――七番艦・ソレストの艦橋(かんきょう)と呼ばれる、艦長がいる指揮所内。

「ば……馬鹿な!? 一体何が起きているというのだ!?」
 
 狼狽する艦長へと、黒いローブで、ジミーたち影の者に〝隊長〟と呼ばれていた男が静かに答える。

「神の怒りってやつかも知れませんね」
「キサマ何を言っている!?」
「俺たちはやりすぎたんですよ。聖女は今も聖女だった。それをあの愚息をいいように利用し、利用された結果がこれですよ艦長。あなたはそうは思いませんか? ほら、その怒りが形となって現れた」

 戦艦の甲板上では驚く光景が広がっていた。
 今まさに蒼髪の子供へ向けて、炎のジャベリンと呼ばれる魔法を魔法師が複数放つ。

 次の瞬間、手に持った木の棒から伸びる光の糸が、全ての魔法を細切れにし、さらに魔法を放った魔法師をその棒をムチのようにしならせ叩き気絶させた。

「ばか……な……」
「そうですか? 私はまだ甘いほうだと思いますがね。アレはやろうと思えばこの船ごと、真っ二つに出来る力を持っていますよ」

「冷静に分析しとる場合か! 今スグあのガキを始末してこい暗殺者崩れ――ガハッ……」
「一つ忠告しておく。私……いや、俺たちを暗殺者呼ばわりするやつは、次の日から見たことがない」
「隊長、艦長(ソイツ)は次の日を楽しむ事が、もう不可能になったみたいですぜ?」
「らしいな。ジミー……長年俺によくつくしてくれた。今日限りお前は死んだ。あとは好きにのたれ死ね」

 アリシアを誑かし、ここまでつれてきた獣人の男、ジミーは頭をかきながら苦笑い。

「あの娘……いや、聖女殿下をハメタのは俺です。どのみちですよ」
「そう、か。なら行くか。神の裁きってやつと戦いに」

 向かう先で物理剣まで光る何かで絡め取り、それを相手に投げつける恐ろしい子供へと向かう。
 そして二人で数度斬りつけた後、二人は悟る――ここまでだ、と。





 ほどなくして七番艦・戦艦ソレストの轟沈の報が艦隊の総指揮官にして、御座艦の主であるヴァルマークへと届く。

「どうなっておる!? 報告は? 戦況は? そもそも敵は一体なんなのだ?!」
「皇太子殿下! 七番艦・ソレストが轟沈したと報告が――ガァ?!」

 報告に来た部下を足蹴にし、「そんな事は見れば分かるわ!!」とさらにケリしばく。

「冗談ではない……残りの戦力は八番艦・ラッセルと、九番艦・ドリス。残りは近衛艦・ヴァドズの三艦しかないのか!?」
「は、はい。残念ながらそれが残存戦力です……あ゛!? ラ、ラッセルが凍りつき撃沈……しました……」
「ば……ばかな……オレの艦隊は一体何と戦っておるのだ?!」

 ありえん。こ、こんな馬鹿な事が起こっていいはずがない。
 
「ええい! 全砲塔ドリスへと向けい!! 敵が乗り移ったと同時に一斉掃射して敵ごと砕くっ!!」
「そ、そんな!? 皇太子殿下、あの船には多数の同胞――ギャアアア?!」

「何を優先すべきか理解できぬ馬鹿は死して当然。あとは……そうだ。特級戦力である我が妹、アリシアを今スグ連れてこい!」
「ハッ!! 承知致しました!」
「ククク……使い道は知識のみかと思ったが、なかなかどうして。まだまだ使えるではないか」




 ――同船内。アリシアの監禁場所。

 そこに複数の男たちがおり、口々にパニックに陥っていた。
 だがその足元には、アリシアの部屋を見張っていた者たちの遺体が転がる。

「お、おい一体どうなっている?!」
「しらねぇよ! それよりどうするんだ?」
「つかなんでテメェらもここに来た!?」

 男たちはゴクリとノドを鳴らし、アリシアの部屋を凝視。
 そして一人が口を開く。

「……おれ、は。聖女様を助けたい。この機会だからこそ、逃して差し上げたいと思ってきた」
「ッ、おまえもか? 俺もじつはそう思ってな」
「アンタらもかよ。ならやることは一つだな」

 いつの間にか総数が十名を超える者が集まっていて、みな同じことを思っていたようだ。
 外から聞こえる破壊音に紛れ、アリシアの部屋のドアを壊す。
 
 それにびっくりしたアリシアは、向き直るとさらに驚く。