玉座の周りには半裸に近い美女を複数侍らせ、高価な酒と食事。それに財宝で周囲を飾る。
悪趣味もいいところだと思い吐き気がしたけれど、ふりしぼり一言声をかけた。
「兄上……」
「んん? どうしたアリシア。様が抜けておるぞ?」
「なぜこのような艦隊で来たのですか? 私だけを連れ戻すなら、船を一艘よこせばいいだけのはずです」
「ふん、知れたこと。仮にも伝説と歌われる島よ。どんな魔物がおるかしれぬし、何より住民を皆殺しにしてオレの礎にするためよ」
やっぱり……ならばここしかない。
「兄上、そこでお願いがございます。私の隠された力はご存知のはず……その力を兄上のためにだけ使いましょう」
「……で?」
「はい。ですから、それと引き換えに、あの島にいる島民の命だけはなにとぞご容赦くださいませ。このアリシア、伏してお願い致します」
この国は奴隷という悪習制度がある。
その奴隷は主人にたいし、絶対的な忠誠を誓う印として、両膝を地面へとつけて額をそこへ押し付ける。
今、私はそれを兄上に対してした。そう、兄上の奴隷として生きると宣言した。
だから兄上の許しを待つ。数旬後、それがおとずれる。
「よかろう……お前の奴隷になろうという殊勝な思い受け取った」
「で、ではお聞きいただけると!?」
「んん? 誰が奴隷の言うことを聞く主がおる? 奴隷としての忠誠は受け取るが、それは当然の事よ。なれば、お前の言う事など聞くはずもなし」
「そ、そんな!? では力は使いませぬ! 絶対に!!」
「ハッハッハ。それは面白い冗談だな。よいか、物事には絶対は無いのだ。まぁお前が使いたくないのならよい……が、よいのか? 島民がこの世の全ての苦痛を味わい、死にたくても死ねない苦痛の無限地獄へ落とされても?」
その言葉の意味に「なッ!?」と一言も漏れ固まる。
それもそのはず、だってそれは回復しながら拷問をするという意味なのだから。
「兄上、アナタと言う人はそこまで……」
「よい目をしている。その怯えながら震える瞳がオレはなによりも好物でな。昂りを覚える……先は長い、素直になるほうが互いのためぞ? まずこの娘たちを相手した後、お前を迎えに征く。楽しみに待て。だれぞ、アリシアを船室へ放り込んでおけ。丁重に、な?」
「ハッ!!」
背後に控えていた衛兵二人が私の両腕を掴み、そのままひきずるように展望玉座をはなれる。
「兄上!! どうか、どうかもう一度お考え直しください!! あの島には手をださないで!! 平和に静かにくらしている、ただの一般人なのですから!!」
「これ以上奴隷と語らう事など無い。早々に引き立てい!」
「ハッ! ほら、さっさと来い! 痛い目をみないと分からないか!?」
そう言われながら、乱暴に引きずられてしまう。
階段にくるぶしを打ち付けながら。しばらく引きずられた後、勢いよく部屋の中へと放り込まれた。
「大人しくていろ! どうせ何も出来はしないんだからな!?」
そして勢いよくドアをしめられ、壁からよろめきながら立ち上がる。
「くぅ……ヤマトさん、みんな、ごめんなさい……また私……うぅぅぅ」
悔しくて大粒の涙があふれでる。
ただただ悔しくて、情けなくて、それがいつまでも流れ落ち、床に涙だまりを作ってしまう……。
その時、船室の窓から月明かりが差し込んでいる事に気がつく。
部屋の外には見張りはいるのだろうけど、窓の外には誰もいない。
だから決心した。島へと戻り、聖女の力を使ってヤマトさんを守ろうと。
「はぁ、いつもそう。こんな事なら始めからそうすればよかったのに……っていけない、今は行動の時だったよね」
でも聖女の戦闘力は悪魔や闇属性特効……一般兵には効果は普通程度。
だからどうしたのよアリシア。それでもやるって决めたじゃない。
窓枠を掴み黒い海面を見る。
引き込まれそうで怖いけれど、何とか平常心を持って頑張ろうと决め、暗黒の海へ飛び込んだ。