「あうぅぅぅ……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
「ア、アリシアアアア!!」

 その瞬間、アリシアの胸の中から光る石――聖石がむき出しに現れ、莫大な神気を放つ。

「くくく……あ~っはっは! 喜びなさい。今、大罪人アリシアは汚れを払いました」
「どういう意味だ!?」

「神へ力を返盃したのですよ。アリシアは稀代の聖女……つまり認めたくはないが、大聖女というほどの力があります。その力を暴走させ、神の力を借りるのです」

『主、先程アリシアが言っていた、聖女の力をフルバーストさせてと言うのはこの事では?』
「……ッ!? 島に結界を貼るとかって言ってやつか!!」
「なんと。自分でこの状態になってまで、島を守りたかった、と? 偽善者め、ヘドが出る!!」

「オマエが言うな、エセ宗教家が!!」
「ふん、なんとでも吠えるがよいです。しかし使われなくてよかった。もっとも自分(アリシア)しか出来ないと思っていたのが、やはり神の采配といったところですかね」

「オマエ! アリシアに何をした!?」
「まぁ見ていれば分かります。ほら、始まった」

 まばゆい光を周囲に放つ白い聖石が、白いバラの花に似た形状になる。
 そこから青金の光が輝きだし、白バラがアリシアの体から血管を付けたまま浮き上がった。

 次の瞬間、アリシアの体が純白の羽に覆われ、その羽にも血管が浮き出ていた。
 驚くことにそれは勢いよく体積が増えだし、近くの死体まで取り込んでいく。

「ははは、あさましい。悪女に相応しい最後というもので――ッ! な、や、やめなさい!! こっちに来るギャアアアア!!」

 すぐ側にいたゲスダーに生々しい羽が覆いかぶさる。
 瞬間、ゲスダーは羽と一体になり、溶けて吸収されてしまう。

 徐々に広がる不気味な天使の羽は、一気に収束して一つの羽の(まゆ)となった。

「アリシア……」
『ほけている場合じゃないですぞ、内部より急速に圧を感じます!』
「ッ!? 本当だ、この感覚は……アリシア……いや、違う。そうだけど違うのを二つ感じる」

 自分でも何を言っているのかが分からない。
 が、確実に言えることがある。

 あの白い羽の繭の中に、三つの息吹を感じると。
 それがなんだか分からないまま、見守ることしか出来ない。

 やがてその時が来た。

 羽の繭のてっぺんから徐々に羽が剥がれ落ち、それが急速に広がって行くとついにソレ(・・)が見えた。

 まず見えがのが、直径五メートルはある巨大な中性的な天使の顔。
 当然、ギャグみたいな青色のエンジェルリングも付いている。

 だが問題はそこからだった。

 その頭が上にムクリと上に昇り、その下から胴体が出てくる。
 無邪気な表情に似合わず、胴体は怠惰(たいだ)ともいえる、太った肉塊。

 短い手足をバタつかせ、背中には生々しい羽を生やした天使がそこに居た。

「な……なんだよあれは……」
『主よ。心して相手なさいませ。あれは第七位にして権天使(ごんてんし)――プリンシパリティ級です』
「おいおい、冗談だろ? 天使とかいるのかよ」
『います、目の前にね。しかも受肉している特殊個体です』

「受肉? って、まさかアリシアなのか!?」
『いえ、そうなのですが……いや、ゾンビ娘の気配はするのですが、あの権天使は何かがおかしい』

 そう言われると確かにおかしな気配を感じた。
 
「確かに変だ。虚ろと言うか、無理やり主人格を封じて、誰かがのっとっているいるような……」

 そう呟いた時だった。
 権天使の額がうごめきだし、そこから上下逆さまの男――ゲスダーの顔が出てきた。