もうこうなったらテコでも動かんだろう。
 色・欲・カネ。これら三つが合致した時の皇太子(クソバカ)は、想像よりもはるかに自分に忠実だったか。

 ならばこの状況、最大限に利用させてもらおうか。

「ですが陛下(・・)、御身は大事な時期ゆえに、普通の軍艦を御座艦にするわけには行きませぬ」
「ぬ……まぁ言われてみたらそうだな。それで?」
「はい。そこでベストパーレ辺境伯が管理している、皇帝専用艦を出させましょう」
「生意気な。ヤツはそんな物を持っていたのか」

「はい。ですからヤツの誇る超弩級戦艦を、勅命(ちょくめい)として召し上げるのです。なれば後々奴が我らに楯突く事があっても、戦力は十分に落とせましょうや」
「うむ! 流石はオルドよ。その案は採用しようぞ。だれぞある! 玉印と筆、そして羊皮紙を持て!!」
「はい、承知致しました」

 ふん、気分は既に皇帝か? 今だけそのゴッコに付き合ってやろう。
 まぁたかが聖女の一人や二人。総動員兵力千名に、超弩級戦艦まで当てるのだ。
 どうあがいても敵うはずもあるまい。

「よしこれでよかろう。オルドよ早速これをベストパーレめへと送り付け、早々にライリス侯爵の元へと皇帝(オレ)軍艦(ふね)を送れと伝えよ」
「はい、承知致しました」
「オレもこの後すぐに発つ。待っておれよ神釣島……俺がお前を使い、この世の王となってみせようぞ!! ハッハッハッハッハ!!」
「では失礼しますぞ陛下」

 私が部屋を出ていくまで馬鹿笑いはつづく。
 踊れよ踊れ、馬鹿モノが。最終的に勝つのはこのオルドよ。
 さて、全てが整うまで数日と言った所か。

 忍ばせておいた奴らに連絡をとり、アリシアへとつなぎをつけておくか……。

「全ては私のモノだ。必ず手に入れてみせるぞ神釣島よ」

 誰もいない廊下を歩き、そうつぶやく。
 輝ける未来は私ひとりもの。疑うことなど砂粒ほども無く、自信に満ちあふれて前へ征く。




 ◇◇◇
  ◇




 ――それから数日。ヴァルマークがライリス侯爵の元へと到着したと同時刻。神釣島・深夜。


 大和たちが寝静まった頃、牢屋の背後の茂みに一つの気配。
 敏感に感じ取った牢屋の主は、自然な格好のままそちらへと背中を向けて背後からの客を迎える。

「なんてザマだ……本来ならこのまま殺すところだが、ワケを聞こう」
「隊長申し訳ありません。実は――」

 これまであった内容をすべて話し、現状の報告を受ける。
 その内容は驚くべきものであり、にわかには信じられないものだった。

「キサマ……命が惜しくてウソを言っているわけじゃないだろうな?」
「こんな状況ですよ隊長。俺も裏の人間です、そこまで落ちちゃいまぜんぜ」
「……よかろう。しかしS級以上の魔物がいるのかここには」
「はい、そいつに俺もジリーも瞬殺されました。それで俺は獣人だったせいか、かろうじて息を吹き返したんです」

「ふむ、それでどうやって回復した? あの毒は大型の魔物ですら即死級のものだぞ?」
「それが例のポーションです。アレで回復しました」
「まさか……エクスポーションを惜しげもなく使ったのか? 恐るべし奴らだな」
「ええまったく。しかも俺を殺そうとなんて微塵も考えていませんからね」
「どういう意味だ?」
「なに、簡単ですよ。いつでも殺せるという事です」

 隊長は数旬考えた後、懐より手紙をだす。

「わかった。ではこれをアリシアへ渡せ。先程の話ではお前のメシ当番なのだろう?」
「そうですが……これは?」
「そいつはステキな招待状さ。まぁもっとも、二度とココへは戻れんだろがな」

 そう言うと男の背後から影が消え去る。
 その後ろには、手紙とナイフが砂の中へと隠されていたのだった。