「もういいだろ。こんな呪われた娘でも、まだ使い道はあるらしいからな。逃げようとしても無駄だぞ、また落ちても上から見ているからな?」
「うっせぇ、俺ぁまだ気が収まらねぇんだよ!」
殴りかかってきた太った毛深い男。
そんな彼へと、魚鱗が浮いた頬をむけながら言ってやる。
「けほッ……そんなに呪いが欲しいなら、このままあげますよ? さぁ好きなだけ殴りなさい」
それをみて臆した男は数歩後ずさると、「気色悪い聖女が!!」と言いながら椅子を蹴飛ばし去っていく。
それにホット胸をなでおろしつつ、ほんの少しだけ息をととのえるために休む。
あの悪辣な兄の事、絶対にヤマトさんも全員の命を奪うだろう。
私も用がすめば殺されるのは確定だ。
さらに島の資源が兄上の手に渡れば、兄を良しとしないベストパーレ辺境伯を始め、周囲と内乱を起こすと思う。
だからもう後はないと覚悟を決める。
「私の命ならいざしらず、ヤマトさん達や、邪な考えで軍艦を使ってあの島を手に入れ破壊しようだなんて、絶対にゆるせない」
そう思うと痛みは吹き飛び、大魔法を行使しようと準備に入る。
それはまだ島からそうは離れていない今がラストチャンス。
聖女の力をフルバーストさせて、元々封印されていたあの島全体を、強力な結界で再封印してしまう。それしかない。
だからこそ水の女神の力を借りるため、海へもう一度飛び込もうと船室の小さな窓へと向かう。
「あの島と、みんなだけは守ってみせる。この命と引き換えにしても必ず!!」
そう強く決心し、窓のふちへ手をかけた瞬間だった。
黄金色に輝く、生きているとしか思えない、小魚の形をした疑似餌が窓から飛び込んできて、窓のふちへとフックが引っかかる。
『よぅ、ひさしぶり。数時間ぶりか?』
ルアーから声がし、思わず「ヤマトさんなの?!」と叫んでから口を両手でおおう。
『ったく、黙って出ていくとか駄メーズが悲しむぞ?』
『だれが駄目ですか、だれが!!』
『んぁ~ワレは癒やしわくだからして、駄目ではないワン!』
『ぽみょみみみみ!』
その声の後ろから、みんなの声が聞こえてくる。それだけで涙が込み上げ「みんな……」と言葉をつまらせる。
でもこれから行う大魔法に巻き込まれないように、おもわず「ご、ごめんなさい。でも来ちゃダメ! 今から島を――」と言うと、言葉を被せてヤマトさんが話す。
『いい大人はな、ダメと言われると火遊びをしたくなるもんだ。それにおまえに熱いお灸をすえるため、もうすぐソコまで来ているからな』
その言葉に「え!?」と言いながら、窓の外へ首をだす。
すると哨戒用の光魔法で浮かび上がる、黄色い影。
それは、ふよふよと黄色い何かが飛んできており、それを見つけた甲板員が騒ぎ始めた。
『待ってろ、今すぐたすけてやる!!』
そう言うと黄金のルアーは凄い速さで巻き戻り、ヤマトさんの元へと向かっていく。
◇◇◇
◇
戻ってきたルアーを回収し、遠くにいる船をにらみながら相棒と話す。
「ったく、寝起きの運動は苦手だってのに」
『よくいいますよ。釣りの時は朝だろうが夜だろうが、お元気だというのに』
苦笑いしながら「ちがいないね」と言いながら、握りしめた相棒に思い魔釣力をこめながら話す。
レベルMAXの魔釣力で、相棒の体も光が増してくる。
「さっさと終わらせて夜食にしようぜ? もうハラヘリの民が暴れ出す寸前だわ」
『ですね。ではさっさと釣り上げて終わらせましょうか』
「たかが軍艦十一隻で俺に喧嘩を売ってきたお前らに、本物ってのを見せてやる。本気のゴッド・アングラーってやつを、な?」