「そのままクソガキの頭を真っ二つにしなさい!!」

 ゲスダーの声が堕天使の意志を後押しし、すんだ碧い光の塊となった人間だった者(・・・・・・)へと天罰メイスが振り落とされた。

 天罰メイスの先端。そこから伝わる硬質な感触。
 それに堕天使はやりきった(・・・・・)と口角を上げ嗤う、が! しかし、それが徐々に上に押し上げられ、その塊から光る蒼髪が現れる。

「おい……第七位。暴行は許してやる。が、頭が高いぞ!!」
「――ッ!? ヴぁか……な……」

 右手で堕天使の頭を殴りつけると、驚きの表情と言葉を最後に消え去っていく。

「なんだよ、話せるのか? お前ら人間見下しすぎだろ」

 その言葉と同時に光は収束し、俺の体へと吸い込まれた。
 不思議な感覚をいだき、左手に持つ相棒に装備されている、星座のリールの側面に映った自分の顔を見る。
 少なくとも、見た目はタブン変わっていない。ちょっと安心した。

 だが何だろうか。文字通りの万能感と、真逆に静寂な心が俺を支配する。
 相なれない二つの感覚にむず痒さを感じていると、顔がひっくり返ったゲス天使が叫ぶ。

「な……!? なぜ私に次ぐ力を持つ堕天使が簡単に? キサマ! 何かイカサマをしたな!!」

 右拳を開いたり閉じたりしながら、ウルサイ馬鹿にそっと告げる。

「イカサマもタコサマもしてねぇよ。なぁ三下……今なら間に合う。いい加減アリシアを開放してくれないか?」
「……今、なんと?」
「だからアリシアを開放して――」

 その言葉にゲス天使たる、ゲスダーは激しく被せ言う。

「なぜ神であるワ・タ・シ・ガ! キサマの言う事を聞かねばならないのだ!? もういい、もういい……お前は今すぐシネ!!」

 そうゲスダーは言うと、天に滞空する数えるのも馬鹿馬鹿しいほどに、増殖した堕天使へと無慈悲に言い放つ。
 
「伝説の島に興味はあったが、もういらぬ! 全てを破壊し、全てを蹂躙し、全てを無かったこと(・・・・・・)にしろ!! 忠実に私の命を遂行し、最強にして最凶の力を示せ堕天使どもよ!!」

 それが始まりであり終わりだった。
 一斉に天を埋め尽くす全ての堕天使が堕ちて来てしまう。

『主よ。まさか私と同等の存在(・・・・・)になるとは、正直思いませんでしたよ』
「人生色々あるもんだろう? なに、その一つがたまたまデミゴッドだってだけだ」
『古今、その地位は望んでも得られず、望まないものにそれが与えられるとは皮肉です』
「そう言うものなのだろうな……さて、始めるぞ。神の戦いってやつを」

 一気に魔釣力を相棒へとそそぎ、七色の輝きは更に増す。
 それをゴッド・リールへと送り、ゴッド・ルアーへと伝わらせた。

 これまでに無いほどに力が膨らみ、新しい力――第五のルアーを創り出す。

 黄金のルアーは形を平たく大きくし、その姿が徐々に明らかになる。
 それは全長五メートルほどの巨大なエイであり、黄色い瞳をした紅の体。

 まるで燃えている色合いのエイ型のルアーを、横殴りに振り抜き解き放つ。

「全てを焼き尽くせ灼エイ! 行ってこおおおおいッ!!」

 思い切り振り抜かれた灼熱のエイは、その姿を文字通り炎につつみ闇を夜を駆ける。
 その直線上にいた全ての堕天使は燃え落ち、周囲にいた堕天使も燃え移り翼を焦がす。

 圧倒的な火力と、凄まじいゴッド・ロッド捌き。
 それに導かれた灼エイのゴッド・ルアー。
 誰しもが思うだろう……〝勝ったな〟と。 

 だが現実はそれを許さない。
 まだ未熟なれど、神の力を上回る数の暴力。
 焼いても焼いても焼き尽くしても、次々と現れ、俺の視界を閉ざす。

「ここまでやってもまだ足りねぇのかよ?!」

 苦々しく言う俺の両手の中で、相棒がつぶやく。『やはり皇魚にコアが必要なのか』――と。