「聖女殿下! さぁ今のうちに脱出を!!」
「え……あなた達は?」
「我らは貴女様を助けに参りました。この混乱に乗じて、この場所から隠れるのです。貴女様は強いと聞きます。きっと皇太子殿下は貴女様を利用するでしょうから」

 窓の外を見ると、今また戦艦が大きく壊れるのが見えた。
 このままなら確かに自分が呼ばれ、ヴァルマークに戦力で使われるならまだしも、人質として掴まり、ヤマトの足手まといになるのはゴメンだとアリシアは思う。

 だから彼らと行くことを決意した。

「……分かりました。すぐにココを出ましょう」

 それからの行動は早かった。
 全員で船の最下層へと身を隠し、仮にこの戦艦が沈んでも逃げれるように荷物搬入口へと潜むこととする。

「ここまでくれば……みなさん、危険を顧みずにありがとうございます」
「聖女殿下、ここなら安心です。しばらく様子を見て脱出しましょう」

 突如、乾いた音がした。その原因を全員が見ると、痩せこけた顔色の悪い男が手を叩いている。
 長い髪は黒く、目がくぼみ、肌は荒れ放題。
 腰には細身の剣を帯剣し、全身白い服に白いマント。まるで聖職者と思えるものだった。

「神はいいました。汝、悪女を救うなかれ……と」

 一歩あるく。一人が倒れ伏せ、また一歩。

「魔女と契約せし呪われた巫女よ。貴女は存在自体が悪だ」

 ドサリと崩れ落ちる兵士。また歩む。

「悪を信奉する者……それもすなわち悪そのものなのです」

 悲鳴と共に、兵士がまた一人、一人と崩れ落ちても男はすすむ。
 さらに一歩踏み出したと同時に、白い影が男へと向かい細身の剣を白い剣で受け止めた。

「やめなさいゲスダー!! 罪もない人を斬ることは許しません!!」

 アリシアの動きに驚く兵士は、ゲスダーと名前を聞きその正体に思いいたる。

「ゲスダー……ッ!? そいつは聖騎士だ、しかも聖騎士団長・白殺のゲスダー!!」
「おぉ、悪魔の信奉者に名を呼ばれるとは不快……フカァァァァイそのものデスネッ!」

 ゲスダーはアリシアの剣を大きく払ったその足で、自分の名を叫んだ兵士の首を落とす。
 
「やめなさいと言っている!! ホワイト・ダガー!!」

 神聖力で一気に体を強化し、ゲスダーへと斬りかかるが、剣を背負うようにアリシアの攻撃を受け流して(かわ)す。
 さらに白い閃光となり、残りのアリシアの護衛達をことごとく斬り倒した。
 
 それに回復魔法を使いつつ、ゲスダーへと神聖力で創り出した白槍を投擲(とうてき)
 かなりの速さでせまった白い槍に、ゲスダーは細身の剣を滑らせて方向を変え避けた。

「黒き心は純白により清浄となりて悪を滅します……」
「ゲスダーあなたという人は……」
「ワタシはね、昔からキサマが嫌いでした。張り付いたウソ笑いの奥に、仄暗い心を隠し、それで聖女だと担がれるキサマがね」

 そう言いながら剣を鞘に納刀し、コツコツと床を叩きながら歩く。

「仄暗い奥底に闇を抱えた少女が聖女? いえいえ、何のご冗談かと常々思っていたのです。聖女は光、そう光そのものでなくてはならない。それがどうです、キサマは?」

「…………」
「おや、図星といった顔ですね? しかしやはり神は存在した……そう、心に闇を抱える少女の顔に、悪魔の印を刻み込まれたのです」
「違う、これは兄と姉の呪いを解いた結果――」

 そこへ強烈に言葉を被せ叫ぶ。

「――デ・ス・カ・ラ!! そう、その呪いこそが、神がキサマへと与えた悪の烙印なのです」
「馬鹿を言わないで! 自愛の女神様の祝福は、今もこの胸の中にしっかりとあります!!」

 そう言いながらエリシアは両手にホワイト・ダガーを創り出し回転しながらゲスダーの胴体へと斬りかかる。

 それを抜刀した勢いで全て弾き返し、そのまましゃがみながらアリシアの足を斬り払う。
 が、それをバク転して交わしたエリシアは、ゲスダーの頭と足へとホワイトダガーを投げつけ、さらに白槍を創り出し、それをダメ押しとばかりに胴体へと向けて投擲(とうてき)

「手癖の悪い娘だ」

 そうゲスダーは言うと、ホワイト・ダガー二つを弾き飛ばし、迫る白槍を下から蹴り上げ天井へと突き刺した。