醜悪な見た目だが、顔だけは美しかった。
が、ゲスダーが逆さまに現れたことで一気に醜悪さが増し、その表情もゲスに歪む。
しかも権天使の顔に生気が宿り、ゲスダーとして話し出す。
「なんという事ですか……この私がこのわたしガこのワタシがコのわたスがッ――神になる日が来ようとはッッッ!!」
短い手で震える体を抱きしめ、恍惚とするゲス天使。
あまりの気持ちの悪さに、思わず一歩後ずさる。
『主、妙な気配と気持ちが悪い原因が分かりました。アリシアが持つ聖石を使い、天使を召喚したのでしょう。もっともヤツは返盃だなど言っていますが、アリシアの体を依り代に天使を堕としたにすぎません』
どういう事だ? やはりアリシアがあのゲス天使になった……いや、やっぱり違う。
「……あれはアリシアの胸から出てきた聖石が、作り出した肉体って事か?」
そう相棒に聞くと、聞いても居ないやつが話す。
「そう! まさにそれですよ!! 本来なれば悪女アリシアが、そのまま神の使いの精神体として神の体を動かせた。が、私が取り込まれた事で、私が神になったのです!!」
『それで神とは烏滸がましすぎる。主よ、アレは天使。つまり神の眷属です。しかも力はそれですが、中身は亜種と言っていいほどの劣化版です。あの醜い体はゲスダーが含まれたせいでしょう』
「ウルサイ!! 神を愚弄するとはますます許せん!! だから――ぐぅ!? キサマ卑怯者か!!」
饒舌に話すゲス天使。聞くに堪えないとはこの事なのだろうと、ヤツの左腕へゴッド・ルアーを投げる。
瞬時に肉体の構造を理解し、その細胞の隙間をぬって腕を落とす。
「知らないのか? グダグダ話すのは三下っていってな、やられキャラなんだよ」
「クソ生意気なガキがああああ! 神の力とくと味わって後悔しながらシネ!!」
醜い短い腕を修復させ、さらに分裂させたものを伸ばす。
その数合計十本!
そいつが、山になり俺へ一気に襲い掛かる。
まるで虫の群れが、うねりながら襲ってくるのを感じるソレは、半包囲しながら隙間なく囲む。
「その程度で神? ハッ、こっちは本物の神様とその道具だぜ? それにプロの釣り師をナメンナ」
虹色に輝くゴッド・ロッドを七回上下左右に振る。
漆黒の星座が浮き出るルアーが、釣り糸を強烈に引きながらヤツの腕へと喰らいつく。
瞬間、真っ赤に熱した鉄糸がロウソクを切断するよりも、さらになめらかに醜い腕が次々と吹き飛ぶ。
「グウウウウウウッ!? ナメた真似をしおって!! って、ちょっと待てえええ?!」
「はいそーですかと聞く馬鹿がいるかよ。セアアアアアッ!!」
さらに勢いよく漆黒の星座ルアーを引き戻した反動で、ヤツの胸へと撃ち込む。
〝スキル:真・人釣一体〟で、ルアーからヤツの体へ入る不快さを感じた刹那、異物認識してルアーを引き抜く。
「ッ?! な、なんだ? 今のはまさか……アリシアか!?」
「だぁ~かぁ~らぁ~待てと言ったのですよ! キサマが攻撃した場所。そこにはこの神の体を構成する最重要パーツがあるのですよ。ほ~ぉら、こんな風にねぇ?」
肉塊の胸部分が開く。
ねっとりとした臭気がここまで届くほど、生々しいその中から出てきたのはアリシアだった。
下半身はいまだ肉塊の中だが、上半身は十字にはりつけにされた人のよう。
苦しげに「うぅぅ……」と唸るアリシアに、心の底から叫ぶ。「アリシアアアアアアア!!」と。
「うぅ……ヤマト……さん?」
息も絶え絶えになりながら、アリシアはやっと顔を上にあげ、俺をみて微笑む。「私は大丈夫だよ」と言いながら。