリスが遠巻きに見守っている。
その顔には優しげな笑みが浮かぶ。
《page 23》
○モルゲン市近郊の森の中(前ページから継続)
トリス(魔族と人間の戦いに終わりはない、だったか)
トリス(デミウルゴスに見せつけてやりたいな)
トリス(お前が思ってるほど、人間も魔族も愚かじゃないんだぞ、ってな)
○モルゲン市 遺棄された領主の館 日没後
真っ暗な夜の街のコマを挟んで場面転換。
領主の館は建物こそ無事だったが、長いこと放置されたせいで埃だらけ。
トリスとエルは今日の寝床を確保するため、壁掛けの魔力光ランプに照らされた寝室を掃除している。
エルケーニッヒ(以降、エル表記)
「なんじゃと!? つまりこの島の人間は、最初から魔族に慣れきっておったというのか!」
驚き顔で掃除の手を止めるエル。
《page 24》
○モルゲン市 遺棄された領主の館(前ページから継続)
トリス「そりゃそうだろ。この島は十年前から魔族の流刑地で、島民はずっと看守役をさせられてきたんだぞ」
トリス「聞いた話だと、流刑の対象には『人間との戦いを拒否した魔族』も含まれてたらしい」
トリス「島民達もそういう魔族とは仲良くやってたんだとさ」
トリス「まぁ、ここ最近は連絡が取れてないらしいけど」
エル「言われてみれば……儂のように危険かつ強大な魔族は、地下に封印されておったのだからな」
エル「普段見かける魔族は力を封じられた雑魚共か、戦いを厭う穏健派ばかり……道理で儂を恐れぬはずじゃ」
エル「あの人間共にとっては、危険な魔族の方が例外だったのだな」
掃除の手を止めたまま、感心した様子で頷くエル。
《page 25》
○モルゲン市 遺棄された領主の館(前ページから継続)
エル「ならば儂の魔法を見ても恐れぬは道理。感覚が麻痺しておったのじゃろう」
エル「儂が人知を超えた力を持つとは夢にも思わず、見知った魔族と同様の感覚で接してしまったと」
エル「なるほど確かに、これならば筋は通る!」
エル「無礼な振る舞いではあるが、ここは寛大に許してやろう!」
上から目線で自分に都合のいい解釈を広げるエル。
トリスは何か言いたげな顔をしつつも、あえて何も言わずに黙っている。
エル「ああ、そうか。これで合点がいったぞ」
エル「お主もそれを知っておったから、あんなことを言ってのけたんじゃな」
トリス「あんなこと?」
納得顔のエルとは反対に、トリスは何を言われているのか分からず訝しげ。
《page 26》
○モルゲン市 遺棄された領主の館(前ページから継続)
エル「儂に復興を手伝えなどと言ったであろう」
トリス「さすがに正気を疑わずにはいられん提案だったが、人間共が魔族に慣れているなら話は別だ」
トリス「それを踏まえて儂の協力を……」
トリス「いや、違うけど」
エル「……は?」
トリス「リネット達が魔族に慣れてるって聞いたのは、お前に契約魔法を掛けた後だよ。嬉しい誤算だったな」
《page 27》
○モルゲン市 遺棄された領主の館(前ページから継続)
にこやかなトリスに対して、エルは口をぽかんと開けて信じられないものを見るような目を向ける。
エル「何たる楽観主義……儂らはこんな男に負けたのか……」
トリス「失礼な。自分で言うのもアレだけど、こんな性格だからこと勝てたと思ってるんだぞ」
トリス「大魔王の居城にたった数人で乗り込むなんて、真っ当な思考回路してたら実行できるもんか」
エル「自覚症状がある上に開き直られると、反論のしようがないのぅ」
エル「……ちょっと待て。今なんと?」
エル「デミウルゴスの城に数人で? それで勝ったのか?」
トリス「最終的にはタイマンだったな。いやぁ、さすがにあれはキツかった」
《page 28》
○モルゲン市 遺棄された領主の館(前ページから継続)
ページ頭にドン引き顔のエルの顔のアップ。
トリス「何その顔」
エル「心の底からドン引きしとる顔じゃが。いくら何でも化け物過ぎるじゃろ」
エル「お主、デミウルゴスが魔族の間で何と呼ばれとったか知っとるか?」
エル「世界の破壊者だぞ? 世界の破壊者をタイマンで破壊するとか本当に人間か?」
エル「こんな辺境に厄介払いで追放されるのも納得しかないわ」
トリス「いや追放されたわけじゃなくってな」
エル「現実を見んか、この超次元楽観主義者めが」
エル「儂もお主も流刑にされたんじゃ。ざまぁないわ」
トリスとエルが無遠慮な会話を交わしていると、何者かが部屋に駆け込んでくる。
(その正体は次のページの冒頭でリネットだと判明する)
《page 29》
○モルゲン市 遺棄された領主の館(前ページから継続)
このページは大ゴマ中心でキャラクターの表情をハッキリと描写する。
息を切らして、大慌てで駆け込んでくるリネット。
その顔には焦りと絶望が入り混じっている。
リネット「た、大変です! 領主様!」
リネット「言いつけどおり、食料の備蓄を確認させたのですが……!」
即座に真剣な顔つきになるトリスとエル。
《page 30》
○モルゲン市 ボロボロの食料庫 夜間
場面転換し、食料を備蓄していたはずの倉庫の中に。
トリスが手元に浮かべた魔法の光球が、食料庫の内部を照らし出している。
食料庫は完全ながらんどう。何一つ残っていない。
トリス「空っぽ……だな」
眉根を寄せて呟くトリス。
この場にいるのはトリスとエルとリネットの三人。
がらんどうの食料庫を大ゴマで。その下にトリスのリアクションの小さめのコマ。
《page 31》
○モルゲン市 ボロボロの食料庫(前ページから継続)
エル「これまた根こそぎ持っていかれたな」
エル「街から逃げ出した連中の仕業か」
リネット「他の食料庫も同じ有様でした……」
リネット「辛うじて残っていた分をかき集めても、神殿の倉庫が半分も埋まらないくらいしか……」
エル「どうする、トリストラム。このまま冬を迎えれば、間違いなく全員死ぬぞ?」
リネットは青ざめ、エルはトリスを試すような悪い顔。
しかし、トリスは絶望するでも諦めるでもなく、それどころか焦る素振りも見せずに落ち着いている。
トリス「大丈夫、アテはある。俺の読み通りなら……」
《page 32》
○夜の森の上空 夜間
夜の森を上空から俯瞰した一枚絵に、トリスの台詞を重ねる。
森の奥には、奇妙な形の山が一つぽつんと存在している。
うずくまったウシやゾウやサイのような形状で、上の方は台地のような形。
第3話以降、この山が重要な役割を果たすことになるので、印象に残るように描写。
トリス「一冬どころか、数年は食うに困らないはずだ」
○モルゲン市 半壊した城壁の外 前話の最終ページの直後
魔王エルケーニッヒの額のアップからスタート。
サークレット状の魔法の紋様が額に浮き上がっている。
孫悟空の頭の輪っか(緊箍児)のイメージ。
エルケーニッヒ「うう……屈辱じゃ……!」
拘束魔法から解放されたエルケーニッヒが、その場にへたり込んで悔しがっている。
そのすぐ傍で、トリスがリネットや他の領民達に契約魔法の説明をする。
トリス「至上契約(フェイタル・ギアス)。当事者の合意の上で、行動に強烈な制限を掛ける契約魔法だ」
トリス「数ある契約魔法の中でも特に強力な奴だから、これでもう人間に手出しはできないよ」
エルケーニッヒの額から魔法の紋様がすうっと消える(契約が正常に完了した合図)
《page 02》
○モルゲン市 半壊した城壁の外(前ページから継続)
説明を終えたトリスに、リネットが遠慮気味に話しかけてくる。
リネット「あの、領主様。こんなことをお尋ねするのは失礼かもしれませんが……」
リネット「人間離れした腕力に、魔王すら従える魔法……貴方は一体……」
トリス本人が返事をするより先に、エルケーニッヒが口を開く。
エルケーニッヒ「勇者トリストラム。儂ら大魔王軍の最大にして最強の敵。魔族の天敵じゃ」
エルケーニッヒ「察するに、大魔王デミウルゴスは貴様に殺されたのだろう?」
トリス「ああ。大魔王が倒れたこと、もう知ってたのか」
エルケーニッヒ「知らん。封印が解けたばかりだと言っただろう。だが察しはつくぞ」
エルケーニッヒがやれやれと肩をすくめる。
《page 03》
○モルゲン市 半壊した城壁の外(前ページから継続)
この場にいない大魔王を嘲笑するエルケーニッヒ。
トリスも嘲笑こそしないものの、その考え自体には賛同する。
エルケーニッヒ「デミウルゴスは自分に従わぬ魔族を片っ端から排除し続けた」
エルケーニッヒ「そんなことをしておったら、あっという間に戦力が枯渇して、勝てる戦も勝てなくなるに決まっておろう」
エルケーニッヒ「愚かにもこの儂を封印した時点で、どうせ貴様に討たれると思っておったわ」
トリス「確かに。最後の方は露骨に幹部級が少なくなってたからなぁ」
二人がそんな会話を交わす傍ら、リネットは困惑しながら二人の間で視線を左右させる。
リネット「あの、ええと、それはつまり、領主様が勇者様で、大魔王を討伐した……ということですか?」
トリス「そうだけど? ……ああ、本土からの連絡が途絶えてたんだっけ。そりゃ知らないか」
硬直するリネット。一コマの間を置いて、驚きの大声を上げる。
リネット「えええええっ!?」
《page 04》
○モルゲン市 廃墟と化した街路 前ページの少し後の日中
前ページから場面転換。トリスがリネットの案内で街を見て回る。エルケーニッヒは別行動。
リネットは興奮冷めやらぬ様子で、トリスが勇者だったことへの驚きを語っている。
トリスも満更でもなさそうな態度。
ここからしばらく会話中心のページが続く(主人公のトリスの掘り下げと、今後の大まかな方針の提示のため)
リネット「本当に驚きました! まさか大魔王が倒されていたなんて!」
リネット「しかも新しい領主様が勇者様! 信じられません!」
リネット「でもどうして、世界を救った勇者様ほどの御方が、こんな辺境の島に……?」
不安そうなリネットとは対照的に、トリスは穏やかに微笑んでいる。
トリス「王様からの報奨だよ」
トリス「アヴァロン辺境伯の席が空いてるから、大魔王討伐の見返りとしてはちょうどいいだろうってことで」
リネット「そうだったんですか。驚きましたよね、島がこんな有様で」
トリス「そりゃ驚いたさ。本土の方だと、アヴァロン島は未だ健在だって情報操作されてたからな」
《page 05》
○モルゲン市 廃墟と化した街路(前ページから継続)
トリス「まぁ、国王が情報操作したかったのも分かるよ」
トリス「かつての貿易拠点が大魔王に征服されていたうえ、魔王クラスが何体も封印されていて、しかもそいつらが次々に復活してるときた」
リネット「改めて言葉にしてみると、本当にこの世の地獄ですね……」
落ち込みすぎてもはや笑うしかないリネット。
トリスはそんなリネットを勇気づけるように、明るく力強い言葉を続ける。
トリス「だけど、やり甲斐のある仕事は大歓迎だ」
トリス「大魔王を倒した後のことなんて、ろくに考えたこともなかったからさ」
リネット「そうなんですか?」
《page 06》
○モルゲン市 廃墟と化した街路(前ページから継続)
トリス「畑を耕してるのが性に合わなかったから、村を飛び出して」
トリス「とりあえず食っていくために、魔王討伐軍に志願して」
トリス「あれこれ任務をこなしているうちに、英雄だの勇者だのと呼ばれるようになって」
トリス「途中で投げ出したらよかったのかもしれないけど、そういうことできないタチだからさ」
トリス「最終的に、大魔王とタイマン張るハメになったってわけ」
上記の一連の台詞は大きめの一コマに収め、リネットが大量の吹き出しに圧迫されるような演出で描写。
トリス「そんな生き方をしてたせいか、大魔王を倒した後は目標らしい目標がなくってさ」
トリス「だから、多少の無理難題は大歓迎!」
トリス「大魔王の相手と比べれば、大抵のことは楽なもんだ!」
トリスの頼もしい笑顔に、リネットの不安もほぐれていく。
トリス「ひょっとしたら、国王はそれを知ってて、やり甲斐のある仕事を用意してくれたのかもな」(台詞の吹き出しに四角いナレーション吹き出しで「ハズレ」と被せる)
トリス「もしくは『島を救えるのは勇者だけだ』みたいに考えてたとか」(同上で「ハズレ」と被せる)
リネット「……普通に厄介払いなのでは?」(同上で「アタリ」と被せる)
《page 07》
○モルゲン市 廃墟と化した街路(前ページから継続)
主人公の掘り下げの会話を一旦切り上げ、領地の復興のための指針を考える。
これまでのシーンから引き続き、ボロボロの街路を歩きながらのやり取り。
トリス「さて、俺の話はここまで。まずは街を復興させる方法を考えないとな」
トリス「簡単で構わないから、こんなことになった経緯を教えてくれないか」
以降、リネットの解説台詞に合わせて、該当部分の回想をイメージ図として簡潔に描く。
リネット「……三ヶ月前、封印されていた魔王級の魔族が次々に蘇った……ここまではお話したと思います」
リネット「その一体が私達に従属を要求し、見せしめにモルゲン市の市街地を破壊しました」
リネット「あくまで脅しのつもりだったのか、死傷者はほとんど出なかったのですが、効果は抜群でした」
リネット「住民達はどんどん街を離れてしまい、取り残されたのは立場の弱い人々ばかり」
リネット「街に残っているのは、お年寄りや子供を含めても百人に届くかどうか……」
回想(イメージ図)終了。
トリス「そうか……街を離れた人達の行き先は?」
リネット「分かりません。魔王に降伏したのか、それとも他の集落に避難したのか……」
《page 08》
○モルゲン市 廃墟と化した街路(前ページから継続)
リネットが辛い現状を感情的に語り、唯一の希望であるトリスに縋る。
リネット「とにかく、この街はもう滅茶苦茶なんです!」
リネット「街のリーダーだった人は、早々に姿を消してしまいました!」
リネット「街から逃げ出した人達は、好き勝手に物資を持ち去っていきました!」
リネット「もう何が残されているのかも分からなくて、どうしようもなくって……!」
ぎゅっと拳を握りしめるリネット。
リネット「希望なんかどこにもない。このまま野垂れ死ぬか、復活した魔王の下僕になるしかない」
リネット「皆がそう思ったときに、勇者様が来てくださったんです」
リネット「お願いします、勇者様! どうかこの島を救ってください!」
《page 09》
○モルゲン市 廃墟と化した街路(前ページから継続)
必死に訴えかけるリネットに、トリスは頼もしい笑顔で答える。
トリス「任せてくれ。世界を救うのに比べれば、それくらいなんてことないさ」
リネット「勇者様……!」
ぱあっと笑顔になるリネット。
トリスは腕組みをして、今後の方針について考える。
トリス「とりあえず、衣食住の『衣』はしばらく我慢してもらうとして」
トリス「『住』は……エルケーニッヒに任せれば問題ないか」
トリス「あいつがちゃんと働けば、城壁くらいは今日中に何とかなるだろ」
リネット「何とかなるんですか……?」
トリス「魔王だからな」
トリス「一番緊急性が高い問題は、衣食住の『食』だ」
トリス「こればかりは代用も利かないし、先延ばしもできない」
トリス「ひとまず君は、食料備蓄がどれくらい残ってるか調べておいてくれ」
トリス「その間に、俺は街の外の状況を確かめてくる」
リネット「はい! お任せください!」
《page 10》
○モルゲン市 壊れた城壁の付近 前シーンと同時刻の日中
一方その頃、エルケーニッヒは城壁跡の近くで、住民達による修復作業を眺めていた。
残った住人は高齢だったり若すぎたりして、作業は遅々として進んでいない。
エルケーニッヒは腕組み&仁王立ちで不機嫌そうにしている。
エルケーニッヒ(まったく……魔王たる儂が人間の味方をせねばならんとは……)
エルケーニッヒ(そもそも、トリストラムの奴は楽観的過ぎるのだ。儂は人類の敵だったのだぞ?)
エルケーニッヒ(いくら儂の魔法が優れているといっても、人間共からすれば恐怖の対象に決まっておる)
エルケーニッヒ(到底、受け入れられるはずなどあるまい)
領民(子供)「はい、どいてどいてー!」
子供が瓦礫を乗せた猫車を押して、エルケーニッヒの傍を通り過ぎていく。
領民(老人)「ふぅ……老骨には堪えるのぅ……」
老人がエルケーニッヒの近くの瓦礫にのんびりと腰を下ろす。
エルケーニッヒ(あれ? もしかして儂、舐められてる?)
ギャグっぽい顔で現実に気付くエルケーニッヒ。
エルケーニッヒ(おのれ! 何たる屈辱! 儂の力を見せつけてやらねば気が済まん!)
《page 11》
○モルゲン市 壊れた城壁の付近(前ページから継続)
自分が恐るべき存在であることを知らしめるため、エルケーニッヒが魔法を駆使した城壁修復に取り掛かる。
エルケーニッヒ「下がれ、人間共! 何だその体たらくは! もう見ておれん!」
エルケーニッヒが片手を前に突き出すと、崩壊した城壁周辺(エルケーニッヒと同じコマで描かれる範囲)の瓦礫に魔法が掛かり、次々に浮き上がり始める。
驚き慌てて城壁から離れる領民達。
大量の瓦礫が、凄まじい速度で城壁があった場所に殺到し、瞬く間に城壁を組み上げていく。
《page 12》
○モルゲン市 壊れた城壁の付近(前ページから継続)
目の前の城壁が復元完了。街を囲む城壁全体からすると一部だが、該当部分の修復は完璧。
ドヤ顔で満足そうなエルケーニッヒ。
エルケーニッヒ(ふふ……これだけ力の差を見せつけてやれば、人間共も恐れ慄くじゃろう)
だが領民達は怖がる様子もなく、普通に感心した様子で城壁を見上げている。
領民達「おー、こいつは凄い!」
領民達「便利な魔法だねぇ」
ガクッとコケるようなリアクションをするエルケーニッヒ。
《page 13》
○モルゲン市 壊れた城壁の付近(前ページから継続)
エルケーニッヒ(な、何なのだこやつらは!)
エルケーニッヒ(人間は魔族を恐れ、排斥するものだろう……かつての儂のように)
少し暗い顔をするエルケーニッヒ。回想コマを挿入。
幼いエルケーニッヒが距離を置かれ、拒絶されている様子を台詞なしで。
回想が終わると同時に、次の領民の台詞が聞こえ、エルケーニッヒがハッと顔を上げる。
領民「さすが、魔王を名乗るだけはあるなぁ」
領民「本気でやったらこんなに凄いのか」
エルケーニッヒ「……何っ!?」
《page 14》
○モルゲン市 壊れた城壁の付近(前ページから継続)
先程の魔法を本気と思われたことに、エルケーニッヒがムキになって反論する。
エルケーニッヒ「舐めるな人間共! この程度で本気なわけがあるまい!」
エルケーニッヒ「封印のせいでちょーっとばかり消耗してはおるが!」
エルケーニッヒ「こんな街の城壁程度、日が落ちるまでに直し切ってくれるわ!」
怒涛の勢いで魔法を発動させ、城壁の復元を再開するエルケーニッヒ。
ページ下部のコマで、時間が経過して日没を迎えたことを演出して、次のページに繋ぐ。
《page 15》
○モルゲン市 修復が終わった城壁の前 夕刻
城壁の復元が完璧に完了。領民達は歓声を上げて城壁を見上げている。
一方、エルケーニッヒは両手と両膝を地面に突いて息も絶え絶え。
エルケーニッヒ「ぜー……はー……」
エルケーニッヒ「こ、こやつら、本当に儂を恐れんのか……まるで意味が分からん……」
エルケーニッヒ(しかし、何だこれは。魔力も体力も万全には程遠い)
エルケーニッヒ(封印のせいというには消耗が大き過ぎる)
エルケーニッヒ(何百年と封じられたわけではないのだぞ?)
汗を拭って立ち上がろうとするエルケーニッヒ。
その視界の隅に挙動不審な少女の姿が映る。
少女は少し離れた場所からエルケーニッヒを見つめていたかと思うと、きょろきょろと周囲の様子を伺って、街から遠ざかるように駆け出していった。
エルケーニッヒ「……何じゃ?」
《page 16》
○モルゲン市近郊の森の中 夕刻
場面はトリス視点でもエルケーニッヒ視点でもなく、先程の少女の単独行動を映すシーンになる。
少女は鬱蒼とした森の中を一人で歩き回り、果実を見つけてはせっせと籠に入れていく。
そして、ひときわ大きく実った果実を発見。
顔を輝かせて手を伸ばしたところで、バキバキ等の破壊的な擬態語がして次のページに。
《page 17》
○モルゲン市近郊の森の中(前ページから継続)
少女の目の前に、見るからに凶暴そうな容貌の巨体の獣人が、木々をなぎ倒しながら現れる。
破壊音の原因はこの獣人。二足歩行の猛獣といった風貌で、頭は犬や狼に似ている。
衣服は一応着ているが、ボロボロでほとんど原型を留めていない。
(ボロボロの服に小さなエンブレムらしきものが縫い付けられている。同じものが第3話にも出てくる前振りなので、読者から見えやすいように)
凶暴性むき出しで会話が通じるようには見えず、明らかに少女を獲物として狙っている。
少女「きゃああああっ!」
悲鳴を上げる少女めがけ、獣人が鋭い爪を生やした腕を振り下ろす。
鮮血が飛び散るコマでページを締め、次のページに。
《page 18》
○モルゲン市近郊の森の中(前ページから継続)
大ゴマ。切断されて宙を舞う獣人の腕。少女と獣人の間に割って入ったエルケーニッヒの後ろ姿。その右手には獣人以上に鋭い爪を生やしたガントレットが装備されている(地属性の魔法で岩石や金属を操って生成したもの)
獣人「ゴガアアアアッ!」
エルケーニッヒ「囀るな、下郎」
叫ぶ獣人。クールに聞き流すエルケーニッヒ。
《page 19》
○モルゲン市近郊の森の中(前ページから継続)
更に大ゴマ。エルケーニッヒが繰り出した爪の一撃で獣人が細切れになる。
第一話のトリスVSエルケーニッヒと同様、圧倒的実力差を示すための圧倒的瞬殺。
獣人が斃れるのと同時に、エルケーニッヒが右手のガントレットを解除して消滅させる。
冷徹な視線を少女に向ける、エルケーニッヒ。
エルケーニッヒ「小娘。こんなところで何をしている」
それに対して、少女は果物を集めた籠をエルケーニッヒの前に差し出した。
《page 20》
○モルゲン市近郊の森の中(前ページから継続)
少女は、獣人に襲われた恐怖による半泣きと、エルケーニッヒに本音を伝える気恥ずかしさが入り混じった顔をしている。
少女「魔王様に、お礼がしたくって……」
少女「美味しい果物……食べてもらえたら……なんて……」
少女「……ご、ごめんなさい。迷惑、かけちゃいました……」
段々と声が小さくなる少女。
エルケーニッヒは気難しそうな顔でそれを見下ろしている。
エルケーニッヒ「お主……」
《page 21》
○モルゲン市近郊の森の中(前ページから継続)
エルケーニッヒが少女をがばりと抱きしめ、まるで大型犬でも愛でるかのような表情と仕草で、少女の頭をわしわしと撫で回す。
少女「わぷっ」
エルケーニッヒ「なんと愛い奴じゃ! このこのっ!」
エルケーニッヒ「どいつもこいつも儂のことを舐め腐っておるかと思いきや、殊勝な輩もおるではないか!」
エルケーニッヒ「もっと儂を畏敬するがいいぞ!」
少女「えっと、怖くはない、ですけど」
エルケーニッヒ「そこは御世辞でも怖がらんか!」
《page 22》
○モルゲン市近郊の森の中(前ページから継続)
エルケーニッヒが少女を連れて森から街に戻っていく。
その後姿に合わせて、エルケーニッヒと少女の会話のフキダシを配置。
エルケーニッヒ「娘、名は何という」
少女「マーガレットです、魔王様!」
エルケーニッヒ「そうか。マーガレットよ、儂を魔王様と呼ぶのは止めておけ」
エルケーニッヒ「今の儂は貴様らの主でも何でもないのだからな」
少女「えっと……それじゃあ、えるるけーにひ様?」
エルケーニッヒ「エルで構わん。貴様らを恐怖させるのはもう諦めた」
エルケーニッヒ「だが舐めた態度は許さんぞ?」
少女「はい! エル様!」
街に向かって歩いていく二人を、森の木陰から勇者トリスが遠巻きに見守っている。
その顔には優しげな笑みが浮かぶ。
《page 23》
○モルゲン市近郊の森の中(前ページから継続)
トリス(魔族と人間の戦いに終わりはない、だったか)
トリス(デミウルゴスに見せつけてやりたいな)
トリス(お前が思ってるほど、人間も魔族も愚かじゃないんだぞ、ってな)
○モルゲン市 遺棄された領主の館 日没後
真っ暗な夜の街のコマを挟んで場面転換。
領主の館は建物こそ無事だったが、長いこと放置されたせいで埃だらけ。
トリスとエルは今日の寝床を確保するため、壁掛けの魔力光ランプに照らされた寝室を掃除している。
エルケーニッヒ(以降、エル表記)
「なんじゃと!? つまりこの島の人間は、最初から魔族に慣れきっておったというのか!」
驚き顔で掃除の手を止めるエル。
《page 24》
○モルゲン市 遺棄された領主の館(前ページから継続)
トリス「そりゃそうだろ。この島は十年前から魔族の流刑地で、島民はずっと看守役をさせられてきたんだぞ」
トリス「聞いた話だと、流刑の対象には『人間との戦いを拒否した魔族』も含まれてたらしい」
トリス「島民達もそういう魔族とは仲良くやってたんだとさ」
トリス「まぁ、ここ最近は連絡が取れてないらしいけど」
エル「言われてみれば……儂のように危険かつ強大な魔族は、地下に封印されておったのだからな」
エル「普段見かける魔族は力を封じられた雑魚共か、戦いを厭う穏健派ばかり……道理で儂を恐れぬはずじゃ」
エル「あの人間共にとっては、危険な魔族の方が例外だったのだな」
掃除の手を止めたまま、感心した様子で頷くエル。
《page 25》
○モルゲン市 遺棄された領主の館(前ページから継続)
エル「ならば儂の魔法を見ても恐れぬは道理。感覚が麻痺しておったのじゃろう」
エル「儂が人知を超えた力を持つとは夢にも思わず、見知った魔族と同様の感覚で接してしまったと」
エル「なるほど確かに、これならば筋は通る!」
エル「無礼な振る舞いではあるが、ここは寛大に許してやろう!」
上から目線で自分に都合のいい解釈を広げるエル。
トリスは何か言いたげな顔をしつつも、あえて何も言わずに黙っている。
エル「ああ、そうか。これで合点がいったぞ」
エル「お主もそれを知っておったから、あんなことを言ってのけたんじゃな」
トリス「あんなこと?」
納得顔のエルとは反対に、トリスは何を言われているのか分からず訝しげ。
《page 26》
○モルゲン市 遺棄された領主の館(前ページから継続)
エル「儂に復興を手伝えなどと言ったであろう」
トリス「さすがに正気を疑わずにはいられん提案だったが、人間共が魔族に慣れているなら話は別だ」
トリス「それを踏まえて儂の協力を……」
トリス「いや、違うけど」
エル「……は?」
トリス「リネット達が魔族に慣れてるって聞いたのは、お前に契約魔法を掛けた後だよ。嬉しい誤算だったな」
《page 27》
○モルゲン市 遺棄された領主の館(前ページから継続)
にこやかなトリスに対して、エルは口をぽかんと開けて信じられないものを見るような目を向ける。
エル「何たる楽観主義……儂らはこんな男に負けたのか……」
トリス「失礼な。自分で言うのもアレだけど、こんな性格だからこと勝てたと思ってるんだぞ」
トリス「大魔王の居城にたった数人で乗り込むなんて、真っ当な思考回路してたら実行できるもんか」
エル「自覚症状がある上に開き直られると、反論のしようがないのぅ」
エル「……ちょっと待て。今なんと?」
エル「デミウルゴスの城に数人で? それで勝ったのか?」
トリス「最終的にはタイマンだったな。いやぁ、さすがにあれはキツかった」
《page 28》
○モルゲン市 遺棄された領主の館(前ページから継続)
ページ頭にドン引き顔のエルの顔のアップ。
トリス「何その顔」
エル「心の底からドン引きしとる顔じゃが。いくら何でも化け物過ぎるじゃろ」
エル「お主、デミウルゴスが魔族の間で何と呼ばれとったか知っとるか?」
エル「世界の破壊者だぞ? 世界の破壊者をタイマンで破壊するとか本当に人間か?」
エル「こんな辺境に厄介払いで追放されるのも納得しかないわ」
トリス「いや追放されたわけじゃなくってな」
エル「現実を見んか、この超次元楽観主義者めが」
エル「儂もお主も流刑にされたんじゃ。ざまぁないわ」
トリスとエルが無遠慮な会話を交わしていると、何者かが部屋に駆け込んでくる。
(その正体は次のページの冒頭でリネットだと判明する)
《page 29》
○モルゲン市 遺棄された領主の館(前ページから継続)
このページは大ゴマ中心でキャラクターの表情をハッキリと描写する。
息を切らして、大慌てで駆け込んでくるリネット。
その顔には焦りと絶望が入り混じっている。
リネット「た、大変です! 領主様!」
リネット「言いつけどおり、食料の備蓄を確認させたのですが……!」
即座に真剣な顔つきになるトリスとエル。
《page 30》
○モルゲン市 ボロボロの食料庫 夜間
場面転換し、食料を備蓄していたはずの倉庫の中に。
トリスが手元に浮かべた魔法の光球が、食料庫の内部を照らし出している。
食料庫は完全ながらんどう。何一つ残っていない。
トリス「空っぽ……だな」
眉根を寄せて呟くトリス。
この場にいるのはトリスとエルとリネットの三人。
がらんどうの食料庫を大ゴマで。その下にトリスのリアクションの小さめのコマ。
《page 31》
○モルゲン市 ボロボロの食料庫(前ページから継続)
エル「これまた根こそぎ持っていかれたな」
エル「街から逃げ出した連中の仕業か」
リネット「他の食料庫も同じ有様でした……」
リネット「辛うじて残っていた分をかき集めても、神殿の倉庫が半分も埋まらないくらいしか……」
エル「どうする、トリストラム。このまま冬を迎えれば、間違いなく全員死ぬぞ?」
リネットは青ざめ、エルはトリスを試すような悪い顔。
しかし、トリスは絶望するでも諦めるでもなく、それどころか焦る素振りも見せずに落ち着いている。
トリス「大丈夫、アテはある。俺の読み通りなら……」
《page 32》
○夜の森の上空 夜間
夜の森を上空から俯瞰した一枚絵に、トリスの台詞を重ねる。
森の奥には、奇妙な形の山が一つぽつんと存在している。
うずくまったウシやゾウやサイのような形状で、上の方は台地のような形。
第3話以降、この山が重要な役割を果たすことになるので、印象に残るように描写。
トリス「一冬どころか、数年は食うに困らないはずだ」