「ん? 今何か聞こえなかったか……なにかこう水に落ちた音だ」
「水に落ちた? まさか……オイ! 誰か海面を照らしてみろ!!」
「いたぞ! あの白いローブは聖女か!? 至急引き上げろ!!」
いけない見つかった!? 何とかして逃げないと。
聖女の力を使い、身体強化をして泳ぎすすむ。
すると隣の船が近寄ってきて、行く手を阻まれてしまう。
ならばと背後へと逃げようとするが、そこにも船が現れ逃げ場を完全に失った所で、真上から網を投げられ捕まってしまった。
「くぅぅ、ホワイト・ダガーで! ダメ、この距離でこの太い網は斬れないッ!?」
引き上げられて行く体。その不甲斐なさに奥歯をかみ締めながら、神釣島方面を見つめるだけしか出来なかった。
◇◇◇
◇
――同時刻・神釣島の海岸沿い。
「わん太郎、こっちでいいのか!?」
「間違いないんだワン! こっちからゾンビ娘と獣男の匂いがするんだワンよ!!」
「ぴょぽぽぽぽ!!」
「頼むぞエマ! お前の足が一番速い!!」
「むむむ!? 大和ぉ、ここから連れ出されたんだワンよ!」
わん太郎が指し示した場所。そこには複数の足跡があり、船を出した後がくっきりと残っていた。
『問題はここからですが……主よ、どうなさいますか?』
クソ、やっと行き先がわかったのはいいが、問題はこの後だ。
どうやって追いかける? 釣り糸を引っ掛けるにも、その場所がない。
泳いでいくのも不可能だし、船を作り上げるのは出来るが、今からやってたんじゃ間に合わない。
「何か……何か手はないか……ん? んんん?」
『どうしましたか?』
「いやさ、鳥って飛べるじゃん?」
『はぁまぁ? って、まさか!?』
俺の下にいる巨大な黄色い毛玉。
その頭のアホ毛を持ちつつ、「コイツで行こうぜ?」と言う。
すると「ぽ、ぽっぴょむ!?」と驚くが、俺には分かる。だから堂々と言ってやる。
「エマージェンシーフード!! 今こそ四聖獣の力見せてもらおうじゃねぇか! お前なら飛べる……だろう?」
「ぽぴょおおおおお!!」
「よく言ったッ! わん太郎飛ぶぞ、掴まれ!!」
「わかったんだワン!!」
エマージェは短い足をバタつかせて、とてつもない速度で走り出す。
目指すは張り出した入江の崖の上。
そこへ向かって猛ダッシュする黄色いヒヨコ。
あっという間に崖の先端まで行くと、迷わずすすむ。
「よおおおおし行けええええええええええ!!」
「飛ぶんだワンよおおおお!!」
『今こそ羽ばたくのです!!』
勢いはまし、そのままの崖の上から飛び出す。
しかし重力に逆らえず、そのまま落下した次の瞬間、「びいょおおおおおおおおお!!」と叫び、もふっもふの羽を大きく羽ばたかせた。
すると一瞬空中に停止し、さらに浮き上がったと同時に前へと進み出す。
「ッ!? やったなエマージェ! 流石は非常食の名を欲しいままにした鳥だぜ!!」
「駄鳥のくせにやりおるんだワン! でも落ちたら焼き鳥だワン」
『ハァ~。もっとエマージェを労ってあげてくださいよ。エマ……後は頼みましたよ』
「ぽぴょぴぴぴぴ!!」
フラフラと飛ぶエマージェだが、ヤツも目一杯頑張ってくれているのが伝わる。
背中に乗りながら、そっと撫でると嬉しそうに一つ鳴いた。
「もうすぐだ。必ず迎えに行くから待っていろよアリシア……」
◇◇◇
◇
――大和がエマージェで飛び立ってからしばらくし、超弩級戦艦の聖女の監禁部屋。
髪の毛を掴まれ、引きずられながらアリシアは二人の男に部屋へと放り込まれた。
「オラッ! 元・聖女様、大人しく船室にはいってろ! 二度と身投げなんてするんじゃねえぞ! クソカスがッ!!」
激しい衝撃が私の左ほほに張り付く。
その衝撃で壁に激突したと同時に、背中と左ほほが強烈に痛みを感じて呼吸がとまる。