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――時は少し戻り、大和がコテージで寝ぼけていた頃、アリシアは小舟で神釣島を後にする。
遠ざかる光るキノコの光が、アリシアを引き止めているように思えた。
「もう忘れろよ、アンタには関係のない風景となったんだからな」
そう牢屋にいた彼。ジミーが言うけれど、私には体が引き裂かれるとしか思えない感覚だった。
月明かりに照らされる船を見て、黒ずんだ血の跡を見つけまた気持ちが暗くなる。
この船の持ち主も、私のせいで殺されたのかも知れない……。
そう思い見上げる満月は、真っ赤に見えてくる。
せめてこの船の持ち主が迷わず旅をと聖石に祈り、うつむいていると黒いローブの男がやって来た。
「聖女殿下、お久しぶりですね」
「あなたは確か……そう、オルドの手のものね?」
「はい。以前あなたの護衛を務めたことがあります」
「そう……それで宰相はなんと?」
「話が早くて助かります。宰相閣下は神釣島の秘密を知りたがっております。なにとぞ包み隠さず全てを」
兄上も、宰相も考えることは同じというわけか。
確かにあの後、司書さんに色々聞いてみたけど、本当に宝の山だった。
場所によっては砂すらも貴重な存在で、薬草から食材までが伝説級のものすら、普通に見かけることが出来たのから。
「別になにも無いです。あの島はエクスポーションの材料の草と、鉄鋼錬石があるだけです」
「そうですか……まぁいいでしょう。帝都へ戻れば話したくもなる。そんな日が来ると思いますので」
そう言うと、この部隊を指揮している男は去っていく。
仲間内から隊長と呼ばれている事から、そういう事なのだろう。
船を走らせしばらくすると、海上にぼんやりと明かりが見えてくる。
遠くから見るとまるで不夜城であり、その中でもひときわ大きい物が中央にあった。
「聖女殿下到着しました」
「大きいあれは一体……」
「皇太子殿下の御座艦――デストロイヤーです」
まるで城と思えるほどに大きいそれは、兄上が乗る船だという。
艦隊に近づけば近づくほど、その大きさが異常だと気がつく。
他の軍艦も大きく左右に砲塔があるが、デストロイヤーには三重の砲塔があり、その上に巨大な玉座がある甲板があるという。
軍艦の間を縫って船がデストロイヤーへと接舷されると、上からタラップが降りてきた。
「聖女殿下、我々はここまでです」
「ありがとうございます。では……」
タラップの手すりに手をかけ階段を上る。
ふと下を見ると牢屋の彼・ジミーが苦々しい顔で手を振っていた。
そのジミーが隊長と話しているのが聞こえる。
「隊長……俺は今更ながらさとりましたよ。あの娘は本当の意味で本物の聖女です」
「…………そうだな。だからまぁ……生きているうちに、俺らは楽しもう。どうせその後、ろくなことがないのだから」
それが最後となり、あとは二人の会話は聞こえなくなった。
「おお! 来たか我が妹よ!! こちらへ来て状況を報告せよ!」
巨大な船内を通り、やっとたどり着いたのは船の上とは思えない場所だった。
絢爛豪華な装飾で彩られ、技工をこらした柱が並ぶ。
まるで宮殿かと錯覚するこの場所は、最奥に三段階段があり、驚くことにその上には巨大な玉座があった。
その玉座は、お父様が座るものよりも遥かに立派なものであり、その玉座から兄上が私を呼んでいる。