『そんな草が？ 馬鹿も休み休み言え。大体何を根拠にそんな事を申すのだ？』
「疑念を抱かれるのも当然の事。しかしこれの根拠があるのです」
『ふむ……その様子、聖女の暗殺保留と関係があるようだな？』
「ご明察恐れ入ります。じつは――」
隊長の説明を聞き、震える声でオルドは『なんと……』と呟きそのまま固まる。
さらに数秒後やっと口を開くと、考えをまとめ話す。
『アリシアは生きて連れ戻せ。そのような知識の泉が聖女にあるとはな』
「皇太子殿下のオーダーは殺害ですが、よろしいので？」
『構わぬ。いや、例え反発したとて、あの単細胞はどうとでも出来るわ。それに反発どころか、まず間違いなく軍を動かしアリシアを奪取する。お前は軍が到着次第、水先案内をつとめよ』
「ハ。委細承知いたしました」
『ククク。幻の薬草に、膨大な貴重鉱石。さらに隠された聖女の知恵という力。まさかこのような幸運がやってくるとは……神は私に味方したというのを、全身で感じておる!! お前達も楽しみにしておれよ？ ハ～ッハッハッハ!!』
そう言うとオルドの姿はかき消えた。
完全に消え去るまで頭を下げていた隊長は、静かに顔を上げると部下へと話す。
「時代は動く。確実にな」
「莫大な報酬と、地位の向上。我ら影の未来も明るくなりそうで何よりです」
それに「ああ」と静かに応える隊長。
影に生き、影にてっする彼らですら、目も眩む可能性に酔いしれた。
古より人を魅了しつづける神釣島。
だが彼らは知らない。なぜその島が本当の意味で〝禁忌の島〟と呼ばれたのかを。
そしてその島に主がすでに存在し、その男が神の竿とルアーを持つただの変態釣り人である事を。
ほくそ笑み、窓から神釣島の方角を見つめる二人の男。
しかしまだ知らない……これが破滅の序章だということを……。
◇◇◇
◇
「へぇ～、よく作れたなそんな薬。また砂から試験管作ってと言われた時は、何に使うのかと思ったけどな」
突然アリシアが鍋と、試験管を欲しいといい出した時は驚いたが、どうやら何か実験したいと言う。
危険なので近寄らないでくださいね。と言われたが、おいちゃん、そんな事言われたらハラハラしちゃうんだが？
と、まぁ頑なに言うので、俺たちはコテージで待っていると、アリシアが満面の笑みで「できちゃいました！」と入ってきた。
それが何かと聞いてみると、とてもよく聞く薬らしく、もしケガをしたら飲んだり振りかけたりしてとの事。
そんなんでケガが治るとか、あらためてファンタジー世界ってスゲェと思う。
「ふふ。もし誰かが怪我したら使ってみてくださいね♪」
『それはありがたい。ですが、こんなお薬の精製知識と技法。どこで学ばれたのですか？』
そう相棒が言うと、あからさまに目が泳ぎだす。
「ふぇ?! そ、それはヒィヒィヒィヒィヒィおばあちゃんから教えてもらったのです」
「ばあさんがヒィヒィ言ってるような言い方はよせ。俺に効く」
『……それはまた随分と家系がしっかりなさってますね』
「そ、そうなんです。ハイ。あ！ そうだ。鍋も強化できるかもしれませんよ？」
アリシアはポケットから赤い石を出す。
それは東側の海岸によく落ちている物で、特段珍しいものでもない。
「この石がどうしたんだ？」
「えとですね。この石も鉄製品を作る時に粉にして混ぜ込むと、強度がすっごく上がるんですよ！」
『……それもまたヒィ～～～おばさんからの知識で？』
「おいやめろ。それはもっと俺に効く」
「そそそ、そうです！ 全部おばあちゃん達の知識なのです。うんうん」
もう泳ぎまくって首すら泳いでる、自称おれよりお姉さん。
そんなアリシアを相棒は不思議そうに表する。
『出会いも驚きでしたが、その後も色々と驚きですね。いつか貴女が気兼ねなく過ごせる日が来ることを、私は期待していますよ』
「あ、ありがとうございます……」
妙に分かり合う二人。うむ、よく分からんが友情が芽生えたのかも知れない。喜ばしいことだ。
二人を見てほっこりとしていると、外からケモーズが俺を呼ぶ。
「ぽみょみょ～」
「大和ぉ～ちょっと来てほしいんだワン」
窓から顔を出し下を見る。
すると巨大ヒヨコの上に乗った子狐がいた。
絵面的にはファンタジーだが、巨大ヒヨコの足元にはリアル・ファンタジーで生臭い物が転がっていた。
