『しかし見事でしたな。よくゾンビ娘の居所が掴めました』
「あぁ。今なら分かる、アリシアの聖女としての力ってやつがな。この中では一番膨大に膨らんでいるし、なにより清浄とでもいうのか? そんな気配がしたからな」
その時だった。騒がしい前方の軍艦から妙な気配を感じ取る。
「何か妙な力を感じる……ッチ、そういう事か! エマージェ、前方から砲撃が来るぞ!!」
「ぴょぽぽ!!」
「前方を時計の十二時としたら、二時の方向からも来るんだワン!」
『さらに十一時と来ますぞ!』
「三つ……だがやれる。大丈夫だ俺に任せておけ、このまま進め!!」
半包囲された形で砲撃が飛んでくる。
魔法でブースとされているのか、火薬とは少し違う仕組みで飛んで来やがる。
弾道は赤い光と共に、真っ直ぐ俺たちへと近づいてくる。
その数三つ。それに合わせてゴッド・ルアーを放つ。
それにより正確な位置情報を脳内に3D映像として認識。
こんな使い方も出来るのかと驚いたが、どうやら〝スキル:人釣一体〟がLV5になった事で、そうなったのかもしれない。
迫る距離は三百メートル。
ゴッドルアーを高速で巻き戻し、砲弾と並走させることで、その特性を理解。
さらに迫る事アト百五十メートル。
相棒たるゴッド・ロッドを斜めにしゃくりあげ、ラインを網の目状に作り出す。
残り、着弾マデ八十メートル。
一気に砲弾が収束し、俺たちへと集まる瞬間、一気にリールを巻き取とりると、砲弾が網の袋へと詰め込まれた。
「っしゃあああ! このまま返してやるぜ! ブッ飛べえええええええ!!」
リールを高速で巻き取りながら、前方にある砲弾がつまった袋を思いっきり俺の背後へと投げ、ラインがピンっと張った瞬間、今度は前へと思いっきり相棒を振り出す。
真っ赤な砲弾は、そのまま来た時の三倍の速度で撃ってきた戦艦へとぶち当たり、轟音と共に船が沈む。
そのあまりの威力に一隻は真っ二つになり、一隻は前部が吹き飛び、一隻はブリッジが消し飛ぶ。
この間たったの十数秒の出来事であったが、敵艦隊の戦力は実に三割近くは削った事となった。
『あ、あ、あ、あ、主ッ!? 一体何を?!』
「ほぇ~やるんだワンねぇ~」
「ぴょむむむ!!」
相棒を左右に振りながら、たるんだ糸をリールへと巻き取りながら話す。
「俺はゴッド・ルアーの使い方を誤解していた」
『誤解ですと?』
「あぁ。スキル:人釣一体は周囲十センチの範囲を探るだけのものかと思っていたが、あれは違う」
『いえ、そうです。その認識であっていますとも!』
「ところがそうじゃなかったんだよ。アレの本当の能力。それは常時発動型の〝全方位探知ソナー〟と言ったほうがいいか。十センチの空間認識。アレはただの中心核だったのさ」
『そ……そんな馬鹿な』
「でもそうなんだ。あの空気の密度すら感じる事が出来る部分は、周囲の情報を集める役目だってだけで、本来はもっと広い部分から情報を集められた」
『ッ――?! だから今みたいな使い方が出来たのですか?』
「ああそうだ。ゴッド・ルアー自体が振動することで、空間に波紋を生み出し、それに当たった物体の構造から性質までかなり理解できる」
「そんな馬鹿な……いや、私の無知を認めましょう。現実がそこにあるのですから」
落雷が落ちたと思える轟轟と沈む音。
よく見ると脱出しようと仲間内で殺し合いまでしており、兵士までが盗賊と思えるかの無秩序さだ。
「チッ、胸糞悪いが俺の目覚めも悪い。勝手に助かっとけ!」
そう言いながら虎色のルアーを投げ、船を分解して木片を海面へと浮かべた。