《page 01》
○激戦でボロボロになった魔王城の内部
壁に寄りかかって倒れている瀕死の大魔王デミウルゴス。人間の倍以上の巨体。
対峙している主人公のトリストラム(トリス)も満身創痍だが、こちらはまだ戦闘続行可能で戦意に満ちている。

トリス「俺の勝ちだ。大魔王デミウルゴス」
デミウルゴス「クハハ……見事だ、勇者よ……」
デミウルゴス「だが忘れるな……我が倒れても魔族は滅びぬ……」
デミウルゴス「魔族と人間の戦いに……終わりはないのだ……」
トリス「いいや、終わらせてみせるさ!」

トリスは不敵な笑みで剣を掲げ、デミウルゴスめがけて振り下ろす。

《page 02》
○魔王城を外部から引きの構図で 空は暗く雷が走っている
凄まじい斬撃で真っ二つになる魔王城。
前のページと合わせて、トリスの剣で内側から両断されたことが分かる。

ナレーション「かくして大魔王は打ち倒され、世界に百年振りの平和が訪れた」
ナレーション「この物語は、世界を救った勇者の『その後』を描いた後日譚である」

《page 03》
○ペンドラゴン王国 王城 謁見の間
大勢の貴族が見守る中、勇者トリスが国王から叙勲を受ける。静粛な雰囲気。

国王「勇者トリストラム。そなたの功績を称え、辺境伯の爵位と領地を授ける」
国王「このペンドラゴン王国において、王族の血を引かぬ者としては最高位の爵位である」
国王「そなたの功績に比べれば些細な報酬かもしれんが、どうか受け取ってもらいたい」
トリス「有難き幸せ。謹んでお受けいたします」

歓声を上げる貴族達。

《page 04》
○ペンドラゴン王国 王城 パーティー会場
格式張った前ページの雰囲気から一転、盛大で賑やかな戦勝パーティーが催されている。
トリスも砕けた素の態度で仲間達と喜びを分かち合う。
この場にいる仲間は戦士のマークと魔法使いのヴィヴィアンの二人。
台詞は少なめにして、主人公達のビジュアルを大きめに描写しておく。

トリスと仲間達「乾杯ー!」
トリス「あー、緊張した! 大魔王と戦うよりヤバかった!」
マーク「ははは! さすがに言いすぎだろ!」
トリス「いやいや、マジで心臓止まるかと思ったって!」

《page 05》
○ペンドラゴン王国 王城 パーティー会場(前ページから継続)
パーティー会場で歓談する勇者トリスと仲間達。

マーク「……それはそうと、悪かったな、トリス。最後まで付き合ってやれなくて」
マーク「我ながら情けないぜ。大魔王とやり合う前にリタイアしちまうとか」
トリス「何言ってるんだ。君が庇ってくれなかったら、リタイアしてたのは俺の方だった」
マーク「俺が魔王を倒せたのは君のお陰だよ、マーク」

友情を深め合う二人を、ヴィヴィアンが一歩引いたところからジト目で見ている。

ヴィヴィアン「私に言わせれば、何で二人とも元気にしてるのか、不思議でしょーがないんですがね」

《page 06》
○ペンドラゴン王国 王城 パーティー会場(前ページから継続)
マークはとにかくにこやか。ヴィヴィアンはぶすっとした顔で、戦いが終わった今だから言える心境を吐露する。

ヴィヴィアン「マークは城の最上階から叩き落されたはずですし」
ヴィヴィアン「トリスは地上最強の魔族とタイマン張るハメになったわけですし」
ヴィヴィアン「こりゃ二人とも死んだなって思ってたら」
ヴィヴィアン「どっちもケロッとした顔で戻ってきやがって」
ヴィヴィアン「心配した私の涙を返しやがれってもんですよ」

揃って照れくさそうにするトリスとマーク。

ヴィヴィアン「褒めてねーですよ、このフィジカルモンスター共が」

《page 07》
○ペンドラゴン王国 王城 パーティー会場(前ページから継続)
三人が和気藹々とする一方で、三人を遠巻きに囲むパーティー参加者達が、小声で勇者の凄まじさを噂し合う。

(一つのコマで吹き出しが飛び交っているイメージ)
参加者達「見ろ、あの方が勇者トリストラム様だ」
参加者達「平民出身でありながら、穏当に大魔王を討伐なさるとは」
参加者達「まさしく女神に愛されたとしか言いようがない」
参加者達「そんな! わたくしは恐ろしくて仕方がありませんわ!」
参加者達「同感ですな。あの大魔王すら討ち取った存在なのです」
参加者達「反乱でも起こされたら、ひとたまりもありませんぞ」

勇者達三人は噂話を意に介さず、仲間同士の歓談を続けている。

マーク「そういや、さっき初めて知ったんだが。辺境伯って名前の割に凄い貴族らしいな」
ヴィヴィアン「一般常識です。要は国境を護る領主ですからね」

《page 08》
○ペンドラゴン王国 王城 パーティー会場(前ページから継続)

ヴィヴィアン「軍事力は当然デカくなりますし、隣国との関係が良好なら貿易で一儲けもできますよ」
ヴィヴィアン「トリスが貰った領地……『アヴァロン島』はその典型例です」
マーク「アヴァロン島?」
ヴィヴィアン「マジですか。さすがにそれくらいは知っといてください」

以下、ヴィヴィアンの台詞と共に、アヴァロン島周辺の地理的なイメージ図を提示する。
ペンドラゴン王国を日本の四国とするなら、アヴァロン島が淡路島くらいの比率。
(あくまで比率なので、それぞれの実際の面積は四国や淡路島よりも大きい。ペンドラゴン島がイギリスくらい)

ヴィヴィアン「このペンドラゴン王国と大陸の間にある島です」
ヴィヴィアン「大昔から、大陸との貿易の中継地点として栄えていたそうですよ」
ヴィヴィアン「まぁ、魔族が大陸を荒らしやがったせいで、貿易はだいぶ前から止まっちゃってますけどね」
ヴィヴィアン「それもいずれ回復するでしょう。なにせ、トリスが元凶を討ち取りましたから」

《page 09》
○ペンドラゴン王国 王城 パーティー会場(前ページから継続)

ヴィヴィアン「ともかく王様が言っていた通り、アヴァロン辺境伯は王族の血を引かない領主としては、文句なしの最高ランク」
ヴィヴィアン「勇者様のセカンドライフとしては申し分ないと思いますよ」
マーク「そりゃ凄ぇ! 大出世じゃねぇか! やったなトリス!」

満面の笑顔でトリスと肩を組むマーク。トリスも心から喜んで笑っている。
ヴィヴィアンはそんな二人を眺めながら、やれやれといった様子で微笑む。

○???
場面転換し、以下の台詞だけのコマを挿入する。背景も無し。
この時点では場所も発言者も明らかにせず、次のページで明かす。

???「勇者追放計画。上手くいきましたな」

《page 10》
○ペンドラゴン王国 王城 国王の私室
国王と大臣が悪党然とした雰囲気でワイングラスを傾けている。
会話の内容は勇者トリストラムを辺境に追放する陰謀のこと。

大臣「勇者に十分な報酬を与えたという体裁を整えながら、遥か彼方に追放する」
大臣「さすがは陛下、見事な計画です」

国王「うむ。大魔王すら滅ぼす化け物など、恐ろしくて手元に置いておけるものか」
国王「しかも、余の代わりに勇者を国王に……などとほざく者もいる」
国王「勇者には消えてもらわねばならん」

《page 11》
○ペンドラゴン王国 王城 国王の私室(前ページから継続)

大臣「アヴァロン辺境伯の席が空いていたのも好都合でしたな」
大臣「あそこは肩書こそ立派ですが、実際はド田舎にしてド辺境」
大臣「勇者の左遷先としては最適でしょう」

国王「そして……今となっては、この世の地獄」
国王「あの化け物に相応しい土地だ」

大臣「全くでございますな」

悪い顔でワイングラスを傾ける国王と大臣。

《page 12》
○一ヶ月後 アヴァロン島に向かう船の上 日中
青空の下、トリスを乗せた船がアヴァロン島の港に到着する。
トリスの格好は、鎧姿ではなく動きやすい旅装束。

船員「上陸準備! タラップを下ろせ!」
船員「着きましたぜ、勇者様。長旅お疲れ様です」

船員に見送られて上陸するトリス。
その顔は希望に満ち溢れている。

トリス(やっと着いた! ここが俺の領地――)

《page 13》
○アヴァロン島 港町
しかし、港町は無人の廃墟と化していた。
石造りの建物はことごとく破壊され、住民の姿はどこにもない。

トリス「……は?」

唖然として硬直するトリス。
振り返ると、帆船が逃げるように港から離れていくところだった。

船員「出港ーっ! さっさとずらかるぞ! 命あっての物種だ!」

港にトリスだけがポツンと取り残される。

《page 14》
○アヴァロン島 港町(前ページから継続)

トリス「……どうなってんだ、これ……」
トリス「完全に廃墟じゃないか……人の気配もない……」

トリスは地図を片手に、廃墟の港町を後にして、丘を越えた先にあるはずの辺境伯領の首都を目指す。

トリス(地図によると、この丘を越えた先のモルゲン市に、領主の館がある……はず、なんだけど……)

《page 15》
○モルゲン市を見下ろす丘の頂上 日中
丘の上から周囲を一望。目的地である川辺の街は、城壁まで崩壊した廃墟と化していた。
トリスは言葉もなく、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
(台詞ではなく絵で惨状を伝えるページ)

《page 16》
○モルゲン市内 屋外
廃墟の中を歩くトリス。建物は港町より原型を残しているが、どう見ても都市機能は失われている。
しばらくはここがメインの舞台になるので、色々な場所を数コマに渡って描写しておく。
港町同様、石材を中心に使って作られた町並み。廃墟の残骸も砕けた石壁が主。

トリス(なんてこった。こんなの聞いてないぞ)
トリス(アヴァロン島は魔族の侵略を乗り切って、今も健在……国王はそう言ってたじゃないか)
トリス(従者は現地にいるから一人で向かえ、とも……従者どころか人っ子一人……)

廃墟の一角でガタッと物音。
腰の剣に手を掛けて振り返るトリス。

《page 17》
○モルゲン市内 屋外(前ページから継続)
半壊した建物の中から、ボロボロの格好をした住人達が姿を現す。
老若男女様々で、全員怯えと警戒心に満ちている。
その中の代表らしき白い僧侶服の女が、トリスの前に進み出る。

僧侶服の女「魔族……では、ないようですね。人間ですか?」
トリス「良かった、無人じゃなかったんだな」

トリスはホッとして剣から手を離す。

トリス「俺はトリストラム。この島の新しい領主を任されたんだが……一体、何があったんだ?」
僧侶服の女「新しい領主ですって!?」

僧侶服の女は驚きに目を剥き、そしてボロボロと泣き始める。
他の住民達も同じようなリアクション。

僧侶服の女「ああ、女神よ、感謝します……! 王国は我々を見捨てていなかった……!」
トリス「お、おい。とにかく事情を教えてくれ。どうしてこんなことになってるんだ」

《page 18》
○モルゲン市内 廃墟の中 半壊した応接室
トリスは元々誰かの屋敷だった廃墟の中で、僧侶服の女からアヴァロン島の現状について説明を受ける。
ボロを纏った少女が飲み物を持ってくるが、お茶でもなんでもないただの水。
ここからしばらく台詞での状況説明シーンが続く。

僧侶服の女「改めて名乗らせてください」
僧侶服の女「私はこの街の神殿を預かった神官、名をリネットと申します」

リネット「勇敢な領主様の下、このアヴァロン島は何十年も魔族と戦い続けてきました」
リネット「しかし、その領主様も老いには勝てず亡くなられ、御子息が跡を継いだのですが……」
血ネット「あの男はあっさりと魔族に降伏し、あろうことかこの島を大魔王に引き渡したのです!」
リネット「……それが、今から十年ほど前のことでした」

トリス「本土では『アヴァロン辺境伯領は健在』とか言われてたけど、降伏したことが隠蔽されてたのか」
トリス「そのせいで街も港もこんなことに……」
リネット「いえ、それはまた別件です」
トリス「?」

《page 19》
○モルゲン市内 廃墟の中 半壊した応接室(前ページから継続)
引き続き、神官のリネットがアヴァロン島に起きたことをトリスに説明する。

リネット「大魔王デミウルゴスは、この島の村や街を破壊することなく、島全体をそのまま流刑地として利用しました」
リネット「自分に従わない魔族を閉じ込める巨大な監獄です」
リネット「普通の魔族は力を封じられて野に放たれ、強大な魔族は封印魔法で地の底に……」
リネット「そして島の人間は、いわば看守の役割を押し付けられて、それと引き換えに平穏な暮らしを許されていたのです」

トリス「デミウルゴスの考えそうなことだな」

リネット「状況が変わったのは、今から三ヶ月前のことでした」
「突如として封印が解け、魔王クラスの強大な魔族達が地上に蘇ったのです」

リネットの説明に合わせて、復活した魔王(複数)のイメージ図をシルエットで描写。

《page 20》
○モルゲン市内 廃墟の中 半壊した応接室(前ページから継続)

トリス(三ヶ月前……大魔王の討伐と同じタイミングだ。封印が解けたのはそのせいか?)
リネット「封印から解き放たれた魔王達は、容赦なく街を破壊し……」

リネットの言葉を遮るように、警報の鐘の音がけたたましく鳴り響く。
それと同時に領民の一人が大慌てで駆け込んできた。

領民「リネット様! 大変です!」
領民「また魔族が……魔王が攻め込んできました!」

トリスとリネット「!?」

建物の外に飛び出したトリスとリネットが、二人揃って何かを見上げる。
トリスは真剣な面持ちで、リネットは驚きに目を剥いて。
この時点では何を見たのかは描写せず、二人の反応にフォーカスする。

トリス「こいつは……!」

《page 21》
○モルゲン市 半壊した城壁の外
二人が目にしたのは、人間の十倍はあろうかという、城壁よりも大きな禍々しい甲冑姿の怪物。
土と岩で形作られていて、黒い邪悪な甲冑の形をした巨大ゴーレムのように見える。
(巨大であることを読者に誤解なく伝えるため、全身像を大ゴマで描写する)

魔王エルケーニッヒ「ふはははは! 我が名は魔王エルケーニッヒ! 人間共よ、我にひれ伏すがいい! さすれば命だけは助けてやろう!」

呆然とそれを見上げる領民達。リネットも途方に暮れている。
そんな中、トリスだけが平然と巨大な甲冑型の怪物に向かって歩いていく。

《page 22》
○モルゲン市 半壊した城壁の外(前ページから継続)

トリス「エルケーニッヒ。大魔王配下の魔王の一人。地を司る四天王」
トリス「きっちり仕留めたと思ったんだが、一体どうやって生き延びたんだ?」
エルケーニッヒ「む? 命知らずの阿呆がいるな。いいだろう、見せしめにしてくれる!」

エルケーニッヒは相手が勇者だと気付かず、巨体相応の巨大な剣を振り下ろす。
巨剣はトリスが立っていた場所に直撃し、凄まじい衝撃を撒き散らす。

リネット「領主様っ!」

《page 23》
○モルゲン市 半壊した城壁の外(前ページから継続)
トリスは自分の剣を頭上にかざし、巨大な剣の一撃を完全に受け止めていた。
その状態から剣を振るって巨剣を勢いよく弾き返し、敵の巨体をよろめかせる。
エルケーニッヒは狼狽するが、トリスの方は顔色一つ変えていない。

エルケーニッヒ「な、何ぃ!?」
エルケーニッヒ「馬鹿な、ありえん! この儂が、人間如きに力負けだと!」

戦いを見守っていた領民達の様子が変わる。
魔王に対する恐怖心が薄れ、逆にトリスに対する驚愕が強くなっている。

エルケーニッヒ「認めん……認めんぞ……!」

《page 24》
○モルゲン市 半壊した城壁の外(前ページから継続)

エルケーニッヒ「我は魔王エル/ /ケーニッヒ!」
エルケーニッヒ「人間ごときに/ /敗北など――」

ページの半分以上にアップで描写した邪悪な甲冑姿の巨体が、吹き出し諸共真っ二つに両断される。
(左右に配置された吹き出しが、上記の / / のあたりで横薙ぎに)

エルケーニッヒ「――な、ぬ?」

切り離された上半分がズレ落ちる一コマ。

《page 25》
○モルゲン市 半壊した城壁の外(前ページから継続)
トリスは既に剣を横薙ぎに振り抜き終えた状態。
巨大な剣の攻撃を受け止めた場所から一歩も動かず、いわゆる「飛ぶ斬撃」的なもので甲冑姿の巨体を両断していた。
トリスの圧倒的な強さを示すための瞬殺。

エルケーニッヒ「ば、馬鹿なぁぁぁっ!」

甲冑姿の巨体が土砂崩れのように崩壊し、大量の土と岩に戻っていく。
想像を絶する出来事に、領民達は愕然として硬直している。
トリスは崩壊が収まったあたりで剣を収め、余裕の態度で土砂の山を登り、その中に腕を突っ込んでまさぐりはじめる。

トリス「こいつが本物のエルケーニッヒなら、本体は多分この辺りに……」

《page 26》
○モルゲン市 半壊した城壁の外(前ページから継続)

トリス「……よっと!」

トリスが土砂の山の中から、黒尽くめの美少女を引っ張り出す。
これが魔王エルケーニッヒの本体。

トリス「マジか。本物だ」
リネット「あ、あの、領主様? その魔族をご存知なのですか?」
トリス「大魔王配下の魔王の一人だよ。まさか生きてたとは思わなかった」

ぐったりしていたエルケーニッヒが、意識を取り戻して周囲を見渡す。

エルケーニッヒ「うう……はっ! な、何があった! 一体どうなったのだ!?」

ここでようやく、エルケーニッヒは相手が勇者トリストラムだと気付き、整った顔を崩して心の底から驚愕する。

エルケーニッヒ「げえっ! トリストラム!」

《page 27》
○モルゲン市 半壊した城壁の外(前ページから継続)
エルケーニッヒがトリスの手を振り払い、必死の形相で逃げ出そうとする。

エルケーニッヒ(勇者トリストラム! どうして奴がここに!)
エルケーニッヒ(まだ力も戻っとらんというのに、儂一人で勝てるわけがない!)
エルケーニッヒ(三十六計逃げるに如かずじゃ!)

トリス「おっと、拘束魔法(バインド)」
エルケーニッヒ「ぐはぁ!」

トリスが雑に発動させた魔法で拘束され、その場でずっこけるエルケーニッヒ。
光のリングがエルケーニッヒを何重にも締め付けて拘束するエフェクト。

《page 28》
○モルゲン市 半壊した城壁の外(前ページから継続)

トリス「逃がすわけないだろ。港町とこの街をぶっ壊したのは、お前の仕業か?」

エルケーニッヒ「ち、違う! 知らんぞ!」
エルケーニッヒ「儂はつい最近封印が解けたばっかりなんじゃ! まだ何もしとらん!」

エルケーニッヒは地面に突っ伏したまま、尻だけ突き出した状態で弁明する。

エルケーニッヒ「そもそも儂に街を壊す趣味はない!」
エルケーニッヒ「せっかくの拠点、丸ごと手中に収めねば大損だ!」
エルケーニッヒ「貴様も儂の気質くらい知っておるだろう!」
リネット「言われてみれば、街を襲った魔族とは全然違うような……」
エルケーニッヒ「その通り! 征服未遂は認めるが、破壊行為は冤罪じゃ!」

《page 29》
○モルゲン市 半壊した城壁の外(前ページから継続)
エルケーニッヒは拘束魔法で縛られたまま、地面に突っ伏した状態から身を起こし、その場にどっかりと座り込む。

エルケーニッヒ「しかし! 我を殺したいというなら、甘んじて受け入れよう」
エルケーニッヒ「我は大魔王の配下として人間界の征服に加担した」
エルケーニッヒ「それは否定できぬ事実。貴様らには復讐の権利がある」
エルケーニッヒ「さぁ! 殺すがいい!」

前ページまでの情けなさから一転、堂々とした振る舞いを見せるエルケーニッヒ。
しかしトリスは露骨に怪しんだ顔をしている。

トリス「怪しい」
トリス「お前ってさ、もっとしぶといっていうか、意地でも生き延びてやるって感じの奴だったよな?」

エルケーニッヒが図星を突かれたようにギクリと反応する。

《page 30》
○モルゲン市 半壊した城壁の外(前ページから継続)

トリス「というか、お前が生きてる時点で不思議なんだよな。確実に倒したつもりだったのに」
トリス「ひょっとして、死んだと見せかけて逃げられる魔法とか、そういうのが仕込んであったとか?」
トリス「それでわざとこんなことを……」

小刻みに震えながら視線を逸らすエルケーニッヒ。

トリス「仕方ない。倒すのは諦めて、封印にしとくか」
エルケーニッヒ「わー! わー! 待て待て! 待ってくれ! 封印だけは嫌じゃ!」

《page 31》
○モルゲン市 半壊した城壁の外(前ページから継続)

エルケーニッヒ「大魔王に封印されて、半端に意識だけが残った状態で身動き一つ取れず……」
エルケーニッヒ「何でもするから、それだけは勘弁じゃ!」

あまりに必死なエルケーニッヒの訴えに、トリスは気勢を殺がれる。
そして、少し離れた場所にいるリネットと、街の方から様子を伺う領民達に、それぞれ順番に困り顔の視線を向ける。
リネットも領民達も、魔王エルケーニッヒへの恐怖心はすっかり薄れ、現状への困惑と憐れみ混じりの表情を浮かべている。
温情をかけても受け入れられそうな空気感。

トリス「……さすがに、魔王から命乞いをされたのは初めてだな」

トリスは片手で髪をかき乱し、少し考え込む素振りを見せてから、短く息を吐いて結論を出した。

トリス「分かった。じゃあこうしよう」

《page 32》
○モルゲン市 半壊した城壁の外(前ページから継続)

トリス「お前もアヴァロン島の復興を手伝え」
トリス「人間の味方になるなら、殺す必要も封印する必要もなくなるからな」
トリス「俺は人手が増えて助かる。お前は封印されずに済む。お互いに悪い提案じゃないだろ?」

ぽかんとした顔のリネットとエルケーニッヒ。
二人が呆気にとられたコマを挟んでから、二人同時に驚きの声を上げたところで第一話を締める。

リネット「ええっ!?」
エルケーニッヒ「はあっ!?」