「オ、オイしっかりせよ! 気絶するには速すぎる! オレを守ってくれ!!」
「ぬ……グァ……五月蝿(うるさ)い!! くぅ、両足の骨が……何か、何か手は」

 ゲスダーは周囲を見回し、正面に一つの可能性を見つける。
 それは封印の力でグッタリとしている、アリシアであった。

「やはり神は私を見捨てない。神は聖者にこそ手を伸ばす」

 もぞぞ(・・・)と動き、アリシアの所へ近づく。
 それに気が付かずに、全ての兵士が逃げ去り、狼狽えているアリシアの馬鹿兄貴の前に立つ。
 
「残ったのは馬鹿兄貴、お前だけだが?」
「ひぃぃぃ!? え、衛兵どもはドコに行った!!」
「オマエ……よほど嫌われていたのだろうな。誰一人として、オマエを守ろうとするヤツは居ないんだから」

 ヤツは周囲を急いで見渡し、それが本当だと分かると「誰ぞ! このガキの首を()ねないか!!」と言うが、すでに誰一人としていない。

「やめとけよ、裸の王様。テメェはもう終わりだ。大人しく馬鹿共をつれて帰るか、このまま海の藻屑となるかを選べ」

「なぜだ!! どうして誰もおらぬのだ!? オレは皇帝ヴァルマークなるぞ! キサマら一族郎党皆殺しにしてやるッ!!」

 腰の剣を抜き、やみくもに周囲を斬りつけ、威嚇しながら罵詈雑言を叫ぶ馬鹿兄貴――ヴァルマーク。
 すると足元のアリシアが気がついたのか、苦しげにヤツの裾をつかみ話す。

「もぅ……やめてください。兄上の野望はすでに(つい)えました」
「潰えた? このオレの覇業が? 馬鹿を言うなッ! まだ何も始まっておらぬわッ!!」

 ヴァルマークはアリシアを足蹴にし、つかんだ手を振りほどく。
 その仕打ちに思わずこのクソヤロウに目をとられた一瞬、俺は激しく後悔した。

「そう! 何もまだ神の裁きは始まっていないのですッ!!」
「え……!? ッ――きゃああああ!?」
「陰険野郎、何を!?」
「動くなガキ! いいですか、もし動いたら悪女アリシアを殺します」
「ッ、この野郎……」

 両足を砕かれ、這いずってきた所へアリシアが倒れてきた。
 そこを背後から襲ってきた陰険野郎――ゲスダー。

 アリシアを羽交い締めにし、どこかで拾った剣を腰に首元へ突きつけて俺を脅す。
 
「よくやったゲスダー! さぁ、こっちへアリシアをよこせ。オレがソレ(・・)を盾に逃げる!」
「貴方も本当にクズですね。自分の妹をソレ(・・)呼ばわりとは」
「やかましい! いいからよこすのだ!」

 嫌らしくゲスターは(わら)うと、アリシアへと告げる。

「聖女とは、聖なる盃として供物を捧げる巫女なのですよ」
「何を言っているの? 聖女にそんな力はないはずです!」
「あるのですよ。こんな風に、ね?」

 ゲスダーはそう言うと光る石をとりだし、アリシアの胸の谷間へと石を当て叫ぶ。

「天の盃よ! 今こそ聖女の力が満ちた! ゆえに返盃す――リターンカップ・ザ・サンクチュアリ!!」

 刃物がアリシアから離れた隙を付き、ゴッド・ルアーをアリシアへ向けて引き寄せようとする、が。

「――ッ! な、弾かれた!?」

 見えない壁があるように、アリシアへ向かったゴッド・ルアーが硬質な音と共に弾き返された。
 
 それを見たゲスダーは大きく嗤い、「無駄! ムダ! むだ! な事です!!」と叫び両手を広げた。