「ゲス天使おまえ! アリシアを開放しろ!!」

 すると表情に音が〝にちゃぁ〟と張り付く笑みで、逆さ顔のゲス天使(ダー)が再生した両手で嬉しそうに叩きながら嗤う。

「ハッハ~! いいでしょう、私は寛大な男として知られています。ですからその望み叶えてさしあげましょう」
「…………条件は?」
「ふん、クソガキのくせに察しがいい。なぁ~に簡単な事です。今すぐ死に――グアッ?! 卑怯者か!!」
「どの口が言う。予想通り過ぎて、言うのを待ってられねぇっつ~の」

 阿呆口開いている開いている顔面へルアーを投げたが、やっぱり障壁みてぇのに弾かれたか。

 魔法みたいなものか? いや。でもさっき、アリシアが居た場所には投げれたし、腕も切り落とせた。

 首を落とし、胴体と分ければ……いや、あの感じなら首も当然硬いだろう。
 どうする? どうしたらいい?

『主、考え事は後です!!』
「ッ?! 悪い助かった!」

 考え事をしていた隙を狙い、首にゲス天使の羽が飛んできた。
 それをゴッド・ロッドで弾き飛ばし、そんな事も出来るのかと驚く。

 さらに加速する羽の攻撃。
 だがその程度は、俺の釣り竿(ロッド)テクニックによって、一掃される。

 そんな不毛な時間が体感で十分ほど防いだが、実際はもっと短いのだろう。
 それだけ濃密で繊細なロッドの動きで(かわ)していたのだから。

「チィィ、ダメージすら与えられんとは、(らち)もない!」
「お互いにな」

 そう、このままでは攻防ともに、お互い決め手にかける。
 何か打開策はと考えながらロッドを振るっていると、ゲス天使が叫ぶ。

「ええい! こうなれば最終審判の時デス!」
「なに? まだ何かしようってのか?」
「神にココマデ楯突いたのです! ならばその代償は、キッチリと償ってもらいますヨ?」

 瞬間、急速に高まる威圧の塊。
 いや……威圧などと生易しいものではなく、膝を屈すると言ったらいいか。
 そういう類のモノが、アリシアから(・・・・・・)放たれた。

「ッ?! この感覚は相棒やルアー(おまえたち)と同じものか!?」
『そうです、これは神気……しかもかなり高位のものです! まずい、まずいですぞ主!! アリシアの聖石をさらに暴走させていますぞ!!』

 その言葉は真実なのだとすぐに分かる。
 アリシアが体が引き裂かれたとしか思えない、苦痛の声を張り上げたからだ。

 聞くだけで涙が出るほど辛く、苦しい声に「何とかならないのか!?」と相棒に言うが、『なりません。が、もうすぐ終わります』と言う。

『くッ、やはり天界とコネカライズしましたのかッ!!』

 相棒が悔しげにそう言った次の瞬間、ゲス天使が嗤いながら短い両腕十本を広げ、人差し指だけその場所(・・・・)を指す。

「くくくわ~っはっはっは!! 見よ、絶対神たる私に逆らいせし神の叛徒(はんと)め! これより私の力でこの世を支配してやろう。なぁヴァルマーク?」

 玉座の裏にしがみつき、震える声でそれに抗議する裸の王様ヴァルマーク。

「オ、オ、オレのために尽くすのなら、宰相にしてやってもよいぞ!?」
「はぁ~、これだからヴァカは困りますね。私は神で、貴方はゴミです。この状況でまだ玉座に固執する姿、本当にマヌケで笑えますね」

「な、なんだと!? オレはこの国の皇帝だぞ! キサマなぞ、すぐに我が軍が叩き潰してやるわッ!!」
「ほぉ……なら相手していただきましょうか。我が軍(・・・)を」

 その時だった。
 星空に一筋の光が縦に入り、それが徐々に大きくなり、やがて円形の巨大な扉になる。

 そして円の中心が開き、中からまばゆい光と共に、巨大な鐘の音がひびく。
 七色のオーロラが天を駆け、光の柱が円形の扉の周辺に現れると、中から筋肉質な天使が次々と出てくる。
 
 スキンヘッドに両目を黒い布で覆われ、布の中央には「堕天」と書かれていた。