――それからとても楽しい一日だった。

 ヤマトさんがとても気を使ってくれたのが、なんとなく分かるほど、今日は特にみんなが優しいと思う。
 頑張ってみたけれど、やっぱりどこか落ち込んでいるのが分かっちゃったみたい。反省。

 今日も食材集めに行こうと思ったけれど、ヤマトさんが「今日はアリシアの日とします!」とか、びっくりな事をいいだす。

 聞けばそう言う記念日らしく、私がお姫様として振る舞っていいんだそう。ごめなさい、本当のお姫様なんです……名前だけは。

 それがあまりに嬉しくて、あの手紙の事も忘れて森のくだもの盛り合わせや、新鮮なお魚料理をごちそうしてくれたのを楽しんじゃった。いいよね、今日だけは。

 だから本当にほんとうに嬉しくて、涙がでちゃった。しかたないよね?

 お風呂に入りながら、天に瞬く星空に感謝をしつつ、どうかヤマトさんたちと、この島がいつまでも平和でありますようにと祈る。
 
 長くお風呂に入っていたせいで、ちょっぴりのぼせちゃったけれど、わん太郎ちゃんが来て癒やしてくれた。ちょっぴり冷たい。

「はふぅ……ありがとう。わん太郎ちゃん助かったよ」
「気にするなワンよ。茹で上がったゾンビ娘は見たくないワンからして」
「もぅ。ゾンビじゃないってば!」
「じゃあここに置いておくから、ヤシの実ジュースでいやされるがいいんだワンよ」
「は~い。わん太郎ちゃんありがとう」

 ぽむぽむと二足で歩く、不思議な子狐わん太郎ちゃん。
 適度に冷やされたヤシの実を、一気に飲み込み、お風呂のへりへと置く。

「…………これが最後のお風呂か……」

 それしか言葉が出なかった。
 ゆっくりと湯船から上がると、もう迷わないと決心。
 
「何があっても必ず……」

 そう思い湯船をでて、最後の夜をヤマトさんたちと楽しく語らった。
 自愛の女神様感謝いたします。
 こんなに素敵な時間を私に授けてくれて、本当にほんとうにありがとう。そして………………。




 さようなら、すべての自由な私。




 ――――同日・午前零時――――




「……ってワン」

 んん、うるさい……。

『……るじ! 起きてください!!』

 もう少し……寝かせてくれよ……。

「ぽみょももももももッ!!」

 うっせぇぞ……今――

「――何時だと思ってんだ馬鹿ヤロウ!!」
『馬鹿は主ですぞ! 早く起きてください!!』
「ん~なんだよもぅ……」

 頭を書きつつまた不機嫌に寝るが次の瞬間、顔面に叩きつけられた氷水。
 全神経が強制的に叩き起こされ、「ぢめでええええ!!」と大口を開けた所へさらに口へ突っ込まれた。

 思わずそれを両手で出して、見てみると何か書いてあった。

「ぶベッっぺ、なんだよこれ?」
「いいから早く見るんだワンよ!」
「んだよ……えっと……ん。なんだこの文字……って、読めるぞ?」
『当たり前です! 〝(ことわり)〟に改変された時、全てこの世界に対応するように作られたのですから! それより早く続きを!!』
「ピピピピピピッ!!」

 焦る三人(?)に急かされ文章を読む。
 出だしだけで意味が分からず混乱し、もう一度最初から落ち着いて読む。

 そこに書かれていた内容は、これまで生きてきた中で見たこともないほど、ド(グサ)った人間が詰まっていた。

 ワガママに育ち、増長し、他者を人と思わず、奪い、犯し、虐殺する事を当然の権利と思っている、最悪な人の形が、この短い文章で映像化された姿で想像できた。

 人はココマデ残虐に醜くエゴを押し付けられるものか? 
 そう思った瞬間、気が狂いそうな怒りと共に、それが一瞬で引く感覚を覚える。
 
 人間、怒りが大きすぎると一周回って冷静になれるのだと、妙な感覚とともに、静かに口を開く。