「大和ぉ、敵はまだまだ諦めないんだワン!」
「チッ、あれを見てもまだ俺と戦うってのかよ」

 先程とは違う、何か細かい気配を感じる。
 大型の砲弾とは違う、もっと小さい何か……まさか?!

「相棒、この世界の魔法ってのは、応用力はどうなんだ?」
『高いです。炎を打ち出す魔法がありますが、かなりの使い手ならば、剣にそれをまとわせる事も出来ます』
「なるほどな。じゃあアレもそう思えばいいか」

 先程の砲弾とは違い、細かい反応。
 つまりアレは、雨のように弾丸を魔法で撃ち出すのだろう。

「ヤバイぞ、流石にあの数はさばききれない……エマージェ、何とか(かわ)して一番近い軍艦の下部分へと逃げ込め!」
「ぽみいっ!!」

 すでに限界だろう、可愛らしい羽をばたつかせ、エマは最寄りの軍艦の海面ギリギリへと飛び抜ける。

「ナイス、エマージェ! こっからは俺の出番だ。魔釣力最大付与! ウルアアアアアアアア! ヒックリ返レエエエエエ!!」

 船の真横にゴッド・ルアーを引っ掛けると、そのまま思いっきり相棒を背後へと強烈にしゃくり上げる。
 ズシリと両肩に来る大物の手応え。だからこそ俺は釣り師(アングラー)として叫ぶ。

「フィィィイッシュ!!」

 全長三十メートルほどの軍船が、冗談みたく横へとなり、そのまま転覆したと同時にルアーを引き上げる。
 すると、船体部分の木材が巨大な魚へとなり、隣の船へと降っていく。

 その重みで一気にバランスを崩した軍船は、左隣の僚艦へとぶち当たり航行不能のダメージを受けた。

「っっし! これで六隻沈めた――ッ?! エマージェ危ない!!」

 軍船同士がぶつかり浸水が始まったその向こうから、別の軍船が顔を出す。
 さらにそこから機銃みたく、一斉に魔力で飛ばした弾丸みたいな物をエマージェへとぶち当てた。

 避けることが不可能なそれは、容赦なくエマージェの腹へと噛みつく。
 甲高く「ピイイイイ?!」と叫び、海面へと落下。

「エマ?! 大丈夫か!? しっかりしろ! 今助けてやるから……え゛?」

 落下宙にエマージェを見ると、わん太郎が腹へとぶら下がり、その場所を氷の盾で守っていた。

「あの程度ワレが防いでやるんだワン」
「わん太郎おおおお! やるじゃねぇかよ!?」
「フフン。当然だワン! えっへん♪」
「けど……もう落ちるうううう!!」

 勢いよく水面へと叩きつけられた……はずだったが、突如〝ぽよん〟と浮かび上がる。
 エマージェの超撥水産毛のせいか、みずに沈むこともなく浮かんだ。

「そっか、エマージェは最初滝つぼに浮いていたな!!」
「ぽみゅッ!」
「ん? 大和ぉ、焼き鳥候補が何か言っているんだワン。ふむふむ……沈むはずもない? エラソーにぃ」

 わん太郎がそう言った瞬間、海面から激しい振動を感じ、それが速さと実感できるまでそうはかからなかった。

「オイオイ、エマージェお前……海面も走れるのかよ?!」
「ぽみょ~♪」
「走れるなら初めから言ってほしかったんだが? とはいえ、これはスゴイ機動力だな!」

 赤い魔法弾の中を、縦横無尽に逃げ惑うエマージェ。
 もう大丈夫だと、相棒を片手に斜め前の船へとルアーを飛ばす。

「お前ら二人は、適当に船をどうにかしてくれ! ここまで足場があれば、やれるだろ?」
「まっかせるんだワン! ワレはえらいからして、この程度は朝飯前なんだワン」
「ぽるっぴゅ!!」

 二人(?)は元気よくうなずくのを見て、頼んだ! と一言告げたのち、俺と相棒はゴッド・ルアーを斜め前の船へと引っかけてから浮き上がる。