思わず相棒を強く握りしめた次の瞬間、勢いよく相棒が砕け散ってしまう。

「うそだろ…………おい、うそだろう…………ぇ?」

 絶望と共に奇妙な感覚を感じる。
 そう、砕け散ったはずだが、手にしっかりと相棒の感覚があった。

 しかもそれがただの握った感覚じゃなく、妙に手に馴染む。
 だからその懐かしい感触(・・・・・・)に、思わずあの時の感動を思い出す。

 仕事をサボり、スマホの画面を凝視し、二ヶ月待ってやっと手に入れたあのロッド――天空の破片(WSL)を手に入れたのと一緒の感動を。

『主よ……これは一体……? ぬぉ?!』
「うわぁあぁあぁ俺のWSLだ! 俺のWSLかっけええええ!!」

 ポカンと口を開いている馬鹿どもに、俺は言ってヤッタね。「見ろ、この曲線美を!」と。

「虹色に光る天空の破片! それが今はどうだ……マジで言葉通りに輝いてるぞ!! うっつくすぅぅぅ!!」
『ちょ、ま、主! そんなに顔を擦り付けないでください! ちょ、気持ち悪いですってば?!』
「いいではないか、いいではないか~ハッハッハッハッハ!!」

 俺の相棒(WSL)への愛は留まることを知らず、それを見ていた馬鹿兄貴と陰険白服ヤロウは顔を見合わせた後、指をさしこう言い放つ。

「「へ、変態だッ!!」」
『いいえ、違います。〝(ちょう)・ド・変態〟です。お間違いなく』

 うっさいわ! だが今はいい。だってスゲェカッコイイ釣り竿に、酔いしれているから。へへへ。

「ゲスダー……」
「…………」
「おい、ホワイティ・ターグ・ゲスダー!! 何を呆けておる、今すぐあのガキを斬り殺せ!!」

 馬鹿兄貴にそう言われるが、ゲスダーはブツブツと独り言をいう。

「馬鹿な……その釣り竿から神気……それも上級の物を感じる……」
『当たり前です。元々、このロッドは無論、私も神の一人なのですから』

 それを聞いたゲスダーは「そんなはずはない!」と激昂するが、俺も「そうだったっけ?」と首をひねる。

「は、ははは……。今日は何という幸運の日でしょうか。闇の悪女アリシアを召し捕り、さらに神の名を語る悪魔の使いを排除できようとは……神に感謝いたします!!」

 そう言いながらゲスダーは目を血走らせて突っ込んでくる。
 狂信者を地で行く男にゾっとするも、なぜか先程と違って武術のど素人の俺が安心出来るほど、神竿となった相棒が頼もしい。

『主よ……』
「あぁ、分かっている。ゴッド・ロッド(おまえ)をどう使ったらいいのかが」
「世迷い言を! 神の名を語る不届き者には死の制裁を!! ゴッド・オブ・セーヴァ!!」

 先程までは俺のレベルアップした力だけで、無理やりココまで来た。
 が、本当の強敵の前ではただの釣り人でしかなかった。

 けれど今は違う……そう。

「俺と同等の力を持つ釣り竿があればな!!」

 俺とゲスダーの距離、三メートル半。
 ヤツは刀身に白い魔力を流し、神の名のもとに一刀両断しようとするのが分かる。

 だからそれを正面から受けてやった(・・・・・・・)

「ばッ馬鹿な!? どんな悪も斬り裁く神の一撃が、そんな悪の釣り竿ごときに防がれただと!?」
『ふむ。確かに神気が込められています。が、たかが借り物の神の力。本当の神の私と、神の釣具には敵うはずもないでしょう?』
「だ、そうだ。分かったら剣を捨てて、海へ飛び込め。命だけは助けてやる」

 わなわなと左手を震わせ頭を掻きむしるゲスダー。
 黒髪をメゾっと抜きながら距離を取ると、「そんなはずがあってはならない!!」と上段から、真っ直ぐ斬り掛かってくる。

『こういう時、日本ではなんと言いましたかな?』
「馬鹿は死ななきゃ治らない」

『いいことわざです。なら』
「あぁ、体現させてやろうじゃねぇか相棒!!」
「何をゴチャゴチャと言っている!! 今度こそ死ね、ゴッド・オブ・セーヴァ!!」

 リールもまた元以上の姿に戻っていた。
 それはゴッド・リールとも言える、星の名を持つのに相応しい形となり、夜空がリールの表面に浮かび上がっていた。

 それを強く握りしめ、第四のルアー形態といえる、〝漆黒の魚に星が無数に入る形〟へと変換。

「天空の涙に裁かれろ……二十三式・流星爆釣(りゅうせいばくちょう)!!」

 大きく振りかぶり、そのまま真っ直ぐ漆黒のルアーを投げつけた。
 瞬間、ゲスダーの周囲がプラネタリウムとなる。
 
「な、なんですかこれは!? なぜ夜空に私が!!」

 そう叫んだ刹那、星星が一気にゲスダーへと堕ち、ヤツの体を完膚なきまで叩きのめし吹き飛ばす。

 悲鳴なのか苦痛なのかよく分からない声が「ぐぉヴぉっばッ!?」と響き、そのまま馬鹿兄貴の玉座へとぶち当たり転げ落ちた。