「あぁ分かった、おまえを信じる。どうすればいい?」
『強く、強く、念じるのです。主の理想どおりのWSLの姿を!』
短く「分かった」と応え、棒っきれに意識を集中する。
ギシギシと苦しそうに悲鳴をあげる棒っきれ。そうコイツはただの棒だ、が、俺には分かる。
コイツは曲がるのだとハッキリと理解し、そのイメージどおりに棒っきれを曲げた。
ふつうなら長さ一メートル五十センチほどで、直径一センチもない棒なんて、こんな無理な角度をつけて引っ張れば確実に折れる。
だから緩やかに角度をつけて、蒼白銀の魚とバトルした。
しかし予想外の引きと暴れっぷりに、正直無理だと思いかけたが、棒っきれの言葉で俺は覚悟を決める。そう、ぶち折ってやる覚悟で曲げてやると。
「ヴチ曲がれええええ!!」
そう強く念じながら、持ちて部分から弓形に曲げるイメージで棒っきれを立てる。
一瞬〝ビシッ〟と硬質な物にヒビがはいった音がし、しまったと思った瞬間。
『主ためらってはいけません! そのまま竿を立てて思いっきり引き抜くのです!!』
「わかったあああ! ぶっこ抜けろおおおおおおお!!」
右足を前に滑り出し、左足を後ろへと下げて重心を後ろへとかたむけ吠える。
するとあれほど硬質だった棒っきれが、徐々に曲がっていき、まるでWSLが手元にあると錯覚するほどに美しい曲線を描く。
「美っつくしぃぃ曲がりだ!! 最ッッ高だろおまえ!!」
『お褒めにあづかり恐悦至極』
「ならあとは!?」
『そう、主が釣るだけです!!』
「魅せてやるよ、これが本当の釣り人だって事をな……出てこい蒼白銀の魚! ウオオオオオッ!!」
一気に棒っきれに力を込めて、斜めへとのけぞりながら右後ろへ棒っきれを背負うように引き抜く。
と、同時にカウントダウンが残り十五秒をきり、水面が弾け飛ぶ。
そこから現れた蒼白銀の魚が水面へしがみつくように抜け出て、放物線を描きながらこちらへと飛んでくる。
おもわず棒っきれと声が重なり『「やったッ!!」』と叫んだ次の瞬間、ありえないモノを見て『「え゛?!」』とまた声が重なる。
ありえないモノ……その姿は水の中に居てはいけない生物。
そいつが「うわあ~!?」とマヌケな声を出しながら、蒼白銀の魚の後ろから飛んできた。
「な、なんで子狐が釣れたんだ!?」
『し、知りませんよ! 私が神竿だとはいえ、どうしてあんなケモノまで?!』
呆然としていると、メインだった蒼白銀の魚が顔にべちょりと当たり、その後同じ色をした子狐が顔面へと降ってきた。
「あべッ!? ぺぺ、なんだおまえは?!」
「んあ~? ひどい目にあったワン。って、ここどこぉ?」
「俺が聞きたいんだワン。教えてくれ」
『主! 時間がありませんぞ!!』
ったく、〝理〟ってやつは、心が非常で無情で氷で出来ているのか?
そう思えるほど、ヤツらは遠慮なくカウントダウンをすすめる。
『残り:十一秒。十秒』
『主! 今すぐ蒼白銀の魚を!!』
「そ、そうは言ってもどうやって食うんだよ。鱗もあるしさぁ」
水中に居た時は、ウロコも小さく簡単に食べれるきがした。
しかし釣ってみたら意外とウロコが厚く、かじりつく事も難しそうだ。
それを察した棒っきれは、「ぐぅ……」と言葉を詰まらせるが、意外な所から声がした。
「んぁ? おまえ蘇生魚を食べたいんだワン? ならちょうど良かったワンよ。ワレも蘇生魚を食べるために釣りをしていたんだワン」
そう言うと、青白い子狐は右の前足を数回動かすと、驚くことに蒼白銀の魚が三枚におろされた。
しかもご丁寧に厚さ一センチほどの切り身になっており、なぜか塩らしきものまである。
「ワレは藻塩で食べるのが好みだワン。ほれぇ、おまえも食ってみるんだワン」
突然の事態に驚くが、まずは「サンキュー子狐!」と言いながら、白銀色に輝く見たこともない刺し身へとかぶりつく。