ゲス天使の言葉で堕天使の中でも、特に大きいやつが突っ込んでくる。
たぶんリーダー格なのだろう。体格だけじゃなく、装備している杖もかなりデカイ。
それを思い切り振りながら、頭上よりとてつもない速さでまっすぐに降りて来た――はずだった。
不思議だ……ぼやけた視界だが、それがとてもゆっくりに見え、その理由考える時間まである。
あぁそうか。これが走馬灯というやつの一種なんだろう。
昔は思い出せないが死ぬ間際、時間がゆっくりと流れるように見える事もあると聞いたな。
あの痛そうなトゲが付いた部分で頭を殴られるんだろう?
あぁ嫌だ、そんな痛いのは一瞬で終わって欲しいのに、なんでこんなにスローに見えるんだよ。
『――じ』
まったく、神の国からやってきたヤツを潰しまくったから、これが天罰なのか?
『るじよ!』
頼むぜ神様、どうせ死ぬならサクっとやってくれよ。
『主よ、最後の魔釣力で間に合いましたぞ!!』
「やめてくれよ、俺は静かに旅立ちたい――って、何だッ!?」
最後の魔釣力がかすかに残る釣り糸を相棒が操作し、それを堕天使の首へ絡めつけてソイツが消え去った瞬間、世界が一変した。
MP釣が無くなり、意識が朦朧としていたが、それが急速に消失。
と同時に、呼び出してもいないのに〝ス釣タス〟が現れ、ページが高速でめくれあがり該当ページで止まる。
しかも初めて聞く声で、意味不明な事を言い出す。
『おい、やりやがったなテメェ! 堕天使とはいえ、ここまで神の眷属を屠ったんだ。覚悟、キメロよ?』
この乱暴な口調。もしかしてス釣タスの中の人か?
その内容はニページ全部使ってこう書いてある。
【裏クエスト:人類を超えてリミットブレイクをキメロ!! 状況:達成】
「な、なんだよコレ?」
『いいから選択してください時間がない!!』
相棒にせかされ、その下に書かれている内容を見る。
そこには〝選択をしてください〟と書かれた場所に、[人類最終形態]と、[魚類魔神]と、[魚介系水産物]と書かれていた。
「え? 工エエェェェェエエ工!?」
『迷っている暇はありませんぞ!! 早くッ!!』
マッチョメンが俺の頭へ天罰という名の暴行まで、残り八メートル。
急速に回復したと分かる、MP釣が脳内まで来たことで、思考も高速に動く。
さらに驚くほどに心が冷静だ。そう冷静なのだが――魚介系水産物ってんだんだよ!? 俺、美味しく食べられるのか?!
いやいや無いわ。無いでござる。
無いでござるはいいが、筋肉質の暴漢に殴られるまで六メートル。
マズイ! このままなら俺の頭が弾け飛ぶッ……が、本当にマズイ……のか?
妙な余裕さえあるんだが、魚類魔神! オマエの存在には余裕すらない。魚類魔神ってなんだよ?!
すまん、魚魚しい未来しかみえない。謹んでまたのご来店をお待ちしています。
ってウソだろ? もう三メートルしか距離ねぇだろ!?
ええ、そうです。ムダなこと考えすぎました。
はい、初めから決まっておりました。
消去法で初めから[人類最終形態]一択だと。
「ど~せ人間半分やめたみたいな体だ。ならば人類最終形態――なったろうじゃねぇか、デミゴットってやつにな!!」
そして迷いなく人類最終形態――デミゴットを強く選ぶ。
瞬間、俺の体を包み込むまばゆい光。
だがそんな事などお構いなしと、凶暴なトゲ付き杖を振り下ろす暴漢天使。